特許権者に
Right of first refusal
が認められることは、本契約の支配権が特許権者にあ ることになる。また、事前の交渉の場での拒否権と重複する。更に、特許権を持つ企業が 価格を下げて開発途上国に提供するというなら、この法律は不要になる。従って、Right of
first refusal
条項は削除すべきであると主張した。結果として、前述の通り、この条項は削除された。
② 売主と買主
開発途上国の前線で活動している
NGO
こそが買主に相応しい。2003
年8
月30
日のWTO
一般理事会決定によると、輸入資格国(eligible importing Member
)に義務を課し ているが、輸入国またはその代理人が「買主」であることを求めていない。同様に、輸出国(
exporting Member
)の役割を論じているが、売主が政府、あるいはその代理人でなければならないとは決めていない。そこで、後発医薬品業界からカナダ政府の明確な役割 をこの法律に加えるべきだとの主張があった。これに対して、カナダ政府は海外援助予算 から強制実施権に基づいて製造されたカナダ製の後発医薬品を購入して開発途上国に供給 する、という提案を出している。
③ 医薬品リスト(表
1
)を限定すべきではない収載された医薬品は限定的にすぎるし、また医薬品をリストアップして限定すると収載 する手続きが必要になり、状況の急変などに対応が遅れる69。(注:一方、
EU
規則など に対しては、疾病の定義があいまいであるという批判もある。)更に、疾病対象を「限定」することに関する倫理的責任を指摘する声もある。表に記載された医薬品以外に併用療法 に必須な医薬品があり、それがないと治療の効果が少ないという批判もある。
68 Heather Watts:Bill C-9: The Complaints of the Generic Drug Manufacturers and the Perspective of Developing Countries、April 30, 2004. http://www.dww.com/articles/bill_c-9.htm、その他、The Canadian Generic Pharmaceutical Association(CGAA)のWEBSITE:
http://www.canadiangenerics.ca/en/news/apr_20_04.shtml などを参照した。
69 対象の疾病の限定:具体的には、対象になる医薬品を指定することで対象の疾病が規定されている結果と
なる。
④ 既存製品との識別性判定に関する過度の調査検討
2003
年8
月30
日のWTO
一般理事会決定で義務付けられている上に、更に規制目的の 調査を課していることになる。後発医薬品業界にとって特許権者からの訴訟を防ぎ余計な 出費を防ぐ為に、強制実施権の要件を守ることは当然の意向である。⑤ 後発医薬品製造企業に輸入国の情報に関しての申請の義務はない
後発医薬品製造企業が輸入国の医薬品製造能力などの状況を申請することは負担にな る。
⑥ その他
特許権者である医薬品製造企業に拒否権を与えるとすると、そのような開発型の大企業 はカナダの大学や研究機関への投資や助成金を廃止するだろう。対外援助予算から政府が その後発医薬品を注文・購入して輸出、提供するという案もあるのではないか。
1-5
後発医薬品業界からのBill C-9
への批判:輸入国(開発途上国)から見た問題点70① 輸入国が申請する諸事項
国としてインフラが整備されておらず、特許庁とその他官庁の連携に多くを期待できな い開発途上国にいろいろ要求することに問題点が多い。
② リストアップされた医薬品の不適切さ
対象とする疾病が「
HIV/AIDS
、結核、マラリア、その他」となっているが、開発途上 国を襲っている伝染病では、アフリカ・トリパノソーマ症、睡眠病、ハンセン氏病、トリ コノソーマなども重大であり、これらも対象にする必要がある。③ 買主を政府、または、その代理人に限定することは問題
開発途上国の政情、特に官僚の腐敗などが懸念されており、医薬品の再輸出などが起こ る可能性を否定できない。
④ カナダ以外の国から後発医薬品を供給すること
最も重要な点は開発途上国において安価な医薬品が、これまでよりも簡単に得られるか ということである。この点、ブラジルやインドなど既に後発医薬品産業が発展している国々 の方が相応しいと考える71。
70 Heather Watts:Bill C-9: The Complaints of the Generic Drug Manufacturers and the Perspective of Developing Countries、April 30, 2004. http://www.dww.com/articles/bill_c-9.htm
71 Bill C-9に関するその他の研究例として、An Act to amend the Patent Act and the Food and Drugs Act, the Right of Refusal and Alternative Mechanisms (Laura C. Esmail)、The Health Law and Policy Group emerged from the research and teaching interests of numerous faculty members of the University of Toronto Faculty of Law.(Ph.D Candidate, Leslie Dan Faculty of Pharmacy,University of Toront)などが ある。進行中の議論は、http://camr-rcam.hc-sc.gc.ca/review-reviser/camr_rcam_ut.stu_05_e.pdf等参照。
1-6
実 施 規 則 の 制 定 (Use of Patented Products for International Humanitarian
Purposes Regulations
72)実施規則の制定に先立って
Consultation
が産業省(Department of Industry
)から提 起され、2004
年10
月2
日から12
月16
日までの間で実施された73。最終的に当該規則(
SOR/2005-143 May 10, 2005
)は2005
年5
月10
日に施行74された。この
Consultation
文書の前半分は解説になっており、後半の具体的な規則案の詳細な説明が記載されている。解説部分の要点は次の通りである。
① 可決された
Bill C-9
によりカナダの製薬会社(特に後発医薬品製造会社)が公衆衛生 解決の目的でしかるべき対象国への輸出限定で特許医薬品の製造と輸出に関する強 制実施権を行使する枠組みができた。今回提起した実施規則が採決されて、初めて運 用できるようになる。② 背景及び
TRIPS
協定等の改正史の記述。Bill C-9
は2003
年8
月30
日のWTO
一般 理事会決定をカナダでの実現することを図るものである旨記載されている。③ 国内外の強制実施権体系の概要:新しい特許法の条文により、カナダ国内の製薬会社 が、一定量の特定の特許医薬品を特定の国に輸出する目的で製造する際の申請の方法 が確立した。
(国外)
WTO
体制―WTO
非加盟の開発途上国は自動的に輸入国になれないが、公式 な伝達手段でその状況をカナダ政府に通告する必要がある。(国内)カナダ国内の製薬企業は、特許庁長官に輸出目的限定の強制実施権を申請す る。
その際、製造する医薬品の名称、製造量、関連する特許、輸出相手国、購入者名を 明記する。更に、強制実施権申請の少なくとも
30
日前に特許権者が実施権を承認し なかったという宣誓書、その他の証拠書類を提出する(それぞれの様式の説明がある)。 また、安全性、有効性、品質、オリジナルの特許製品との識別、輸出先国、などの条 件が揃えば、特許庁長官は強制実施権を交付する。この実施権の証書の様式も、この 実施規則案に規定されている。(国内体制―更新)輸出許可証は
2
年間有効で、1
回だけ2
年間延長出来る。④
WEBSITE
維持の義務:強制実施権を行使して輸出可能になる前に、情報公開せねばならない。情報にはその医薬品の化学名(
generic chemical name
)、購入者の名称と 住所、厚生大臣が発行した発送品毎の輸出品追跡番号(the export tracking number
)、 発送品毎の船荷証券の番号が含まれる。これは実施権が有効な期間、維持されねばな らない。⑤ 補償金支払いの義務:
2003
年8
月30
日のWTO
一般理事会決定のパラグラフ3
で十 分な補償が特許権者に支払われるべきことが記載されているが、ケース・バイ・ケー スであった。そこでBill C-9
では計算式を設定し、これに準拠するよう定めた。この 計算式は人道的な要素と非商業的な観点で作られている。輸入国の状況で係数が変え72 資料編に対訳(試訳)を添付した。
73 Canada Gazette, Vol.138, No.40 October 2, 2004
74 Canada Gazette, Vol.139, No.11 June 1,2005
られているが、
WTO
加盟国でない場合も開発状況に応じて係数が与えられている。補償金支払いの期限も決められている。
⑥ 信義誠実条項:特許権者は強制実施権申請に対抗して異議申し立てが出来る。強制実 施権の用途が、人道的な目的に反して商業的と信ずるに足る根拠がある場合である。
実施権が商業的に用いられると考える特許権者は連邦裁判所に法的救済を申請出来 る。その為には、特許権者は、その医薬品の価格がカナダで特許化されている同等の ブランド医薬品の価格の
25
%以上であることを証明しなければならない。この申請が 妥当であれば、裁判所はその申請の実体を判断して、実施権が商業的な本質があるの か決定し、救済法を適用する判断をする。この医薬品の流通価格の判断は、州政府が 保険の払い戻しをする際の根拠にしている出版物、及び製薬企業が個人消費者に提供 している価格リストを編集しているPPS Pharma
社の出版物を用いる。⑦ 選択案:この詳細な規則が必要な理由は、
Bill C-9
を実際に運用する上で、様式や開 示情報の決定が必要であり、法律を補完する為である。国会は運用規則が必要である ことを十分考慮した結果、これ以外の対策は考えていない。⑧ 利点と経費:標準化と簡素化がこの規則の利点である。こうして、カナダはこの重要 な人道的な活動のリーダーとして他の同様に幸運な諸国が追随する助けとなるので ある。手続きを簡略化したので申請者の負担は大きくはない。
Bill C-9
の精神に鑑み て、運用経費はカナダ政府が負担する。⑨ この
Consultation
について:事前に開発型医薬品業界、後発医薬品業界、多くのNGO
に非公式に打診した。その結果いくつかの修正が行われた。カナダ官報の
Part I
に収 載の後、75
日以内に利害関係者は、正確な内容を吟味し公式に見解を述べることが出 来る。⑩ 準拠法と執行:輸出目的に限定した強制実施権は、特許法の改正が要点であるので、
この規則は特許庁長官の監督下で運用されるものである。連邦裁判所は強制実施権が
Bill C-9
やこの実施規則の条文に従っていない場合、強制実施権を終結させる権限を持つ。
⑪ 担当窓口:カナダ産業省
Industry Canada 2.
ノルウェーノ ル ウ ェ ー に お け る 公 衆 衛 生 、 環 境 問 題 へ の 取 り 組 み に 関 し 、
Dr. Gro Harlem
Brundland, M.D.
の存在があげられる。オスロ大学医学部出身の同博士は、ハーバード大学で公衆衛生を学び、貧困、人口増加、食料問題、保健衛生に深い関心を持ち、「保健問題 を医学の境界を超えて、環境と開発が関わる領域まで広げる」というビジョンを形成した。
その後、ノルウェー保健省医務官、ノルウェー環境大臣を務めた後、国連「環境と開発に 関する世界委員会」委員長に就任した。環境投資は、国家の将来のための総合的な投資の 一部であるとの認識を深められた由である。更に、同国の最初の女性首相として、