III. 海外主要国におけるパテントボックス税制に関する取組み
2. EU
後に見るように、パテントボックス税制をめぐってはドイツや英国等をはじめとして、
国によって立場が著しく異なっている。例えば英国が2013年にパテントボックスを導入し た一方で、ドイツは過度な誘致競争を招く政策であるとして、EU 域内での廃止を唱えて いる。これらの議論は、EU の競争法の枠組み及びこれに関連する有害税制に関する規制 レジームと密接に関連しているため、まずEUの税制規制の現状について明らかにする。
(1)税制調和の背景
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EU では、単一市場の原則を維持するため、加盟国における税制は、国家補助(優遇税 制や補助金を含む)に関する共同体のルールと整合していなければならない。なぜなら各 国が金融やサービス産業等の流動性の高い経済活動を誘致し、企業の誘致や雇用の確保を するために優遇税制を乱発すれば、流動性の低い労働や消費者消費に関する税制が比較的 に高額となり、課税の公平性・中立性が損なわれ、資本の移転や経済活動に歪みが生じる
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ばかりか、租税競争の激化により各国の課税ベースが徐々に浸食され、最終的には法人税 の基本構造そのものが崩される恐れがあるからである
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。
そのため、次に詳しく見て行くように、特定の取引や特定製品の生産を優遇することに よって競争を歪めるまたは脅威を及ぼすいかなる形式の補助も、それが加盟国間の貿易に 影響を及ぼす場合には単一市場の原則に反するものであると判断される。このルールは、
補助の形式を問わず適用され、例えば税額免除であっても、それが一定の条件を満たす場 合には禁止される国家補助とみなされる可能性がある。以下にその規制の内容を見ていく。
(2)「国家補助」に対する規制
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上記の観点により、優遇税制等のインセンティブは「国家補助」と呼ばれ、規制の対象 となる。ここで言う国家補助とは、補助金や優遇税制等、形式を問わず加盟国の国庫から 支給されるものであって、特定の事業者または生産者に便益を与えることにより競争を歪 曲する(またはその恐れのある)ものである(EU機能条約第107条)。この国家補助は加
7田中友義「税制調和に取り組むEU」ITI季報No.47(2002年)
8 JETRO「国家補助禁止規定と有害な租税競争」(2011年)
9鶴田廣己「有害な租税競争と国際租税強調」会計検査研究No.23(2001年)
10公正取引委員会 競争政策研究センター「EU国家補助規制の我が国への応用について」(2012年)
http://www.jftc.go.jp/cprc/reports/index.files/cr-0313.pdf [最終アクセス2014年2月20日]
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盟国間の通商に影響を及ぼす限り、単一市場の原則に反するものであると位置付けられて おり(同条第1項)、優遇税制をはじめとする国家補助については例外的に認可される形に なっている
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。
例外的に許容される国家補助については、自然災害その他異常事態により生じた損害を 補填するための補助や旧東独地域等、EU全体から見て経済状態が極度に悪い地域の経済開 発を促進するための補助、特定の経済活動の発展や特定の経済領域の発展を補助する補助 等が定義されている。これらは域内の通商に影響を与えない限りで認められる(第107条第 2項、第3項)。さらにEUは国家補助に関する規制、通知、ガイドライン、フレームワーク 及びコミュニケを多数公表している。このうち主なものとして、企業課税のための行動綱 領及び国家補助規則の適用に関する覚書(Notice)について記載する。
・企業課税のための行動綱領(Code of Conduct Group for Business Tax)
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1997 年、EU 経済財務相理事会(ECOFIN)により「EU における有害な税競争に対する 取組みのためのパッケージ」が提案され、企業誘致のための過当な税競争を回避するため の施策が打ち出された。これは具体的な行動規範の具体化に加え、グループ企業間の利子・
ロイヤルティの支払いに対する源泉課税の共通化、域内非居住者に対する利子源泉課税制 度の導入、の3つの政策目標を柱とするものである。
上 記 パ ッ ケ ー ジ を も と に 同 理 事 会 は 「 企 業 課 税 行 動 綱 領 (Code of Conduct Group for
Business Tax)」を採択した。本綱領は公正な競争を歪める有害な税制措置について加盟国
間の「ピア・プレッシャー」すなわち共同体の相互関係を基礎とした政治的圧力により是 正を図ろうとするものである。そのため綱領においても、法的拘束力を有するものではな いが、政治的な拘束力についてはその限りではない旨が明記されている。綱領の基本的な 考え方としては、公正な競争が EU 経済の発展にプラスの影響を与えることに留意した上 で、域内の事業立地に悪影響を及ぼす優遇措置を判断するための条件を規定したものであ る。そのためこの綱領の対象は、域内の事業立地に重大な影響を与える、またはその可能 性のある税制である(法律、規制、行政上の措置を含む)。
この綱領に基づき、EU 加盟国は①有害な税制競争と認められる既存の税施策を改正し
(Rollback)、②将来にわたっても、そうした税施策は導入しない(Standstill)、に合意して
いる。本綱領は、さらに有害な税制の定義として下記の項目を列挙している。
①関係国(EU 加盟国)における一般的な税率よりも著しく(significantly)低い実 効税率である
11公正取引委員会 競争政策研究センター「EU国家補助規制の我が国への応用について」(2012年)
http://www.jftc.go.jp/cprc/reports/index.files/cr-0313.pdf [最終アクセス2014年2月20日] 12 European Commission, “Harmful Tax Competition”
http://ec.europa.eu/taxation_customs/taxation/company_tax/harmful_tax_practices/ [最終アクセス2014年2月20日]
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②上記利益が非居住者に対して提供される
③国内経済から乖離した事業活動に対する優遇税制であって、国内の課税ベースに 何らの影響も与えていない
④実態的な経済活動が存在しないにも関わらず、税制上の優遇を与える
⑤多国籍企業の利益認定の基礎が国際的に合意された規則から乖離している、特に OECDの規則を指す
⑤透明性が欠如している
・覚書(Notice)
上記行動綱領では、本綱領が対象とする一部加盟国の税制が国家補助禁止規定に該当する 事を欧州理事会が認識している旨の記載に加え、欧州委員会に対し直接税に関する国家補 助禁止規定に関するガイドラインを作成するよう欧州理事会が欧州委員会に要請する内容 が記載されている(第J項)。
これを受け1998年、EUは上記の国家補助禁止規定の適用に関するガイドラインである
覚書(Notice)を公表した。この文書は上記に挙げたEC条約第87条第1項(現在の機能
条約第 107 条第 1項
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)の各文言と対応する形で国家補助の定義をより詳細化し、具体的 な判断基準を提供した上で、正当化されるべき国家補助及び、許容されない(禁止されて いる)国家補助について下記のように規定している
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。
・第107条第1項:国家補助の禁止
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同項は、「本条約に別段の定めがある場合を除き、国家によりまたは国家の財源により付 与される補助で、特定の事業者または特定の産品の生産を優遇することによって競争を歪 めるまたは歪めるおそれがあるものは、形式の如何を問わず、加盟国間の通商に影響を及 ぼす限り、共同市場とは両立しない。」と定めている。
具体的には以下に見る4つの条件をすべて満たすことが要件として考えられている。つま り「国家財源により供与されること」、「一定の事業者に優位を与えること」、「競争を歪め
(またはその恐れがある)、域内の通商に影響を与えること」、「特定の企業あるいは特定の 物に対する選択的な便益であること」である。Noticeはこの内容を詳細化している。
<Noticeによる定義の詳細化>
第107条の文言 定義の詳細化 国家財源により供与さ
れること
租税収入の減少は、財政支出の形態をとった国家(地方自治体)
予算の減少と同義である。さらに、国家補助は租税当局の慣行
13リスボン条約に基づき、従来の「EC条約」は「EUの機能に関する条約」と改められた(リスボン条約第2条第1項)。
14 JETRO「国家補助禁止規定と有害な租税競争」http://www.jetro.go.jp/jfile/report/05000458/05000458_004_BUP_0.pdf [最終アクセス2014年2月20日] 15市川芳治「EC競争法とEC/EU法の憲法化:国家補助規定の観点から」慶応法学6号(2006年8月)
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を通じるのと同じ程度に、立法、準則あるいは行政上の性質を 有する租税規定を通して提供することができる(para.10)。
一定の事業者等に優位 を与えること
課税ベースの軽減、税額の全部、あるいは部分的軽減、課税の 繰延べ、課税の取消し、あるいはそれに相当する特別な税負担 の繰延 等の措 置を 通 じて受 益者の 予算 か ら通常 生じる 義務 を 軽減する便益を与えること(para.9)。
競争を歪める(または その恐れがある)、域内 の通商に影響を与える
こと
受益者 である 企業 が 加盟国 間取引 を必 要 とする 取引を 行っ て いれば合致する(para.11)。
特定の企業あるいは特 定の物に対する恣意的
な便益であること
恣意的な便益とは、立法・準則もしくは行政上の性質を持った 租税規 定の例 外あ る いは租 税当局 側の 恣 意的な 慣行か らも た らされる。ただし、租税措置の選択的な性質は「制度の本質あ るいは一般的な体系」によって正当化されうる(para.12)。
上記に続き、Notice は統括業務・仲介・企業内サービス等の特定の活動に対する優遇税 制が特定の企業や特定の生産をターゲットとしている場合は禁止される国家補助に該当す ると規定している(para.20)。また非居住者である企業を国内に居住する企業よりも有利 に扱ったり、特定のサービス(例えば、金融サービス)を提供する企業に対して租税上の 便 益 を 与 え た り す る 場 合 、 一 般 的 な 措 置 と し て 正 当 化 が 困 難 で あ る と 記 載 し て い る
(para.26)。
一方で、純粋に技術的性質を持つ優遇税制(例えば、税率の設定、減価償却の方法、損 失の繰越の方法、二重課税及び租税回避の防止規定)又は特定の生産コストに関する税負 担の軽減を通じて一般的な経済政策の目的を達成する優遇税制(研究開発、環境、訓練、
雇用)であって、加盟国内で経済活動を営むすべてのものに対して開かれている租税措置 は正当な国家補助であるとしている(para.13)。
・有害な税実務に対するEUのその他の文書
2004年9月、欧州委員会は「金融及び企業による不正な行動を防止し撲滅するためのコ ミュニケ(Communication on Preventing and Combating Financial and Corporate Malpractice)」 を採択した
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。これは、違法な金融行為によるリスクを軽減するために、金融サービス、
会社法、会計、税務、監視及び執行の分野で協調して行動するための戦略を提供するもの であり、有害税制に関する規定も含まれている。
税務の分野では、委員会は法人税についてより透明性のある情報交換を行うことで、税 制は複雑な事業ストラクチャーにもより適切に対応できるようになる、としている。委員 会はまた、オフショア金融センターに関する首尾一貫した EU の政策が実行されることを
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