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JFL 非母語話者日本語教師研究1

ドキュメント内 日本語教師のビリーフ研究 (ページ 86-111)

韓国中等教育日本語教師コミュニティのビリーフ

第4章では,韓国の中等教育を取り上げ,韓国日本語教師という一つのコミュニティと してのビリーフを明らかにすることを目的に研究 1を設定した。

研究1:韓国中等教育日本語教育の「国定日本語シラバス」(日本の指導要領に当たる)であ

る「教育課程」の転換とビリーフの関係を取り上げ,先にあげた課題のうち,以 下の二つを解明することを目的とする。

課題2. 教師の実践の文脈の変化によってビリーフはどのように変化するのか。

課題3. 教師個人の社会文化的背景の異なりによって,表れ方が異なるのか。

先行研究である 星(2002)では,課題1の「実践の文脈は教師の実践とビリーフにどのよ うにかかわっているのか」について2001年に調査,研究を行っている。Li(1998)が指摘す るように,教育のあり方,教師のあり方の変化は,長い時間を要するものである。また,

Borg(2006)はビリーフの形成や変化に関する研究について継続的長期的研究の必要性を強 調している。韓国では,3章で述べた通り,1996年の「国定日本語シラバス」(日本の指導 要領に当たる)である「教育課程」の転換で,日本語の教授に関する理念が「教師主導」か ら「学習者中心」へ,「ALM(オーディオリンガル法)」から「CA(コミュニカティブ・アプ ローチ)」へと大きく変化した。そして, 1996年の転換をさらに推し進めた2002年の「第 7次教育課程」(以下,「第7次」,他教育課程も,「教育課程」を省き,「第6次」等のよう に示す)以降,外国語についての教育理念は大きな転換がなく現在に至っている。そこで,

研究1では,星(2002)の調査時から 12年あまりが経過した現在,韓国中等教育で実践する

教師たちのビリーフを再度問い,12年という時間は教師のビリーフにどのような意味があ るのかを探究し,韓国日本語教師という一つのコミュニティとしてのビリーフを記述し , 明らかにすることを試みる。

本研究では,星(2002)の2001年調査結果と比較し,時間の経過による影響を明らかにす るため,2013年に追跡調査を行った。調査結果のうち2回分の調査の量的データを記述統 計と因子分析によって分析し, 考察する。

4-1 研究の方法と調査概要

研究 1 では,目的である時間の経過による変化を見るため ,星(2002)の追跡調査として 星(2002)の調査と同じ質問用紙を使用し,調査を行った。2001 年調査の質問紙調査は,韓 国中等教育日本語教師を,①韓国人学習者としての特徴,②非母語話者教師としての特徴,

③「教育課程」に見る言語教育観という三つの視点で捉え,予備調査と坪山他(1995),王 [Wang]他(1998),藤長他(1999),이덕봉[Yi Dok-bong](1998)の先行研究を基に質問内容を決 定している。内容は,7 分野(<教師の役割・学習者の自律性・語学学習の本質・教師自身の 学習スタイル・教授スタイル・教授に対する自信・教授環境に対する認識>)の 44 項目とな っている。質問用紙は,Horwitz(1987)等を参考に 5 件法(1: 強く賛成する・2: 賛成する・

3: どちらともいえない・4: 反対する・5: 強く反対する)を採用して作成されたもので,調 査では,ネイティブチェックを受けた韓国語版(添付資料2)を使用した。

調査の対象は韓国の中等教育機関で現在日本語を教授している現役教師とした。その中 には,副専攻として日本語科の免許を取得し,現在日本語を教授している教師も含 めた。

調査は2013 年 8 月から2013 年 11 月にかけて実施し,韓国日本語教育研究会に協力を 仰ぎ,全国の日本語教育研究会会員,中等教育日本語教師対象の研修会,研究会参加者に 協力を求めた。質問紙は電子メールによる配布と直接配布の二通りの方法で行い回収した

(2001年は郵送と直接配布)。回収数1は111,うち有効回答数は101となった。

この101 名と, 考察の際に比較検討する星(2002)の 2001年の有効回答者 265 人の詳細 は表6のとおりである。

また,回収されたもののうち自由記述部分は文字データに置き換え,インタビューデー タとともに研究3において分析することとし,研究1の分析には含めないものとする。

4-2 調査結果と考察

本節では,以下の手順で,結果の検討を行う。

まず,韓国高校教師の言語教育に関するビリーフはどのようなものか,12年間でどのよ うな変化があったかを見るために,結果を分野ごとに各項目について教育課程などと比較 しながら統計上の有意差を参考に検討する。

1 回収率: 2001年は37%。2013年は韓国日本語教育研究会に協力を仰ぎ Eメールでの配 布を行ったため,正確な配布数が不明だが,研究会の会員数は約3000で,回収数は111 である。

表6 韓国ビリーフ調査 2001年及び2013年調査 調査協力者の詳細 2 0 0 1 年 265名 2 0 1 3 年 101 名

性別 男性 160 26

女性 103 74

無回答 2 1

年齢

無回答 7 3

15歳時 第一次教育課程 54歳以上 6

第二次教育課程 43歳以上54歳未満 65 55歳以上 7

第三次教育課程 35歳以上43歳未満 129 47歳以上55歳未満 33

第四次教育課程 29歳以上34歳未満 38 41歳以上47歳未満 22

第五次教育課程 29歳未満 20 33歳以上41歳未満 31

第六次教育課程 0 33歳未満 12

日本語

教育年数 無回答 0 1

教授開始時 第三次教育課程 19年以上 34 31年以上 2 第四次教育課程 13年以上19年未満 102 25年以上31年未満 16 第五次教育課程 5年以上13年未満 88 224 17年以上25年未満 13 31

第六次教育課程 5年未満 41 41 11年以上17年未満 18

第七次教育課程 0 2年以上11年未満 51 69

2007/2009改訂教育課程 0 2年未満 0

他教科 有 47 11

教授経験 無 217 80

無回答 1 1

学歴 大卒 183 41

修士以上 77 59

無回答 5 1

韓国での 有 197 80

研修受講経験 無 39 11

無回答 29 10

日本での 有 139 70

研修受講経験 無 83 28

無回答 43 3

日本滞在経験 有 224 94

無 20 6

無回答 21 1

留学及び 日本留学経験者 7 7

語学留学経験 語学留学経験者 13 6

勤務校種 国公立 68 61

私立 139 26

無回答 58 14

人文系 130 58

実業系 78 11

外国語系 11 10

その他 31 9

無回答 15 13

勤務校地域 ソウル及び近郊 116 54

その他 149 47

無回答 0 0

平均39.2歳 最年少23 最年長70

平均11.94年 最小3ヶ月 最長25年

平均42.8歳 最年少27 最年長58

平均14.4年 最小2年 最長33年

次に,回答者の社会文化的背景がビリーフに影響を与えているかを見るため,t検定と分 析を行い,性別,学歴2,年齢3,経験年数4,研修経験5の有無,勤務地域6,勤務校種7, 勤 務校系列8による差を検討する。

なお,データの統計分析処理には,すべてSPSS ver.22を使用した。

4-2-1 韓国高校教師の言語教育に関するビリーフとその変化 4-2-1-1 教師の役割

教師の役割について,2001年の結果では賛成の割合が高いものから「学習者によって授 業スタイルを変える」「学習法を教える」「教師の必要性」(表7)で,賛成している割合は8 割を超え,強く反対しているものは1名もいなかったが,2013年では賛成の傾向が強いこ とに変わりはないが,どの項目にも反対の割合が増え賛成傾向は弱まっている。そのうち,

「学習法を教えるべきである」という項目で有意差が見られる。

逆に一番反対の割合が多いのは 2001 年,2013年ともに「教師が授業を主導する」にな っており,3割以上の割合を占め,2013年結果では統計上有意差は見られないものの,反 対の傾向は強まっている。さらに,「授業の計画は学習者と教師が相談しながら決める」,

「誤用訂正は教師が行う」という2項目では統計上有意差が見られ,学習者の役割が大き くなる傾向が強まっていることがみてとれる。

しかし「学習目標は教師が設定し学習者に与える」という項目は2013年調査でも賛成が 7割近くを占めており,「教師は学習者の質問に常に正確に答えなければならない」にも賛 成傾向が強いことをみると,2013年調査においても,教師は,伝統的な知識の伝授者であ り, 教師主導の傾向が変わらずあることがわかる。

2 修士号の有無

3 年齢をこれまで受けてきた教育で分け,15歳時点で,どの教育課程が施行されていた かで「第2次」以前,「第3次」,「第4次」,「第5次」以降の四つの世代に区分したが,

2013年調査では教師の年齢構成が変化し,「第2 次」世代は減少したため「第3次」以 前,「第4次」,「第5次」以降世代の3区分とした

4 教授を開始した時期にどの教育課程が施行されていたかによって区分し,新しい傾向が 示された「第6次」より以降の世代と,それ以前の世代に二分

5 韓国国内と日本での研修

6 ソウル及びその近郊と,それ以外

7 国公立と私立

8 人文系,実業系,外国語系

4-2-1-2 学習者の自律性

学習者の自律性に関しては,上位2項目に関しては両年調査とも賛成の数字が出ている

(表8)。前回の調査では賛成の割合が他と比べて低かった「学習者が自ら目標を設定し,計

画を立てる」は,賛成の割合が多くなっており,全体的に学習者の自律性を求める傾向は 強まったといえる。

しかし,前項〈教師の役割〉「学習目標は教師が設定し学習者に与える」は2013年調査 でも賛成が7割近くを占めており,目標に関して,学習者に自律性を求める一方で,教師 が主導するという矛盾した結果が出ている。

表7 教師の役割に関する項目の結果(韓国)

項目 1 2 3 4 5

平均 2001 30.4 63.1 5.3 1.1 0 1.77 0.59 2013 39.6 49.5 3 5 2 1.79 0.88 2 0 0 1 25.8 62.9 9.1 2.3 0 1.88 0.65 2 0 1 3 17.8 64.4 10.9 5.9 1 2.08 0.78 2001 21.5 59.2 11.7 7.5 0 2.05 0.8 2013 30.7 36.6 20.8 8.9 3 2.17 1.06 2001 21.1 55.5 13.2 9.4 0.8 2.13 0.88 2013 23.8 38.6 23.8 11.9 1 2.27 0.99 2001 11.4 64.6 14.8 8.7 0.4 2.22 0.78 2013 17.8 49.5 20.8 10.9 1 2.28 0.92 2 0 0 1 6.4 48.3 33.2 12.1 0 2.51 0.79 2 0 1 3 4 34.7 39.6 19.8 2 2.81 0.87 2 0 0 1 3.4 34.1 39.4 22.7 0.4 2.83 0.83 2 0 1 3 6.9 40.6 36.6 10.9 2 2.59 0.86 2001 3.4 25.7 35.8 31.3 3.8 3.06 0.93 2013 3 19.8 37.6 34.7 5 3.19 0.91 授業は教師が主導するべきである。

項目は2001年調査で平均の低い順、つまり賛成寄りの割合が高い順であるが、2013年調査で順位が変化した ものについては項目の前に↓(順位が上がったもの)↑(順位が下がったもの)を記してある

表の1から5の各項目内の数字は%を表す

標準 偏差

両年の調査結果をt検定した結果、有意差のあったものは斜体 5%水準は下線なし、1%水準は下線 強く賛成    強く反対 学習者によって授業スタイルを変える必要

がある。

教 師 は 学 習 者 に 効 果 的 な 学 習 法 を 教 え る べ き で あ る 。

調査 年

外国語の学習には教師が必要である。

教師は学習者の質問に常に正確に答えられ なければならない。

学習目標は、教師が設定し、学習者に与え るべきである。

↓ 誤 用 訂 正 は 教 師 が 行 う べ き で あ る 。

↑ 授 業 の 計 画 は 教 師 が 学 生 と 相 談 し な が ら き め る べ き で あ る 。

4-2-1-3 語学学習の本質

語学学習の本質で,一番賛成傾向が強いのは,文化に関する項目で,両年とも90%以上 が賛成という非常に高い比率になっている。「第7次」で文化面を教育内容に取り入れるこ とが強調され,現行の「2009年改訂」ではその傾向がさらに強まった影響が結果にも表れ ている(表9)。

2013 年の調査で注目すべき変化は,正確さに関連する項目で,「聞き取りの内容優先,

曖昧さの許容」,「初期の段階での誤用訂正の必要性」,「発音の正確さ」に関する3項目が いずれも正確さを追求しない方向へ有意に変化している。この変化は教育課程の方向性と も,前述した久保田(2007)の結果とも合致している。一方,「文型を正確に覚えること」に 対しては,反対意見が15%程度あるものの,半数以上が賛成を示しており,その傾向に変 化は見られなかった。これは,「文型」や「覚えること」が関係している可能性がある。前 回は音声言語より文字言語がやさしいとする傾向が強く,韓国人英語学習者が好む学習ス タイルは「視覚的」であるというReid (1998)の結果と重なっていたが,2013年調査では反 対の傾向に変化している。これは「第6 次」からCAへの転換が行われ,コミュニケーシ ョン重視により,会話が重視されたり,学習順序として,聞くことを優先させることが明 示されたりしたことによる影響とも考えられる。

学習で重視するものは,両調査とも,「語彙,発音,文法」の順で,賛成の傾向が強い。

これはMedgyes (1994)が英語の非母語話者教師に対し行った調査で,英語を使うときに難

表8 学習者の自律性に関する項目の結果(韓国)

項目 1 2 3 4 5

平均 2 0 0 1 10.9 70.2 15.8 3.8 0 2.11 0.62 2 0 1 3 21.8 62.4 12.9 2 0 1.95 0.66 2001 10.9 57.4 26.4 5.3 0 2.26 0.72 2013 10.9 53.5 26.7 5.9 2 2.34 0.83 2 0 0 1 5.4 31.9 46.5 16.2 0 2.73 0.79 2 0 1 3 6.9 55.4 29.7 6.9 0 2.37 0.72 学習者は自分で問題を発見し、解決してい

くべきである。

学 習 者 は 自 分 で 学 習 目 標 、 計 画 を 立 て る べ き で あ る 。

表の1から5の各項目内の数字は%を表す

調査 年

項目は2001年調査で平均の低い順、つまり賛成寄りの割合が高い順であるが、2013年調査で順位が変化した ものについては項目の前に↓(順位が上がったもの)↑(順位が下がったもの)を記してある

標準 偏差

両年の調査結果をt検定した結果、有意差のあったものは斜体 5%水準は下線なし、1%水準は下線 強く賛成    強く反対 学 習 者 は 自 分 の 学 習 進 度 を 知 る べ き で

あ る 。

ドキュメント内 日本語教師のビリーフ研究 (ページ 86-111)

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