84
TD-DFT 計算の結果、両錯体とも基底状態(S0)から一重項最低励起状態(S1)への遷移(S0→
S1)はHOMOからLUMOへの遷移が主であった。
単核銅一価錯体[Cu(dppaO2)(diphosphine)]において、発光励起状態は銅中心からジホスフィ Fig. 4-3-4-2. Kohn-Sham Orbitals (HOMO−28, HOMO−8, HOMO−6, HOMO−4, HOMO−3, HOMO−2, HOMO−1, HOMO and LUMO) of 2.
85
ン配位子のフェニル部位へのMLCT遷移由来であると帰属した。しかしながら、1のHOMO およびLUMOはいずれも同じ領域に軌道を持っている。したがって、銅原子と dppm配位 子のリン原子の軌道内で起こる電子移動である金属コア内遷移であると暫定的に帰属した。
これは、[Cu4I4(pyridine)4]のクラスター内遷移に類似している31。2の電子遷移も概ね1と同 様であると見なすことが出来るが、dppm配位子のフェニル部位の寄与が比較的大きいため、
配位子内遷移(LC)の寄与もあることが予想される。そのため、2の溶液中の発光強度が比較 的強いのにもかかわらず、発光寿命が短かったのではないかと考えられる。
Table 4-3-4-3. Results of TD-DFT calculation.
86
1の三重項状態の構造最適化構造の結果、Cu-Cu間の距離が2.525 Åで基底状態時に比べ 短くなっていた(Fig. 4-3-4-3、Table 4-3-4-1)。それに応じて、銅周りの配位構造も平面三角形 から三角錐型へと変化していた。基底状態の計算では、HOMOはCu-Cu間の結合が反結合 性軌道で、LUMOは結合性軌道であった。したがって、励起状態のCu-Cu相互作用は基底 状態と比較して強くなっていると見なすことが出来る。
Fig. 4-3-4-3. The optimized structure of 1. Hydrogen atoms are omitted for clarity. (a) singlet optimized structure; (b) triplet optimized structure; (c) singlet optimized structure omitting phenyl group; (d) triplet optimized structure omitting phenyl group.
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4-4 まとめ
今 回 、 ジ ホ ス フ ィ ン ジ オ キ シ ド 配 位 子 と dppm 配 位 子 を 用 い た 二 核 銅 一 価 錯 体 [Cu2(dppaO2)(dppm)2]PF6 (1)お よ び dppm 配 位 子 の み を 用 い た 二 核 銅 一 価 錯 体
[Cu2(dppm)3](PF6)2 (2)の合成およびその発光特性について調査した。吸収スペクトルは、両
錯体とも紫外域にのみ吸収帯を持っていた。ジクロロメタン溶液中の発光は、1は弱かった のに対し、2は比較的強い発光を示した。1および2は固体状態で青色発光を示した。特に、
1は発光量子効率73%、発光寿命111 μsと強い発光を示した。ジホスフィン配位子を用い た単核錯体の[Cu(dppaO2)(DPEphos)]や[Cu(dppaO2)(XANTPHOS)]と同様に固体状態で青色発 光を示すことから、青色発光材料への応用が期待できる。また、2はジホスフィン配位子の み用いた錯体と比べ溶液中、固体状態ともに強い発光を示した。さらに、2はアルゴン雰囲 気下では、固体状態の発光強度が約 50%増加した。これらの錯体の発光機構をより詳細に 検討するためにDFT計算を行った結果、これらの錯体はHOMOからLUMOへの遷移が主
であり、[Cu4I4(pyridine)4]のクラスターセンターに近い遷移由来であると帰属された。
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91
第 5 章
総括
92
第2章では、モノホスフィン配位子であるトリフェニルホスフィン(PPh3)を用いたホスフ ィンスルフィド錯体[Cu(dppaS2)(PPh3)2]およびホスフィンオキシド錯体[Cu(dppaO2)(PPh3)2] の単離に成功し、特に[Cu(dppaS2)(PPh3)2]については単結晶X線構造解析によって構造を決 定することが出来た。[Cu(dppaS2)(PPh3)2]のジクロロメタン溶液中の発光は、非常に弱くPPh3
由来であり、[Cu(dppaS2)(diphosphine)]錯体のジホスフィン配位子からモノホスフィン配位子 への変更もまた、[Cu(dppaS2)(BINAP)]錯体以外のホスフィンスルフィド錯体と同様に発光 をほとんど示さなかった。また、ホスフィンオキシド錯体[Cu(dppaO2)(PPh3)2]は溶液中およ び固体状態で発光を示し、特に固体状態では量子効率 16%で青色発光を示した。ホスフィ ンスルフィド錯体とホスフィンオキシド錯体をより詳細に比較検討するためにDFT計算を 行った結果、HOMO 中の軌道の割合が大きく異なることが分かった。ホスフィンスルフィ ド錯体に比べ、ホスフィンオキシド錯体の HOMO 中の銅原子上の軌道の割合が 41%から 63%へと非常に大きく増加していた。そのため、ホスフィンオキシド錯体はホスフィンスル フィド錯体に比べMLCT性が大きくなり、より発光性になったと考えられる。
第 3 章では、ジホスフィンジオキシド配位子 dppaO2 とジホスフィン配位子(BINAP、
DPEphos、XANTPHOS、BIPHEP)を用いた銅一価錯体の単離に成功した。吸収スペクトルは、
[Cu(dppaO2)(BINAP)]の み が 可 視 域 に 吸 収 帯 を 持 っ て い た 。 溶 液 中 の 発 光 は 、 [Cu(dppaO2)(BINAP)]、[Cu(dppaO2)(DPEphos)]および[Cu(dppaO2)(XANTPHOS)]のいずれの錯 体 は マ イ ク ロ 秒 オ ー ダ ー の 発 光 寿 命 を 示 し た 。[Cu(dppaO2)(DPEphos)]お よ び
[Cu(dppaO2)(XANTPHOS)]は固体状態で強い青色発光を示した。Nドナー配位子を用いてい
ない銅一価錯体で強発光性のものは珍しく、この構造的特徴は強い青色発光材料への応用 が期待できる。また、ホスフィンスルフィド配位子を用いた銅一価錯体に比べ、ホスフィ ンオキシド配位子を用いた錯体は溶液中および固体状態で発光を示す錯体が多く、特に固 体発光は強い発光を示した。これは、ホスフィンオキシド錯体はホスフィンスルフィド錯 体 に 比 べ 輻 射 速 度 定 数(kr)が 大 き い 傾 向 に あ る た め だ と 考 え ら れ る 。
93
[Cu(dppaO2)(XANTPHOS)]のアルゴン雰囲気下での固体状態の発光強度は、大気下に比べ大
きく増加した。溶液中で、多くの金属錯体のマイクロ秒オーダーの寿命を伴う発光の酸素 による消光はよく知られているが、固体状態のものは珍しい。これらの錯体の発光機構を より詳細に検討するためにDFT計算を行った結果、これらの錯体はHOMOからLUMOへ の遷移が主であり、MLCTとLC由来であると帰属された。また、第2章で議論したモノホ スフィンを用いた錯体の系と同様に、ホスフィンオキシド錯体はホスフィンスルフィド錯 体に比べ、MLCT性の割合が増大しており、krが大きくなる傾向があると考えられる。
第 4 章では、ジホスフィンジオキシド配位子と dppm 配位子を用いた二核銅一価錯体 [Cu2(dppaO2)(dppm)2]PF6およびdppm配位子のみを用いた二核銅一価錯体[Cu2(dppm)3](PF6)2
の単離に成功し、[Cu2(dppaO2)(dppm)2]PF6について単結晶構造解析により構造決定した。ジ ク ロ ロ メ タ ン 溶 液 中 の 発 光 は 、[Cu2(dppaO2)(dppm)2]PF6 は 弱 か っ た の に 対 し 、
[Cu2(dppm)3](PF6)2 は比較的強い発光を示した。両錯体とも固体状態で青色発光を示した。
特に、[Cu2(dppaO2)(dppm)2]PF6は発光量子効率73%、発光寿命111 μsと強い発光を示した。
第 2 章 お よ び 第 3 章 で 合 成 し た[Cu(dppaO2)(PPh3)2]、[Cu(dppaO2)(DPEphos)]や
[Cu(dppaO2)(XANTPHOS)]と同様に固体状態で青色発光を示すことから、ホスフィンオキシ
ド錯体は青色発光材料への応用が期待できる。また、[Cu2(dppm)3](PF6)2は従来のジホスフ ィン配位子のみ用いた錯体と比べ溶液中、固体状態ともに強い発光を示した。さらに、
[Cu2(dppm)3](PF6)2はアルゴン雰囲気下では、固体状態の発光強度が約 50%増加した。これ
らの錯体の発光機構をより詳細に検討するためにDFT計算を行った結果、これらの錯体は HOMOからLUMOへの遷移が主であり、[Cu4I4(pyridine)4]のようなクラスターセンターに近 い遷移由来であると帰属された。
以上、ジホスフィンジスルフィド配位子 dppaS2およびモノホスフィン配位子を用いた銅 一価錯体およびジホスフィンジオキシド配位子dppaO2および様々なホスフィン配位子を用 いた銅一価錯体を合成し、その発光特性について系統的に調査を行った。ホスフィンオキ
94
シドを配位子として用いた発光性銅一価錯体の研究は非常に限られており、今回の結果の ような固体状態で比較的強発光性の青色発光を示したことは興味深い。近年多くの青色発 光を示す金属錯体が報告されてきているが、より効率的かつ頑丈な材料の製造のためのさ らなる開発が依然として必要とされている。今回研究したホスフィンオキシドを配位子と して用いた銅一価錯体は、新規青色発光材料のための、興味深い知見を与えるものと考え られる。
95 発表状況
論文
T. Nishi, M. Nishikawa, T. Tsubomura, Eur. J. Inorg. Chem., 2017, 1054.
T. Nishi, M. Nishikawa, T. Tsubomura, Acta Cryst., 2017, E73, 1105.
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〇西達也、西川道弘、坪村太郎, "ホスフィンカルコゲニド配位子を有する銅一価錯体の合成
と性質", 第28回配位化合物の光化学討論会、京都、2016年8月
〇西達也、西川道弘、坪村太郎, "ジホスフィンジオキシド配位子を有する発光性混合配位銅 一価錯体の合成", 第27回配位化合物の光化学討論会、佐渡2015年8月
○西 達也・西川道弘・坪村太郎, "ジホスフィンオキシド配位子を有する発光性銅一価錯体 の合成", 第95日本化学会春季年会、船橋2015年3月
○西 達也・西川道弘・鷹尾康一朗・坪村太郎, "ホスフィンスルフィドとホスフィンを有す る銅(I)錯体の合成とスペクトル", 第25回配位化合物の光化学討論会、唐津2013年8月
国際学会
〇T. Nishi, M. Nishikawa, T. Tsubomura, "Synthesis and luminescence of copper(I) complexes bearing a diphosphine dioxide ligand", The International congress of Pacific Basin Societies 2015 (PACIFICHEM) 2015, Waikiki, 2015年12月