4. 越境投資と環境対策
4.1 先行研究
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5,000 の間であるとされていた。最初の Grossman and Krueger(1993)による研究は、環境 悪化の指標として硫黄酸化物、煤煙および粒子状物質を対象としていたが、その後の研究で は、硫黄酸化物と煤煙のターニングポイントが 1 人あたりの GDP で USD 4,000 から USD 5,000 の間であり、粒子状物質はさらに低いターニングポイントであると示されている。ま た、世界銀行のWorld Development Report(1992)は硫黄酸化物と粒子状物質の全体的な 集中度合いから換算したターニングポイントは、1 人あたりの GDPで USD 3,000 から USD 4,000 の範囲としている。経済成長は結果的(または自然的)に環境の改善をもたらすとい う理論であるので、自由貿易支持者は、EKC を好意的にとらえている。
図 22 環境クズネッツ曲線
(出所)Gallagher (2004)に筆者加筆
EKC に対しては以下のような批判がなされている(Stern ,1998)。
① 少数の汚染物質に限定されている
EKC は、経済協力開発機構(OECD)の国々における硫黄酸化物や粒子状物質など限定され た汚染物質を対象としたものである。これら地域の状況に左右される(Grossman & Krueger, 1993)。
② 先進国の実績に基づいている
逆U字が見られる多くの研究は、OECD の国々のみを対象として収集されたデータに基づ いている。しかし、途上国を対象とした少数の研究では、逆U字の関係がそれほど明らかで
58 はない(Stern, 1998; Stern & Common, 2001)。
③ 現在のターニングポイントは、当初よりも高くなっている
当初の研究では、ターニングポイントが1 人あたりの GDPで、USD 3,000 から USD 5,000 となっていたが、最近の研究は、このターニングポイントをもっと高い数値に見込んでいる。
多くは、1 人あたりの GDP を、硫黄酸化物については USD 14,730 から USD 22,675、粒子状 物質については USD 9,800、二酸化炭素については USD 35,000 と見込んでいる(Kaufman, 1998; Seldon & Song, 1994; List & Gallet, 1999)。また、別の研究では、環境悪化の第 二の波が収入の高いレベルで発生すると指摘している。Grossman and Krueger (1993)によ ると、それは、1 人あたりの GDPがUSD 10,000 から USD 15,000 のレベルで発生する。しか も、環境悪化がターニングポイントに至るまで数十年の年月を要している(Gallagher, 2004)。
④ 所得以外の要因が、環境の変化に重要な影響を与える
政治的に自由な民主国家において、人口密度、経済構造、そして 1970年代の石油価格シ ョックのような歴史上の事件は、環境悪化のレベルに所得より強い影響を及ぼす。所得上昇 に伴って環境悪化が減少するとしても、自動的に減少するものではない(Torras & Boyce, 1996; Unruch, 1997)。
⑤ EKC は、各国の時系列データにもとづいているが、関連する少数の研究のみから導かれ たものである
多くの EKC は、平均的曲線を得るために、横断的データまたはパネルデータを活用してい る。Vincent(1997)は、このようなアプローチでは、先進国における環境悪化と所得との間 の明瞭な関係と、途上国における弱い関係を得られるかもしれないが、先進国と途上国とを 同様に単純な関係で表せるものではないと主張した。彼は、マレーシアの歴史的経験につい て調査した6 つの大気汚染と水質汚染に関して、逆 U字の証拠を見出すことができなかっ た。
4.1.2 Pollution Haven Hypothesis (PHH)
Pollution Haven Hypothesis (PHH)は、環境保護のレベルが異なる 2 国間で貿易が自由 になると、公害を引き起こす産業が境環境規制の緩い国に移転するという仮説である
(Gallagher, 2004)。
企業が投資先を選定する場合に公害対策費用が重要な要因であるとするならば、企業は
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より環境規制の甘い国に投資することになる。(Neumayer, 2001)。つまり、途上国が環境規 制を緩いままに留めて、外国企業を誘致しようとする誘因が発生する。環境政策の異なる 国々が近隣に存在する場合、各国は囚人のジレンマに直面することになる。競争のプレッシ ャーによって、通常よりも低い環境政策を追い求めることになるのである(Zarsky, 1997)。
明確に PH を確認できた事例はないが、途上国では輸出と生産のシェアが高くなると汚染 の集中度が高くなることを示唆する研究も存在する。加えて、汚染集中度の高い産業が、相 対的に厳しい環境基準で、順守に高額な費用が必要とされる先進国から逃げ出そうとして いる傾向があることを示した先行研究も存在する(Jaffe, 1995; Jayadevappa, 2000;
Panayotou, 2000; Neumayer, 2001)。
NAFTA の場合は、締結の前に、メキシコがPH になるとして批判された。マキラドーラ工 場は環境災害とみなされており、例えば、カリフォルニアを基地とする家具製造会社は、大 気汚染対策の装置を備え付けることを避けるために、メキシコに工場を移しているともい われていた。メキシコ政府もまた、米国企業を誘引するために環境対策の手を緩めていると 批判された(Mayer, 1998)。
メキシコの PHが広域に広がっているのかどうかについては事例研究も行われ(Gallagher, 2004)、否定的見解もあるが、メキシコがアメリカの PH になっているという指摘もなされて いる。