第1次E S A計画の改善
第1次ESA計画の最後の年にあたる1991年の6月に, M A F Fはこの計画 の見直し作業を開始した。 その際, これまで分析してきたESAモニタリング
・ レポートが利用されたことはいうまでもない。 また, モニタリングとは別に ESAに関する世論調査も行われた。 それらを踏まえて, E S A計画は, 1992 年以降, 次のように改善されることになった。
第lに, 計画期間が5年から10年に延長された。 これは, 計画の長JVJ化によ って政策に安定j惑を与え, 農業者の参加率を高めることを1llったものである。
計画期間が長いほど参加者は将来の見通しをたてやすくなるからである。 しか し, その反面, 長期化にはリスクも伴う。 一定の条件のもとに長く縛りつけら れるからである。 そこで, 期間10年を基本としながらも, 5年経過したH寺点で 協定を終了させることもできるオプションが与えられている。 MAFFはその
時点でESA協定の条件を見直すとしている。
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第2に, E S A交付-金の支給率は2年ごとに見凶され, そのときどきの農業 経済の状況に応じて増減されることになった。 この点については, これまで明 確な取り決めがなかった。 ただし, それはインフレ率に応じて自動的にスライ
ドさせられるものではないとされている。
第3に, 新たに保全計画というオプションが導入された。 これはESA計画 に参加した農業者ならだれでも巾請できる計画である。 その犯いは農場の環境 保全につながる投資を促進することである。 たとえば, 生垣や池の新設, 農場 の納屋の改修などがこれに含まれ, 農業者はそれらの作業に要した費用の一部 を補助される。 保全計画の対象となる作業項目は各ESAごとにメニュー形式 で示される。 保全計画はESA協定に参加するとき, あるいは協定の途中でも 申請することができる。 保全計画の期間は最低2年間で, 補助金支給額につい ては作業種目ごとに, また協定1件ごとに上限が設けられている。 農業者は作 業種目ごとに定められている標準的経費率か, あるいは証拠書類があれば, 実
際の経費をもとに補助金を請求できる1 0)。
第4に, 計画参加者は義務として1991年に定められた「水質保護のための適 正営農準tliJJ (MAFF, 1 99 1a) , および今後定められる予定の「大気保護およ び土境保護のための適正営農準則」を遵守することを求められている(MAFF
] 992b )。
以上の4点はすべてのESAに共通する制度上の改善である。 砂くに各E S八 に固有の改善策についてみると, たとえばßroadsでは, 第lにESA指定地
域が拡大され, 計画がWaveney川上流およびWensom川流域にまで及ぶことに なった。
第2に, 農地管理規程が改善され, 第I段階では, lHf機質肥料のみならず有
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機質の自給肥料についても使用量に制限が加えられることになった。 その一方 で, これまであった家畜飼養密度の制限条項(年/ha当たり卜9家畜単位以ド) が削除され, 飼養密度の適正な水準は農業者の判断に委ねられることになった。
また, 第日段階の管理規程では, 水路の水位に|刻する規程を強化するとともに,
サイレージ作りを全而禁止とし, 有機質肥料および化学肥料(窒素を除く)の 使用の禁止, 計画参加後2年以内に水路の管理計画を提出すること, などの規 桂が新たに設けられた。
第3に, 第皿段階として, 越冬する鳥類を保護するために特別の草地管理規
程が新設された。 さらに, 第W段階として, 耕地を草地に転換したり(オプシ ョン1 ) , 耕地の周囲6メートル|隔の土地を休耕すること(オプション2)を 奨励する管理規程が新設された。 これは, 耕地の草地への転換によって景観の 質が改善されたという過去5年間の経験にもとづき新設された規程である。 こ の場合, 転換後の草地は第 I 段階の管理規程に従うことになる。
Broads E S Aにおける主な改善事項は以上の:ìillりであるが, Broads以外のE SAについてもほぼ同様の改善がなされた。 ちなみに表IJ - 15は, 1992年から の新計画で録用されたESA交付金の率と保全計画に対する補助金の限度制を 示したものである。 同表から新計画では炭I血管理刻程の先111分化が進み, 交付金 の 率も引き上げられていることがわかる。
2. E S A計画の課題と展望
最後に, E S A計画についていくつか問題点を指摘しておきたい。 第lは,
予算が限られている点である。 たしかにESA計画の発足により, 農業予算の 苦ßが環境保全の目的に支出できるようになった。 しかしながら, この計画に
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表rr -15 新ESA計画のもとでの交付金の率と 保全計画への支給限度傾(1992年度)
(単位:年/ha当たり, ポンド)
農地管理規程の各段階1) 保全計画2) ESA
E 皿 W A B
Broads 125 220 250 200 280 75 3. 000
Pennine Dales 90 125 210 25 100 3. 000
Somerset L & M 120 180 70 350 75 3. 000
South Downs 40 200 240 60 75 3.000
West Penwith 65 100 4. 000
注1 )段階Iは標準的な管理規程, 段階rr. III. IVはオプションO なお. Broadsの第IV 段階とPennine Dalesの第I段階はそれぞれ2つのオプションに分かれている。
2 )保全計画のAはha当たり. Bは協定l件当たりの支給限度額。
IHJ川: MAFF (1992d)
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対する政府の財政文出は, イギリス農業予算全体の規模からみるとがとして多く はない。 表H一16によると, 農業予算の8割以上は仙i格支持や市場介入などの 価絡政策に費やされ, 残りが農業構造 ・ 環境政策, その他の特別対策に充てら れている。 E SA計画に支出された予算は, 計画l 年目の290万ポンド(19871 88年度)から6年目の1. 390万ポンド(1992/93年度)まで年々地11 }JfIしてきてい るl l)0 にもかかわらず E SA予算が農業予算全体に占める割合はきわめて小
さく, 1992193年度でわずか0.7%にしかすぎない。 環境保護団体などが最も不
満とするのはまさにこの点である。 生産過剰のもとでなお農産物の生産奨励に 使われている資金をもっと環境保全のために回すべきである, というのが彼ら の主張である(Jenkins, 1990 )。
第2に, 同様のことがESA指定面積についてもいえる。 すなわち, この計 画に指定された而積はイギリス国土のわずか3%程度であり, 環境保全の立場 からすれば, とても卜分なものとはいえないln。 また, 集約的で収疏性のl克 い農業がすでに広く展開している本絡的な炭業地域が, 初めからESA計画の 持外に置かれているのも気になる。 しかし, これはある意味で当然のことであ る。 そのような地域では, 農業活動によって環境全体が改変されてしまって,
保全すべき景観も保護すべき野生生物も, もはや何程も残っていなし1からであ る。 そこでは, E S A計画に代わる別の農業環境政策が求められているといえ
ょう13)0
第3に, E S Aの制度自体にも問題がある。 すなわち, この政策に貨同して 計画に参加するか否かは農業者の任意とされている。 したがって初めから全く
参加しない者や, 農場の一郎 の上地での み計画に参加し, それでi:}た交付金を 残りの土地の集約的経営に注ぎ込む農業者が/1\てくることは十分ありうること
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表II-16 イギリス農業に対する財政支出
(単位: 100万ポンド) 1987/88 88/89 89/90 90/91 91/92 92/93
I価格・市場政策 1393.6 1159. 1 1015.4 1641. 1 1664.7 1726. 1 (86.2) H農業構造・環境政策 72. 4 65.6 72. 9 83. 1 77.6 76. 9 (3.8) ESA計画(内数) 2.9 6. 8 8. 6 9.4 11. 0 13.9 [0.7]
田条件不利地域(L F A)対策 145.9 137. 1 150.6 159. 1 184.2 161. 7 (9.0) W その他 18. 1 18.2 19. 1 26.4 32. 0 38.3 ( 1. 9)
合計( 1 +日十回+IV) 1630. 0 1380. 1 1258.0 1909.7 1958.5 2003.0 (100.0) IU所: MAFF (1990 ; 1994)
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である(Ba1dock el al.) 1990)。 そうした場合に地域の環境が保全できるかど うか疑問である。 だからといって, この計画を強制参加lにすることには農業者 側に強い抵抗がある。 また, 仮に強制的なfHlj度に変えたところで, 政策効果が 上がるという保証はない。 環境保全ということがらの性質上, 農業者の自発性 という要因が大きくものをいうからである。 それゆえ法的強tlJlJではなく, むし ろ経済的誘因によって農業者の自発性を尊重しつつ環境保全をはかる, という のがESAの哲学である。 しかし, その場合にも経済的誘因はどの程度である べきかという問題が残る。 それは農業者を満足させると同H寺に納税者を納得さ せるものでなければならない。
このように, E S A計画はいくつかの問題点を抱えている。 とはいえ, この 計画はイギリスのみならずECにおける農業環境政策の先駆的存花であり, 実 際, この計画は, 農業と環境を調整する政策として農業関係者のみならず一部 の環境保護団体からも好意的に迎えられたのである( Pntter. 1988 )。
イギリスのガマ- (101m Gummer)農相(当時〉は, 1991 年11月20日の議会 答弁で, r E S Aは1987年に最初に導入されて以降, 著しい成功を収めてきた」
と評価した上で, 計画を大|隔に拡大する方針を打ち/J\した。 それによると, M Arrは1992年と93年の2年間にイングランドで新たに12のES八を指定する とともに14), E S A予算もこれまでの約1, 300万ポンドから1994年には6,500 万ポンドにまで増額する予定である。 既存のESAの拡張と合わせると, E S A指定面積はこれで3倍以上に膨らむことになる(MAFF, 1991b )。
このように, イギリスのESA計画は5年間の試行期間をほぼ成功担に終え,
新たな制度として再出発することになった。 ところで, さきに:ìZßべたように,
ESA計画はE C規則にもと づく農 業 環 境政策であり, イギリス以 外のE C加
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�MI国においても実胞されている。 E C委員会の報告によればI 1990il�までにE SA計画を実施したのは, イギリス, ドイツ, オランダおよびデンマークの4 カ国でありI 1991年からはフランス, イタリア, アイルランドが導入を予定し ている( CEC, 1992a )。
ESA計画は, このようにECの北部の国々で笑施されているが, ギリシア,
スペイン, ポルトガルなどの南部では, いまのところ導入の予定はない。 これ らの国々では農林業の衰退や過疎化に伴う土壌流出, 山火事の頻発などが問題 となっているが, E S A計画はそうした問題に十分対処することができ ない。
なぜなら, E S Aの目的が自然、の生態系や景観の保全にあり, 地域指定の要件 も厳しく制限されているからである。 しかし, こうした問題はI 1992年のCA P改革によって導入された農業環境行動計画のもとで対処されることになろう。
同計画には土壌流出, 洪水, 山火事などの自然、災害をも視野に入れた環境対策 が盛り込まれているからである。 この点については次章で改めて言及すること にしfこし'0
、王
1 )イギリスでは, 農業と環境の対立を調笠するため , すでに1981 年に「野生 生物および田園地域法J (Wildlife and Countryside Act )が制定されていた。 し かし , この法律は農業と環境をめぐる社会的対立をかえって大きくするような 弱点を含んでいた。 Adams (1986) I 後藤(1986)および和泉(1989)は同法制 定をめぐる動きを興味深く分析している。
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