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教育項目一覧表の有効性の確認

ドキュメント内 梶原 千里 (ページ 46-50)

本研究では,病院が運用すべき医療安全マネジメントシステムを明確にし,

それを運用するために必要な教育項目を導出した.安全な医療を提供するため には,この医療安全マネジメントシステムを確立・運用する必要があるが,多 くの病院では医療安全マネジメントシステムに関して何らかの問題が生じてい る場合が多い.そこで,一覧表に整理された教育を実施することにより,その 問題点を解決することができるかどうかということを確認する.これは,教育 項目一覧表に整理されている教育項目が,医療安全マネジメントシステムの運 用につながる項目であるかどうかを検証することになる.

図3-4の医療安全マネジメントシステムの全体像と表3-4の教育項目一覧表 を活用することで,病院が医療安全マネジメントシステムの問題点を解決する 教育を実施できることを確認するため,D病院(233床,急性期病院,ISO9001 認証取得)に教育カリキュラムの立案と実施を依頼した.D病院は,体系的な医 療安全教育の計画立案ができておらず,毎年,教育内容を見直しているのが現 状であった.

教育カリキュラムを立案するにあたり,図3-4をもとに,D病院の医療安全 マネジメントシステムの問題点を調査した.D病院のTQM推進室管理者が感 じている医療安全マネジメントシステムの問題点をインタビュー調査した.そ の結果,図3-4に示したいくつかの医療安全活動が実施されていないことがわ かった.実施されていない医療安全活動と,具体的な問題点を以下に示す.な お, は,図3-4中の四角囲みの活動を示す.

 再発防止策の立案と実施の問題点 (1) 事故報告書の提出件数が少ない.

(2) 事故報告書に記載されている内容が乏しく,対策立案に結びついていな い.

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(3) 事故分析を行っておらず,事故報告書を活用できていない.

 安全を組み込んだ手順の確立,組織的な手順の遵守の問題点

(4) 業務の標準化に向けて,Process Flow Chart(PFC)[36]を作成しているが,

PFCの意義が理解されておらず,完成度が低い.

(5) PFCが現場まで周知・徹底されておらず,活用されていない.

TQM推進室管理者とともに,これらの問題点を解決する教育項目を一覧表 より選定した.D病院では,図3-4の再発防止策の立案と実施,安全を組み込 んだ手順の確立,組織的な手順の遵守の活動で問題が起こっているので,これ らの活動を達成するために必要な教育項目を重点的に選定することにした.例 えば,従来では,事故報告書の入力方法しか教育していなかったが,前述の(1) や(2)の問題点を解決するため,大項目の「事故再発防止方法」に整理されてい る小項目の中から,「事故報告書の目的や書き方」を選定した.このようにして 立案した教育カリキュラムを表4-1に示す.

表4-1 D病院における教育カリキュラム

Step 一覧表との対応づけ(大項目,中項目) 対象者

1 ・危険予知トレーニング(KYT) 大項目 (d)-1

中項目「安全管理・事故防止ツール」

2

・事故報告書の目的

・事故報告書のフォーマットと 書き方

大項目 (b)-12 中項目「事故報告書」

3 ・事故分析手法(POAM) 大項目 (b)-12

中項目「事故分析方法」

4 ・対策立案方法(エラープルーフ化) 大項目 (b)-12 中項目「対策立案」

1 ・Process Flow Chart (PFC)の意義

・PFCの作成方法

大項目 (b)-1 中項目「PFC」

2

・標準化,標準化の意義

・PDCAサイクル

・文書化の意義

・文書管理の意義

大項目 (a)-2 中項目「マネジメント」

大項目 (b)-2

中項目「文書化と文書管理」

教育項目(小項目)

Step1

管理者と 新人職員は 必須.

その他は,

任意.

Step2 Step1の教育を

受講した職員.

D病院では,教育にかけられる時間や資源を考慮して,医療安全教育をStep1

とStep2に分けて計画した.Step1では,再発防止策の立案と実施の活動を,

Step2では,安全を組み込んだ手順の確立,組織的な手順の遵守の活動を取り

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上げ,それぞれの活動の問題点を解決するための教育を実施することにした.

Step1は2009年度に開始し,4年間継続しておこなっており,参加者は各回

とも150名以上であった.Step2は2010年度から開始され,参加者は各回と も60~70名であった.Step1,2ともに,今後も継続予定である.

実施した教育により,教育カリキュラム立案時に調査した問題点の一部が解 決されたかを確認するため,事故報告書の記載内容を調査した.事故の種類に より報告書記載の難易度は異なるため,複数の事故報告書を評価すべきである.

そこで,教育前後3ヶ月間で複数回報告書を提出した7名の受講者を対象とし,

7名が教育の実施前後に提出した事故報告書と,教育直後の演習で記載した事 故報告書を評価した.事故報告書の目的より,表4-2のような評価項目を導出 し,各評価項目を達成できているかどうかを評価し,各評価項目につき1点の 6点満点で点数をつけた.

表4-2 事故報告書の評価項目

教育内容 項目 評価項目

プロセスに沿った記載ができているか

指示受け段階の記載がきちんとできているか

準備段階の記載がきちんとできているか

実施段階の記載がきちんとできているか

プロセスの事故要因についてきちんと記載されているか

改善につながる具体的な対策案が記載されているか 事故報告書

教育前後に提出された事故報告書と教育直後の演習結果の各対象者の平均点 の変化を図4-1に示す.また,教育前後の比較を行いやすくするために,教育 前後の平均点の変化のみを示した図を図4-2に示す.図4-1,図4-2の「教育 前」は5~7月の3ヶ月の報告書の平均点,「教育後」は8~10月の報告書の平 均点である.また,図4-1の「演習結果」は7月下旬の教育直後の演習の点数 である.

43 0.0

1.0 2.0 3.0 4.0 5.0

教育前

3ヶ月間

演習結果 教育後

3ヶ月間

事 故 報 告 書 の 点 数

a b c d e f g

受講者

図4-1 受講者の事故報告書の平均点の変化

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0

教育前

3ヶ月間

教育後

3ヶ月間

a b c d e f g 受講者

図4-2 教育前後の受講者の事故報告書の平均点の変化

図4-1,図4-2より,教育前よりも,教育直後の演習や教育後の事故報告書 のほうがよく記載できていることがわかる.しかし,図4-1より,教育3ヶ月 後の点数は,教育直後の演習結果の点数よりも下がることがある.これは,時 間が経つにつれて教育した内容を忘れてしまうことが理由のひとつとして挙げ

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られる.また,教育直後は演習という特別な時間を設けて記載した報告書であ るが,実際の事故報告書は業務中に記載するものであり,時間をかけられない ことも理由のひとつである.このように,演習の点数よりも教育後の点数が下 がる受講者もいたが,7名全員が教育前よりも教育後のほうがよく記載できる ようになったことがわかる.

一方,未受講者2名が教育前後に書いた事故報告書を評価したところ,記載 内容に変化はなく,記載内容は不十分のままであった.

実際に,受講者にインタビュー調査を行ったところ,教育により事故報告書 の意義・必要性,書くべき内容が理解できたとの意見が得られた.以上より,

(2)の問題を解決するために,本教育が有効であることが確認できた.

次に,(4),(5)の問題点が解決されるかを確認するため,TQM推進室管理者 にPFCの活用状況をインタビュー調査した.その結果,「プロセス指向やPFC の意義の理解が進み,他職種との連携手段や教育・訓練のツールとしてPFC を活用するようになった」との意見が得られた.これより,PFCの意義が理解 され,現場でPFCを活用するようになったことがわかる.以上より,本教育 が(4),(5)の問題を解決するために有効であることが示唆された.

以上より,教育項目一覧表を活用したことで,D病院の医療安全マネジメン トシステムの問題点の一部を解決する教育カリキュラムを立案し,実施できた といえる.したがって,提案した教育項目一覧表は,医療安全マネジメントシ ステムの運用に活用できるといえる.

ドキュメント内 梶原 千里 (ページ 46-50)