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S 字曲線の温度依存と印加周波数依存性

前述の負の粘性が液晶性由来,すなわち,ネマチック相のみで発現することを確かめるため,

温度を変化させてS字曲線を測定した結果をFig. 4.5(a)に示す.周波数を𝑓 = 50 Hz,電場振幅

を𝐸0= 1.5 V/μmに固定して,せん断速度制御で各温度毎に測定した.原点での傾きの逆数,つ

Fig. 4.5.(a) 周波数 50 Hz,電場振幅1.5 V/μmで測定した,S字曲線の温度依存性.(b) 周波数 50 Hz,電場振幅1.5 V/μmで測定した,自発せん断速度𝛾̇sの温度依存性.

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まり粘度𝜂0は温度の上昇とともに増加する.43 ℃では傾きは正であり,曲線が若干歪んでい るのは,43 ℃では MBBA はまだネマチック相にあるからと考えられる.第3章で述べた通り MBBA はおおよそ 47 ℃で等方相へと転移する.それに,伴い負の粘性も消失すると考えられ る.実際,47 ℃での曲線を見ると,せん断速度に対してせん断応力は直線的になっており,等 方相で負の粘性が消えていることがわかる.この場合,Fig. 4.4(a)の電場振幅依存性の場合と 違い,各曲線間で相似性を持たないのでスケーリング則は成立しない.次に,Fig. 4.5(b)に応力 ゼロ,つまり無制御方式で測定した自発せん断速度の温度依存性を示す.ただし,電場の印加 条件はFig. 4.5(a)と同じである.Fig. 4.5(b)を見ると,温度の上昇とともに自発せん断速度が低 下する.これは先ほど述べた,𝜂0の温度の上昇に伴う負から正への変化を反映している.47 ℃ で自発せん断速度はゼロになる.これらの結果は負の粘性がネマチック相のみで発現し,液晶 性由来ものであることを示唆している.

第2章で述べたが,液晶電気対流は電場の周波数によってその様子を変える.従って,負の 粘性及び S 字曲線も周波数依存性を示すことが予想される.実際に,温度25 ℃において電場 振幅を𝐸0= 1.5 V/μmに固定して,周波数𝑓を変化させた結果をFig. 4.6(a)に示す.Fig. 4.6(a)を

見ると,Fig. 4.5(a)で温度を変化させたときのように,周波数の上昇に伴い S 字曲線が直線に

近づく.すなわち,周波数の上昇に伴い粘度𝜂0が負から正へと変わり,強粘性相から常粘性相 への転移が起こる.この周波数の上昇に伴いS字性を失うことは強誘電体もしくは強磁性体が 高温で常誘電相もしく常磁性相へ転移することを連想させる.したがって,液晶では周波数が 結晶の温度に対応していることがわかる.先ほどの温度による強粘性相から常粘性相への転 移はネマチック相から等方相への転移によるものであることに注意せよ.今の場合はネマチッ ク相において周波数変化により強粘性相転移が起こっている.

次に,Fig. 4.6(a)で各曲線がせん断応力ゼロ(𝜎 = 0)を切るときの自発せん断速度を周波数

ごとにプロットした結果を Fig. 4.6(b)に示す. Fig. 4.6(b)を見ると周波数の増加に伴い自発せ ん断速度が減少し,おおよそ周波数が𝑓 = 433 Hzでゼロになる.このような変化は強誘電体の 自発分極(強磁性体では磁化)の温度依存性と類似している.従って,この自発せん断速度が秩 序変数であり,それがゼロになる周波数は強粘性相から常粘性相への転移する臨界周波数𝑓c と考えられる.

Fig. 4.6(c)にFig. 4.6(a)からせん断応力がゼロ(𝜎 = 0)のときの微分粘度𝑑𝜎/𝑑𝛾̇の周波数依存 性をプロットする.ただし,このとき Fig. 4.6(a)に示すように𝜂+, 𝜂, 𝜂0の3つが存在し,図では 𝜂+, 𝜂の相加平均ሺ𝜂++ 𝜂ሻ/2をプロットしている.Fig. 4.6(c)を見ると臨界周波数𝑓c= 433 Hz 以下ではሺ𝜂++ 𝜂ሻ/2が,一方,臨界周波数𝑓c以上で𝜂0が典型的な Curie-Weiss 則を満たしてい る.Curie-Weiss 則のアナロジーでは上記のሺ𝜂++ 𝜂ሻ/2と𝜂0は電気感受率の逆数 χ−1に相当す る.また,臨界周波数𝑓c前後でスロープの傾きを比較すると赤色(強粘性相)の方が黒色(常粘 性相)に比べておおよそ 1.8 倍程度大きく, Landau 理論[15](傾きの比が 2 倍)に良い一致を 示す.また,𝑓c以下で負の𝜂0が観測されているが,これはS字が観測できる液晶の特徴であり,

結晶では負の感受率は観測できない.

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Fig. 4.6. (a) 電場振幅𝐸0= 1.5 V μm⁄ で測定されたS字曲線の周波数𝑓依存性.図で𝜂+, 𝜂, 𝜂0は 矢印の点(せん断応力𝜎 = 0)での傾き,即ち,微分粘度𝑑𝜎/𝑑𝛾̇を表す.(b) (a)で𝜎 = 0の点より 求めた自発せん断速度𝛾̇sの周波数依存性.おおよそ周波数𝑓 = 433 Hzで𝛾̇sはゼロになる.(c) ሺ𝜂++ 𝜂ሻ 2⁄ , 𝜂0の周波数依存性.臨界周波数𝑓c= 433 Hzで𝜂0はゼロになる.

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