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第6章 気候変動への取り組み状況

3) REDD

森林の破壊や減少を防いだ途上国に対し、先進国に売却可能なクレジット発行を認める。

REDDは、中南米や東南アジアの熱帯雨林の伐採を防止するためのインセンティヴとなる 可能性を秘めている。REDDの対象とする森林管理の範囲を広げる議論があり、森林の減 少・劣化の防止に加えて、積極的に炭素蓄積を増やす行動も含める「REDD+(プラス)」

という考え方も提案されてきた。REDD+が加わることで、インドや中国など森林減少の 止まった国においても森林管理の強化や植林などで炭素蓄積を増やせば、排出削減となる 余地が出てくる。49, 50

49 今後の新たな柔軟性メカニズムの在り方について、上田康治、温暖化対策CDM/JI事業調査シンポジウム2010、地球環境セ ンター、2010

50 ポスト京都で重み増す“炭素蓄積”途上国の森林減少防止をCO2削減にカウント、金子憲治、日経エコロジー http://eco.nikkeibp.co.jp/article/special/20100324/103458/?P=1

以下では上記NAMA及びSCMのほか、わが国が提唱している「セクター別アプローチ」「二 国間クレジット」などについて、世界の新たなメカニズムに向けた動きを述べる。なお、REDD については本調査の対象から外れることから割愛する。

(1) NAMA

バリロードマップの合意事項である「途上国による計測・報告・検証可能な手法での緩 和行動」が根拠となっており、途上国が自発的に行う「国内の適切な削減行動(NAMAs)」

に対し、炭素クレジットを付与しようとするものである。このNAMAは、「持続可能な開 発の文脈において」行われるものであり、しかも「測定・報告・検証可能な形(MRV)で の技術、資金、キャパシティビルディング」によって支援され可能になるものとされてい る。

NAMAと既存のCDMとの最大の違いは、プロジェクトベースである必要がないことで あり、効率性基準によるプログラムベースまたはセクター別ベースの CDM などがその例 として考えられる。なお、既存のCDMの仕組みの中でも、現在ではプログラム活動CDM

(PoA CDM)が認められており、特定の場所に限定されない複数の活動が対象になってい る。しかし、これまで数件の PoA案件の設計書がUNFCCC 事務局に提出されてきたが、

登録申請まで至った案件は出てきていない。

NAMAには、一般的にUnilateral NAMAs、Supported NAMAs、Credited NAMAsの3種類 あるとされ、炭素クレジットが付与されるのはCredited NAMAs であると理解されている が、現段階では明確な規定はない。NAMAの仕組みは、途上国が各国の削減行動と目標値

(参照値)を登録したうえで、参照値を超過達成した場合にクレジットを発行するという ものであり、途上国が削減行動を実施するためには、先進国からの資金や技術の支援が必 要になる。目標値を達成しなくてもペナルティはない(No Loseと呼ばれる)。

AWG-LCAでは、韓国は NAMAクレジットメカニズム、ニュージーランドはNAMAク

レジットメカニズムと NAMA トレードメカニズムを提案している。これらの詳細な内容 は定まっていない(図6-4)。51, 52, 53

51 プログラム型CDM(活動プログラム(PoA))、財団法人地球環境センター http://gec.jp/jp/index.html

52 市場メカニズムに関する国際交渉の最新動向、水野勇史、IGES 排出量取引セミナー-海外制度、200910

53 次期枠組における途上国削減行動について、WWFジャパン気候変動プログラム、スクール「コペンハーゲン2009」、2008

出所:次期枠組みに向けたCDM改革、小圷一久、温暖化対策CDM/JI 事業調査シンポジウム、2009

図6-4 NAMAクレジット・トレーディングのイメージ案

(2) SCM

NAMAクレジットのうち、電力、鉄鋼などセクターごとに排出削減行動の参照値を設定 し、セクター対策ごとに超過達成分についてクレジットを発行する制度をSCMと呼ぶ。54 2013年以降の気候変動枠組におけるCDM改革の議論のなかで、SCMが脚光を浴びてい る。2009 年 1 月には欧州委員会が、「新興国や厳しい国際競争にさらされている経済部門 においては、プロジェクトベースのCDMを段階的に廃止し、SCMに移行すべき」という 文言を含んだコミュニケを発表した。さらに、2009年7月にイタリアで開催されたG8サ ミットで発表された首脳宣言にも、新興国と開発途上国の炭素市場メカニズムへの参加を 促すための施策として、SCMの重要性が示唆された。AWG-LCAでは、EUがSCM及びセ クター別トレードメカニズム(Sectoral Trading Mechanism:STM)を提案している。55

以下では、SCMの中でも、代表的な例である「ノールーズ目標」及び「セクトラルCDM」

について述べる。

1) ノールーズ目標

欧米を中心に、SCMの制度設計に関してさまざまな提言がなされているなかで、現在、

最も注目を浴びているのが、欧州委員会による提案である。この提案は、セメント、鉄 鋼などのセクター別に設定される、拘束力のないGHG排出削減目標(ノールーズ目標)

に基づくものである。目標はBAU(現状維持)シナリオにおける排出量よりも厳しく設 定され、目標を超えて削減された場合は、超過削減分に対して炭素クレジットを付与す るが、目標を達成できなかったとしても罰則などは科せられない(図6-5)。

現行の CDM はプロジェクトベースの市場メカニズムであり、個々のプロジェクトが 達成した排出削減に対してクレジットが付与される。そのクレジットが先進国の排出削

54 地球温暖化対策について、経済産業省http://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/global.html

55 CDM改革の行方、林 大祐、海外投融資財団、2009

減目標の達成に使われれば、結果として正味の排出削減はゼロとなるため、オフセット メカニズムとよばれている。SCM は、① 現行のプロジェクトベースの CDM よりも広 い範囲で途上国の排出削減を促し、② BAU 排出量よりも厳しい目標をクレジット化の 基準(ベースライン)とすることで、ゼロサムゲームであるオフセットから正味の排出 削減を生み出すメカニズムへと移行したいという欧州委員会の意図がある。

目標設定に際しては、セクターごとに共通評価基準(生産1単位当たりのCO2排出量 など)に基づいて目標水準を設定するベンチマーク方式を前提としている。SCMの制度 設計に関して最も重要な点は、どのような評価基準に基づいて目標を立てるかである。

一般的に、同一的な生産物を扱っているセクター(電力、セメントなど)では、共通の 評価基準を定めやすい。

SCMにおける課題としては、次のようなものがある。

① クレジットの受け取り手はセクターのコーディネーター(政府、産業団体など)と なり、これらは必ずしもプロジェクト実施者と一致しないため、排出削減プロジェク トへの投資インセンティブが制度設計に大きく依存する。コーディネーターはプロジ ェクト実施者に対してクレジット、もしくはクレジット収入を何らかの形で配分する ことになるであろうが、現行の CDM に比べてプロジェクトへの投資インセンティブ が間接的になってしまう可能性がある。

② セクター内のある企業が大幅削減を達成しても、別の企業が排出を増加させ、結果 としてセクター全体の排出が増加すれば、削減達成をした企業はクレジットを獲得で きないという状況も起こり得る。つまり、公平なクレジット配分規定が事前に合意さ れない限り、投資インセンティブに悪影響を及ぼす可能性もある。

SCMは莫大な量のクレジットを供給する可能性を秘めていると考えられている。すべ ての新興国が参加すると仮定すると、2020年までのEUと米国の需要の3分の2を鉄鋼 産業からの供給のみで賄うポテンシャルがある。さらに、ブラジル、中国、メキシコの セメント産業からの供給を加えると EU と米国のすべての需要が満たされ、その他のセ クターからの供給によって市場が供給過剰に陥る可能性もあるとされる。

出所:CDM改革の行方、林 大祐、海外投融資財団、2009

図6-5 ノールーズ目標の仕組み

2) セクトラルCDM

セクトラル CDM とは、今までの CDM の構造を基本的には維持しつつ、その対象を セクターまで広げようという考え方である。CDMとの最大の違いは、対象範囲がセクタ ー(部門)にまで及ぶという点であるが、そのほかの点、特に追加性審査などが必要な 点は、CDMとは変わらない。ノールーズ目標との比較でいえば、削減量及び削減クレジ ットは、ベースラインに対して決まるため、CDMの本質的な特徴であるオフセット・メ カニズムとしての性質は引き継ぐことになり、地球大での排出量削減には貢献しない。

「クレジットの割引(discount)」という考え方をこの仕組みに加えた場合はこの限り ではない。これは、文字どおり、達成された排出削減量を「割り引いて」クレジットを 発行するという考え方である。例えば、Xというプロジェクトによって、ある国のセク ターで排出量が100t削減されたとする。通常のCDMプロジェクトであれば、この100t がそのまま削減クレジットになるが、割引の仕組みの下では「50%」などの割引率があ らかじめ設定され、その率で割り引かれた分(この例では 50t)しかクレジットが発行 されない。そうすると、実際に発生している削減量のうち、半分までしか先進国では排 出量が許されないため、地球規模でのネットでGHG削減につながる(図6-6)。56

出所:次期枠組みに向けたCDM改革、小圷一久、温暖化対策CDM/JI 業調査シンポジウム、2009

図6-6 クレジット割引の考え方

(3) セクター別アプローチ

2007 年日本政府は COP13 バリ会議において、ポスト京都議定書の国際枠組みづくりの 選択肢として「セクター別アプローチ」を提唱した。その内容は、産業・運輸・家庭など のセクターごとに特定の技術や産業などに焦点を当て、GHG 削減ポテンシャルを算出し、

それを国別の総量目標に反映させる手法である。GHG削減ポテンシャルは、省エネ技術の 普及率などを調査し、最も効率の良い技術を導入した場合を想定して算出する。「積み上

56 次期枠組における途上国削減行動について、WWFジャパン気候変動プログラム、スクール「コペンハーゲン2009」、2008

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