第1節 Vpxの機能と構造
Vpx はアクセサリータンパク質の一つで、HIV-2 や、SIVsmm、SIVmac などの一部の SIV にコードされる特有のタンパク質である。Vpx は 112 残基程度のアミノ酸からなる 約 15 kDa の蛋白質であり、3 つのα-へリックス構造を有する。また、HIV/SIVが共通し て持つVpr と 20 % 程度の相同性を有している。配列上の特徴として、HIV-2 Vpx の C 末端には 7 つのプロリンが連続した PPM (ポリプロリンモチーフ) と呼ばれる領域が存 在し、高度に保存されている32)。
Fig.27 Amino acid sequence alignment of HIV Vpr/Vpx proteins.
The sequence alignment was performed by the Clustal W program32). Predicted α-helices are highlighted.
GenBank accession numbers for NL4-3 and GH-1 are AF324493 and M30895, respectivery.
Vpxの機能としては、感染マクロファージにおいて増殖性を付与し、感染 T 細胞にお いては増殖を促進すること、またサル免疫不全ウイルス (SIVmac) 感染サル個体内で増殖 を 10 倍程度促進することが報告されている33)。Vpx はウイルス粒子内へ取り込まれる ため、次の標的細胞での感染前期過程で機能することができ、感染 T 細胞においてはウ イルスゲノムの核移行を促進し、感染マクロファージにおいては逆転写反応に必須である ことが知られている34) 。
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マクロファージでのVpxの主要な機能としては、近年明らかとなった抗ウイルス性宿主 因子SAMHD1 の分解が挙げられる35,36)。SAMHD1 はHIV感染マクロファージにおい てウイルスゲノム逆転写反応の原料となる dNTP 量を低濃度に維持し、その他未知の機 能も介して逆転写反応の進行抑制によりウイルスに拮抗すると言われている。これに対し Vpx は SAMHD1 をプロテアソーム分解することによって抗ウイルス作用に対抗する
25)26)。Vpx は 15 番目のグルタミン酸で SAMHD1 と結合し、76 番目のグルタミンで
DCAF1 と結合することによって複合体を形成し (Fig. 28) 、SAMHD1 をプロテアソー ム分解に導くと報告されている37)。
Fig. 28 E3 Ligase complex to degrade SAMHD1.
VpxとDCAF1、SAMHD1のそれぞれC末端ドメインとの複合体の立体構造が、
近年X線構造解析によりTaylorらによって解かれた(Fig. 29)。この際、VpxはH39、 H82、C87、C89の4つのアミノ酸で亜鉛に結合した構造を有していることが明らかとな った38)。当研究室で行った先行実験において、それらのアミノ酸のうち、C87A変異 体は発現量が低下していることが判明した39)。亜鉛イオンはタンパク質の安定化にも重 要とされており、この亜鉛結合がタンパク質の発現量の減少に関与していると考えられ た。
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Fig. 29 Vpx-SAMHD1(C terminal Domain)-DCAF1(C terminal Domain) complex by X-ray crystal structure.
タンパク質に存在する亜鉛フィンガーは遺伝子調節に重要な役割を果たす。それ以外に もタンパク質に存在する亜鉛は、立体構造の維持や酵素中心として働くなど重要な機能を 持つ。しかしながら、Vpxにおける亜鉛の詳細な役割に関する報告は未だなされていない。
今回、HIV-2 Vpx の亜鉛結合部位変異体を用いて様々な検討を行い、亜鉛結合部位の役割 を明らかとすることを目指した。
39 第2節 Vpx亜鉛結合部位変異体の機能と発現
HIV-2 VpxではH39、H82、C87、C89が亜鉛と結合する40)。これらアミノ酸に変異を導入 し、変異がウイルスの増殖性や発現量に影響を与えるのかを検討を行った。(H39をLに変 えた点変異体をH39Lと称する。変異体の表記はすべて同様に行う。) 以前、VpxにH39L、
H82A、C87A のそれぞれの変異体を持つ HIV-2 GL-AN 株 (Fig. 27 に示したGH-1 株の Vpx 配列を持つ) のマクロファージにおける複製効率が WT と比較して著しく低下するこ とが報告された (Fig. 30A)41) 。そこで亜鉛結合部位変異体の比較を行うため新たに pGL-AN Vpx C89A変異体および、pEFベクター (pEF /myc-HisA) にVpx C89Aを組み込んだ 単独発現ベクターを構築した。
Fig. 30B においてこれらのベクターを用いてシングルラウンドの感染性を評価した。方
法として、Vpxまたは亜鉛結合部位変異体発現ベクターをpGL-ANのレポータークローン
とVSV-G発現ベクターとともにHEK293T細胞に共形質移入し、2日後に放出されたウイ
ルスを回収した。ここで用いたpGL-ANクローンではHIV-2 ウイルス株GL-ANのvpxお よびenv遺伝子が欠損し、ルシフェラーゼ遺伝子をnefの位置に持つ。これらをp27で標 準化した後、マクロファージモデル細胞であるPMA刺激分化THP-1に感染させた。2日 後に細胞を回収し、ルシフェラーゼ活性を測定してウイルスの単回感染率を検討した。その 結果、C89AもC87Aと同様、ウイルス感染性付与能が低下していることが示された。
Fig. 30 Analysis of the infectivity of zinc-binding site mutants of Vpx.
(A) Growth kinetics in human MDMs of various vpx point mutants41). (B)Luciferase activity of lysate of PMA-differentiated THP-1 cells infected with virus produced from 293T cells which were co-transfected by calcium-phosphate method with vpx and env-deficient luciferase reporter clone based on pGL-AN (5
g), pCMV-G (5 g), and pEF1/Myc-HisA, pEF-vpx or its mutants (50 ng). Virus amounts were determined by SIV p27 antigen ELISA kit, and virus normalized by 30 ng of p27 was used in the infection.
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次に、これらVpx変異体の発現レベルを検討した。最初に入手可能なVpx抗体がこれら 変異体の認識を行うか、FLAGタグ付きVpx変異体の発現により確認を行った。結果をFig.
31Aに示すが、FALG抗体とVpx抗体で検出されたバンドのパターンはほぼ同じであった。
これよりVpx抗体で検出可能であることが確認された。
そこで感染性クローン pGL-AN野生型または変異体をHEK293T細胞に形質移入し、2 日後に細胞を回収して可溶化後にVpx抗体を用いてウェスタンブロット解析を行った。内 部標準としてウイルスタンパク質Gag p27を用いた。その結果、すべての変異体において 著しい発現量の低下が認められ、特に H39L 変異体において発現低下が顕著であった。こ れらの結果より、Vpx の亜鉛結合部位がウイルスの感染性とタンパク質発現に関与するこ とが確認された。
Fig. 31 Analysis of the expression level of zinc-binding site mutants of Vpx.
(A) Immunoblot analysis using the anti-FLAG and the anti-Vpx antibodies of proteins in 293T cells transfected by calcium-phosphate method with pEF-Fvpx or its mutants (3.3 μg). (B) Immunoblot analysis of proteins in 293T cells transfected with pGL-AN or its mutants
(500 ng).
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Vpxによるウイルス感染性寄与の主な機構は、SAMHD1の分解である。以前にSAMHD1 の発現ベクターとともに量を変化させた野生型 Vpx の発現ベクター pEF-Fvpx を 293T 細胞に共導入し、ウェスタンブロッティング解析によってそれぞれの Vpx の濃度における
SAMHD1 分解活性を検討した。それよりSAMHD1分解に関するVpx量には適量があり、
最適な量の濃度の Vpx が存在する際、SAMHD1 は効率的に分解されることが明らかとな った (Fig.32A)39)。
同様の実験で得られたVpx亜鉛結合部位変異体のSAMHD1の分解活性をFig. 32Bに示 す33)。C87A 変異体は野生株よりも広範囲のベクター量で SAMHD1 分解活性を有してい た。H39L 変異体は、Vpx 量を高発現させた場合に SAMHD1 分解活性を示した。これは H39L変異体が元々の発現量が低いため、Vpx 量が SAMHD1 分解に適した濃度になった ためだと考えられる。H82A変異体のSAMHD1分解活性は弱かった。C89A変異体を用い て実験したところ、C87Aに似た分解活性が示された。すなわちFig. 30で見られた感染性
の低下はSAMHD1分解活性とは関連しないことが示された。
Fig.32 Analysis of the function of Vpx and zinc-binding site mutants to degrade SAMHD1.
(A) (B)Immunoblot of proteins in 293T cells co-transfected with pcDNA hSAMHD1 (1.4 g) and the expression vector for the FLAG-tagged Vpx and its Zn binding site mutants (pEF-Fxvpx and its
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mutants) (0-1.9g). The total amounts of vectors used was adjusted to 3.3 g using pEF1/Myc-HisA.
次にこの変異Vpxの発現量低下が、発現ベクターを用いた単独発現においても見られる のか検討を行った。HEK293T細胞に、pEFベクターにVpx発現配列を導入した発現ベク ターを形質導入し、2日後に細胞を回収、可溶化後、ウェスタンブロット解析を行った。そ の結果、Fig. 33Aに示す通り、500ngの発現ベクターを用いた時には感染性クローンとは 異なって野生型と変異体の間で発現量の差は認められなかった。そこで感染細胞内でのVpx 発現量を減らしたところ (Fig.32A)、次第に差が開き、25ng DNAを導入した際、野生型と 変異型の発現パターンが感染性クローンと一致した。
実際にこの発現ベクターからのVpx発現量と感染性クローンからの発現量を比較したと ころ(Fig. 33B) 30)、感染性クローンの1/100量を発現ベクターとして用いても感染性クロー ンよりも強いVpxの発現を示した。
Fig.33 Analysis of the expression levels of Vpx and its zinc-binding site mutants from expression vector.
(A) Immunoblot analysis of proteins in 293T cells transfected with pEF-vpx or its mutants (25-500 ng) and pEF1/Myc-HisA (total amount 500ng). (B) Immunoblot analysis of proteins in 293T cells transfected by calcium-phosphate method with pGL-AN (3.3 g), its Vpx mutant pGL-St (3.3 g), or pGL-St (3.3 g) and pEF-Fvpx (33 ng).
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さらに N末端に FLAGタグまたはHAタグを付加したVpx発現ベクターをHEK293T 細胞に導入し、その発現を調べた。Fig.34A, Bに示す通り、FLAG配列をタグとして付加 した場合、タグを付加しない場合と同パターンの発現を示したが、HA配列を導入した場合 においては発現パターンの変動が認められた。これはVpx自体が約17kDaと低分子量のタ ンパク質であり、タグによる影響を受けるためだと考えられる。
Fig. 34 Effect of tag on expression of Vpx.
(A) Immunoblot analysis of proteins in 293T cells transfected with pEF-vpx, pEF-Hvpx (with HA tag) or pEF-Fvpx (with FLAG tag) or its mutant (25-500 ng) and pEF1/Myc-HisA (to total 500ng). (B)The same experiment as (A) using 25ng of pEF-Fvpx.
44 第3節 低発現Vpx亜鉛結合部位変異体の特徴
タンパク質の発現は転写、翻訳、分解のサイクルを経る。Vpxの発現低下がどの過程に起 因するのか検討を行った。
Fig.35 Schematic representation of protein life cycle.
まず、Vpx発現低下における転写・翻訳過程の寄与を検討するため、in vitro 転写・翻訳 システムを用い 29)、発現ベクターからの野生型と変異体の翻訳量の比較を行った。検出は ウェスタンブロッティング解析によった。結果はFig. 36A, Bに示す通り、転写翻訳過程に 差は認められず、Vpx の発現量変動には関与していないことが示された。また、Vpx の発 現量の経時的な変動を検討したところ、形質移入後12時間後の時点においてH39L以外の 変異体では野生型と同程度の発現を示した。以上の結果より、Vpx の亜鉛結合部位変異体 の発現量低下には転写・翻訳以降の過程が関与していると考えられる。
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Figure. 36 Expression of Vpx and Zn binding mutants by an in vitro transcription/translation system, and early stage after transfection.
(A) Immunoblot analysis of proteins obtained after in vitro transcription/translation using expression vectors for Vpx (pEF-vpx) and Vpx mutants (500 ng). (B) Immunoblot analysis of proteins obtained after in vitro transcription/translation using expression vector for FLAG-tagged Vpx (pEF-Fvpx) and its mutants (25 ng), followed by immunoprecipitation using anti-FLAG affinity gel. Detection of Vpx was achieved using the anti-FLAG antibody. (C) Immunoblot analysis of proteins in 293T cells transfected with pEF-vpx or its mutants (25 ng) and the empty vector pEF-1/Myc-HisA (475 ng). The cells were harvested 12 h or 24hr
post-transfection.
Vpx 亜鉛結合部位変異体の発現量変動には翻訳後が関与していることが示されたため、
次にタンパク質分解過程の検討を行った。Vpx の発現ベクターまたは変異体を HEK293T 細胞に導入したのち種々の薬剤を処理し、Vpx の発現量が回復するか検討した。Fig.36に、
プロテアソーム阻害剤であるラクタシスチンの結果を示す。293T 細胞に Vpx 発現ベクタ ーまたは変異体を形質移入した 3hr 後、5M のクラスト-ラクタシスチンを処理し、21hr 後に細胞を回収して、発現をウェスタンブロッティング解析により観察した。しかし薬剤処 理化で発現量の回復は見られなかった。一方既にプロテアソーム分解を受けることが知ら れる Vif では同条件でのクラスト-ラクタシスチン存在下で発現量の上昇がみられた。リソ ソーム分解経路やオートファジー経路も阻害するバフィロマオシン A1 でも発現量の回復 が認められなかったことより、プロテアソームおよびリソソーム分解を受けて発現量が低 下したのではないと考えられる。さらに、E-64 (システインプロテアーゼ阻害剤)、AEBSF
(セリンプロテアーゼ阻害剤)、ペプスタチンA (アスパラギン酸プロテアーゼ阻害剤)を阻害
剤として用いて発現量を検討したが、結果としてすべての阻害剤処理において発現量は上 昇しなかった (Data not shown) 。