5.2 MLTAB
5.2.4 STA 数を増やした場合
最後に,図4.4のAREA4に示すエリアに,STAの数を80台から120台に増やして,ボトルネッ クリンクの影響をさらに大きくした場合について評価を行った.この場合,AREA4の左側のAPに 比べ,右側のAPには多くのAPが一つのボトルネックリンク以下に存在するため,STAは右側の APへ接続すると期待したスループットが得られない可能性がある.図5.11に示すスループット確 率分布から,スループットの分布はAP-STA間の情報だけでAP選択を行うRSSやMLTでは約 10∼1,000 Kb/sに分散していることが分かる.一方,AP網のボトルネックリンクの情報を用いる MLTABでは,スループットの分布が約100 Kb/s∼1,200 Kb/sに集中していることが分かる.さ らに,表5.16のスループット特性より,RSSやMLTを用いた場合,最小スループットがそれぞれ 約4 Kb/s,約2 Kb/sと極端に小さくなっていることが分かる.これは,ボトルネックリンクが継 続的に輻輳することによってバッファ溢れが発生し,パケットロスしたTCPフローのウィンドウサ
0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12 0.14 0.16 0.18 0.2
0 500 1000 1500 2000 2500
Probability
Throughput[Kb/s]
RSS MLT MLTAB
図5.11: スループット確率分布(AP-11a/STA-11g, AREA4, STA=120).
イズが下がったままとなっているためである.本節のようにボトルネックリンクが継続的に輻輳を起 こすと,一度ウィンドウサイズを下げたTCPフローはウィンドウサイズを上げることができず,低 速な通信レートを保ったままとなってしまう.一方,AP網のボトルネックリンクの負荷を考慮する MLTABでは,輻輳が軽減されることにより,最小スループットはRSSやMLTと比べ大きく改善 できることが分かる.また,表5.16よりMLTABの総スループットおよびBIはRSSやMLTより も大きく改善されている.したがって,STAを120台に増やした場合でも,MLTABは他の2つの 方式と比較してスループット特性と公平性を改善可能であることが分かった.
また,表5.17に示すようにMLTABによって最適なAPを決定するまでに要する時間は平均で 4.48秒であり,最大でも11.78秒であることが分かる.さらに,全STAを配置し終える10秒以内 にAP選択が完了している場合もあることが分かる.このことから,STAの台数を増やし,ボトル ネックリンクの影響をさらに大きくした場合でも,MLTABはピンポン効果を抑えながらAPを選択 できる手法であると言える.
以上の結果から,MLTABは無線LANメッシュネットワークにおいて,最小スループット及びSTA
表 5.16: スループット特性と公平特性(AP-11a/STA-11g, AREA4, STA=120).
スループット(Kb/s) 公平性
AP選択手法 最小 平均 最大 合計 BI
RSS 4.54 524.70 5639.74 62963.68 0.30 MLT 2.32 538.41 2534.67 64608.92 0.47 MLTAB 59.07 578.28 1136.85 69393.85 0.85
表 5.17: 収束に要する時間(AP-11a/STA-11g, AREA4, STA=120).
収束までの時間(sec)
AP選択手法 最小 平均 最大
MLTAB 0.00 4.48 11.78
間の公平性をRSSやMLTよりも改善でき,無線資源を有効かつ公平に利用できることが分かった.
さらに,MLTABはAP選択し終えるまでの時間は十分短く,収束性も優れていることから,総合的 に有効なAP選択手法であると言える.
6 まとめ
無線LANにおいて,現在用いられている既存方式では各STAは受信電波強度のみに基づいて接 続先のAPを決定するため,無線資源の利用効率や公平性が低下するという問題が生じる.我々は このようなAP選択問題について,自STAのスループットを最大化するようにAPを選択する方式 を提案し,シングルホップ無線LAN環境で無線資源を有効かつ公平に利用できることを明らかにし た[7] [8].しかし,この提案手法では,APとSTA間のみを無線リンクで接続するシングルホップ 環境を想定しており,AP間も無線リンクで接続する無線LANメッシュネットワーク環境について は考慮していない.
そこでまず本稿では,AP間を無線で中継する際の影響としてAP間のPERに着目し,チェーン トポロジの無線LANメッシュネットワークにおいて,STAが自律分散的にAPを選択する手法を提 案し,シミュレーションによる評価を行った.そして,机や椅子の位置によって偏る現実の人の分布 に連動してSTAが偏在する場合,既存手法のRSSでは特定のAPへSTAの接続が集中してしまい 無線資源を有効に活用できないことを示した.その上で,この問題を提案手法によって解消し,最小 スループットおよび公平性を改善できることを明らかにした.さらに,STAが特定のAPの近傍に 極端に偏在した場合,総スループットが大きく改善されることも示した.また最後に,提案手法は ホップ数の増加にも対応可能であることを示した.
最後に,さらに検討を進め一般的なトポロジの無線LANメッシュネットワークにも対応可能なAP 選択手法として,STAがAP網と連携してボトルネックリンクの情報を受け取り,その情報をもと に自律分散的にAPを選択する手法を提案し,シミュレーションによる評価を行った.ボトルネック リンクがAP網に存在する場合,既存手法であるRSSやMLTでは局所的なAPとSTA間の情報の みで選択を行うため,無線資源を公平に利用できないことを明らかにした.さらに,無線LANメッ シュネットワークにおいてSTAの分布が偏っている場合,既存手法のRSSでは特定のAPへSTA の接続が集中してしまい無線資源を有効に活用できないが,提案手法を用いることで最小スループッ トおよび公平性,総スループットを改善できることを明らかにした.また,提案手法においてAPを 選択し終えるまでの時間は短く,収束性に優れていることも分かった.
以上から,STAがAP網と連携したAP選択を行う提案手法はRSSやMLTと比べスループット特 性や公平性に優れ,無線LANメッシュネットワークにおける有効なAP選択手法であると言える.
謝辞
本研究を進めるにあたり,多くの方々にご指導,ご協力頂きました.まず,本研究に関して深い考 察に基づく的確な御指導頂きました尾家 祐二教授に深く感謝致します.また,ゼミや論文などで適 切な助言を頂きました鶴 正人教授ならびに川原 憲治助教授に深く感謝致します.また,本研究の内 容,論文の執筆や発表など多岐にわたり,お忙しい中終始熱心に御指導して頂きました福田 豊助手に 深く感謝致します.また,日頃の生活から様々な面でお世話になりました田村 瞳研究員,塚本 和也 研究員をはじめ,尾家・川原・鶴研究室のみなさまに感謝申し上げます.最後に,研究室内の事務処 理などの面で支えて頂いた吉木 智絵事務補佐員,金丸 明未事務補佐員に心から御礼申し上げます.
参考文献
[1] IEEE, “Wireless LAN Medium Access Control (MAC) and Physical Layer (PHY) Specifica-tions,” IEEE Std. 802.11-1997, 1997.
[2] IEEE Standard 802.11TGs,
http://grouper.ieee.org/groups/802/11/Reports/tgs_update.htm
[3] 阪田 史郎,青木 秀憲,間瀬 憲一, “アドホックネットワークと無線LANメッシュネットワー ク,”電子情報通信学会論文誌B,Vol. J89-B No. 6,pp. 811-823, June. 2006.
[4] M. S. Gast, “802.11 Wireless Networks: The Definitive Guide,”O’REILLY, 2002.
[5] A. Balachandran, G. M. Voelker, and P. Bahl, “Hot-Spot Congestion Relief in Public-area Wireless Networks,”Proceedings of WMCSA’02, Callicoon, NY, pp. 70-82, June. 2002.
[6] I. Papanikos and M. Logothetis, “A Study on Dynamic Load Balance for IEEE 802.11b Wire-less LAN,”Proc. 8th International Conference on Advances in Communication &Control, COMCON 8, Rethymna, Crete Greece, June. 2001.
[7] Y.Fukuda, T.Abe, and Y.OIE, “Decentralized Access Point for Wireless LANs,”In the Pro-ceedings of WTS 2004, SA3, May. 2004.
[8] Y. Fukuda, and Y. OIE, “Analysis of Access Point Selection Strategy in Wireless LAN,”
IEEE 62nd Semiannual Vehicular Technology Conference (VTC2005-fall), CD-ROM(6-E-5), 25-28 Sep. 2005.
[9] 日経エレクトロニクス:「米国で実用化の機運が高まるメッシュ・ネットワーク」,pp.65-70,
2004年3月15日.
[10] 福田 淳平,福田 豊,尾家 祐二, “マルチホップ無線LANにおける動的なトラヒック制御,”電 子情報通信学会 技術研究報告,IN2005-218,pp.365-370,March,2006.
[11] The Enhanced Network Simulator (TeNs), http://www.cse.iitk.ac.in/~bhaskar/tens/