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3-1-1 DFC案件の概要と日本の支援

(1)DFC案件の概要

インドでは、急速な経済発展に伴い貨物輸送量が年 10~12%で増加しており、既存の貨物鉄道 の輸送能力は限界に近づいている。特に、国内随一の消費地・生産拠点であるデリー首都圏と大陸 東西の玄関港であるムンバイ、コルカタ、そして南東部のチェンナイを結ぶ「黄金の四角形」と呼 ばれる路線の貨物輸送量は全国の約65パーセントを占め、今後もコンテナ貨物の増加や農産物・

鉱工業資源の輸送量の増加が見込まれている。

貨物鉄道を整備し、大容量化・高速化することはインドの更なる経済成長のため喫緊の課題であ り、インド政府は第10次、第11次および第12次5ヶ年計画において、幹線鉄道における大量輸 送を可能とするための貨物鉄道整備計画を策定し、路線拡充および高速貨物車輌の導入、港湾施設 へのアクセス改善等を掲げている。

このような状況を踏まえ、インドの持続的な経済成長に必要なインフラストラクチャーに関す る支援として、2005 年の首相インド訪問時の日印共同声明において、総延長約 2,800kmの貨物専 用鉄道(Dedicated Freight Corridor, DFC)の一部区間を円借款により日本政府が支援する可能性に ついて言及した。その後、事業化のための開発調査や本事業で整備される貨物新線での輸送安定性 に関する実証試験の支援など、継続して本事業の実現に向けた支援を実施してきた。そして、2008 年10月のインド首相来日時、日本から貨物専用鉄道の西回廊(デリー・ムンバイ間約 1,500km)

建設への円借款供与が決定した。

同事業はインドにおける国家プロジェクトと位置付けられ、2016年12月現在で累計約3,343億 円の円借款が供与されている。今後も本邦技術活用条件(Special Terms for Economic Partnership, STEP)付きの円借款が供与される見込みであり、整備の初期段階である土木・軌道工事は、双日 と三井物産の2社がそれぞれインド企業とコンソーシアムを組んで受注している。しかし、契約・

支払いに関する課題やインド側の組織体制等さまざまな事由を背景に、その進捗については遅延 している状況であり、当初予定していた2019年の供用開始に間に合わない可能性が生じている。

出所:世界銀行HP

図 21 DFC東西回廊の路線図

(2)DFC西回廊に対する日本の支援

既述のとおり、日本はインドの経済成長に必要なインフラ支援として、DFC の一部区間である 西回廊建設事業を円借款供与により実施している。DFC西回廊はデリー-ムンバイ間の計 5州25

全長約 1,500km に跨る貨物鉄道となる。このうち特に整備の優先度が高いとされるレワリ-バド

ダラ間(約920km)をフェーズ1、ダドリ-レワリ間とバドダラ-ムンバイ間(約550km)をフェ ーズ2として支援の対象としている。借款資金は、建設工事、車輌調達、社会開発、コンサルティ ング・サービス等に充当される。

日本の対インド国別援助計画においては、重点目標として「経済成長の促進」が定められており、

中でも「交通ネットワーク整備・維持管理」の援助課題として、インド国内6 大都市圏やデリー・

ムンバイ間産業大動脈に位置する経済特区や経済回廊等の産業集積地域を中心に、幹線鉄道や道 路等インフラ整備への支援が行われている。こうした支援の一環として、インド鉄道セクターの DFC事業に対しては、次表のとおり、これまで約3,343億円の円借款の供与を約束している。本事 業への円借款供与総額は、単一事業への支援額としては過去最大級となっており、いずれも償還期 間40年間(据置期間10年間)のタイド条件による供与となっている。

表 42 DFCへの円借款金額および条件

案件名 借款金額

(百万円)

金利(%/年)

本体 コンサルティング 貨物専用鉄道建設事業:フェーズ1(第1期) 2,606 0.1 0.01 貨物専用鉄道建設事業:フェーズ1(第2期) 90,262 0.2 0.01 貨物専用鉄道建設事業:フェーズ1(第3期) 103,664 0.1 0.01 貨物専用鉄道建設事業:フェーズ2(第1期) 1,616 0.1 0.01 貨物専用鉄道建設事業:フェーズ2(第2期) 136,119 0.2 0.01

合計 334,267 -

-出所:JICA円借款案件検索データベース(2017)

デリー・ムンバイを含む西回廊の沿線には、多くのインド企業本社や日本企業を含む外資系企業 の主要拠点が点在しているが、輸送インフラがボトルネックとなっており、改善が必要とされてい る。インド随一の消費地であり工業・商業・農業の発展しているデリー首都圏と、商業の中心都市 であり国全体の海上貨物の半数以上を担う港湾都市であるムンバイを中心とした西部沿岸地区と を結ぶDFC西回廊建設により、運輸インフラが改善され同国の経済発展への寄与が見込まれてい る26

(3)DFC事業の関係機関

DFC事業の遂行を所管する機関は、2006年10月インド企業法1956条により鉄道省の管理下に 設置された貨物鉄道専用公社(Dedicated Freight Corridor Corporation of India Ltd., DFCCIL)である。

同公社は、DFCの計画立案、資金源の動員、建設、保守、運営を担っており、その職員の多くはイ ンド国鉄からの出向者となっている。

DFC 工事の遂行にあたっては、さまざまな関係機関との調整が必要とされる。主にはインド国 鉄による既存鉄道工事との調整が必要になるが、その他にも、例えば高架高速道路上に鉄道を建設 する際には道路交通省の承認を得る必要があるし、パイプライン、送電線の再配置となれば電力省 の承認が、宗教施設の移転となればマイノリティ省の承認が必要とされる。

25 ハリヤナ州、ラジャスタン州、グジャラート州、マハラシュトラ州、ウッタルプラデシュ州を指す。

26 昨年度調査「インドにおける進出拠点開発に係る調査事業」の中で、現地日系企業(物流業者、メーカー、ディベ ロッパー、建設業者等)を対象に、DFCの運行を見据えたDMIC地域におけるビジネスの関わり方についてヒアリ ングを実施した。帖佐結果において、DFCの運行はインド北西部の物流コストの改善に繋がり、運行に期待を寄せ

出所:関係者ヒアリングに基づき新日本監査法人作成

図 22 DFC事業の関係機関

3-1-2 DFCの進捗状況

ここでは、DFCの進捗状況について、特に東回廊と西回廊の比較を通じて確認する。

(1)土地収用の進捗状況

DFCCIL は、月毎にDFC事業の進捗状況を整理している。同公社によると、自身により開発が

行われるエリア計10,589Haについては、次表のとおり2017年1月時点で95.87%の土地収用が完 了している27。東回廊と西回廊の土地収用の状況については、両者の間に大きな差異は見られない。

また、PPPにより整備が行われているサンナガー(Sonnagar)-ダンクニ(Dankuni)区間について は、土地収用の完了は47.5%にとどまっている28

表 43 土地収用の進捗状況(2017年1月時点)

区間 土地収用の通知(注1) 土地収用の完了(注2)

東回廊(Sonnagar-Dankuni間を除く)

(4,589Ha)

100%

(4,589Ha)

95%

(4392Ha)

西回廊

(6,000Ha)

100%

(6,000Ha)

96.5%

(5792Ha)

東西回廊合計

(10,589Ha)

100%

(10,589Ha)

95.87%

(10152Ha)

Sonnagar-Dankuni間(1,178Ha)

(PPPによる整備区間)

99.4%

(1,172Ha)

47.5%

(561Ha)

(注1)土地収用法上における土地収用の意思表明が通知された状況

(注2)土地収用法上における土地収用の確定の宣言が行われた状況

出所:DFCCIL HPに基づき新日本監査法人作成

参考までに、東回廊と西回廊の計画路線図を次図に示す。

27 ここに記載した土地収用完了の進捗率は、土地収用法上の完了条件に達したものであり、DFCCILがコントラク ターに引き渡しを完了したものとは異なることに留意のこと。施主からコントラクターへの引き渡しの際には、

不要な施設の撤去等追加の条件が設定されており、コントラクターに実際に引き渡された進捗率とは異なる。

28 ムンバイで土地収用が進まない理由として、同地域が密集地帯であり、利害調整に時間を要していることが調査 を通じて聴取された。

出向

Indian Railway

(インド国鉄)

首相府

道路交通省 鉄道省

DFCCIL

(貨物専用鉄道公社)

マイノリティ省 電力省

(高架高速道路上に鉄 道を建設するためのコ ンセンサスと承認を得 る必要あり)

(パイプライン、送電 線の再配置が必要)

(宗教施設の移転が必要)

(既存鉄道工事等との調整が必要)

灌漑省

(河川への橋梁建設時 に許可取得が必要)

出所:DFCCIL

図 23 DFC東回廊の計画路線図

出所:DFCCIL

図 24 DFC西回廊の計画路線図

(2)契約締結の進捗状況

各種工事の契約締結状況についてみると、東回廊と西回廊との進捗に大きな違いがみられる。東 回廊では、2017年1月時点の土木工事契約の進捗は83%、電化工事契約、信号工事契約の進捗は 各々62%にとどまるが、西回廊では全ての工事契約の締結が完了していることがわかる。なお、東 回廊についても、残る222km分の土木工事契約は2017 年5月に、残る 507kmの電化工事契約、

信号工事契約は2017年6月に締結が完了する見通しとなっている。

上記のとおり、土木工事契約は概ね完了しており、2017年1月現在は、E&Mの調達に向けて準 備が進められている状況にある。

表 44 契約締結の進捗状況(2017年1月時点)

区間 土木工事契約 電化工事契約 信号工事契約

東回廊

(1,318km)

83%

(1,096km)

62%

(811km)

62%

(811km)

西回廊

(1,504km)

100%

(1,504km)

100%

(1,504km)

100%

(1,504km)

合計

(2,822km)

92%

(2,600km)

82%

(2,315km)

82%

(2,315km)

出所:DFCCIL HPに基づき新日本監査法人作成

(3)工事の進捗状況

最後に各区間における完工予定と上記にみた契約締結済工事の進捗状況について、下表に整理 した。まず東回廊についてみると、早期完工が見込まれるのは、インド鉄道省による自己資金で進 めているムガルサライ-サンナガー間であり、2017 年末の完工を予定している。次に工事が進ん でいる区間はバウプール(Bhaupur)-クルジャ(Khurja)間であり、2017年1月時点で土木工事 については62.5%、電化工事・信号工事は13.4%進捗しているとされており、2018年3月に完工を 予定している。以後、バウプール-ムガルサライ間、ダドリ(Dadri)-クルジャ間は 2018 年末、

クルジャ-ルディアナ間は2019年末の完工を目標にプロジェクトが進行中である。

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