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草案では、カナダの特許権者には後発医薬品製造企業が輸出目的で強制実施権を獲得す ることを妨げる目的の反競争的行為(

anti-competitive action

)が認められていた。即ち、

強制実施権の交付を希望する後発医薬品製造企業が特許庁長官に申請をすると、その申請 書は特許権者に転送され、

30

日間の猶予を持って後発医薬品製造企業にある額の補償金と 引き換えに自発的に実施権を与えるか、あるいは製造者と購入者間の契約を引き継ぐとい う二者択一が任されていた。後者の場合、特許権者が後発医薬品製造企業の契約を肩代わ りすることにより、特許庁長官が強制実施権を付与する理由をなくすことが出来る。つま り、特許権者は、

first refusal right

を許されており、後発医薬品製造企業には不利で、結 局のところ医薬品の価格を下げる効果もないことになる。これは(活動家から見ると

TRIPS

が要求する以外のネガティブな余計な条項であるので)

TRIPS-plus

条項とも呼ば

れ大反対を受けて、最終的に削除された。

② 不明確な交渉期間や条件

強制実施権の付与には、妥当な交渉期間内に特許権者から通常実施権の承認を得られな かった場合という条件が必要とされている。しかしながら、国家の緊急事態の場合には即 座に強制実施権が付与されるべきだとの考え方があり、妥当な交渉期間内に特許権者から 通常実施権の承認を得られなかった場合という条件には、依然反論が残されていた。さら

に、

TRIPS

協定第

31

(k)

には特許権者には十分な補償が与えられるとの記述もあり、妥当

な交渉期間、妥当な通常実施権の許諾条件というあいまいな規定は不合理であるとの指摘 も出された。そこで、妥当な対価については輸出先の国の状況(

HDI

)をパラメーターと して導入した計算法が考案された。

③ 対象になる医薬品

対象になる医薬品をリストアップすることに活動家は反対したが、政府はリストに挙げ ることを固持した。最初のリスト(表

1

)には

56

品目65が挙げられており、これは

WHO

の 必須医薬品のモデル・リストが基となっているもので、

HIV/AIDS

患者が常用する抗ウィ ルス剤が殆ど含まれていない点を人道団体が非難したと言われている。ただし、この法案 が成立した時点で、1品目が追加され、最近になって鳥インフルエンザ治療薬の

Tamiful

も追加された。

このリストについて、政党などがリスト収載の医薬品追加候補を提案している。カナダ 保健省ではリストに

moxiflaoxacin

、あるいは

clarithromycin

を加えることに反対してはい

63 Bill C-9の国会審議の情報はカナダ国会図書館の次のサイトに掲載されている。

http://www.parl.gc.ca/common/bills_ls.asp?lang=E&ls=c9&source=library_prb&Parl=37&Ses=3

64 Richard ElliottPledges and pitfalls: Canada’s legislation  on compulsory licensing of pharmaceuticals for export, Int. J. Intellectual Property Management, Vol. 1, Nos. 1/2, pp.94-113, 2006.

65 現在のリスト(表1)では58品目になっている。これに更に2006921日にTamifluも追加された。

ないが、バイエル社(

moxiflaoxacin

のカナダ特許の所有者)は、

moxiflaoxacin

をリスト に加えることに反対した経緯がある。このような製薬業界の圧力で保健省は、すべての団 体が合意した医薬品に限りリストに収載するという代案を出してきたが、新民主党(

The New Democratic Party of Canada

)は拒否した。このリストがあるからといって適用され る薬品が限定されることにはならないというのが政府の見解で事実、その後に追加修正さ れる等、弾力的な運用が行われている。

④ 多剤混合薬(

FDCs

Fixed-dose combination medicines

FDCs

を直訳すれば固定用量併用薬剤となるが、これは複数の医薬品を1錠、あるいは 1回の処方に製剤して、安価で投与しやすくした製品であり、開発途上国での抗ウィルス 薬剤へのアクセスを劇的に改善したものである。ただし、カナダ国内においても、この製 剤がまだ3種類しか製造販売されていない(注:原文のまま)。後発医薬品の承認に関して は、カナダ国内で販売の承認を受けており、これと生物学的に同等であることが標準的な 条件となっており、

WHO

の推奨医薬品(

first-line therapy

)にもなっていない66。医薬品 に対してカナダが考える有効性や安全性など品質に関する基本線は、カナダ国内の承認基 準に適合することであるが、新しい多剤混合薬の場合、安定性や効能に関する新しい製品 であるので全く新規に医薬品の承認手続きが必要となる。これでは手間と資金が必要にな るということで、後発医薬品製造企業の意欲を妨げ、また、融通性の問題が生じている。

これに対して、カナダ保健省の

Therapeutic Products Directorate

TPD

)は、これらの 多剤混合薬は、新薬として食品医薬品法と食品医薬品規定に従わなければならないが、方 針と実務においては、新薬承認に必要なすべての臨床試験とその他のデータを必ずしも必 要としないという方針を明らかにした。つまり、多剤混合薬を構成する個々の単体の薬剤 のデータが、混合薬の使用の効果を支持するなら、それで代用出来るとしている。更に、

カナダ保健省では、本法に基づく強制実施権適用を意図する医薬品に関しては申請審査を 特別に扱うとしている。

⑤ 強制実施権下で製造された医薬品の輸入国

WTO

理事会決定の際には、

WTO

加盟国をその経済的状況によって医薬品輸入に関する グループ分けをし、

23

カ国の先進国は、強制実施権下に製造された医薬品の輸入を辞退す る旨、同意した。しかし、

SARS

やインフルエンザ、他の伝染病の極端な発生の場合など の不確実な将来を考えた際、短慮・近視眼的な判断であるとの批判が起きている。また、

WTO

加盟国以外への輸出が含まれていないことへの非難が公民権活動家から起こり、非加 盟国もリストに加えられ、これらの国も輸入が出来るように、輸入国の資格を得る為の条 件67が提案され決定された。これらの経緯を背景として、ダブル・スタンダードになって

66 FDCsは現在のところインドの後発医薬品製造企業の製品しかない。インドでは最近まで医薬品に関する

物質特許が認められておらず、その結果、特許に抵触することなく構成医薬品を製剤化出来たという背景があ る(脚注64参照)

67 OECDの公的発展支援を受ける資格があること、その国が緊急事態にあることを宣言すること、緊急事態

を解決する為の医薬品の名称や量を明示すること等。

いるのは仕方がないことである。また、商業用途(

commercial purpose

)という言葉の定 義についても、論争が行われたが、その意図は明確で医薬品の価格を下げるような輸入国 での市場競争を制限することが目的である。また、薬剤師経由で医薬品が分配されること は商業的に相当するかという議論も起こった。

⑥ カナダ製後発医薬品の購入者資格

当初の草案では、政府の機関(

a government agent

)以外がカナダで強制実施権の下で 製造された医薬品を購入することが出来るとする条文はなかった。国境なき医師団のよう な

NGO

や、国際的な機関は、むしろ重要な役割を果たすと期待されるところから批判が起 こり、これにカナダ政府が応えて修正した。しかし、これらの非政府系の機関は、政府か ら許可を得ることになっているが、この許可の内容は定義されていない。また、政府によ る政治的な支配やイデオロギーの影響を懸念する声もある。

⑦ 強制実施権実行の際の特許権者への十分な補償

カナダの特許権者へ輸入国での価値の

2

%を補償するという補償金の基準が、当初の草 案で提起されていたが、医薬製造企業は少ない補償金が悪しき前例になり、また一定比率 に単純に決まることに大反対であった。一方、後発医薬品製造企業や公民権団体は補償金 が予想出来、また上限が決まるという点で、これに賛成であった。これらは聴聞会で議論 されて、その結果、輸入国の

HDI

をパラメーターとして計算する案が政府から提案された。

即ち、一定の補償金を課すという文言は削除され、輸入国の経済状況によって、スライド することになった。これによると補償金の上限は、

HDI

が最高のランクの国で

4

%程度で ある。この計算による補償金の決定法はまだ完全とは言えないが、カナダでの立法の最も 優れた部分のひとつで更なる研究の価値があり、司法的にもよいモデルと思われる。

⑧ 強制実施権の

2

年間期限

当初の法案を起草する段階から政府担当者は、どの強制実施権も

2

年間と期限を決める と主張してきた。つまり、医薬品の改良などの状況変化に柔軟に対応する為には、ある期 限以上に契約が長引くべきではないと考えたのである。しかし、人道団体などは開発途上 国や医薬品バルクの購入者が医薬品の必要な期間を自ら想定出来ないとするのは不合理だ と主張し、更に、強制実施権の期限に上限を設けることは当該実施権を得た企業が市場で 強制実施権を活用する期間を制限することになり、ひいてはその意欲を殺ぐと考えた。つ まり、これらの企業がこの製造期間内に、製造を可能にし、かつそれなりの利益を出すこ とは容易ではないので、特許権が有効な期間内は強制実施権が有効になるか、あるいは少 なくとも、これらの企業と購入者の契約の期間は特許権が残っている間と同じであるべき と主張したのである。最終的に、

2

年間の期限という制限は修正されなかった。実施権の 更新が可能だからであるが、これは最初の強制実施権の時間のフレームの延長が可能にな るということで、補償や、その他を変更する際には、新たに申請することになる。

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