4. 越境投資と環境対策
4.2 マキラドーラと NAFTA
4.2.5 NAAEC の効果
NAFTA締結とともに NAAEC の実行によって、メキシコの環境規制が完全に実施されたか否 かを把握するために、メキシコ政府による環境保護への支出額、およびメキシコの工場にお ける検査件数を指標として取り上げた。メキシコは、NAFTA を導入するにあたって、政府が 中心となって積極的な環境対策にも取り組んだが、これを後押ししたのが NAAEC だったⅱ。
(1)メキシコ政府から企業に対する環境保護支援額
環境法規に対する企業レベルでの遵守状況を把握するデータとして、政府から企業に対 する環境保護支援額があるⅲ。エネルギーや生産施設を最新化や末端処理装置の設置、環境 負荷の少ない燃料への転換、熱電併給(コジェネレーション)プログラムの開始、そして環 境マネジメントシステムの構築などに必要な資金を支援したかどうかである(Gallagher, 2004)。
図 26 は、メキシコ政府が1985年から 1999年にかけて企業の環境保護に対して支援額で ある。この支援額は、1988年から 1993年にかけて急速に上昇しているが、1994年の NAFTA 締結以降は減少している。しかしながら、この支援額は、初期の頃に比較して増加はしてい
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るもの の 、 OECD ( 経 済 協 力 開 発機 構) に 所 属 す る全て の 国々の中 では 最 低 額で ある
(Gallagher, 2004)。OECD において GDPで平均的な国々は、環境に関してメキシコの 3倍 以上の支援を行っている(Gallagher, 2004)。
このことからメキシコでは、NAFTA締結の 1994 年以前は、交渉の過程で環境への関心が 高まり、環境保護に新規に取り組む企業の数が増加したために支援額が増加したといえる が、NAFTA の実行後は、運用がなされたために支援額が低下していると解釈できる。
Gallagher(2004)による環境保護の具体例は、環境対策装置の設置などの既存施設への追加 投資と考えることができる。これらの装置は、一度設置されれば、その運用によって環境保 護が継続的になされていると理解することができるため、環境法規の遵守もなされている と判断できる。
図 26 メキシコ政府から企業に対する環境保護支援額
(出所)Gallagher (2004)より筆者加筆
(2)メキシコの工場における検査件数
次に、メキシコの工場における検査件数を示す。政府が運用や検査方法を条件として認可 している企業は、他の企業に比較して整理されているといわれている。メキシコの 236 の工 場を世界銀行が調査した結果、これらの企業のうち 60%は、規制として要求事項が順守さ れていた(Dasgupta, Herrige et al. 2000)。
メキシコの運用や検査に関する全ての記録は非常に乏しい。図 27 は、数年にわたる工場 レベルでの、環境に関する検査数を示したものである。これによると、メキシコは、NAFTA
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交渉の期間に、おそらく交渉相手からの強い圧力を受けて(または NAFTA の反対者を打ち負 かしたいという希望から)、環境に関する運用を強化したといえるⅳ,ⅴ。このような傾向は良 い方向に進んでいたけれども、それでも1993年に頂点に至った時の工場レベルでの検査数 は、全国の企業の工場全体数の 6%にしか至っていなかった。しかもNAFTA締結が行われた あとは、工場レベルでの検査数は、突然下降を始めている(1999年までに絶頂期から 45%
の減少に至る)。Gallagher は、この状況を NAFTA が導入されてからのメキシコが、運用を 弱めていることを示しているという(Gallagher, 2004)。
しかし、筆者は、この状況は、NAFTA 以降において環境に関する検査が定着したために、
検査件数が減少したとも解釈する。なぜなら、通常の検査では、一度検査で指摘された場合 に、次回はその指摘の是正は行われているのが通常であるため、システムが構築された場合 には、検査の件数が減少するのが一般的であると考えるからである。つまり、NAFTA の導入 によって、環境対策の運用が弱まっているのではなく、運用を定着しているために、結果的 に検査の回数が減少しているのであるⅵ,ⅶ。
図 27 メキシコの工場における検査件数
(出所)Gallagher (2004)より筆者加筆
(3)コミュニティによる圧力
地域コミュニティによる圧力もまた、メキシコの企業の環境行動に大きな影響を与えて いる。世界銀行の調査では、公的機関によって検証することは、民間の製造業を環境遵守に
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向かうように進めるための効果的手段であり、サンプルで抽出した企業のうち改善結果の ある 25%では、公共による検証が環境遵守の重要な推進役となっていた(Dasgupta et al.
2000)。この効果は、特に株式を公開している企業に著しい。環境パフォーマンス(成果)
に関するニュースが株式の結果に容易に影響を与えるため、株式を公開している企業は、一 層のアカウンタビリティ(説明責任)があることを意味している(Dasgupta et al. 2000)。 つまり、企業の環境意識は、社会の圧力によって修正される傾向にある32。
このように、NAFTA にメキシコが参加するにあたって、付属協定である NAAEC によって環 境に配慮するという雰囲気が一般市民に流れ、一般市民による企業評価を考慮する株式公 開企業を中心にして、企業は環境保全に向かう傾向があることが判る。企業に環境法規の遵 守を促す場合、政府によって法制度で企業に圧力を加えるだけでなく、コミュニティの監視 による圧力も企業の CSR を向上させることになり、結果的に環境規則の運用を遂行させる 要素となるといえる(図 28)。
図 28 コミュニティによる監視と企業の環境法規の運用
(出所)筆者作成