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第 2 章 非イオン界面活性剤(NIS)の物性と試験法原理

2.6 PAR 法の概要

2 NISの物性と試験法原理

PARには、フリー体の他にナトリウム塩が市販されており、その溶解性47), 48)Table 2-4 に示すとおりである。ナトリウム塩と比べてフリー体の溶解性が著しく低いのは、Fig. 2-9 に示すとおり、PAR のo-OH とジアゾ基が水素結合しているためであると推定 49)されてお り、一方でナトリウム塩の溶解性が高いのは、o-OHのプロトンがナトリウムで置換されて いるためである。日本では、フリー体が広く使用されてきた経緯があるため入手性にも優れ、

これを用いることが多いが、溶解性の問題から手引書 47)ではナトリウム塩の使用が推奨さ れている例もあり、海外ではナトリウム塩を使用する場合が多い。告示法10)における PAR 溶液(100 mg/L)の調製方法は、フリー体のPARを用いて「pH 11程度」で溶解させ、「完 全に溶けないときは上澄み液を」使用してもよいとされているが、上記のPAR のフリー体 に関する特性を踏まえると、pH 11程度では溶解性にやや難があることが理解できる。これ については、フリー体ではなくナトリウム塩を使用すれば中性の水に容易に溶けるため、pH 11 程度で溶解する必要性も無く、またその溶解性に付随する問題も生じにくいものと考え られる。本研究においても、PARの一ナトリウム塩(メルク、Reag. Ph Eur)を入手し、そ の溶解性についてあらかじめ確認した。

Chemical species Water solubility (H2O)

H2L 50 mg/L

NaHLH2O 38 g/L

Na2L2H2O 112 g/L*

pKa1 (N+H) pKa2 (p-OH) pKa3 (o-OH) 3.1 5.6 11.9*

C11H9N3O2

Mw : 215.21

H

3

L

+

H

2

L HL

L

2–

Fig. 2-8 The proton dissociation scheme of PAR47)

* estimated value

Table 2-4 Water solubility of PAR and its sodium salts47), 48)

* Estimated value by EPA comptox

(2)PAR 錯体の構造と特性

PAR は非選択性の試薬であるが、モル吸光係数の大きい金属錯体を生成する。その構造

50)Fig. 2-10に示すとおりであり、金属:配位子1:1または1:2が普通である。金属:配

位子1:1の代表例はAl3+、Bi3+、Cu2+であり、1:2の代表例は、Co2+、Ni2+、Fe3+、Mn2+で ある51)

NIS告示法では、Co2+とPARの錯形成反応が用いられているが、Co2+は錯形成時に酸化さ れてCo3+になると推定 52)されており、このときのpH 中性領域における化学反応式は(5)に 示すとおりである。

Co + 2HL– → [CoL2]– + 2H+ + e– (5)

PAR 法を用いた錯形成反応の収率を正確に評価するためには、PAR 溶液にあらかじめ何 らかの緩衝液を加え、反応の前後で溶液のpHが変化しないようにする必要性がある。ここ では、Co2+と PAR の錯形成反応に用いることができる緩衝液としてこれまで報告があるも のを、Table 2-5に示す。

n = 1 or 2

Fig. 2-10 The structure of metal-PAR complex50) M/n

Fig. 2-9 The structure of (a) PAR-free acid49) and (b) PAR-mono sodium salt (a)

(b)

2 NISの物性と試験法原理

安定度定数が15.71~16.55と報告されているCo-EDTAにPARを添加するとCo-PARが生 成し、またCo-PAR溶液にEDTAを加えてもマスキングされないと報告52)されていること から、Co-PAR錯体の安定度定数は極めて高いと考えられる。このため Table 2-5に示すよ うな、緩衝液として一般的に用いられているものの大半を、Co2+と PAR の錯形成反応に用 いることができると考えられる。

(3)PAR 法によるコバルト逆抽出の試み

PAR法の応用法としてNIS告示法で示されている、トルエン中のCo-NIS錯体をPAR溶 液に逆抽出してCo-PAR錯体を生成させる手法については、Inabaによる1条件54)が報告さ れているのみであり、錯形成条件に関する知見は限定的である。その手順は、Co-NIS 錯体 を抽出した有機相8 mLに対して、リン酸緩衝液でpH8に調製した100 ppmのPAR溶液4 mLを加えて10分間振とうするというものである。告示法では、PAR溶液をリン酸緩衝液 でpH8に調製する手順が省かれており、またPAR濃度や振とう時間もInabaの手法から変 更されているが、これがどのような経緯を経て変更されたものなのか、文献検索を行ったも のの判明しなかった。

Buffer type pH range Major literature

Citrate buffer 4 ~ 8 四条と武内53)

Phosphate buffer 8 Inaba54)

Phospahte-Borate buffer 6 ~ 10 Yotsuyanagi et al.55) Phosphate-Borate buffer 6.5 ~ 11 山下ら56)

Table 2-5 Buffer types used in PAR solution

第 3 章 錯形成反応の最適化による水道水中 NIS 告示法の測定精度