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S2.7 Wiener 過程と確率微分方程式

ドキュメント内 2016 (ページ 51-55)

Wiener 過程

Wiener過程(Wiener process) {W(t), t0} は, 次の性質を満たす連続 時間確率過程である:

1. W(0) = 0である.

2. 独立な増分を持つ.

3. s < tに対して増分W(t)−W(s)は正規分布N(0, t−s)に従う 4. t→W(t)はtの連続関数である.

Wiener過程は以下のような性質を持つことが示される.

1. サンプルパス t→W(t)は至るところ微分不能である.

2. マルコフ性を持つ. すなわち, T を任意の停止時刻とするとき,4 Yt = W(t+T)−W(T)はTにおいて入手可能な情報集合FTに対して独立

なWiener過程となる(このような性質を特に強マルコフ性と呼ぶ).

4停止時刻については,例えば, [21, p.6]参照.

3. 自己相似性を持つ(8.2.1節). すなわち, Yt = a1/2W(at) (a > 0 ), Yt=tW(1/t)はともにWiener過程となる.

4. マルチンゲール性を持つ. すなわち,任意のs < tに対して, E[W(t)|W(u),0 u≤s] =W(s)となる.

いま, Wiener過程W(t)がある時, 実数µ, σ̸= 0に対して, X(t) =tµ+σW(t)

によって定義される連続時間確率過程X(t)をドリフトµ, 分散σ2 を持つ

Wiener過程であると言う.

Wiener過程は,離散時間ランダム・ウォークの極限として構築することが

できる. 簡単のため, ここでは次のような単純対称ランダム・ウォークを考 える. 独立でかつ確率分布Pr[Zi = 1] = Pr[Zi =1] = 1/2を持つ確率変 数列Zi に対して,式(S2.6.1)において初期値x= 0であるようなランダム・

ウォーク{Xn, n= 0,1,2, ...} を定義する. 単位時間[0,1]あたりのジャンプ の回数を表すNに対して,ランダム・ウォークの時間の1刻みを∆t= 1/N とおく. ここで,

Wk∆tN = 1

√NXk

とおくと, Var[ W1N]

= Var[XN N] = 1となる. {

Wk∆tN , k= 0,1,2, . . .}

は, 1ス テップ∆tごとに,幅1/

N=

∆tの上下ジャンプを繰り返す離散時間ラン ダム・ウォークである. さらに, このランダム・ウォークの軌跡(サンプルパ ス)を直線で結ぶ(線形補間)ことによって連続時間連続確率過程が作られる が,その ジャンプ回数を発散させたとき(N → ∞,あるいは∆t0)の極限 として,中心極限定理によって得られるのがWiener過程である.

さて, 離散ランダム・ウォーク{

Wk∆tN , k= 0,1,2, . . .}

のサンプル・パス の傾きは, 1回のジャンプあたり±√

∆t/∆t=±1/

∆tである. したがって,

Wiener過程(∆t0)においてはサンプル・パスの傾きは発散(±∞)してし

まうのである. これより, Wiener過程は,時間に関して連続であるが,至ると ころ微分不能な極めて粗いサンプル・パスを持つことがわかる(上の性質1).

そして, そのようなWiener過程に対して,時間軸をどれだけ拡大しようが 縮小しようが, やはり同じように連続だが微分不能な(ギザギザした)サンプ ル・パスが現われること,そしてt= 0の周りのどんなに短い区間をとっても, t= 0においてはW(0) = 0でかつ連続なパスを持ちながらも,正負どちらの 値も取り得ることを示している(上の性質3).

Wiener過程はBrown運動の数学的モデルであり,白色ノイズξ(t)を用い

て形式解は

W(t) =

t 0

ξ(s)ds (S2.7.1)

51 S2.7. Wiener過程と確率微分方程式 と表わされる. 白色ノイズξ(t)は理想的な無相関なノイズの数学的モデルと して

E[ξ(t)] = 0, E[ξ(t1)ξ(t2)] =δ(t1−t2) (S2.7.2) の性質を持つ. ここで,δ(x)は, Diracのδ-関数である.

図S2.7.1はEuler–丸山スキーム(Euler–Maruyama scheme)W(t+ 1) = W(t) +ξt

∆t(ξtは標準正規乱数, ∆t= 0.1)で計算された, Wiener過程の 標本を示している.

-25 -20 -15 -10 -5 0 5 10 15

0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000

W(t)

t

図 S2.7.1: Wiener過程の標本の例

確率微分方程式

確率過程X(t)が, Wiener過程W(t)と数学的に性質の良い関数µ(x, t)σ(x, t)とによって

dX(t) =µ(X(t), t)dt+σ(X(t), t)dW(t) (S2.7.3) と書くことができるとき, これをX(t)に関する確率微分方程式(stochastic differential equation)と呼ぶ. 確率微分方程式はWiener過程によって駆動さ れる,ランダムな“ノイズ”を含むを微分方程式である.

µ(x, t)をドリフト関数,σ(x, t)を拡散関数,またはボラティリティ関数,と 呼ぶ. 明らかにµ(x, t) = 0,σ(x, t) = 1のとき式(S2.7.3)はWiener過程とな る.

Xk = X(tk),∆tk = tk+1 −tk,∆Wk = W(tk+1)−W(tk)と書くと, 式 (S2.7.3)は

Xk+1−Xk µ(Xk, tk)∆tk+σ(Xk, tk)∆Wk Xk X0+

k1

j=0

µ(Xj, tj)∆tj+

k1

j=0

σ(Xj, tj)∆Wj (S2.7.4) のように近似的に表現される. ここでξk∆tk = ∆Wkとおいた. ∆tj 0と したとき∑

を∫

に置き換えて, X(t) =X(0) +

t 0

µ(X(s), s)ds+

t 0

σ(X(s), s)dW(s) (S2.7.5) と書くことにする. このとき,右辺第3項のWiener過程に対する積分は確率 積分(stochastic integral)と呼ばれる.

具体的には, 拡散係数σ(·,·)を各区間[tj, tj+1]の左端点で固定しながら W(t)を動かした際の増分σ(Xj, tj)[W(tj+1)−W(tj)]の総和を取り,さらに

∆tj0としたときの極限

k1

j=0

σ(Xj, tj)[W(tj+1)−W(tj)]

t 0

σ(X(s), s)dW(s),

であり,伊藤積分(Itˆo’s integral)と呼ばれる. 式(S2.7.5)は,確率微分方程式 (S2.7.3)の積分形式表現である.

伊藤積分は以下の基本性質を持つ. いま,a, b∈R, g, hを十分性質の良い 関数t1< t2< t3として,

t3 t1

gdW =

t2 t1

gdW +

t3 t2

gdW, (S2.7.6)

t2 t1

(ag+bh)dW = a

t2 t1

gdW+b

t2 t1

hdW, (S2.7.7) E

[∫ t2

t1

gdW ]

= 0, (S2.7.8)

E [⟨∫ t2

t1

gdW

⟩]

= E

[∫ t2

t1

g2dt ]

. (S2.7.9)

なお,最後の式において, ⟨

·

は伊藤積分の2次変動(quadratic variation)を 表す. 2次変動は, 確率過程をY で表すと, 差分の2乗和∑(

∆Yk)2

の極限 (∆tj0)として定義される. (7.1.3項の「実現ボラティリティ」参照).

伊藤の公式

53 S2.8. Poisson過程 F(x, t)は, xに関して2階連続的微分可能(C2級), tに関して1階連続的 微分可能(C1級)な関数であるとする. このときF のTaylor展開

∆F = ∂F

∂x∆x+∂F

∂t∆t+1 2

2F

∂x2(∆x)2+ 2F

∂x∂t(∆x)(∆t) +1 2

2F

∂t2(∆t)2+· · · (S2.7.10) を考え,離散近似

∆x=µ∆t+σϵ√

∆t (S2.7.11)

を代入する. ここで, ∆x=x(t+ ∆t)−x(t)である. ∆xに対する2次までと

∆tに対する1次までの項を残すと

dF = ∂F

∂xdx+∂F

∂tdt+1 2

2F

∂x2σ(x, t)2dt

= (∂F

∂xµ(x, t) +∂F

∂t +1 2

2F

∂x2σ(x, t)2dt )

dt+∂F

∂xσ(x, t)dW これは伊藤の公式(Itˆo’s formula)と呼ばれる確率解析学における基本定理で ある.

以上の簡単な導出の手順において, 形式的には, (dW)2 = dt, したがって, (dx)2=σ2dt となる点が重要である.

伊藤の公式は, 式(S2.7.3)を満たす確率過程よりも広いクラスに対して適 用することができる. これらのより汎用的なクラスは伊藤過程と呼ばれる.

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