6.8 実践事例 KYT に関する考察 .1 KYT シート作成方法の意義
6.8.2 KYT における正解の発見の捉え方
5.5節の表5-7では,C病院で実施したKYTの危険ストーリーの平均発見数 を示した.表5-7より,1回目,2回目ともに正解となる危険ストーリーの平 均発見数が2個以下であり,全正解数5個に対して比率が小さいことがわかる.
このように正解の発見数が少なかった原因としては,似たような事故要因を持 つ危険ストーリーを正解としたことと,事故要因,行動,現象のすべてが正解 と合致していなければ正解の発見と捉えなかったことの2点が考えられる.す なわち,作成した正解の厳密な違いを対象者に求めるのは厳しかったといえる.
正解の厳密さに関しては,例えば,事故要因には気づいたものの,現象とし て違うものを指摘している場合は不正解にしている.しかし,ある要因から起 こりうる現象が複数考えられることはよくあることである.対策は事故要因に 対してうつことが必要であり,事故に至る可能性のある要因に気づいたのだか ら,正解とすべきという考え方もありうる.
正解をどのように捉えればよいかについては,絶対的な基準を明確にするこ とは困難であるが,例えば,KYTの教育を継続的に実施した人に対して,正解 の評価法を様々適用して,どの評価法で察知力の変化を見ていくのが妥当かを 検討するといった研究が考えられる.このように,正解の作成方法のさらなる 検討や正解の発見の捉え方の明確化といったことは,今後の課題のひとつであ る.
6.8.3 教育を実施する際に検討すべきこと
本研究では,体系的な医療安全教育を実施するため,教育項目一覧表とそれ を用いた教育カリキュラムの立案方法を提案した.これらを活用することで,
医療安全マネジメントの役割に応じて対象者を層別し,各対象者が役割を果た すために必要な教育カリキュラムを確立することが可能となる.
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しかし,4.2節の表4-4で示した教育カリキュラムを立案しただけでは,実 際に病院で教育を行うことはできない.その他に,教育を実施するための体制 構築と教育実施に向けた準備を行う必要がある.
まず,体制を構築するためには,教育実施部署・事務局の体制,受講者の管 理方法などを検討する必要がある.
教育実施に向けた準備事項としては,教育内容・手法の本質の理解,教材・
テキスト・資料の作成,講師の育成,日時・場所の決定,教育の実施回数の決 定,教育方法の検討,評価方法の確立といったことを行う必要がある.
5章では,KYTという教育項目を取り上げて,教育カリキュラムを立案して から,実施,評価までの一連の流れを適用した.より効果的な教育を実施する ためには,上記の事項を検討・実施するための方法論を確立する必要があるが,
それは今後の課題である.
85 第 7 章
結論と今後の課題
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本研究では,医療安全マネジメントを実践できる人材を育てるための教育を 医療安全教育と定義し,病院で運用すべき医療安全マネジメントシステムを明 らかにした.また,それを運用するために必要な項目を検討することで,教育 項目を導出し,教育項目一覧表を提案した.そして,教育項目一覧表を活用し た医療安全教育カリキュラムの立案方法も提案した.さらに,教育項目のひと つである危険予知トレーニング(KYT)を取り上げて,教育カリキュラムを立案 してから,実施,評価といった一連の流れを適用した結果を示し,実際に病院 で教育を行う際に検討すべき事項を考察した.
提案した教育項目一覧表を活用することで,現状の医療安全マネジメントシ ステムの問題点を解決できる有効な教育の実施が可能であることを確認できた.
また,立案方法を適用することで,医療安全マネジメントの役割によって対象 者を層別し,各対象者が役割を達成するために必要な教育項目を一覧表から選 定することが可能となった.以上より,医療安全マネジメントシステムの運用 に効果的な教育カリキュラムを確立できるようになったといえる.
ただし,病院で教育を容易に行えるようにするためには,まだ検討すべき課 題がある.本研究では,KYTの実施事例を通して,病院で教育を行う際に検討 すべき事項を明らかにした.
今後の課題としては,第一に,受講者や教育自体の評価の仕組みを確立し,
実施した教育の有効性を長期的に評価することが挙げられる.4.1節のD病院 の事例では,短期的な評価結果を示したが,教育効果は徐々に現れるので,長 期的な評価も行うべきである.また,A病院で立案した教育カリキュラムの有 効性を確認するためにも,長期的な評価を実施する必要がある.
第二に,教育項目の見直し方法を検討することが挙げられる.導出した教育 項目は,あくまでも現状において最良と思われる医療安全マネジメントシステ ムを運用するための教育項目である.医療安全マネジメントの発展に伴い,実
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施すべき医療安全活動も増え,教育項目を追加する必要性もでてくる.そのよ うな場合は,本研究で導出した教育項目を基盤として,継続的に教育項目を見 直す必要がある.教育項目を見直す方法としては,複数の病院における医療安 全活動の実施状況を継続して調査し,その活動を実施するための教育項目が一 覧表に含まれているか確認することが考えられる.また,4.1節のように,あ る病院にて医療安全マネジメントシステムの問題点を把握する際に,本研究で 示した医療安全マネジメントシステム以外に関する問題点が生じていないか確 認する方法も考えられる.さらに,複数の病院にて事故分析を実施し,それを 防止するための教育項目が含まれているかどうかを確認することも,見直す方 法のひとつである.
第三に,6.8.3項で述べた教育実施のための方法論の確立が挙げられる.教育
を実施するための体制構築のためには,教育の実施体制の構築方法,受講者の 管理方法を確立すべきである.さらに,教育の実施のためには,教材・テキス トの作成が急務である.現状では,各病院で教材・テキストを作成しているが,
病院によって教育内容に大きな差はない.標準的な教材・テキストを作成する ことで,効果的な教育を実施でき,病院の負担を軽減することができる.これ らの方法論を確立することで,体系的な医療安全教育を実施できることが期待 できる.
88 謝辞
本論文は,筆者が早稲田大学理工学部および創造理工学研究科に在学中に行 った研究をまとめたものです.
早稲田大学理工学術院 棟近雅彦教授には,長期間にわたるご指導をいただき,
本論文の推敲のための様々なご指導・ご助言を頂いた上に,学生の卒論・修論 の指導法の教示や,研究会や学外での活動でお引き立ていただきました.ここ に深く感謝し,心から御礼申し上げます.
本論文をまとめるにあたり,早稲田大学創造理工学研究科経営デザイン専攻 の後藤正幸教授,髙田祥三教授,吉本一穗教授には丁寧なご指導をいただきま した.ここに深く感謝の意を表します.
城東中央病院,(株)麻生 飯塚病院,武蔵野赤十字病院,前橋赤十字病院,
国立病院機構仙台医療センター,および,川口市立医療センターからは多大な ご支援とご協力をいただきました.ここに謝意を表します.
早稲田大学創造理工学部経営システム工学科棟近研究室の先輩・同輩・後輩 には様々なご協力をいただきました.特に,青山学院大学 金子雅明氏,東京 理科大学 佐野雅隆氏,早稲田大学 金海哲氏には研究のご指導をいただき,
投稿論文についての具体的なアドバイスをたくさん頂戴しました.また,棟近 研究室秘書の加藤信子氏・佐藤美恵氏にも研究を進める上で必要な様々なご支 援をいただきました.
ここには書ききれなかったお世話になった皆様にも,深く感謝の意を表すと ともに,厚く御礼申し上げます.
最後に,長期にわたる学生生活において,経済的支援だけでなく精神的にも 大きな支えとなってくれた両親に深く感謝します.
2013年2月 梶原千里
89 参考文献
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るISO9001の活用』,日本規格協会.
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-質向上につながるISO導入ガイド』,日本規格協会.
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[4] Institute of Medicine(2001): 『CROSSING THE QUALITY CHASM: A New Health System for the 21st Century』, National Academy of Science.
[5] 飯田修平編(2010):『新版 医療安全管理テキスト』,日本規格協会.
[6] 飯田修平,飯塚悦功,棟近雅彦(2005):『医療の質用語事典』,日本規格 協会.
[7] 岩崎日出男(2008):『質を第一とする人材育成』,日本規格協会.
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[10] 山内桂子,山内隆久(2000):『医療事故』,朝日新聞社.
[11] 厚生労働省(2011-7-28):“医療安全管理者の業務指針および養成のため の研修プログラム作成指針-医療安全管理者の質の向上のために-”,
[12] 総務省法令データ提供システム(2013-1-5):“医療法”,
(http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S23/S23HO205.html)
[13] 松村明(監修),小学館国語辞典編集部(編集)(2012):『大辞泉』,小学館