R2=0.991, efficiency 120.1%
25
図2-6. イヌ骨格筋,肝臓および脳におけるPFK-1アイソフォームおよび肝臓に
おけるFBP-1のmRNA発現
イヌ骨格筋,肝臓および脳における標的遺伝子のPFK-1アイソフォームmRNA の相対発現量をreal-time RT-PCRにて検討した。値は3例の平均値±標準誤差を 示す。
skeletal
muscle liver
liver
brain
26
第3章
イヌ骨格筋PFK-1の活性調節
27
3.1 緒言
哺乳類のPFK-1には筋肉型(M),肝臓型(L)および血小板型(P)の3種類
のアイソフォームが存在し,様々な臓器でその臓器の特徴を反映した 4 量体で 構成されるが [Sola-Penna et al., 2010],骨格筋はM型のアイソフォームのみで構 成される [Dunaway & Kasten, 1987; Dunaway et al., 1988]。PFK-1は様々な細胞内
因子によりアロステリックな活性調節が行われるが,骨格筋の PFK-1 において も活性調節についての検討がなされ [Kemp & Foe, 1983],さらにラット M 型
PFK-1アイソフォームのcDNAクローニングがなされ,基質である ATPや
F-6-P の結合部位や活性促進因子や活性抑制因子の反応部位のアミノ酸配列が明ら かとなった [Ma et al., 1996]。近年,ウサギ [Banazak et al., 2011]およびヒト [Kloos
et al., 2014]のM型PFK-1アイソフォームの結晶構造が報告され,酵素触媒部位
や活性促進および抑制部位の詳細な構造がさらに明らかにされつつある。
ヒト医学領域では,垂井病として知られるヒトM型PFK-1活性を欠損した糖 原病があり,症状として運動不耐,運動時有痛性筋けいれん,横紋筋融解症,ミ オ グ ロ ビ ン 尿 症 お よ び 溶 血 を 特 徴 と す る 常 染 色 体 劣 性 遺 伝 性 疾 患 で あ る
[Brüser et al., 2012b; Sherman et al., 1994 ; Tarui et al., 1965]。獣医学領域において も,イングリッシュスプリンガースパニエルやウィペットにおいて,M型 PFK-1 のナンセンス変異による慢性溶血と労作性ミオパシーを伴う遺伝性疾患が報
28
告されており [Gerber et al., 2009; Giger et al., 1985; Inal et al., 2012; Vora et al., 1985],
イヌにおいてもM型PFK-1アイソフォームの重要性が報告されている。
本章では,イヌの骨格筋から部分精製された PFK-1 を使用して,活性調節因 子による効果について検討した。
3.2 材料および方法 3.2.1 材料
ATP,アデノシン二リン酸(ADP),AMP,ウリジン三リン酸(UTP),環状AMP
(cAMP),クエン酸,ALD,およびG3PDHは,和光純薬工業株式会社(Osaka,
Japan)から購入した。F-6-P,F-1,6-P2,D-フルクトース-1,2-サイクリック-6-二リ ン酸(F-1,2c-6-P2),NAD,phenylmethylsulfonyl fluoride(PMSF)およびTPIは,
Sigma-Aldrich(St. Louis, MO, USA)から購入した。Blue Sepharose 6 Fast Flow
(Cibacron Blue)は,GE Healthcare(Little Chalfont,UK)から購入した。Bio-Rad Protein Assay Dye Reagent ConcentrateはBio-Rad(Hercules, CA, USA)から入手し た。 ウシ血清アルブミン(BSA)ははRoche(Mannheim, Germany)から入手し
た。フルクトース2,6-ビスリン酸(F-2,6-P2)は, F-1,2c-6-P2から合成した [Uyeda et al., 1981b]。F-2,6-P2のモル濃度は,リン濃度を測定し [Itaya & Ui, 1966],それ
に基づいて算定した。その他の試薬は,和光純薬工業株式会社および
Sigma-29
Aldrichから入手した。
3.2.2 供試臓器
第 2 章と同様に,日本大学動物実験委員会によって承認された他の実験にお いて,ペントバルビタールナトリウム(150 mg / kg体重)の静脈内投与により人
道的に安楽死されたビーグル犬(オス2頭,メス2頭,1∼2歳)より摘出した骨 格筋を-80°Cで保存した後に使用した。本研究のプロトコルは,日本大学動物実 験委員会(承認番号:AP13B074-1)によって承認された。
3.2.3 PFK-1部分精製
イヌの骨格筋PFK-1の部分精製は,既に報告された方法 [Fukushima & Sugiya,
1992] を一部改変して行った。熱処理を除き,すべての精製ステップは4°C環境
で実施した。外科剪刀で15 gの骨格筋を細切し,テフロンホモジナイザーを用 いて,1 mM PMSFおよび10 mM DTTを含む50 mM トリスリン酸バッファー
(pH 8.0)溶液にて500 rpmで5分間ホモジナイズし,100,000×gで30分間,超
遠心し,細胞質画分を得た。得られた細胞質画分を52°Cで3分間加熱処理した
後,10,000×gで10分間遠心し,変性タンパク質を除去した。熱処理した上清を,
0.1 mM EDTA,0.05 mM F-1,6-P2および10 mM DTTを含む50 mM トリスリン酸
30
バッファー(pH 8.0)溶液(A バッファー溶液)で平衡化したBlue Sepharose 6 Fast Flow(Cibacron Blue)カラム(1×5 cm)にロードした。 Aバッファー溶液
に0.15 mM ADPを加えた溶液(50 mL)でカラムを洗浄後,Aバッファー溶液に
5 mM ATPおよび2 mM F-6-Pを加えた溶液(Bバッファー溶液)を流速1 mL /
minで流し,PFK-1を溶出した。PFK-1活性を有する画分を回収し,50%硫酸ア
ンモニウムでタンパク質を沈殿させ,10,000×gで30分間遠心分離した。沈査画
分を10 mM DTTを含む50 mM トリスリン酸バッファー(pH 8)溶液に溶解し
た後,硫酸アンモニウムを除去するために透析を行い,透析された溶液を部分精
製PFK-1として使用した。
3.2.4 タンパク質濃度測定
PFK-1 部分精製における各ステップで得られた PFK-1 画分について,ウシ血
清アルブミンを指標にBradford法 [Bradford, 1976]でタンパク質濃度を測定した。
3.2.5 PFK-1の活性測定
至適条件でのPFK-1活性(Vmax)は,50 mM HEPESバッファー(pH 8.2), 100 mM KCl,6.5 mM MgCl2,1 mM NH4Cl,5 mM KH2PO4,0.3 mM NADH,0.5 units ALD,0.5 units G3PDH,5 units TPI,1 mM F-6-P,5 mM ATPおよび0.1 mM
31
AMPを含む混合溶液に部分精製PFK-1を加えて最終容量を1 mLとし,25°Cで 反応を行った。U-2900 Spectrophotometer(Hitachi High-Technologies Corporation)
を使用して,NADHの酸化を340 nmの吸光度の減少で継時的に測定した。NADH のモル吸光係数から,25°Cで1分あたり1 μmolのF-6-Pをリン酸化する酵素活
性をPFK-1活性の1 unitと定義した。
PFK-1 の活性調節因子の効果の検討においては, 50 mM HEPES バッファー
(pH 7.3),100 mM KCl,6.5 mM MgCl2,1 mM NH4Cl,5 mM KH2PO4,0.3 mM NADH,0.5 units ALD,0.5 units GDH,5 units TPIおよび濃度の異なるF-6-P,ATP
およびAMPを含む混合溶液に部分精製PFK-1を加え,容量を1 mLとし,25°C で反応を行い,340 nmの吸光度の減少を継時的に測定した。ここで得られた値 をvとし,至適条件下で得られた最大反応速度(Vmax)に対する比率v/Vmaxとし て表した [Uyeda et al., 1981a; Uyeda & Racker, 1965]。
3.3 結果
3.3.1 イヌ骨格筋PFK-1の精製度
イヌ骨格筋の細胞質画分を分離し,そこからPFK-1を部分精製した。表3-1に 精製の各ステップのタンパク質濃度とPFK-1活性を示す。イヌ骨格筋PFK-1は,
細胞質画分より159倍精製され,比活性は4.6 units /mg protein,回収率は31.6%
32
であった。
3.3.2 pHの効果
部分精製されたイヌ骨格筋PFK-1の活性を1 mM F-6-P,5 mM ATPおよび0.1
mM AMPの条件下にてpH 7.0〜8.8で測定し, pH依存性を検討した。 その結
果,図3-1に示すように,pH 8.2で最も高い活性が認められたことから,イヌの 骨格筋PFK-1の至適pHは8.2であった。
3.3.3 ATPの効果
PFK-1の基質の 1 つである ATP の効果を検討した。0.1 mM F-6-P および 0.1
mM AMPの条件下で,ATP濃度を0∼10 mMと変化させイヌ骨格筋PFK-1 活性
を検討したところ,低濃度(<1 mM)のATPは活性を亢進し,さらに濃度を上 げると活性は抑制され,5 mM ATPでほぼ完全に阻害した(図3-2)。
3.3.4 F-6-Pの効果
PFK-1のもう1つの基質であるF-6-Pの効果を検討した。5 mM ATPおよび0.1
mM AMPの存在下の活性抑制がなされた条件下で,F-6-P濃度を0∼2 mMと変化
させイヌ骨格筋PFK-1活性を検討したところ,図3-3に示すようにF-6-Pの濃度
33
に依存してシグモイド型に活性は上昇した。イヌ骨格筋PFK-1 活性は 1 mM F-6-Pでほぼプラトーレベルに達した。
3.3.5 F-2,6-P2の効果
PFK-1の強力な活性化因子とされているF-2,6-P2の効果について検討した。0.1
mM F-6-P,5 mM ATPおよび0.1 mM AMPの存在下の活性抑制がなされた条件
下で,F-2,6-P2濃度を 0∼90 μMと変化させイヌ骨格筋 PFK-1 活性を検討したと
ころ,図3-4 に示すように,用量依存的に活性の亢進が認められた。
3.3.6 AMPの効果
PFK-1 の活性化因子の 1 つとされている AMP の効果について検討した。0.1
mM F-6-Pおよび2.5 mM ATPの存在下の活性抑制がなされた条件下で,AMP濃
度を0∼0.5 mMと変化させイヌ骨格筋PFK-1活性を検討したところ,図3-5に示
すように,用量依存的に活性の亢進が認められ,0.1 mM AMPでプラトーに達し た。
3.3.7 cAMPの効果
細胞内情報伝達に関わる分子 cAMP の効果について検討した。0.1 mM F-6-P
34
および2.5 mM ATPの存在下の活性抑制がなされた条件下で,また,cAMP分解
酵素ホスホジエステラーゼの阻害のために 1 mM 3-イソブチル-1-メチルキサン チンを加えたcAMP 濃度を0∼0.5 mM と変化させイヌ骨格筋 PFK-1活性を検討 したところ,図3-6 に示すように,AMP と類似した用量依存的な活性の亢進が 認められた。
3.3.8 クエン酸の効果
PFK-1 の抑制因子の 1 つとされているクエン酸の効果について検討した。0.1
mM F-6-Pおよび0.1 mM AMPの存在下でATPを0.3 mMとして活性が認められ
る条件下で,クエン酸濃度を0∼5 mM と変化させイヌ骨格筋PFK-1活性を検討 したところ,図3-7に示すように,用量依存的に活性が阻害された。
3.3.9 UTPの効果
ヌクレオシド三リン酸の1つであるUTPはATPのように代謝反応の基質とし ての機能を有することから,UTPの効果について検討した。0.1 mM F-6-P およ
び0.1 mM AMPの存在下で,ATPの代わりにUTP濃度を0∼10 mMと変化させ たところ,図3-8 に示すように,UTPは低濃度でイヌ骨格筋 PFK-1 活性を亢進 し,高濃度では活性を抑制し,ATPに類似した効果を示した。しかし,活性の亢
35
進はATPに比べ低濃度(<0.5 mM)で認められ,また,5 mMでは最大活性の約 半分の活性を示が認められ,抑制するのには10 mMを要した。
3.4 考察
本章では,イヌ骨格筋から PFK-1 を部分精製し,活性調節因子の効果につい て検討した。PFK-1のM型アイソフォームには,酵素触媒部位,活性促進部位
および活性抑制部位と 3 つのアデニンヌクレオチド結合部位が 存在する [Banaszak et al., 2011; Brüser et al., 2012a]。イヌ骨格筋のPFK-1 は,構成するアイ
ソフォームがM型のみであることから,骨格筋PFK-1の活性調節は,M型アイ ソフォームの特徴を反映していると考えられる。
ATP は,高エネルギーリン酸化合物でありエネルギー代謝の目的生成物であ りながら,PFK-1 による反応においてリン酸供与体としてだけでなく活性抑制
因子としての機能も有する。本章の結果から,ATP は低濃度では PFK-1の触媒
部位に結合し,高濃度では活性抑制部位に結合することで,活性を抑制すること
が示唆された。ラットやウサギの M 型 PFK-1 アイソフォームには ATP による 活性部位と抑制部位が存在し,活性調節に関わることから [Ma et al., 1996;
Banaszak et al., 2011],イヌも同様な活性部位を有していると考えられる。