SSPSは、ロンドン特別区であるサットンにおけるパートナーシップであり、地方自治
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体とメトロポリタン警察により設立された。その目的は、サットン内の地域安全サービス の垂直的統合である。ここで言う垂直的とは、上流の犯罪予防を担当する地方自治体と下 流の実際に起きた犯罪への対応を担当する警察が、協働して地域の安全に関するサービス を提供するという意味である。具体的なサービスとしては、防犯カメラ、犯罪防止、薬物・
アルコールの防止と治療があげられている。主要なパートナーは、地方自治体とメトロポ リタン警察で、二者によるプール予算を活用した取り組みである。2009/2010会計年度の コラボレーションが生み出した財務的価値は850万ポンドである。
② 北ロンドン廃棄物協会
北ロンドン廃棄物協会(The North London Waste Authority: NLWA)は、ロンドン内 の七つの特別区によって設立された共同所有会社によるごみ管理の水平的統合であり、ご みの処理、リサイクルのための回収、ごみの焼却/処分のサービスを行っている。パート ナーは、ロンドン特別区のバーネット、カムデン、エンフィールド、ハックニー、ハリン ゲー、イズリントンおよびウォルサム・フォレストで、七者によるプール予算を活用した 取り組みである。2009/2010会計年度のコラボレーションが生み出した財務的価値は6,560 万ポンドである。
③ マルバンヒルズ特別美観自然地域
マルバンヒルズ特別美観自然地域(Malvern Hills Area of Outstanding Natural
Beauty: MHAONB)は、環境保護、サステイナビリティを計画、協働、依頼するため、
法令によって指定された地域のすべての地方自治体のパートナーシップである。パートナ ーは、五つの地方自治体(ヒアフォード、ウォーチェスタシャー、グロスタシャーのカウ ンティ、マルバンヒルズとフォレストオブディーンのディストリクト)に加え、中央政府 の部門(ナチュラル・イングランド)であり、プール予算を活用した取り組みである。
2009/2010会見年度のコラボレーションが生み出した財務的価値は23.4万ポンドである。
Raine and Watt(2012)は、先に示した三つのリサーチ・クエスチョンに対して、考察 を踏まえて、次の示唆を指摘している19。まず、①コラボレーションを促進する要因とし て、財務はどのように重要なのかに対しては、それぞれの事業ごとで、財務を重要視する 程度が異なっていたということである。SSPSでは、経費の削減が強い促進要因であった。
MHAONB では、外部資金が利用可能となることが促進要因であった。また、SSPS と
NLWAにおいて、コラボレーションにより経費が削減されていた。SSPSの削減は、オフ
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ィスの主要な再編成を行った初期の段階で達成されたものであった。このように、さまざ まな財務面の要因で、コラボレーションは促進され、その達成結果が、パートナーの行動 に影響を及ぼすことが示されている。また、経費の削減は、初期段階で、その多くが実現 されるため、その後、コラボレーションを維持するためには、初期段階と同じ削減が期待 できないことを理解することが重要である。
②コラボレーションのための予算モデルの選択が、パートナーとの関係や事務事業の分 担に、どう影響を与えるのかでは、予算モデルでは、連携予算よりプール予算がコラボレ ーションのための理想的なアプローチだとみなされていることが明らかになった。プール 予算の管理について、NLWAとMHAONBは別途設立した第三者機関が行っており、SSPS は地方自治体がホストパートナーとなっていることが示されている。MHAONBでは、ホ ストパートナーによる意思決定の独占を避けるため、第三者機関による管理を選択したが、
第三者機関に多くの仕事を任せてしまうことにつながっている。多数のパートナーによる コラボレーションでは、一部または多くのパートナーが、「他人任せ」になってしまう可能 性がある。それは、プール予算のホストパートナー型、第三者機関型、連携予算のいずれ にも共通した課題である。SSPS では、同種の問題が発生していないことが指摘されてい る。これは、地方自治体とメトロポリタン警察の二者のコラボレーションであり、信頼関 係の構築が容易であるためだと考えられる。
③財務的モチベーションとエンゲージメントのレベルが、コラボレーションとの相関関 係やアウトカムにどう影響するのかでは、この両者の相互への影響は確認できなかった。
ただし、SSPS では、それぞれのパートナーの無私/利他的な動機が、良好な関係とコラ ボレーションの成功につながっていることが示されている。
Ⅳ SSPSにおけるヒアリング調査
筆者は、2015年2月、Raine and Watt(2012)が考察を行った五つの事業のなかから、
経費削減を実現し、パートナーの無私/利他的な動機がコラボレーションの成功につなが っているSSPSのヒアリング調査を行った。SSPSを選択した理由は、①Raine and Watt
(2012)の考察において、単年度の財務的便益が850万ポンドにのぼっていること、②ホ ームページから、犯罪率の低下などについて、著しい成果が確認できたこと、③英国の警 察関係のジャーナルに取り上げられていたためである。以下では、サットン市ホームペー ジ資料、ジャーナル掲載論文およびヒアリング調査について考察する。
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1 SSPS-地方自治体とメトロポリタン警察によるコラボレーション-
サットン市は、ロンドン南部にあるロンドン特別区(London Borough of Sutton)であ り、人口は約19万人、警察官は約300人である。南部の裕福な地域と北部の貧困地域か らなり、少数民族が20から 25%を占めている。SSPSの目的は、コミュニティをより安 全にすることであり、サットン市職員60人と警察職員80人が、サットン警察署の庁舎で 業務を行っている。SSPS の業務は、薬物およびアルコール依存向けサービス、近隣の見 守り、駐車違反取締、ドメスティック・バイオレンスサービス、安全な近隣のためのチー ム、特別警察官 20、警察ボランティアおよび登校拒否の連絡警察官となっている。SSPS 立ち上げ時は、メトロポリタン警察のWarren Shadbolt警視が指揮をとっており、今回の ヒアリング調査では、警察を退職してサットン市に勤務していた Shadbolt 氏から SSPS について、直接説明を受けることができた。
Lewis(2013)は、SSPSの導入の経緯を整理している 21。それによると、SSPS は、
1990 年代初頭における警察とサットン市による比較的非公式なパートナーシップが起源 である。その背景には、モーガン報告22がある。モーガン報告により、中央政府は具体的 な行動をとらなかったが、サットンを含む地方自治体のいくつかは、警察、その他の公共 サービス、地方自治体およびコミュニティ間のパートナーシップが、一致協力して犯罪、
公序良俗違反および反社会的行動の減少に取り組んできた。21世紀初頭にパートナーシッ プが強固となり、コミュニティの需要の継続的なモニタリングの開発、機材の共同設置、
パートナーシップを形成している構造体の共通管理および費用効果の高い方法でのサービ ス提供などが実現した23。その結果、2005年にSSPSが創設された。
サットン市役所の近隣にあるメトロポリタン警察サービスの事務所で、サットン市の安 全・より強力なコミュニティ特別責任者の Shadbolt 氏とサットン警察職員で、パートナ ーシップの計画・資源管理者のMatthew Donaldson氏にSSPSの取り組みについて調査
した。Shadbolt氏は、警察を退職してサットン市に勤務しており、コミュニティの安全以
外にも、公園管理、道路清掃、環境衛生、大気汚染などのサービスも担当している。
Donaldson氏は、自治体側と警察側の両方の立場で、予算を効果的に管理する責任を負っ
ている。ロンドンでは、メトロポリタン警察サービスが、ロンドン全体を担当しており、
それは直接的なコントロールである。Shadbolt氏たちが行っているのは、ロンドン広域の 警察行政と地方での警察行政のギャップに橋を架けることである。SSPS の責任者である
Shadbolt氏は、サットン市警察の司令官とサットン市の事務総長の両方に説明責任を負っ
108 ている。
SSPSの意思決定には、戦略的委員会であるセーファー・サットン・パートナーシップ 委員会(Safer Sutton Partnership Board:SSPB)が大きく関与している。Shadbolt氏 は、当委員会への説明責任も負っている。自治体の事務総長が委員長を務めており、委員 会は、警察、警察機関、初期診療トラスト(Primary Care Trust:PCT)、消防団、保護 監察サービス、ボランティアセンターおよびサットン人種平等委員会の代表者で組織され、
3か月ごとに会議を開きパートナーシップのための戦略的優先順位を決定している。
2 SSPSの成果および脅威
Lewis(2013)では、SSPS の成果として、犯罪率、緊急事態への対応、経費節減およ
び知的志向の近隣の安全に関するインタビューの4項目をあげている24。第一は、犯罪率 の低下では、Lewis(2013)は、サットン市における犯罪タイプごとの犯罪率について、
図表5-2のようにまとめている。
図表5-2 タイプごとの犯罪率
犯罪タイプ 犯罪率 順 位 犯罪タイプ 犯罪率 順 位
暴行 11.29 下から6番目 不正 1.91 最も低い
強盗 1.29 下から4番目 器物損壊 7.57 下から10番目
泥棒 7.39 下から3番目 薬物犯罪 2.49 最も低い
窃盗 21.43 下から3番目 その他 0.43 最も低い
※犯罪率は、2011/2012会計年度における人口10万人あたり
※ロンドン・バラ32団体中のサットンンの順位 出所:Lewis (2013), p.19.
SSPSの取り組みによる犯罪率の低下は、ヒアリング調査においても確認できた。主な 指標の2004/2005会計年度から2012/2013会計年度の推移は、図表5-3のとおりである。
図表5-3 サットンにおける犯罪に関する主な指標の推移 指 標 増 減 指 標 増 減 犯罪の認知件数 ▲30.2% 刑事犯罪被害 ▲67.0% 人に対する暴力 ▲27.2% 自動車の盗難 ▲70.1%
※刑事犯罪被害とは、落書き、建物損壊、車両損壊など
出所:筆者作成。