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バロキサビル マルボキシル

河野 茂1,齋藤 玲子2,渡辺 彰3,菅谷 憲夫4 喜田 宏5,三鴨 廣繁6

1長崎大学

2新潟大学大学院医歯学総合研究科国際保健学分野

3東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門

4けいゆう病院感染制御センター

5北海道大学

6愛知医科大学大学院医学研究科臨床感染症学

バロキサビル マルボキシル(製品名:ゾフルーザ)は 塩野義製薬株式会社により創製された,新規作用機序を有 した抗インフルエンザウイルス薬であり,厚生労働省によ る先駆け審査指定制度の元,2018年2月に世界に先駆け て本邦で承認,同年3月に薬価収載,発売された。米国で もFDAにより優先審査品目に指定され,現在審査中であ る。

本薬はインフルエンザウイルスに特異的な酵素である キャップ依存的エンドヌクレアーゼの活性を選択的に阻害 し,ウイルスの転写反応を妨げることで,インフルエンザ ウイルスの増殖を抑制する。各種非臨床薬効試験において,

既承認薬よりも強い抗ウイルス作用が示され,また,ノイ ラミニダーゼ阻害薬耐性ウイルスや鳥インフルエンザウイ ルス(H7N9,H5N1等)への効果も確認された。

成人のインフルエンザウイルス感染症患者を対象に実施 した国内第2相試験では,プラセボを対照にバロキサビル マルボキシルの10,20又は40 mgを単回経口投与した。

その結果,主要評価項目であるインフルエンザ罹病期間(中 央値)が,10 mg群54.2時間,20 mg群51.0時間,40 mg 群49.5時間に対し,プラセボ群77.7時間であった。成人 及び青少年のリスク因子を持たないインフルエンザウイル ス感染症患者を対象に実施した国際共同第3相試験では,

体重80 kg未満の被験者に40 mg,体重80 kg以上の被験 者に80 mgを単回経口投与した結果,40/80 mg群53.7時 間に対し,プラセボ群80.2時間であった。両試験ともに,

インフルエンザ罹病期間はプラセボ群と比較してバロキサ ビル マルボキシルの各群で有意に短かった(10 mg群 p=

0.0085,20 mg群p=0.0182,40 mg群p=0.0046,40/80 mg 群 p<0.0001,層別一般化Wilcoxon検定)。また,ウイル ス排出停止までの時間(中央値)は,バロキサビル マル ボキシル群で24.0時間,プラセボ群96.0時間,オセルタ ミビル群72.0時間であり,プラセボ群,オセルタミビル 群と比較してバロキサビル マルボキシル群で有意に短く

(層別一般化Wilcoxon検定:p<0.0001。ただし,オセル タミビルとの比較は20歳以上の部分集団解析),バロキサ ビル マルボキシルはオセルタミビルよりもウイルス排出 期間を短縮することが示された。このように,これまで得 られた臨床試験において,バロキサビル マルボキシルは

単回経口投与によってインフルエンザウイルス感染症に対 する速やかな症状改善及びウイルス増殖抑制作用が確認さ れている。安全性については,国内第2相試験における副 作用発現率がバロキサビル マルボキシル10 mg/20 mg/

40 mg併合群で7.3%,プラセボ群で10% であり,プラセ ボ群と同程度であった。国際共同第3相試験における副作 用発現率は,バロキサビル マルボキシル40/80 mg群で 4.4%,オセルタミビル群で8.4%,プラセボ群では3.9%

であり,バロキサビル マルボキシル群の副作用発現率は オセルタミビル群と比較して有意に低かった。(Fisherʼs exact test:P=0.0088)。このように副作用発現率はオセル タミビル群より低く,プラセボ群と同程度であり,高い安 全性及び忍容性が示された。また,これらの試験と同様の 結果が,12歳未満の小児患者を対象としたオープンラベ ル試験でも得られており,小児においても有効性,安全性 が確認されている。

本シンポジウムでは,これまでに得られた各種臨床/非 臨床成績を紹介し,また抗インフルエンザウイルス薬にお ける課題の一つである低感受性ウイルスに関する最新の知 見も踏まえ,本薬の臨床的位置づけについて議論したい。

ベーシックレクチャー

1.薬剤感受性検査の基礎知識 西山 宏幸

日本大学医学部附属板橋病院臨床検査部

【はじめに】2016年,世界規模で進行する薬剤耐性菌問 題に関して,我が国が進むべき方向性を明確に示した行動 目標, 薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン が発表 されたことは記憶に新しい。抗菌薬治療における抗菌薬適 正使用は必須であり,そのための情報を提供する薬剤感受 性検査は,臨床微生物検査の中でも重要な位置を占めてい る。本ベーシックレクチャーでは,我が国における薬剤感 受性検査法の変遷,現在日常的に用いられている薬剤感受 性検査法として,ディスク拡散法,微量液体希釈法,Eテ ストの3法の解説,ならびに主な薬剤耐性菌の検出法につ いて解説する。

【薬剤感受性検査法】(1)ディスク拡散法:各抗菌薬を 含む直径6 mmの円形濾紙ディスクを,被検菌液を塗布 した寒天培地上に置き,培地内に拡散する抗菌薬が菌の増 殖を抑制して形成される阻止円のサイズを計測して感受性 を見る方法である。S・I・Rの判定基準は希釈法をもとに 設定されている。培地の種類,菌液濃度,菌液塗布方法,

ディスクの設置法,培養法,判定法など詳細な規定に従っ て実施する。(2)微量液体希釈法:96wellマイクロプレー トを用い,各抗菌薬の2培連続希釈された液体培地を配置 し,適切な濃度の被検菌液を添加し,最小発育阻止濃度

(MIC)を測定する。抗菌薬含有マイクロプレート(ドラ イプレート,フローズンプレート)が市販され,本法を利

用した自動機器が普及し,薬剤感受性検査の主流となって いる。(3)Eテスト:薄いプラスチック製ストリップの裏 面に各抗菌薬が15段階の濃度勾配をもたせてコーティン グされ,表面には抗菌薬濃度の目盛(MIC値)が印字さ れている。被検菌液を塗布した寒天培地にストリップを設 置すると抗菌薬が培地中に拡散され,一定時間の培養後に 涙滴状の発育阻止帯が形成され,そのエンドポイントがス トリップと交差する目盛を読み取る。寒天平板希釈法を基 準として,MIC測定法とディスク拡散法の両者の測定原 理を併せ持ち,従来からMIC測定が困難であった細菌,嫌 気性菌,真菌,抗酸菌にも利用可能な利点を持つ。

【薬剤耐性菌の検出法】(1)MRSA:mecA,mecCを保 有し,MPIPCまたはCFXに耐性を示す。(2)VRE:VCM 耐性のEnterococcus sp.の中で,耐性遺伝子vanA,vanBを プラスミド上に保有するE. faecalis,E. faeciumが問題とな る。(3)ESBL:薬剤感受性試験によりスクリーニングし,

β―ラクタマーゼ阻害剤(クラブラン酸など)により阻害 されることを確認する。(4)AmpCβ―ラクタマーゼ:薬 剤 感 受 性 試 験 に よ り ス ク リ ー ニ ン グ し,ボ ロ ン 酸 や

MCIPC(クロキサシリン)による阻害試験を実施する。(5)

カルバペネマーゼ:薬剤感受性試験によりスクリーニング し,メルカプト酢酸Na法,mCIMにより確認する。カル バペネマーゼ鑑別用試薬も新たに市販されている。

2.サーベイランスの基礎知識 森兼 啓太

山形大学医学部附属病院検査部・感染制御部

「サーベイランス」は「調査」「監視」などの意味である。

感染症対策の領域で実施するサーベイランスでは,特定の 感染症の発生状況が調査・監視され,データが収集される。

さらに,その評価を行い,発生を低減させることができる と考えられる場合は介入を立案し実施して,最終的には監 視している感染症の発生を低減させることが目的である。

感染症を市中感染症と医療関連感染症の2つに分けた場 合,前者は一般生活の場で発生し,行政や公的研究期間な どの公衆衛生関係者が主体的に実施する。その解析結果は,

ワクチン接種や一般国民への様々な教育・啓蒙などの公衆 衛生対策に反映されるだけでなく,学校保健や医療現場で も活用される。後者は,医療施設や医療を提供する場にお いて発生する感染症であり,その監視・評価は医療従事者 が主体的に実施し,対策の主眼は医療従事者の行う医療行 為におかれる。

医療関連感染症(HAI)のサーベイランスは,アメリカ 連邦政府が主導し300以上の医療機関が参加した1980年 代の研究により,効果的にHAIを減少させることが可能 であることが明らかになった。つまり,手指衛生や経路別 予防策などの患者に対する直接的な感染対策だけでなく,

間接的な感染対策の一つであるサーベイランスもHAIを 減少させることが明らかになった。

HAIサーベイランスの効果は他にもあり,HAIが通常 よりも著しく高い頻度に増加していることをいち早く判断 し,HAIのアウトブレイクを早期に察知して大きな集団 発生へと発展することを阻止することにも役立つ。更に,

HAI発生状況を指標化することにより,医療機関の医療 の質評価としても活用できる。これは医療機関の自主的活 動として行うこともあり,アメリカのように義務的報告に よる質評価の制度のもとで行われることもある。

サーベイランスの対象となるHAIの種類は,肺炎・手 術部位感染・消化管感染・尿路感染・血流感染といった高 頻度に発生する感染症,および特定の病原体(インフルエ ンザやノロウイルス感染症,薬剤耐性菌など)によって発 生するもの,などである。自施設で実施するにあたっては,

医療体制や患者集団を評価した上で対象となるHAIを選 定する。サーベイランスはマンパワーを要するので,何と なく開始するのは一般に良くない。その一方で,地道で継 続的な活動でもあり,PDCAサイクルを廻しながらその 成果が段階的に現れてくるものである。一旦開始したらあ る程度の期間(概ね数年)継続しなければ有意義な活動と ならない。

サーベイランスは通常,既存のシステムを利用して行う。

結果の評価を行うためには,比較の対象としてベンチマー クデータが必要であり,それはサーベイランスシステムが 有している。最も歴史が古いのはアメリカのNNIS・NHSN システムであるが,日本にも1998年に日本環境感染学会 が 構 築 し たJHAIS,厚 生 労 働 省 が2000年 に 構 築 し た

JANISシステムがあり,通常これに沿って実施する。

3.口腔衛生管理の基礎知識 唐木田 一成

東海大学医学部付属八王子病院歯科・口腔外科

歯磨きは,誰もが日常的に行う生活習慣である。それは 健康な人にとっては何ら疑問もなく,苦にもならない行動 であろう。しかしひとたび何らかの疾患で手足が不自由に なったり,意識障害を起こしたりすると思うように歯磨き ができなくなる。するとプラークが増加し,口腔内環境が 悪化することで摂食・嚥下障害が出現し,誤嚥性肺炎の発 症率が高くなる。特に入院治療を要する様な状態になると 口腔衛生管理が重要となる。2012年,診療報酬改定にお いてがん患者等の周術期における歯科医師の包括的な口腔 機能の管理等を評価するものとして周術期口腔機能管理料 が新設された。また,併せて周術期に行う歯科衛生士の専 門的口腔衛生処置を評価するものとして,周術期専門的口 腔衛生処置が新設された。これは術後の誤嚥性肺炎等の外 科的手術後の合併症等の軽減が目的で,口腔衛生管理の重 要性が認められた結果である。周術期口腔機能管理は術後 の肺炎予防に効果があると期待されており,肺炎発症率を 下げることができれば入院日数の短縮だけでなく医療経済 にとっても負担が軽減されることが期待されている。2018

年度の診療報酬改定ではさらに人工呼吸器管理時の気管内 挿管を行っている患者,人工股関節置換術等の整形外科手 術や脳卒中に対する手術患者にも適応が拡大された。口腔 の役割は摂食・嚥下だけでなく呼吸,会話などの機能をつ かさどり,人が生まれてから死ぬまでの全生涯に渡り,身 体的・社会的生活を維持している。口腔の健康は,人間の 身体面のみならず,心理面・社会面に大きな影響を及ぼす。

口腔環境を良好に保つことは,疾病を予防したり,免疫力 を維持することができる。そして口腔機能の維持・回復は QOLの向上にもつながる。つまり口腔の健康は,人が生 きていくための基盤の一つといえる。歯科医師・歯科衛生 士・看護師などの専門職が行う口腔ケアは専門的口腔ケア と呼ばれる。しかし実際には病院だけでなく介護施設や老 人ホームなどでも口腔ケアを必要とするが,専門職だけで 行うのは到底不可能である。そのため2018年度より入所 者の口腔衛生管理の体制強化を図り,発熱や肺炎などの病 気の予防や口腔内の病気を予防する目的として口腔衛生管 理加算が算定されるようになった。これは入所者の口腔ケ ア・マネジメントに係る技術的な助言や指導を介護職員が 受けて,入所者の口腔ケアの質を向上させる体制を整える ことによる加算であり,多くの人員を確保できるように なった。今後の日本は超高齢化社会に向かっており,介護 が必要とされる人口は益々増加する。一方,少子化により 介護する側の人口は減少することが予想されている。その 中で口腔衛生管理は摂食機能の改善と誤嚥性肺炎を予防す ることにより医療費を削減させ国の財政を守るための重要 な政策の一環である。

4.感染対策の基礎知識 菅野 みゆき

東京慈恵会医科大学附属柏病院感染対策室

医療施設における感染対策の目的は,患者を感染から守 ること,そして医療施設内で働くすべての人を感染から守 ることである。感染対策上の問題は多岐にわたる。例えば,

インフルエンザやノロウイルス胃腸炎などの集団発生,治 療のために留置する血管内カテーテルが原因となる血流感 染や手術後の創部感染などの医療処置に関連した感染,患 者に使用した針で受傷したり,患者の血液が飛散して眼に 入ったりすることで血液媒介感染症(B型肝炎,HIVな ど)に職員が感染する職業感染などがある。

感染対策の基本である標準予防策は,すべての患者の血 液,体液,粘膜,傷のある皮膚を感染性のあるものとして 取り扱うことであり,手指衛生と個人防護具の使用は特に 重要である。検査結果から感染症と診断されたり,薬剤耐 性菌の保菌者であると把握できる患者は氷山の一角である と言われている。つまり,すべての患者が感染症関連の検 査を受けているわけではなく,またウインドウピリオドや 未知の感染症の存在を考えると,把握できていない感染症 のほうが圧倒的に多い。そこで,すべての職員が標準予防

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