第 4 章 試料の作製
5.6 Quasi cubic model とエネルギーの分裂
5-6に示す。今回得られた結果は他の報告例よりもわずかに大きな値であるが、測定温度の 違いを考慮すると、妥当であると言える。
p-likeな価電子帯とs-likeな伝導帯の間の運動量行列要素の2乗| c|p|v |2は次の式で表さ れる。
2 , 2 ,
2 ,
2 2 2
0 2 2 2
0 2 2 0
P P P P
P
AP
B B C C (5-16a), ,
,
0 02 || 2 2 02 || 2 2
2
||
0 P P P P
PA B C C B (5-16b)
B、 Cはそれぞれ次のような式で与えられる。
2 / 2 1
so
2 3 2
1 1
BAB
E
(5-17a)2 / 2 1
so
2 3 2
1 1
CAC
E
(5-17b)ここで 2B C2 1となる。EBAとECAの値を使い、式(5-17b)から得られた振動子強度の比は 次のようになった。
2
||
0 2
||
0 2
||
0 2 0 2 0 2
0A :PB :PC :PA :PB :PC
P =1.00:0.16:0.84:0:1.68:0.32 (5-18)
しかし、最も良いフィットの結果であるMDFパラメータA0 |P0 |2は次のような比となり、
式(5-18)とはわずかな違いが生じている。
||
0
||
0
||
0 0 0
0A :AB :AC :AA :AB :AC
A =1.00:0.28:0.49:0:1.42:0.19 (5-19)
式(5-18)から、 6(A) 6の光学遷移は E || c で禁制であることが分かる。しかし、Fig. 5-15 を見ると E || cのスペクトルでE0Aのピークがわずかに現れていることが分かる。この予想 外のピークは、わずかな結晶軸のずれが原因ではないかと考えている。
正方対称性の歪みから、カルコパイライト型半導体は普通Fig. 5-18のように価電子帯の 点において分裂が生じる。ここで立方晶である閃亜鉛鉱構造とカルコパイライト構造を区 別するために、正方歪みパラメータ =c/2aを定義する。多くのI-III-VI2族カルコパイライト 型半導体では正方歪みパラメータ の値は 1 より小さくなる。本研究材料であるAgInSe2は
~0.96である。しかし例外もあり、CuInSe2ではほぼ1である。同じように、多くのI-III-VI2
族カルコパイライト型半導体で crは大きな負の値を持ち、AgInSe2では cr = 172 meVであ る。Table 5-7にAgInSe2、立方晶CdSe (c-CdSe)、CuGaSe2、CuInSe2、AgGaSe2についての構 造とバンドギャップに関するパラメータ a、c、 、E0 、dE0 /dT、 so、 crの比較を示す。
Cdの質量数と Ag、Inの平均質量数は同じであるため、CdSeはAgInSe2に最も類似してい
Table 5-7からc-CdSeに比べてI-In-Se2族のカルコパイライト型半導体ではバンドギャッ プエネルギーの値が小さいことが分かる。これはカチオンであるCuまたはAgとアニオン であるSeのp d混成によって価電子帯が押し上げられことが原因である25,26)。このことか ら混成の変化がバンドギャップエネルギーに影響を及ぼすことが分かる。AgInSe2において、
温度が0から100 Kに上昇するとき、熱膨張の影響からカチオンとアニオンの距離は減少す
るため、p d混成の強さが変化する。その結果、バンドギャップエネルギーは増加する。こ のような理由から、温度が 120 K 以下の負の線熱膨張係数を示す領域で、正の温度係数 dE0 /dTが観測されたと考えられる(Fig. 5-17参照)。
と crの間にははっきりとした傾向がある。 <1 の材料では crは負の値となり、 ~1 の 材料では crはほぼ0となる。例えば =1.000であるCuInTe2では cr =0 eVであると報告され ている 27)。もし が 1 よりも非常に大きい材料があるとすれば、 crの値は大きく正になる ことが予想されるが、そのようなカルコパイライト型半導体の報告例はまだない。
Se はスピン軌道分裂が大きいため、Se がアニオンである半導体では soが大きくなる。
II-VI族半導体では soの大きさはアニオンに依存する傾向にあるため、アニオンが同じ物質
であればどの材料でも soは近い値になる。例えばアニオンがSeであるII-VI族半導体では -MgSe (420meV)、ZnSe (424 meV)、c-CdSe (410 meV)、w-CdSe (420 meV)、HgSe (400 meV)
であり3)、 so ~400 meVとなっている。また、カルコパイライト型半導体では価電子帯のp
Parameter c-CdSe 3) CuGaSe2 35)
CuInSe2 35)
AgGaSe2 35)
AgInSe2
a (nm) 0.6077 0.561 0.578
0.598
0.6104 37) c (nm) (1.2154) 1.100 1.155 1.088 1.1714 37)1 0.980 1.00 0.910 0.960
E0 (eV) a 1.675 (A, B) 1.68 (B) 1.04 (A) 36) 1.814 (B) 1.216 (B) b
dT
dE0 (eV/K) a 5.3 10 4 1.3 10 4 13) 1.1 10 4 1.4 10 4 15) 1.8 10 4 b
so (meV) 410 238 230 300 321 b
cr (meV) 0 139 +6 250 172 b
Table 5-7 c-CdSe、CuGuSe2、CuInSe2、AgGaSe2、AgInSe2の各種パラメータの比較
a At T=300 K.
b Present study.
電子と 4d 電子の混成によって so の値は異な り、Cu と Se を含む材料では so~200 meV[CuAlSe2(180 meV)、CuGaSe2 (238 meV)、CuInSe2 (230 meV)]、AgとSeを含む材料では
so~300 meV[AgGaSe2 (300 meV)、AgInSe2 (321 meV)]となっている。
c-CdSeは極低温(T 0)においてdE0 /dTは±0であり、温度が上昇すると徐々に値は減少し、
最終的に高温でdE0 /dT 4 10 4 eV/Kという値で一定となる。c-CdSeの熱膨張に関するデ ータは報告されていない。他の II-VI族、III-V族のデータを参考にすると 28,29)、c-CdSeは
100 K以下の低温で負の線熱膨張係数を示すことが予想される。しかし、2元の化合物半導
体は電子-格子の項 Ephに比べ、熱膨張の項 Ethの影響が非常に小さい。実際、ZnOではT=300 Kにおいて Ethの占める割合は全体のシフト量 E0 のわずか7% 30)、GaPではT=300 Kで
16 %、T=100 Kで4%である31)。このようなことからc-CdSe、ZnO、GaPでは、どの温度に
おいても正の温度係数は観測されないと考えられる28,29)。正の温度係数はHgSe、HgTeとい った半金属の物質でのみ観測されている。
Table 5-7においてc-CdSeとAgInSe2のdE0 /dT (T=300 K)の絶対値を比較すると、c-CdSe の方が大きな値であることが分かる。これは c-CdSe に比べ、AgInSe2の温度に対するバン ドギャップエネルギーの変化量が少ないことを意味している。式(5-8)で表したように、総 合的な変化量 E0 は2つの異なる寄与 Eth(T)と Eph(T)の合計から得られる。これらの寄与
は Fig. 5-17 (b)から分かるようにそれぞれ符号が異なっている。従って、高温において
AgInSe2では負の Eph(T)を正の Eth(T)が打ち消すように作用するため、c-CdSeよりも総合 的な変化量が小さくなると考えられる。
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