第 5 章 離散信号と離散 Fourier 変換 139
6.2 Haar 関数系
であり、
⟨ψj,k|ψj,k′⟩L2=δkk′
であることを確かめなさい。
■
これより、V1∋f1(x)がV0に直交するとき、f1は f1(x) =∑
ℓ∈Z
c2ℓψ(x−ℓ)∈W0=V0⊥
と表される。V1内の関数がV0に直交するのは、c2kを添字を付け替え改めてckとし て、その関数が∑
kckψ(x−k)と表されるときに限るのである。これより、
W0= cl {∑
k∈Λ
ckψ0,k(x)|ak∈R,Λは有限の整数集合 }
= span{ψ0,k(x)}k∈Λ
は、V1におけるV0の直交補空間V0⊥=W0、つまりV1=V0⊕W0が示された。W0
をスケール0の詳細空間という。この結果は次のように一般化される。
定理6.25 スケールjの近似空間Vjおよび詳細空間Wjを、それぞれコンパクトサ ポートをもつHaar wavelet関数系{ϕj,k(x)}kおよび{ψj,k(x)}kが張る空間とする。
Vj= cl {∑
k∈Λ
ckϕj,k(x)| ak∈R,Λは有限の整数集合 }
= span{ϕj,k(x)}k∈Λ, (6.6) Wj= cl
{∑
k∈Λ
dkψj,k(x)| bk∈R,Λは有限の整数集合 }
= span{ψj,k(x)}k∈Λ
(6.7) このとき、WjはVj+1におけるVjの直交補空間で、次式が成立する。
Vj⊥Wj, Vj+1=Vj⊕Wj.
証明 1)Wjの各関数はVjの全ての関数に直交し、逆に、2)Vjに直交するVj+1
の関数はWjに属することを示そう。
1)Wjの関数をg(x) =∑
kdkψj,k(x)、また、f∈Vjとする。このとき、
⟨g|f⟩L2=
∫ ∞
−∞
g(t)∗f(t)dt=
∫ ∞
−∞
(∑
k
2j/2dkψ(2jt−k) )∗
f(t)dt= 0 を示せばよい。
さて、f(x)∈Vjより、定理6.16から、f(2−jx)∈V0である。したがって、
0 =
∫∞
−∞
(∑
k
dkψ(t−k) )∗
f(2−jt)dt (ψ(x)はV0に直交するから)
= 2j
∫∞
−∞
∑
k
d∗kψ(2jy−k)∗f(y)dy (変数の置き換えy= 2−jtより)
= 2j/2
∫∞
−∞
g(y)∗f(y)dy.
これより、gはf∈Vjに直交することがわかり、1)が示された。
2)j= 0のときは既に命題6.24の後で示した。一般のjについても同様である。 ■
図6.1 スケールJのdyadic階段関数fJ(青線)とスケールJ−1のdyadic階段 関数fJ−1(赤線)。dyiadic区間IJ−1,k=IJ,2k∪IJ,2k+1で、fJ−1(x)は、fJ(x)の IJ−1,kでの左右区間上の値cJ(2k)とcJ(2k+ 1)の平均値12(cJ(2k) +cJ(2k+ 1)) を取る。
定理6.25を繰り返し適用すると、次のようなVjの直交分解を得る。
系6.26
Vj=Wj−1⊕Vj−1
=Wj−1⊕Wj−2⊕Vj−2 . . .
=Wj−1⊕Wj−2⊕ · · · ⊕WJ⊕VJ
. . .
=Wj−1⊕Wj−2⊕ · · · ⊕W0⊕V0 (6.8) 演習6.27 この空間構造を多重化解像度解析(MRA: Multi Resolution Analysis) という。この空間構造をよく理解しなさい。Fourier基底で張られる関数空間の分解 と比較して検討してみなさい。ここでは、Haar関数系をつかってMRAを構成した わけだが、MRAを他の関数系を使って構成できるだろうかは、Wavelet解析におけ る中核的課題である。
定理6.25より次の補題が得られる。
補題6.28 (分割補題) fJ(x)をスケールJ のdyadic階段関数とする。このとき、
fJ(x)は次のように分割される。
fJ(x) =wJ−1(x) +fJ−1(x),
ここで、fJ−1(x)はスケールJ−1での平均化関数(approximated function)とい う。また、wJ−1(x)をスケールJ−1の平均化に相補的な詳細関数(detail function) といい、スケールJ−1のHaar waveletの関数
wJ−1=∑
k
dJk−1ψJ−1,k(x), (6.9)
で表される。
証明 fJ(x)がスケールJのdyadic階段関数であることより、fJ(x)は区間IJ,k
で一定値cJ(k)を持つ、つまり、
fJ(x) =∑
k
cJkχIJ,k(x), cJk= 2j
∫
Ij,k
f(t)dt
と表されると仮定する。各区間IJ−1,k =IJ,2k∪IJ,2k+1について、スケールJ−1
の平均化関数値fJ−1(x)を次で定義する。
fJ−1(x) = ñ
2J−1
∫
IJ−1,k
fJ(t)dt ô
χIJ−1,k(x)
= ñ
2J−1 Ç∫
IJ,2k
+
∫
IJ,2k+1
å fJ(t)dt
ô
χIJ−1,k(x)
=1 2
(cJ2k+cJ2k+1)
χIJ−1,k(x). (6.10)
図6.1に示したように、区間IJ−1,k上で、fJ−1,k(x)はIJ−1,kの左右区間上のfJ(x) の値の平均値を取る。
wJ−1(x) =fJ(x)−fJ−1(x)とする。注意6.6から、wJ−1もスケールJのdyadic 階段関数である。このとき、
∫
IJ−1,k
wJ−1(t)dt=
∫
IJ−1,k
fJ(t)dt−
∫
IJ−1,k
fJ−1(t)dt
= Ç∫
IJ,2k
fJ(t)dt+
∫
IJ,2k+1
fJ(t)dt å
−
∫
IJ−1,k
fJ−1(t)dt
=(
2−JcJ2k+ 2−JcJ2k+1)
−2−(J−1)1 2
(cJ2k+cJ2k+1))
= 0
したがって、区間IJ−1,k上での詳細関数wJ−1(x)はHaar wavelet関数ψJ−1,k(x) の倍数であらねばならず、(6.9)の形となる。 ■ 補題の証明から、fJ(x) =wJ−1(x) +fJ−1(x)は、解像度2−Jの階段関数fJ(x)が 2倍幅の区間IJ−1,kで平均化して得られる階段関数fJ−1(x)と各区間IJ−1,kでの 平均値からのズレ(IJ−1,k=Ij,2k∪Ij,2k+1の左右区間でプラスとマイナスがある)
を表す詳細関数wJ−1(x)との和として表されることを示している。これがスケール J−1の平均化に付随する詳細関数wJ−1の意味である。
分割補題6.28を繰り返して適用すると、近似空間VJ 内の関数fJ は、スケール j(j < J)までの平均化操作によって近似化した空間Vj、および近似スケールjに至 るまでの詳細空間の列WJ−1, WJ−2, . . . , WjにfJを正射影して得られる関数の和
fJ(x) =wJ−1(x) +wJ−2(x) +· · ·+wj(x) +fj(x) . . .
=wJ−1(x) +wJ−2(x) +· · · ·+w0(x) +f0(x)
と表すことができる。ここで、wnはfj のHaar wavelet基底{ψn,k}で張られる 詳細空間Wnへの正射影、fJ はfjのHaarスケーリング基底{ϕJ,k}で張られる 近似空間VJへの正射影で得られる関数である。こうした分解をHaar分解(Haar decomposition)あるいはHaarウエーブレット変換(Haar Wavelet transformation) と言う。これについては節6.3の近似関数と詳細関数再訪、および、節6.4のWavelet 変換: 分解と再構成アルゴリズムで改めて取り上げる。
例6.29 例6.20では、χ[0,1/2)をϕj,kとψj,kを使って展開した。f(x) =χ[0,3/4)(x) の場合を考えよう。区間[0,3/4)はdyadic区間であり、実際、[0,34) =I1,0∪I1,1で ある。I0,0 = [0,1)以外ではf(x) = 0であるため、展開係数の候補となるのは区間 [0,1)内のDyadic区間上のϕj,kとψj,kとの内積に限られる。
⟨f|ϕ0,0⟩L2 = 3/4、k ̸= 0について⟨f|ϕ0,k⟩L2 = 0. また、Ij,k ⊂[0,3/4)およ びIj,k⊂[3/4,1)であるようなj, k、すなわち2≦jと0≦k≦2j−1について
⟨f|ψj,k⟩L2= 0. したがって、⟨f|ψ0,0⟩L2= 1/4と⟨f|ψ1,1⟩L2= 2−3/2だけが非零 である。結局、
χ[0,3/4)(x) = 2−3/2ψ1,1(x) +1
4ψ0,0(x) +3 4ϕ0,0(x).
演習6.30 f(x) =χ[0,11/16)(x)をHaar分解しなさい。
例6.31 f(x) =χ[0,2/3)(x)のHaar分解を考えよう。⟨f|ϕ0,0⟩L2= 2/3、j, k̸= 0に ついて⟨f|ϕ0,k⟩L2= 0. 区間[0,2/3)はdyadic区間ではないことに注意しよう。そ の結果、全てのスケールj≧0でψj,k(x)の係数があり得る。ただし、⟨f|ψj,k⟩L2が 非零となるのは、各スケールj≧0で2/3を含む唯一つのkjのdyadic区間Ij,kj だ けである。したがって
χ[0,2/3)(x) =
∑∞ j=0
cj(kj)ψj,kj(x) +2 3ϕ0,0(x)
=
∑∞ j=0
cjk
jψ(2jx−kj) +2
3ϕ(x), cjk
j= 2j/2cj(kj) と表される。
演習6.32 f(x) =χ[0,2/3)(x)のHaar分解において、cj(kj)およびc′j(kj)の値を j= 0,1,2,3,4,5について求めなさい。
近似空間{Vj}および詳細空間{WJ}の直交性は次の定理として表される。
定理6.33 (Haar系の正規直交性)
(1) WJを張るスケールJのHaar wavelet系{ψJ,k(x)}k∈ZはWJの正規直交系 である。
(2) VJおよびWJを張るスケールJの組{ϕJ,k, ψJ,k′}k,k′∈ZはR上の正規直交系 で、VJ⊥WJ.
(3) {Wj}を張る各スケールjのHaar wavelet系{ψj,k(x)}k∈ZはR上の正規直 交系で、j̸=j′について互いにWj⊥Wj′.
(4) スケールJのHaar系{ϕJ,k, ψj,k′(x)}j≧J,k,k′∈ZはR上の正規直交系である。
VJを張るHaarスケーリング基底のスケールはJ、一方、wavelet基底のス ケールjはJ以上(J≦j)であることに注意。
証明 1)まず、与えられたスケールJでの直交性を示す。k, k′ ∈ Zに対する dyadic区間IJ,k, IJ,k′について
IJ,k∩IJ,k′=
®0, k̸=k′ IJ,k k=k′ であることより
⟨ψJ,k|ψJ,k′⟩L2=
∫
R
ψJ,k(t)∗ψJ,k′(t)dt= 0 k̸=k′
∫
R|ψJ,k(t)|2dt= 1 k=k′. 2)定理6.25である。
3)スケール間の直交性を示す。k, k′∈Z, j > j′のとき、補題6.3から、次の3通り を考えればよい。
(1) Ij,k∩Ij′,k′ =ϕのとき
⟨ψj,k|ψj′,k′⟩L2= 0.
(2) Ij,k⊂Ijℓ′,k′のとき、Ijℓ′,k′上でψj′,k′= 1. よって、
⟨ψj,k|ψj′,k′⟩L2=
∫
Ij,k
ψj,k(t)∗ψj′,k′(t)dt=
∫
Ij,k
ψj,k(t)dt= 0.
(3) Ij,k⊂Ijr′,k′のとき、Ijr′,k′上でψj′,k′=−1. よって、
⟨ψj,k|ψj′,k′⟩L2=
∫
Ij,k
ψj,k(t)∗ψj′,k′(t)dt=−
∫
Ij,k
ψj,k(t)dt= 0.
(4) j≧Jについて、ϕJ,k(x)とψj,k(x)のdiadic区間をしらべることによって、
命題6.24や3)と同様にして、k, k′∈Z,j≧Jに対して
⟨ϕJ,k|ψj,k′⟩=
∫
R
ϕJ,k(t)∗ψj,k′(t)dt= 0.
■