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第 2 部 IoT 活用、IoT を支える基盤の最新動向と展望

1. 移動:乗り物が変わる(自動運転)、物流が変わる

1.3 IoT デバイスとして注目される移動体 ~自動運転車・ドローン~

1.2節までは、自動車のへのIoT活用としてすでに実用化が進められ、その活用やさら なる高度化が検討されているテーマについて述べた。本節からは、実用化までは進んで いないものの、一つのIoTデバイスとして注目され、各国・各地で研究開発がすすめら れ、その活用及び運用に注目が集まっている「自動運転車」と「ドローン」に着目し、

その研究開発動向と移動・交通に与える価値について述べる。

(1) 自動運転車

① 自動運転車とは

自動運転車(Autonomous Car)は、電波を用いて周辺を認知するレーダーや光によっ て周辺を認知するLIDAR、位置情報を算出するGPS、カメラ等のセンサや、前述の先読 み情報や周辺環境の状況を認識するV2X等によって実現する、ドライバーの操作なしで 走行する自動車を指す。ただし、自動運転の定義は、国やメーカーによって異なり、「自 動運転」と題していても内訳をみるとその内容が様々であるのが現状である。

自動運転について代表的な定義の一つとして、米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)

が公表した自動運転のレベル(Level of Vehicle Automation)が挙げられる(表 1-1)。こ れは、自動化のレベルから自動運転について検討されたもので、自動化されていないレ ベル0からすべての運転機能が自動で制御されるレベル4までの5段階で整理されてい る。

日本においても、2013年6月に、科学技術イノベーション総合戦略及び日本再興戦略 において、科学技術イノベーションを実現するため戦略的イノベーション創造プログラ ム(SIP)を創設することが決定され、自動運転の定義や実現に向けたロードマップ等の 検討が進められている。SIP では、社会的に不可欠で、日本の経済・産業競争力によっ て重要な課題に対して、府省・分野横断的な取り組みとして基礎研究から実用化・事業 化までを一気通貫で研究開発を推進する取り組みであり、10 の研究課題が選定された。

そのうちの研究課題の1つとして、「自動走行システム」が取り上げられ、内閣府・国土 交通省・総務省・警察庁・経済産業省の5府省庁連携体制によって進められている。当 該SIPにおいても、自動運転に関する定義について検討が進められており、以下のよう なレベルが検討されている。(表 1-2)

表 1-1 米国運輸省道路交通安全局による自動走行システムのレベルの定義

レベル0(非自動化)-No-Automation

運転手が、自動車の主操縦系統(ブレーキ、ステアリング、スロットル、原動力)を常に自 らコントロールし、交通のモニタリング及び自動車の全操縦系統の安全な操作について全責任 を追う。

レベル1(限定機能自動化)-Function-specific Automation

特定の操縦機能が自動化されている自動車。複数の機能が自動化されている場合には、それ ら機能が互いに単独で作動する。運転手が全体を制御し、安全な操作について全責任を負うも のの、運転手は主操縦系統の限られたコントロール権限を自動操縦に任すことを選択できる(ク ルーズ・コントロール、自動ブレーキ、レーンキープ等)。

レベル2(複合機能自動化)- Combined Function Automation

主操縦系統の最低 2 つが自動化されており、これらの機能が同時に作動し、これら機能のコ ントロールから運転手を開放する。運転手は特定の限定された状況下で、主要な操縦を自動車 に任せることが可能である。自動運転モードが起動すると、運転手は物理的に運転から開放さ れる(ハンドルから手を、アクセル/ブレーキペダルから足を同時に離すことが可能)。ただし、

安全操作の責任は依然として運転手にあり、運転手にはショートノーティスで自動車を安全に コントロールする用意が常に必要とされる。

レベル3(限定自律走行自動化)- Limited Self-Driving Automation

運転手は特定の交通条件下で、すべてのコントロールを完全に自動車に任せることが可能と なる。自動車は自動運転モードで安全運転するよう設計されており、交通条件の変化のモニタ リングも自動車に大きく依存する。ここで想定しているのは、自動運転モードを維持できない 状況を判断して、運転手による手動モードへと安全に切り替えられるだけの適切な猶予を持っ て運転手に信号を送ることができる自律走行車である。

レベル4(完全自律走行自動化)- Full Self-Driving Automation

すべての運転機能を実行し、走行中の交通状況をモニタリングするよう設計されている自動 車である。運転手は目的地や運行指示をインプットするものの、走行中のいかなるときにも運 転することはない。レベル 4 の自動車には有人と無人があり、安全運転の責任は自動走行シス テムにかかる。

(出所)中山幸二他、「自動車オートパイロット開発最前線 ~要素技術開発から社会インフラ整備まで~」

表 1-2 内閣府・SIPにおける自動走行システムのレベルの定義

自動化

レベル 概要 左記を実現するシステム

レベル1 加速・操舵・制動のいずれかを

自動車が行う状態 安全運転支援システム

レベル2 加速・操舵・制動のうち複数の操作を

同時に自動車が行う状態 高度安全運転支援 システム

自動走行 システム レベル3 加速・操舵・制動を全て自動車が行い、

緊急時のみドライバーが対応する状態

レベル4

加速・操舵・制動を全てドライバー以外が 行い、

ドライバーが全く関与しない状態

完全自動走行 システム

(出所)内閣府・SIP「自動走行システム」研究開発計画

自動運転について留意するポイントとしては、必ずしもすべての操作を常に自動車の 制御に任せないという点があげられる。例えば、駐車時や高速道路走行時等の特定のシ ーンではレベル 4の自動運転であり、センシングが困難なところではレベル 1、それ以 外のシーンではレベル2及び3とする等、運転状況に応じて自動化レベルを可変とする ことが想定されており、ドライバーの介在を前提とする“人間中心の自動化”が目標と されている。

一方で、コンセプトベースでは、IT企業であるGoogleが2014年5月にハンドルのな い自動運転車Google Carを発表したのは記憶に新しく、Appleも自動運転車の研究開発 に着手すると発表したところである。また、ダイムラーは、車内をリビングルームとし て利用できるような自動運転の新たな可能性を追求し、自動運転時には4座席設置され たシートを回転して同乗者と面と向かって会話ができ、手動走行時には運転席が前向き に戻るという新たなコンセプトが発表した。このように、ドライバーの介在を必ずしも 前提としない“機械中心の自動化”での検討も進められている場合もある。

(2) 自動運転の研究開発動向

自動運転の研究開発は、現在各国自動車メーカーや政府の取組みによって進められて いる。以下より各国事例について紹介する。

① Audi

2014年を目処に自動運転の一部機能をA7~A9の車種に搭載すると発表しており、実 現に向けて2014年7月25日には、フロリダ州タンパにおいて自動運転車の公開実験を 行っている。また、2015 International CESにおいては、NVDIAと共同開発した自動運転

車を発表し、シリコンバレーからラスベガスまでの約900kmの公道で自動運転を行った

(図 1-9)。2015年3月には、高級セダンである新型「A8」に交通渋滞時の自動運転機 能と自動駐車機能を備え販売を開始することを計画していると発表している。

図 1-9 CESにおけるAudiとNVIDIA社による自動運転に関する展示

(出所)2015 International CESにてみずほ情報総研撮影

② ダイムラー

同社からはIntelligent Driveと呼ばれる安全支援システムが取り付けられた自動車が既 に販売されている。同社の自動運転車は、高価なセンサを用いず、また通信を前提とせ ずに走行できるとしており、事故を防止する「安全性」と、ドライバーを支援する「快 適性」を実現する技術として自動運転を捉えている。

Intelligent Drive機能では、77GHz帯(中・長距離)レーダーと25GHz帯(短距離)レ

ーダーの2種類のセンサを中心に車外環境を計測し、前方車との車間距離制御や衝突防 止ブレーキアシスト・警告、ブラインドスポットモニタリング、レーンキーピングアシ スト、渋滞時の低速オートクルーズ、パーキングアシスト等の機能を備えている。

これらの機能を実現するために、同社では様々なレーダーセンサー、ステレオマルチ パーパスカメラ、超音波センサを設置している。

2015 International CESでは、前述のとおり、車内をリビングルームとして利用できる

ような自動運転の新たな可能性を追求したコンセプトを発表したところである(図 1-10)。

図 1-10 ダイムラーの自動運転のコンセプト

(出所)2015 International CESにて、みずほ情報総研撮影

(3) 自動運転技術の活用

前述まで述べてきた自動運転は、1.2の安全技術の高度化としての高度安全運転システ ムとして各社が開発されているものであり、2020年ごろの実用化が検討されているとこ ろである。自動車の運転においてドライバーへの依存度が低くなればなるほど、移動・

交通における自動車の価値が変わるものと推察される。

例えば、バス等の公共交通機関における自動走行システムにおいては、前述のSIPの 取組みの 1 つとして考えられている次世代都市交通システム(ART:Advanced Rapid Transit)が挙げられる(図 1-11)。

図 1-11 2020年の東京五輪での実用化を目指す次世代都市交通システム(ART)

(出所)内閣府 2020年オリンピック・パラリンピック東京大会に向けた取組

ARTは、2020年東京五輪での実用化を目指して開発が進められているところであり、

路面バスに対して自動運転の技術を取り入れるものであり、バス停への正着制御機能や 周辺の交通状況を踏まえたスムースな加減速機能による車内転倒事故防止や、公共車両 を優先する信号制御システムと連携し定時運行性確保を図るものである。

2020年頃までに、都心から勝どきを経由し、臨海副都心に至る地域において導入され ることが想定されている。また、ARTを地方に活用することにより、地方再生の足掛か りとしても期待されている。

ARTは、自動運転制御技術だけではなく、歩行者や他の自動車を検知するV2Xを活用

した高度運転支援システム、交通流・渋滞の把握を行う C-ACC(Cooperative Adaptive Cruise Control)等の技術を活用して実用化が進められている(図 1-12)。