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MBD (l/dish)

15 PtsI

76

Table 32. Identification of up-regulated membrane proteins in exposed E. coli using PMF.

Spot no.

Protein

name Description NCBI gi no. MASCOT

score

Peptides matched

Sequence

cov. (%) pI/MW

77

揮発性酢酸イソアミルに曝露した E. coli の可溶性タンパク質画分では、糖輸 送に関わる MalE、MglB、Crr の発現量が減少した。一方、膜タンパク質画分で は、TCA 回路に関わる AcnB と AceA、解糖系から TCA 回路に至る中枢代謝 系に関わる Pfl と TalB、ペプチドやタンパク質合成に関わる EF-Tu、EF-G、

Glys といったエネルギー代謝やタンパク質合成など様々な代謝に関わるタンパ

ク質の発現量が増加していた。

揮発性酢酸イソアミルに 5 h 曝露した E. coli で最も発現量が増加したタン パク質はスポット No. 5 と 6 で、ともに EF-Tu と同定された(Fig. 32, Table

32)。等電点の異なる 2 つのスポットが PMF 解析で同じタンパク質と同定され

た理由は、スポット No. 5 のタンパク質がリン酸化やメチル化などの翻訳後修 飾を受けて、タンパク質の等電点が酸性側にシフトしたためと考えられる。

EF-Tu と EF-G は原核生物に普遍的に存在し、タンパク質合成の伸長サイク

ルに必要不可欠なタンパク質である(82-84)。EF-Tu は、アミノ酸の結合した

tRNA をタンパク質合成の場であるリボソームへ運搬する。そして、同じ翻訳伸

長因子である EF-Ts が EF-Tu をリサイクルする役割を果たしている。EF-G は、伸長サイクルの最終ステップでリボソームに GTP を結合してトランスロケ ーション(転位)を促進させることで連続したタンパク質合成をおこなっている。

E. coli の EF-Tu は、貧栄養状態ではメチル化されて、生育に必要なシグナル

伝達系が抑制されている(83)。また、酸化ストレスを与えた E. coli では、EF-G の発現量が増加したという報告(85)があることから、揮発性酢酸イソアミルに 曝露した E. coli でも、ストレス回避に必要なタンパク質や酵素を合成するため に、EF-Tu と EF-G の発現量が増加したと考えられる。

また、E. coli を酸性条件下(pH 4.4)で好気培養すると、MalE の発現量が減

少し、AceA の発現量が増加したと報告されている(73)。さらに、フェノールの

ヒドロキシル基は、共鳴効果によりフェノキシドイオンとして安定化されるた め酸性を示す。E. coli はフェノールストレスに応答して EF-Tu とAceA の発現 量を増加させることが明らかにされている(86)。

これらの関連研究と揮発性酢酸イソアミルに曝露した E. coli で MalE の発 現量が減少し、AceA と EF-Tu の発現量が増加していた結果を合わせて考える と、揮発性酢酸イソアミルによる E. coli の生育阻害には、酸ストレスが関与し ている可能性が考えられる。

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4-3-4. E. coli 遺伝子欠損株の揮発性酢酸イソアミルに対する感受性評価

揮発性酢酸イソアミルに 5 h 曝露すると、発現量の変化したタンパク質が多 く検出された(Fig. 31, 32)。それらの中から 15 個のタンパク質を選出して同定 した(Table 31, 32)。15 個のタンパク質の中から 8 個のタンパク質をコードし ている遺伝子を欠損している単一遺伝子欠損株の揮発性酢酸イソアミルに対す る感受性を vapor-agar contact 法で評価した。その結果、野生株 BW 25113 株 の MID と MBD はともに 20 l/dish だったが、 crr、 mglB、 ahpC の MID と MBD は 40 l/dish で、感受性は少し低下した。他の遺伝子欠損株の MID と MBD は、BW 25113 株と比べて変化していなかった(Table 33)。

n-ブタノールに曝露した E.coli で発現が変化した遺伝子を同定し、それらの

遺伝子の中から単一の遺伝子を欠損させた株の n-ブタノールに対する感受性 を調べた関連研究でも、感受性に変化が認められなかったと報告されており

(87)、n-ブタノールは E. coli の特異的部位を阻害するのではなく、複数の異な

る部位に作用して最終的に生育を阻害したと推察されている。

Table 33. Antimicrobial activity of volatile isoamyl acetate against E. coli knockout mutants.

Strain Gene Protein expression

b

MID (

l/dish) MBD (

l/dish)

BW 25113

a

Wild-type 20 20

JW 3994

a

malE Down 20 20

JW 2410

a

crr Down 40 40

JW 2137

a

mglB Down 40 40

JW 0598

a

ahpC Down 40 40

JW 3301

a  tufA

Up 20 20

JW 3975

a

aceA Up 20 20

JW 1412

a  aldA

Up 20 20

JW 0007

a  talB

Up 20 20

a

Strains were obtained from National BioResource Project (NIG, Japan): E. coli.

b

The change of protein expressions in E. coli exposed to volatile isoamyl acetate.

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単一遺伝子欠損株の揮発性酢酸イソアミルに対する感受性が、野生株と大き く異なっていなかったことと、多数のタンパク質で発現量が変動していたこと から、揮発性酢酸イソアミルは E. coli の特異的な部位を阻害するのではなく、

多面的に影響を与えていると考えられる。

4-3-5. E. coli のエステラーゼ活性

揮発性酢酸イソアミルに曝露した E. coli では、酸やアルコールストレスに関 わるタンパク質(MalE、AceA、EF-Tu)の発現量が変化していたことから(Table 31, 32)、酢酸イソアミルが酢酸とイソアミルアルコールに加水分解されている可能 性が示唆された。そこで、p-ニトロフェニル酢酸を基質としてエステラーゼ活 性を測定した結果、E. coli 菌体はエステラーゼ活性を示した(Fig. 48)。

E. coli の細胞膜と外膜には、エステラーゼが存在することが知られている

(88)。そのため、E. coli 外膜に付着した酢酸イソアミルや細胞膜に溶け込んだ

酢酸イソアミルの一部は、酢酸とイソアミルアルコールに加水分解され、これ ら生成物が E. coli に酸およびアルコールストレスを与え、呼吸活性の消失や細 胞膜の損傷、遺伝子群の発現変化を生じさせた可能性が示唆された。

Fig. 48. Esterase activity of E. coli cells.

1 unit of esterase activity is equal to 1 pmol of p-nitrophenol released per minute.

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4-3-6. 揮発性酢酸の抗菌活性

揮発性酢酸は 5

l/dish

で E. coli の生育を阻害し、20

l/dish

で殺菌的に阻 害して、揮発性酢酸イソアミルとイソアミルアルコールよりも高い抗菌活性を 示した(Table 34)。また、揮発性酢酸とイソアミルアルコールを別々の小シャー レに同量添加して E. coli に曝露すると、総量 10 l/dish で E. coli の生育を阻 害し、総量 20

l/dish

で殺菌的に阻害した。これらの値をそれぞれ単独添加し たときの MID、MBD と比べると、酢酸が E. coli の生育阻害に中心的に働いて おり、イソアミルアルコールは酢酸の MBD で相乗効果を示した。

Table 34. Antimicrobial activity of volatile acetic acid.

MID (l/dish) MBD (l/dish)

Isoamyl acetate 20 20

Isoamyl alcohol 20 40

Acetic acid 5 20

Isoamyl alcohol + Acetic acid 10

a

20

a

a

Total amount of isoamyl alcohol and acetic acid.

アルコール類は両親媒性分子であるため、疎水部が細胞膜に溶け込むことで 膜の透過性を変化させ、膜の内外で形成されていた膜電位や物質の濃度勾配を 撹乱させて抗菌活性を示すことが報告されている(43, 89, 90)。さらに、エタノ ールよりイソアミルアルコールのような疎水性の高いアルコールが、細胞膜に 高い親和性を示し、毒性も高いと指摘されている(91)。

Brynildesen ら(92)は、イソブタノール水溶液に曝露した E. coli では、イソブ

タノールが細胞膜に蓄積して膜を損傷させ、膜に局在している電子伝達体の 1 つ、キノンを膜損傷部位へ凝集させ、また膜流動性を変化させてキノンを偏在 させることにより、電子伝達系の機能を阻害している(呼吸活性の消失)と述べ ている。また、キノンは TCA 回路を中心とした代謝関連遺伝子群の発現を制御 している二成分制御系 ArcB/ArcA の自己リン酸化を抑制している。イソブタノ ールが細胞膜に溶け込みキノンの抑制を解除すると、ArcB が ArcA をリン酸化 して活性化する。リン酸化された ArcA は、TCA 回路を含む多くの代謝関連遺 伝子群の発現を促進または抑制すると報告している。

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揮発性酢酸イソアミルも E. coli の細胞膜に溶け込んで、膜の損傷や、呼吸活 性の消失を引き起こすとともに、ArcB/ArcA のような発現制御系の制御を解除 させることによって、多くの代謝関連タンパク質の発現を促進あるいは抑制し たと考えられる。

一方、酸ストレスは E. coli の RNA ポリメラーゼのシグマ因子 RpoS を活性 化し TCA 回路を初めとする中枢代謝系遺伝子の転写を促進することが報告さ れている(93, 94)。RpoS が転写制御する遺伝子には、TCA 回路に関わる acnA やペントースリン酸経路に関わる talA が含まれている。

揮発性酢酸イソアミルに曝露した E. coli でも、AcnA と TalB の発現量が増 加していた(Table 32)。TalB は、RpoS が転写制御する遺伝子 TalA とは異なる が、ともにペントースリン酸経路に関わるトランスアルドラーゼである。

本研究とこれらの関連研究を考え合わせると、揮発性酢酸イソアミルは E.

coli によって加水分解され、生成した酢酸とイソアミルアルコールが E. coli の

膜に溶け込んで、膜に損傷を与え、電子伝達系の機能を阻害する。加えて、膜 に存在する代謝関連タパンク質をコードする遺伝子群の発現制御系の活性を変 化、あるいは変性させた結果、糖輸送やタンパク質合成など代謝に関わる遺伝 子群の発現に撹乱が生じたと推察される。

82 4-4. まとめ

揮発性酢酸イソアミルに 5 h 曝露した E. coli からタンパク質を抽出し、

2D-DIGE 解析した結果、多数のタンパク質の発現が変動していることを見出し

た。可溶性タンパク質画分では発現量が減少したタンパク質が多く検出され、

その中から安定して減少していた 4 種類のタンパク質を選出し、糖輸送に関わ るタンパク質 MalE、MglB、Crr と酸化還元酵素 AhpC と同定した。一方、膜タ ンパク質画分では、可溶性画分とは異なり、発現量が増加したタンパク質が多 く検出された。その中から 11 種類のタンパク質を選出し、解糖系に関わる Pfl、

PtsI や TCA 回路に関わる AceA、AcnB、タンパク質合成に関わる EF-Tu、EF-G、

GlyS や AldA、TalB、PrkA と同定した。同定したタンパク質には、酸やアルコ

ールストレスに応答して発現量が変化するタンパク質(MalE、AceA、EF-Tu)が 含まれていた。

揮発性酢酸イソアミルに曝露した E. coli で、発現量が変化したタンパク質の 中から 8 個のタンパク質をコードする遺伝子を欠損した単一遺伝子欠損株の 揮発性酢酸イソアミルに対する感受性を評価した。しかし、欠損株では、野生 株と比べて感受性に大きな変化は認められなかった。

また、E. coli 菌体のエステラーゼ活性を測定したところ、p-ニトロフェニル 酢酸を加水分解できることを見出した。さらに、生成した酢酸は、酢酸イソア ミルとイソアミルアルコールよりも高い抗菌活性を示したことから、揮発性酢

酸が E. coli の生育阻害に中心的に働いていると考えられる。また、イソアミル

アルコールは酢酸の MBD に相乗効果を示した。これらの結果から、揮発性酢 酸イソアミルはエステラーゼによって加水分解され、生成した酢酸とイソアミ ルアルコールが E. coli の生育を阻害したと考えられる。

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