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(ST)合剤 浜田 幸宏

東京女子医科大学病院薬剤部

ST合剤はスルファメトキサゾールとトリメトプリムを それぞれ,5:1の比率で配合した合成抗菌薬である。サ ルファ薬の一種で,その作用機序は葉酸合成経路を阻害す ることで抗菌作用を示す。合剤にしている理由として,葉 酸合成系を2個所阻害することで相乗効果と耐性菌の発現 抑制が期待できる。ST合剤の抗菌スペクトルは広く,主 にニューモシスチス・イロベチー(ニューモシスチス肺炎)

の第1選択薬として使用され,グラム陽性菌,グラム陰性 菌,原虫にも効果を示す一方で通常,緑膿菌,Bacteroides

fragilisおよび腸球菌には耐性を示す。ST合剤は感染症に

より用法・用量が異なり,腎排泄型薬剤のため腎機能低下 時には半減期の延長を認めることから,クレアチニンクリ アランスが30 mL/min以下では減量し15 mL/min未満 では投与しないことが望ましい。主な副作用として悪心・

嘔吐,下痢,胃部不快感などの消化器症状があり,高カリ ウム血症や血球減少は比較的高頻度で認める。注射剤を使 用する際は溶解液に注意する必要があり,1アンプルあた り5% ブドウ糖液を125 mLの割合で溶解する。これは他 の溶解液や溶解液量により結晶化しやすく,5% ブドウ糖 液で溶解後も速やかに投与することが重要となる。一方で 通常用量を投与することで多量の輸液投与になることから 添付文書上にも液量の減量記載があり,1アンプルあたり

75 mLで溶解の場合には2時間以内に投与が終了するよ

うに記載されている。

シンポジウム17:ワクチン 小児と成人領域での連 携した対応

1.肺炎球菌ワクチン 星野 直

千葉県こども病院感染症科

2010年に小児用ワクチンとして導入された7価肺炎球 菌結合型ワクチン(PCV7)は,2011年の公費助成の開始,

2013年の定期接種化を経て普及が進んだ。また,同年秋 には13価ワクチン(PCV13)に変更となり,カバーする 血清型が広がった。その結果,小児における侵襲性肺炎球 菌感染症(IPD)の大幅な減少が見られており,効果は小 児細菌性市中肺炎にも及んでいる。一方,成人領域に目を 向けると,1988年に導入され,主に免疫不全患者への接 種が行われてきた23価莢膜多糖体ワクチン(PPSV23)が,

2014年秋に65歳以上の成人を対象とした定期接種ワクチ ンとなった。また,同 年6月 か ら はPCV13の 適 応 が65 歳以上に拡大され,任意接種ワクチンとして接種が可能と なっている。

65歳以上の成人に対するPPSV23,PCV13の接種の原

則については,2014年に日本感染症学会,日本呼吸器学 会の合同委員会より提唱された「65歳以上の成人に対す る肺炎球菌ワクチン接種の考え方」によって示されている

(2017年に改定)。「考え方」では,PPSV23の定期接種を 確実に行うことをワクチン戦略の中心に据えている。米国 ACIPで推奨されているPCV13-PPSV23の連続接種につ いては,PCV13が任意接種ワクチンであることや,連続 接種の安全性の確認や臨床効果に関するエビデンスが十分 ではないことから,海外でのデータに基づいた接種方法に ついて記載するに留められている。現在,その安全性や免 疫原性,費用対効果について本邦における分析が進められ ている段階である。

このように,乳幼児と高齢者に対する肺炎球菌感染症予 防の充実が図られたが,PCV13の接種対象年齢は2か月 以上6歳未満と65歳以上に限られており,6〜64歳への 接種は適応外となっている。米国ACIPでは,無脾症患者 や免疫抑制剤投与中の患者など,IPD発症のリスクが高い 6〜18歳の患者へのPCV13接種を推奨しているが,本邦

ではPCV13の適応年齢から外れてしまうという問題があ

る。当院の無脾症患者18例(中央値10歳)や千葉大学の 血液腫瘍疾患患者41例(中央値12歳)における肺炎球菌 莢膜多糖体抗体保有状況に関する検討を行ったところ,こ れらの患者ではPCV13含有血清型に対する抗体価が健常 者に比べ低値であった。すなわち,IPD発症のリスクが高 いものと考えられる。このようなPCV13接種適応外のハ イリスク患者に対しても目を向けて行く必要がある。

現在,IPDについては,現在感染症法に基づく発生動向 調査(五類全数報告),AMED研究班(小児),厚労省研 究班(成人)によるサーベイランスが実施されているが,

成人IPD症例において小児へのPCV7導入による間接効 果が示されている。適応外年齢へのワクチン接種を含め,

今後は年齢の垣根を超えた視点で肺炎球菌感染症を捉える 必要があり,小児,成人領域が連携した対策が重要となる。

2.水痘 堀越 裕歩

東京都立小児総合医療センター感染症科

水痘は,水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella-Zoster virus, VZV)によって生じる小児の代表的な発疹性感染症であ る。多くの場合,軽症だが免疫不全の児では,アシクロビ ルで治療しても重症化や致死的にもなるウイルスである。

VZVのワクチンは,日本人の高橋理明先生によって開発 され,1987年に販売になった。しかし,長らく定期接種 には含まれず,年間100万人とも言われる感染者がいた。

東京都立小児総合医療センターでは,毎月のようにVZV による院内曝露事例があり,病棟では免疫不全などの児を 多く抱えるため,曝露後予防と病棟閉鎖による二次発生対 策を余儀なくされた。年間100万人も発症する感染症のた め,入院時の水痘接触歴の聴取によるスクリーニングは意

味をなさず,水痘接触歴のない予定手術で入院になった児 が病棟で水痘を発症するということが頻繁に発生した。ワ クチン接種可能年齢の予定入院の児は,VZVワクチンを 2回接種してから入院して頂く方針を打ち出したが,緊急 入院した児の院内水痘発症は防げなかった。医療施設内で の対策は,病院外で大流行している疾患に対しては無力で あった。高橋先生が亡くなられたのは2013年12月で,米 国のニューヨークタイムズ誌に功績をたたえる特集記事が 組まれたほどであった。翌年の2014年10月にようやく日 本もVZVワクチンが導入されて,開始されてすぐに劇的 に小児の罹患者は減少した。それにともなって,院内で生 じる水痘発生もほとんどみられなくなった。最近の小児科 研修医は,水痘をほとんど診たことがないということも聞 かれるくらいである。今後,自然罹患する機会が減ったこ とで,定期接種導入前のVZVワクチン未接種者でVZV 未罹患者,ワクチン忌避者が将来的にVZVの感受性者と して問題になる。また最近,50才以上で帯状疱疹予防で の適応も追加され,特に高齢者で疼痛をともなう不快な帯 状疱疹が予防できるようにもなった。高齢化社会を迎える 日本では,帯状疱疹は3人に1人が発症する疾患で疾病負 荷は高い。定期接種化が遅れたので,向こう50〜60年は,

多くの水痘罹患者が60才を迎え,帯状疱疹発症のハイリ スクである。2018年には,新たに不活化の帯状疱疹ワク チンも承認を取得した。水痘に罹患しない時代にようやく 日本も入り,今後は未接種で未罹患者への対応,帯状疱疹 予防としてのワクチンの普及が望まれる。

3.麻疹・風疹 宮入 烈

国立成育医療研究センター感染症科

麻疹・風疹はかつて小児期の代表的な急性伝染性疾患で あったが,2006年より1歳児と就学前児童を対象とした MRワクチンの2回接種が定期接種化され,小児における 大規模な流行はなくなった。現在,罹患者の主体はワクチ ンギャップの狭間にある成人であり,親から未接種児童へ と伝播経路も変わっている。

麻疹については,2015年に日本は世界保健機構から麻 疹排除国と認定された。しかし,以降も海外で感染した患 者を発端とする局地的な発生が各地で報告され,ワクチン 接種歴のない,あるいは接種歴が不明の30歳代前後の成 人が中心になっている。国立感染症研究所による調査では,

各年代において感染防御抗体価に達していない人が1割程 度存在することが判明している。外国人渡航者が多くなり,

東京オリンピックを見据えた現在は予防が益々重要である。

風疹についても流行が懸念される状態が続いている。風 疹は妊娠中の女性が罹患した場合に,胎児に感染し先天性 風疹症候群を発症する事が問題となる。先天性風疹症候群 は,白内障,難聴,心疾患を三徴とするほかに,低出生体 重,肝炎,肺高血圧などを合併し晩発性の障害もきたし得

る予後不良の疾患である。予防接種制度の歴史上,中学生 女子を対象に接種が行われていた年代の中高年男性は風疹 に対する免疫が欠如する可能性のあるハイリスク集団であ る。2013年に風しんが大流行し1万4千人を超える患者 が発生した際も中高年男性が流行の主体であり,妊婦が曝 露をうけ先天性風疹症候群の患者が45人発生している。産 科領域においては,従来風疹の抗体価を妊娠中に測定し陰 性であった場合は出産後のワクチン接種が推奨されている。

その徹底と他の麻疹や他のVPDについても検討が必要で ある。

MRワクチンは内科医には馴染みの薄いワクチンである が,近年は医療関係者や医療系の学生に2回接種を実施す る機会も増えつつある。この流れをうけ,一般成人の健康 管理に予防接種を組み込みこのギャップを埋める取り組み が今後必要である。

4.百日咳 神谷 元

国立感染症研究所感染症疫学センター

百日咳はWHOが提唱する拡大予防接種計画に含まれる 予防対象疾患1つであるが,海外を含めワクチンによって 十分コントロールできていない現状である。様々な要因が 専門家から指摘されているが,現在使用されているワクチ ンが効果はあるものの,時間経過とともにその効果が漸減 してしまうことが大きいと考えられている。このため,海 外ではこの制限下でいかに重症化しやすい乳児を守るか,

という点を主眼に対策が実施されている。これは百日咳を 全数報告サーベイランスによりモニタリングし,全年齢に おける百日咳患者の分布や特徴が把握されていること,ま たワクチン効果を正しく評価した研究が行われた結果,そ れらに基づいた政策提言が行われているからできることで ある。日本ではこれまで百日咳は感染症発生動向調査にお ける定点把握の5類感染症であり,全国約3,000の小児科 定点から臨床診断による患者数が年齢,性別ごとに毎週報 告されてきた。小児における百日咳流行のトレンドの把握 について多くの貴重な情報が提供されてきたが,小児科定 点を受診しない患者の発生状況の把握は困難であった。ま た,届出基準が臨床診断のみであり,1週間程度の咳で医 療機関を受診し,検査診断で百日咳と診断されても届出義 務がなかったため百日咳の真の疫学の把握は不可能であっ た。昨今百日咳の新しい検査診断法(LAMP法)が確立 され,2018年1月1日より感染症法における国のサーベ イランスにおいて百日咳は全ス報告になった。これにより,

正確な百日咳の疫学の把握ができ,また集団発生事例も探 知されるようになった。さらに,青年,成人層に接種でき る百日咳含有ワクチンの認可も行われるなど百日咳対策,

予防を強化する環境は整いつつある。国内の百日咳対策の 新しい章の幕開けを迎えるにあたり,現在の国内の百日咳 の疫学の特徴や問題点,対策の課題などについてご紹介す

る。

シンポジウム18:増加する輸入感染症―2020年に備 えて―

1.近年のマラリア症例の傾向と課題 高谷 紗帆

国立国際医療研究センター国際感染症センター

マラリアは最も重要な寄生虫感染症の一つである。世界 保健機関の推定では,2016年の1年間に世界で2億人以 上がマラリアを発症し,40万人以上が死亡したとされる。

流行地域への旅行者のマラリア輸入症例もまた,多くの非 流行国で問題となっている。日本では,輸血を介した感染 例を除いて,1961年以降は輸入症例のみであり,最近5 年間は年間40〜60例程度で推移している。近年の傾向と して,症例数の減少,熱帯熱マラリアの相対的増加(三日 熱マラリア症例の減少),外国人患者の増加などが挙げら れる。また,依然として診断が遅れ,重症化・死亡する症 例も認める。

マラリアの予防,診断,治療は確立されている。医療資 源に富む環境では,いずれも適切に為されなければならな い。マラリア症例数を減らし,重症マラリアに至ったり,

死亡したりする症例を無くすうえで,日本には3つの課題 がある。医療者の経験が不足していること,主要な抗マラ リア薬の使用に制限があること,渡航者の認識が不足して いることである。

日本のマラリア症例数は欧米諸国に比べて極めて少ない。

そのため,マラリア患者を診療したことのない医療者がほ とんどであり,これが診断の遅れにつながる。また,VFR

(vising friends and relatives)によりマラリアに感染する ことの多いsemi-immuneの外国人患者は,都市部在住で あることが多い。つまり,より重症化リスクの高い

non-immuneの日本人患者の方が,マラリア診療経験に乏しい

地方の医療機関を受診する可能性が高いのである。

主要な抗マラリア薬が未承認であったことも,日本のマ ラリア診療の難しさとなってきた。2016年にartemether/

lumefantrineが承認されるなど大きな前進があったものの,

2018年7月現在,静注キニーネは熱帯病治療薬研究班の 研究参加機関での使用に限定されており,静注アーテス ネートは使用できない。

プレトラベルケアの普及も大きな課題である。トラベル ワクチン接種や予防内服だけでなく,渡航後の発熱に際し て受診すべき医療機関を指示し,医療者に渡航歴を伝える よう説明することも重要である。国際協力活動のための渡 航者や学生などが特にマラリアのリスクが高いと想定され るため,彼らの所属する機関,会社,学校を通じてアプロー チするのは効率的と言えるだろう。黄熱流行地域とマラリ ア流行地域はかなり重なることから,黄熱ワクチン接種の 機会を利用することも考えるべきかもしれない。

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