• 検索結果がありません。

JFL 非母語話者日本語教師研究2

ドキュメント内 日本語教師のビリーフ研究 (ページ 111-200)

マレーシア中等教育日本語教師コミュニティのビリーフ

本章では,マレーシア日本語教師という一つのコミュニティとしてのビリーフを明らか にすることを目的に研究2を設定した。その上で,研究1の結果とあわせて考察し,実践 のおかれた文脈による違いを明らかにする。

研究2:マレーシア中等教育日本語教育の「国定日本語シラバス」(日本の指導要領に当た

る)の転換とビリーフの関係を取り上げ,先にあげた課題のうち,以下の二つを解 明することを目的とする。

課題1. 実践の文脈は教師のビリーフにどのように関わっているのか。

課題3. 実践の文脈の異なり,教師個人の社会文化的背景の異なりによって,表れ方が

異なるのか。

そのために第 4 章で述べた韓国での調査と同様の方法で 2014 年に行った調査の量的デ ータをもとに記述統計と因子分析によって課題を明らかにすることを試みる。まず ,課題 1 を解明するため,マレーシアの分析結果を考察する。その上で ,研究 1 の結果と合わせ て考察することにより,課題3の解明を試みる。

5-1 研究の方法と調査概要

研究2の課題である「国定日本語シラバス」との比較,社会文化的影響の在り方を比較 検討するためには,特定のビリーフについて知る必要がある。そこで,研究2 では,質問 紙を使用し,量的データを収集した。その結果得られた量的データを用い,記述統計によ る分析から教師の持つビリーフと「国定日本語シラバス」を比較し,考察を行うこととす る。そして,その後,因子分析を行い,研究1で明らかになった結果と比較し,研究課題 3 である,実践の社会文化的文脈の異なりによってコミュニティのビリーフがいかに影響 を受けているかを検討することとする。

調査内容は,研究 1 の調査と比較するため,同じ質問項目(7分野<教師の役割・学習者 の自律性・語学学習の本質・教師自身の学習スタイル・教授スタイル・教授に対する自信・教 授環境に対する認識>44 項目)で行った。なお,質問紙はネイティブチェックを受けた英 語・日本語併記版(添付資料5)を使用した。研究1 と同様の調査用紙を使用した理由は次の 二点である。ます一点は,現在マレーシアでの「国定日本語シラバス」の 方向性は,コミ

ュニケーション重視,学習者中心へ と転換されており,これは,1990年 代後半から 2000 年代前半の韓国の シラバスの転換の動きと同様である ためである。二点目は,言語環境,

教員養成システム等が異なる韓国と マレーシアの横断的比較を行い,社 会文化的背景の違いによるビリーフ 形成の異なりを見るためである。

質問紙調査の対象はマレーシアの 中等教育機関で現在日本語を教授し ている現役教師とした。調査は2014 年 8 月から 2015 年 9 月にかけて実 施し,質問紙の配布は,筆者の知人 の協力を得て,電子メールと中等教 育日本語教師対象の研修会参加者等 へ の 直 接 配 布 の 二 通 り の 方 法 で 行

い,回収した。回収数1は 57,うち有効数は 54となった。調査協力者 54名の詳細は表 18 のとおりである。

5-2 調査結果と考察

研究課題に基づき,次のように考察を進めることとする。

まず,本節では,マレーシア中等教育日本語教師の言語教育に関するビリーフはどのよ うなものか,分野ごとに各項目の結果について「国定日本語シラバス」と比較しながら検 討考察する。

次に3節では社会文化的背景による影響を見るため,調査協力者の属性により平均値の 比較(t検定及び分散分析)を行い検討する。比較のための項目は,①性別,②年齢(30代と

1 回収率について,Eメールを通じての拡散を行ったため正確な数字は不明であるが,

2012年時点での中等教育機関の全非母語話者日本語教師数は 123名(国際交流基金2013) となっている。

表18 マレーシア 調査協力者(54名)の詳細

2014 年 54 性別

無回答 0 0

男性 13 24.1 女性 41 75.9 年齢

無回答 0 0 50 歳以上 59 歳未満 0 0 40 歳以上 49 歳未満 17 31.5 30 歳以上 39 歳未満 37 68.5 29 歳未満 0 0.0 日本語

教育年数

無回答 0 0

11 年以上 12 22.2 6 年以上 10 年以下 13 24.1 5 年以下 29 53.7 他教科

教育のべ年数

無回答 1 1.9 6 年以上 35 64.8 5 年以下 18 33.3 他教科

教科

無回答 3 5.6 語学系 36 66.7 語学系以外 15 27.8 教師養成

プログラム

無回答 0 0

日本留学 36 66.7 マレーシア国内 18 33.3

母語 無回答 1 1.9

マレー語 30 55.6 それ以外 23 42.6 日常使用可能

言語数

無回答 1 1.9 1 言語 12 22.2 2 言語 26 48.1 3 言語以上 15 27.8 校種 全寮制中学校のみ 27 50 一般中学校のみ 16 29.6 両方 11 20.4

40代以上の 2 区分2),言語環境として③母語(マレー語とその他の 2区分),④日常使用可 能言語(1言語・2 言語・3 言語以上の3区分),⑤日本語教育年数(5年以下と 6年以上3),⑥ 修了した教員養成課程(マレーシア人事院(Jabatan Perkhidmatan Awam)による中等教育日本 語教員養成プログラム 以下JPA)と,マレーシア教育省による中等教育日本語教員養成プ ログラム(Institut Pendidikan Guru 教育省の教員養成プログラムを実際に行っている教員養 成大学) 以下 IPG),⑦他教科教育のべ年数(5年以下と 6 年以上4),⑧他教科教育科目(語 学系とその他の 2 区分),⑨勤務校種(全寮制中学校 以下 RS・全日制一般中学以下 DS・

両方の3 区分)の九つとした。

その上で,研究1の韓国の結果との比較を行い,まとめの考察を行う。

なお,データの統計分析処理には,SPSS ver.22を使用した。

5-2-1 教師の役割

この分野では,すべての項目で賛成傾向が見られる(表 19)。教師は必要であり,14「学 習法」,25「エラー修正」,6「目標の設定」は教師の役割として捉えられている。80年代の 教育改革の時期に盛り込まれた「自己学習能力」の育成や児童に合わせた教授方法の柔軟

2 1980年代は初等中等教育の転換期であった(手嶋1998)。それを基準に教師が受けた教

育に違いのある30代と40代で区分した。

3 教師の熟達化研究によると成長過程の区分はいくつかある。初心期の段階は多くの場合 3~4年,中堅期は5~6年目からとなっている(吉崎1998: 169,秋田2007: 221,楠見2012:

35-37)。これらをもとに,本稿では,初心期を5年目まで,中堅期を 6年目からとし,経

験年数を2区分とした。

4 日本語教育経験年数と同様,初心期を5年目まで,中堅期を 6年目からを基準として区 分した。また,中には複数科目の教授経験を有している教師もいるため,のべ年数とし た。

表19 教師の役割に関する項目の結果(マレーシア)

項目 1 2 3 4 5

標準 偏差 強く賛成 強く反対

3.外国語の学習には教師が必要だ。 61.1 27.8 5.6 5.6 0 1.6 0.84

33.学習者によって授業スタイルを変える必要がある。 59.3 35.2 3.7 1.9 0 1.5 0.67

14.教師は学習者に効果的な学習法を教えるべきだ。 29.6 40.7 14.8 9.3 5.6 2.2 1.14

25.エラー修正は教師が行うのがいい。 31.5 29.6 11.1 22.2 5.6 2.4 1.30

6.学習目標は,教師が設定して学習者に提示すべきだ。 27.8 31.5 20.4 11.1 7.4 2.4 1.23

17.教師は常に学習者の質問にたいして正しく答えられな

ければならない。 24.1 35.2 14.8 20.4 5.6 2.5 1.22 20.授業の計画は教師が学生と話し合いながら決めていく

のがいい。 14.8 31.5 35.2 14.8 3.7 2.6 1.04

13.授業は教師が主導するべきだ。 20.4 33.3 16.7 20.4 9.3 2.7 1.28

表の1から5の各項目内の数字は%を表す 項目は平均の低い順,つまり賛成寄りの割合が高い順

性(手嶋1998)に関連する,33や14の項目は今回の調査で高い賛成の傾向が示されている。

しかしながら,13「教師主導」の項目はこの分野ではいちばん賛成傾向が弱くなっている ものの,賛成よりの回答が多く,全体的傾向として教師の役割が大きく 捉えられていると 見ることができる。

5-2-2 学習者の自律性

この分野でもいずれの項目も賛成傾向は強い結果となっている(表 20)。新「国定日本語 シラバス」は課題解決型のシラバス構成となっている。30の「問題発見解決型の学習」の 強い賛成傾向は新「国定日本語シラバス」による影響とも考えられる。

また,34「学習者による目標設定,計画」の項目では,先の教師の役割であるとする賛 成傾向とは矛盾し,学習者が自ら目標を設定することに賛成を示す回答が多い。80年代の 教育改革の「自己学習能力」や,新「国定日本語シラバス」に明記されている学習者の自 律的学習の影響の可能性がある。

5-2-3 語学学習の本質

語学学習の本質の分野で目を引くのが,1番目の「日本語の学習は日本で行うのがいい」

が非常に強い賛成傾向を示していることである(表21)。約90%が強く賛成している。これ はマレーシアの言語環境が影響しているのではないかと考えられる。マレーシアは多言語 社会で日常の生活の中で使用される言語数が多く,言語を使用する中で目標言語を習得し ていくという環境があり,その影響と言えるのではないだろうか。また,語学学習するう えで重要とされるものでは,「語彙」が平均 1.9 となっており,9「発音」,7「文法」と比 べ,賛成傾向が強い。藤田(1986)は,中国語やタミール語の構文にマレー語の語彙を,語尾 変化などをいっさい切り捨てて組み入れた「商用マレー語」と呼ばれるピジン語の存在 を 挙げている。これはマーケットにおける共通語となっているとあり,多言語社会がコミュ

表20 学習者の自律性に関する項目の結果(マレーシア)

項目 1 2 3 4 5

標準 偏差 強く賛成 強く反対

24.学習者は自分の学習進度を知るべきだ。 48.1 42.6 3.7 1.9 3.7 1.7 0.92

30.学習者が自分で問題を発見し解決していくような学習方

法が効果的だ。 46.3 31.5 13 5.6 0 1.8 0.9 34.学習者が自分で学習目標,計画を立てるような学習方法

が効果的だ。 18.5 44.4 27.8 5.6 3.7 2.3 0.97 表の1から5の各項目内の数字は%を表す

項目は平均の低い順,つまり賛成寄りの割合が高い順

ニケーションのために生み出した言語といえる。今回の調査結果で,語彙の重要性の賛成 傾向が高くなっていることや,7「曖昧さの許容」が5番目に賛成傾向が高くなっているこ とも,多言語環境の影響と考えられる。

新「国定日本語シラバス」で強調されている文化に関する項目は,2 番目に強い賛成傾 向を示している。

また,「正確さ」に関する項目26と28,29は,いずれも賛成傾向が強い。新「国定日本 語シラバス」は以前の構造シラバスから,課題解決型のトピックシラバスに変更され,コ ミュニケーション中心の学習が謳われている。しかし,この「正確さ」に関する項目への 高い賛成傾向は,正確さを追求してきた旧「国定日本語シラバス」の影響が残っているも のとも考えられる。

5-2-4 教師自身の学習スタイル

教師自身の学習スタイルの結果では,41「話し合う協同学習のスタイル」がいちばん高 い賛成の傾向を示している(表22)。これは80年代の教育改革の転換で「一斉授業による知 識・技術の伝達のみという教授法から脱却したグループ学習への転換」(手嶋1998: 51)があ

表21 語学学習の本質に関する項目の結果(マレーシア)

項目 1 2 3 4 5

平均 標準 強く賛成 強く反対 偏差

1.日本語の学習は日本で行うのが一番いい。 90.7 9.3 0 0 0 1.1 0.29

38.外国語が上手になるためにはその文化を知ることが

必要だ。 42.6 48.1 1.9 5.6 0 1.7 0.77 26.初期段階でエラー修正しないと,あとで訂正するの

は難しい。 46.3 35.2 11.1 7.4 0 1.8 0.92 8.外国語を学習する際に一番重要なのは,語彙の学習

だ。 48.1 31.5 5.6 9.3 5.6 1.9 1.2

27.聞くことの学習ではっきりわからない部分があって

も,意味が理解できればよい。 44.4 29.6 14.8 5.6 3.7 1.9 1.09 28.話すことが上手になるためには,文型を正確に覚え

ることが重要だ。 31.5 33.3 11.1 18.5 5.6 2.3 1.26 9.外国語を学習する際に一番重要なのは,発音の学習

だ。 33.3 29.6 13 20.4 1.9 2.3 1.2

44.外国語を学習すれば,だれでも外国語がうまくなれ

る。 20.4 31.5 27.8 14.8 3.7 2.5 1.1

7.外国語を学習する際に一番重要なのは,文法の学習

だ。 18.5 33.3 27.8 14.8 3.7 2.5 1.09

29.日本語を話すときには一音ずつ正確に発音するべき

だ。 22.2 29.6 16.7 22.2 7.4 2.6 1.27

37.日本語を勉強するとき,聞いて理解することより話

すことが易しい。 24.1 33.3 9.3 20.4 11.1 2.6 1.36 36.日本語を勉強するとき,日本語を聞くことや話すこ

とより,読むことや書くことのほうが易しい。 24.1 20.4 18.5 27.8 7.4 2.7 1.32 表の1から5の各項目内の数字は%を表す

項目は平均の低い順,つまり賛成寄りの割合が高い順

ドキュメント内 日本語教師のビリーフ研究 (ページ 111-200)

関連したドキュメント