Mn光阻害種
34
をおこなった。加えて、O2および H2O との反応性についてビス(µ-オキソ)Mn2III,IV錯体 5を生じるかどうか検討した (図3-2)。
図 3-2. ビス(µ-オキソ)Mn2III,IV 錯体、[Mn2III,IV(cyclam)2(µ-18O)2]3+ (5-18O2) を生成する MnI(cyclam)ジ カ ル ボ ニ ル 錯 体 [MnI(cyclam)(CO)2]+ (3) お よ び ト リ カ ル ボ ニ ル 錯 体 [MnI(cyclam)(CO)3]+ (4) の18O2又はH218Oとの反応性.
3-2. 実験
3-2-1. 試薬および測定機器
全ての実験をシュレンク (Schlenk) 技術またはグローブボックスを用いることにより 窒素又はアルゴン雰囲気下で行なった。アセトニトリル (CH3CN) 及びメタノール (CH3OH) は使用前に窒素雰囲気下で CaH2または Mg/I2 で脱水して蒸留後使用した。
[MnI(Br)(CO)5]および1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン (cyclam) はアルドリッチ 社から購入した。18O2 (98 atom%) は昭光通商株式会社から購入した。これらの試薬は 精製を行わずに用いた。[MnI(cyclam)(CO)3](Br) {[4](Br)} は文献に従って合成した6)。
MnI CO CO NH HN HN
NH
+
3+
MnIII
18O
18O
MnIV NH
HN HN
NH
HN NH NH HN
18O2
5-18O2 3
4CO + e– MnI 2
CO CO HN
HN HN
NH
+ CO
4
18O2
H218O
H218O 2
2CO 光照射
35
UV-vis吸収スペクトルはJASCO V-670 紫外可視近赤外分光光度計 (光路長: 1.0 cm)
を用いて25 °Cで測定した。エレクトロスプレーイオン化質量分析 (ESI-MS) はJEOL
JMS-T100LC AccuTOF を用いて行なった。IR スペクトル (KBr 法) は Thermo Nicolet NEXUS 870 FT-IR instrumentを用い、標準解像度を2 cm–1として4000–650 cm–1の領域
を25 °Cで測定した。LED光源の照射にTLBC1 (株式会社アイテックシステム) を用い
た。COのガスクロマトグラフィー (GC) 分析にはShimadzu GC-2014 (アルゴンキャリ ア) に活性炭カラムを用いて測定し、熱伝導検出器を用いて 100 °C で測定した。元素 分析にはPerkinElmer 2400II series CHNS/O analyser を用い、アルゴンをキャリアガスと した。
3-2-2. [MnI(cyclam)(CO)2](Br又はBPh4) {[3](Br又はBPh4)} の合成
[4](Br) (50 mg、0.12 mmol) CH3CN溶液にジエチルエーテルを拡散させ、24時間室内 光の下で静置した。析出した [3](Br) の橙色結晶をろ過して真空乾固した {加えた [4](Br) に基づく収率: 62%}。[3](Br) のCH3CN溶液にNaBPh4を加え、室温で一晩静置 することで、X線解析に適した [3](BPh4) の単結晶が得られた。ESI-MS (CH3CN): m/z 311.1 {[3]+; 相対強度 (I) = 100%、範囲: m/z値 200–2000}。FT-IR (cm–1、KBrディスク):
1896, 1808 (νC≡O)。元素分析においては [3](BPh4)·2CH3CN·C2H5OC2H5 (C44H60N6BMnO3) の計算値: C, 67.17; H, 7.69; N, 10.68% に対し、実測値: C, 67.14; H, 7.44; N, 10.39% であ った。3はH2Oとは反応せず、4はO2またはH2Oとは反応しなかったことを確認した。
H2/CO雰囲気下で5を反応させても4は生成しなかった。
3-2-3. [3](Br) から生じた [Mn2III,IV
(cyclam)2(µ-O)2](Br)3 {[5](Br)3} の単離
[3](Br) (20mg、5.11 µmol)のCH3CN溶液 (1.0 mL) にO2 (3.0 mL) を注入し、徐々に生 じた [5](Br)3の緑色結晶をろ過して真空乾固した {加えた[3](Br) に基づく収率: 67%}。 3に対し1等量のO2を反応させても図3-10に示すD、EまたはF等の中間体は検出さ れなかった。
36
3-2-4. 3の酸化反応における同位体標識実験
上述と同様の方法で 18O2 (3.0 mL) を用いて [3](Br) の 18O2 による酸化を行い、
[Mn2III,IV(cyclam)2(µ-18O)2](Br)3 {[5-18O2](Br)3} が生成した。
3-2-5. 4から3への反応に伴い発生するCOの定量分析
脱酸素雰囲気下で [4](Br) (1.0 mg、2.39 µmol) のCH3CN溶液 (1.0 mL) を、セプタム 付きキャップをしたバイアルに入れて室内光を照射した。気相を GC により分析し、4
から1等量のCO (2.39 µmol) が発生したことを確認した。
3-2-6. 4から5への反応に伴い発生するCOの定量分析
酸素存在下で [4](Br) (1.0 mg、2.39µmol) のCH3CN溶液 (1.0 mL) を、セプタム付き キャップをしたバイアルに入れて室内光を照射した。気相を GC により分析し、4 か
ら3等量のCO (7.17 µmol) が発生したことを確認した。
3-2-7. 3から5への反応に伴い発生するCOの定量分析
[3](Br) (1.0 mg、2.56 µmol) のCH3CN溶液 (1.0 mL) を、セプタム付きキャップをし たバイアルに入れてO2 (3.0 mL) を注入した。気相をGCにより分析し、3から2等量
のCO (4.78 µmol) が発生したことを確認した。
3-2-8. 3および4の電気化学分析
窒素雰囲気下室温で、3 (1.0 mM) 又は4 (0.1 mM)のCH3CN溶液のサイクリックボル タンメトリーを、nBu4NPF6 (100 mM) を支持電解質、炭素電極を作用極、そして掃引速 度を100 mVs–1としBAS 660A 電気化学分析機を用いて測定した。電位はFc+/Fc (フェ ロセニウム/フェロセン) 対を基準とした。
3-2-9. 3および4のX線結晶解析
37
[3](Br) の CH3CN溶液にNaBPh4を加えることで [3](BPh4) の橙色結晶を得られた。
[4](Br) の黄色結晶を CH3OH 溶液にジエチルエーテルを拡散させることにより得られ
た。Rigaku/MSC Saturn CCD diffractometerを用いて共焦点単色Mo-Ka線 (λ = 0.7107 Å) を線源として測定した。CrystalClear program を用いてデータの収集および処理を行な っ た 。 最 適 化 計 算 に SHELXL-97 を 用 い 、 そ れ 以 外 の 計 算 は 全 て CrystalStructure crystallographic ソフトウェアパッケージを用いて行なった。[3](BPh4)および[4](Br)の結 晶学的データはケンブリッジ結晶学データセンターに登録されている (登録番号: CCDC 1572764, 1572765)。
38 3.3. 結果及び考察
3-3-1. 錯体の合成及び同定
MnIトリカルボニル錯体 4は文献に従って合成した 6)。MnIジカルボニル錯体3 は、
4を光照射することによりCOの放出を伴って生成した。3と4についてそれぞれX線 解析により構造を明らかにした (表 3-1、3-2、図 3-4、3-5)。4 から 3 への反応は UV-vis 吸収スペクトル、IR スペクトル及びエレクトロスプレーイオン化質量分析 (ESI-MS) を用いて追跡した (図3-3、3-6、3-7)。4 から3 への反応における一等量のCO放 出をGC分析により確認した。4のMnI中心から一分子のCO配位子が放出することに
よりcyclam の残りの N原子が 3 の MnI中心に配位し、UV-vis 吸収スペクトルにおけ
る356 nm付近のピークの急激な変化をもたらした (図3-3)。cyclam配位子は配位環境
に依存して、三座配位子にも四座配位子にもなることができる。
図3-3. 窒素雰囲気下、(a) [4](Br) のCH3CN溶液に光照射し、(b) [3](Br) を生じる反応 のUV-vis吸収スペクトル変化.
[3](Br) の Br–を BPh4–に置換することで単結晶が得られた (表 3-1、図 3-4)。3 は
ORTEP図よりMn原子に二つのCO配位子がシス位に配位し、一つのcyclam配位子が
39
四座で配位した歪んだ八面体型の構造を有している。二つの CO配位子の C–O間結合 距離 {1.176(3) 及び1.180(3) Å} は遊離CO分子のC–O間結合距離 (1.128 Å) よりも少し 長いことから7)、低原子価 MnIの t2g軌道からCOの π*反結合性軌道へ電子密度の逆供 与があることが示唆される。Mn–C(O)間結合距離は他のMnIカルボニル錯体 {1.752(3)–
1.82(1) Å} と一致する8)。
表3-1. [3](BPh4)のX線結晶データ [3](BPh4)
Empirical Formula C38H47BMnN5O2
Formula Weight 671.57
Crystal System triclinic
Space Group P-1
a (Å) 9.8623(18)
b (Å) 12.245(3)
c (Å) 15.026(3)
α (deg) 82.406(6)
β (deg) 78.443(6)
γ (deg) 81.888(6)
Volume (Å3) 1749.9(6)
Z 2
Dcalc (g/cm3) 1.274
Number of reflection 7651
R1 (I>2σ(I)) 0.0565
wR2 (all data) 0.1325
GOF 1.018
40
図3-4. [3](BPh4) のORTEP図. 対アニオン (BPh4)、溶媒 (CH3CN) および水素原子は省 略されている. 原子間距離 (l/Å) および角度 (φ/º): Mn1–C1 = 1.756(3)、Mn1–C2 = 1.759(3)、 Mn1–N1 = 2.084(2)、Mn1–N2 = 2.128(2)、Mn1–N3 = 2.097(2)、Mn1–N4 = 2.119(2)、C1–
O1 = 1.176(3)、C2–O2 = 1.180(3)、Mn1–C1–O1 = 174.7(3)、Mn1–C2–O2 = 175.4(2)、C1–
Mn1–C2 = 85.04(13)、N2–Mn1–N4 = 91.63(9).
表3-2. [4](Br)のX線結晶データ [4](Br)
Empirical Formula C14H28BrMnN4O4
Formula Weight 451.24
Crystal System orthorombic
Space Group Pbca
a (Å) 8.749(1)
b (Å) 14.775(2)
c (Å) 29.287(4)
α (deg) 90.000
β (deg) 90.000
γ (deg) 90.000
Volume (Å3) 3785.8(8)
Z 8
Dcalc (g/cm3) 1.583
Number of reflection 4334
R1 (I>2σ(I)) 0.0334
wR2 (all data) 0.0753
GOF 1.036
C2 O2
C1 O1 Mn1
N1
N2
N4
N3
41
4はORTEP図よりMn原子に三つのCOが配位し、一つのcyclamがfac-三座配位子
として配位した歪んだ八面体構造を有している (表 3-2、図 3-5)。Cyclam の一つの N 原 子 が MnI 中 心 か ら 離 れ て い る 。 三 つ の CO 配 位 子 に お け る C–O 間 結 合 距 離 {1.148(4)–1.158(4) Å} は3の値 {1.176(3) 及び1.180(3) Å} と比較するとやや短い。この ことは 4 と比較して 3 は MnIから COへの電子密度の逆供与が強いことを示唆してい る。これは四座で配位する3 の cyclam 配位子が三座で配位する 4 の cyclam 配位子よ りも電子供与性が高いためである。4 は過去に合成がなされたものの X 線構造は今ま で報告されていなかった6)。
図3-5. [4](Br) のORTEP図. 対アニオン (Br)、溶媒 (CH3OH) および水素原子は省略さ れている. 原子間距離 (l/Å) および角度 (φ/º): Mn1–C1 = 1.800(3)、Mn1–C2 = 1.811(3)、
Mn1–C3 = 1.799(3)、Mn1–N1 = 2.124(2)、Mn1–N2 = 2.154(2)、Mn1–N3 = 2.103(2)、C1–
O1 = 1.158(4)、C2–O2 = 1.148(4)、C3–O3 = 1.152(3)、Mn1–C1–O1 = 172.6(3)、Mn1–C2–
O2 = 177.5(3)、Mn1–C3–O3 = 177.8(3)、C1–Mn1–C2 = 86.2(1)、C1–Mn1–C3 = 85.6(1)、 C2–Mn1–C3 = 88.6(1)、N1–Mn1–N2 = 87.10(9)、N1–Mn1–N3 = 81.43(9)、N2–Mn1–N3 = 85.68(9).
C2 O2 C1
O1
Mn1
N1
N2 N4
N3 C3
O3
42
3 の IR スペクトルには C≡O 伸縮振動の領域に二つの大きな吸収帯がある (図 3-6a)。 1896及び1808 cm–1に観測される鋭敏な C≡Oバンド (νC≡O) の波数は、4の値 (2018、
1920及び1898 cm–1、図3-6b) と比較して低波数側にシフトしている。3及び4のC≡O 振動波数は共に遊離したCO分子 (2143 cm–1) と比較して低く7)、このことはMnI中心 から CO 配位子への電子密度の逆供与を裏付けている。IR の結果は、3 の四座 cyclam 配位子は 4 の三座配位子よりも強い電子供与性を有することを示している。このこと は脂肪族 N 原子が CO 配位子よりも強いσ供与性を有していることから説明でき、ま た、4 よりも 3 の C–O 間結合距離が長いこともこのことを支持する。3 の陽イオン ESI質量分析から顕著なシグナルがm/z値 311.1 {相対強度 (I) = 100%、範囲: m/z値
200–2000} に見られ、計算に基づく [3]+ の同位体分布とよく一致した分布を有してい
る (図3-7)。
図3-6. (a) [3](BPh4) および (b) [4](Br) のIRスペクトル (KBr).
43
図3-7. (a) N2雰囲気下で [4](Br) のCH3CN溶液を光照射して得られた [3](Br) の陽イオ ンESIマススペクトル. (b) [3]+ に該当するm/z値 311.1のシグナル. (c) [3]+ の同位体分 布の計算値.
3-3-2. 3および4のO2及びH2Oとの反応性
MnI(cyclam)ジカルボニル錯体3およびトリカルボニル錯体4 を合成し、O2及びH2O
との反応性について検討した。MnIジカルボニル錯体 3はH2Oとは反応せずO2と反応 し、ビス(µ-オキソ)Mn2III,IV錯体 5 を生じた一方、MnIトリカルボニル錯体 4 は O2及び H2Oに対して反応性を示さなかった。二つの錯体の O2に対する反応性の相違は CO配 位子の数に強く制御されている。CO 配位子は強い π 酸性配位子であり、電子密度を 金属中心から求引するため、一般的に低原子価金属中心を安定化することができる。
この性質は、低原子価金属中心の dπ 軌道から CO の π*反結合性軌道への電子密度の
44
逆供与に由来する。この特徴から、CO 配位子が三つの場合は MnI中心の O2酸化を阻 害するが、二つの場合は酸化が進行する。サイクリックボルタンメトリーの結果もこ の考えを支持する (図3-8)。3におけるMnII/MnIの酸化電位 (Epa = –0.15 V vs. Fc/Fc+) は 4の値 (Epa = 0.36 V vs. Fc/Fc+) と比較してはるかに低く、4のMnI中心が3よりも安定 化されていることを示している。類似の MnI カルボニル錯体のサイクリックボルタモ グラムにおいても、トリカルボニル錯体よりもジカルボニル錯体の方で低電位側に酸 化波のピークが見られる9b,c)。
図3-8. N2雰囲気下における(a) [3](Br) および (b) [4](Br) のCH3CN溶液のサイクリック ボルタモグラム. Fc+ = フェロセニウムイオン. Fc = フェロセン.
3-3-3. 3とO2との反応
3 と O2との反応により 5 が生成されることを ESI–MS を用いて追跡した (図 3-9)。
O2の消費を伴って二等量の CO が発生したことを GC 分析により確認した。5 の陰イ オンESI質量分析からはm/z値 861.9 (I = 100%、範囲: m/z値 200–2000) に顕著なシグ
45
ナルが見られ、計算に基づく [5 + 4Br–]– の同位体分布とよく一致した分布を有してい
る (図3-9b, c)。5における架橋オキソ配位子の由来を決定するために、16O2の代わりに
18O2を用いて同位体標識実験を行なった。ESI–MS から m/z 値 861.9 のシグナルが
5-18O2に該当する866.0にシフトしており (図3-9d)、架橋オキソ配位子が酸素ガスに由来 することを明確に示している。
図 3-9. (a) [3](Br) に O2 を反応させることで得られた CH3CN/CH3OH 溶液における [5](Br)3 の陰イオンESIマススペクトル. †: m/z値 817.9のシグナルは [5 + 3Br + OH + H2O]–に該当する. (b) [5 + 4Br]–に該当するm/z値 861.9のシグナル. (c) [5 + 4Br]–の同位 体分布の計算値. (d) [3]Brに18O2を反応させることで得られたCH3CN/CH3OH溶液にお
46
ける[5-18O2](Br)3の陰イオン ESI マススペクトル. m/z 値 866.0 のシグナルは[5-18O2 + 4Br]–に該当する.
MnIジカルボニル錯体 3 の酸化によりビス(µ-オキソ)Mn2III,IV錯体 5 を生じる反応機 構を図 3-10に提案する。錯体 3 は O2と反応し、CO分子の放出を伴って O2-結合種で ある [Mn2II,II(cyclam)2(µ-O2)]2+ (D) を生じる。錯体Dが5に変換される経路は以下の二 通りである。 (a) 先にO–O結合の開裂により [Mn2III,III(cyclam)2(µ-O)2]2+ (E) を生じ、続 い て 一 電 子 酸 化 が 進 行 す る (図 3-10b)。(b) 始 め に D の 一 電 子 酸 化 に よ り
[Mn2II,III(cyclam)2(µ-O2)]3+ (F) を生じ、続いてO–O結合が開裂する (図3-10a)。
47
図3-10. MnIジカルボニル錯体2がビス(µ-オキソ)Mn2III,IV錯体5に酸化する反応の2通 りの反応機構. H+はCH3CN中の痕跡量のH2Oに由来する.
MnI NH HN HN
NH CO CO
+
2
3 2+
MnII O2 MnII NH
HN HN
NH
HN NH NH HN D 2+
E 3+
MnIII O O
MnIV NH
HN HN
NH
HN NH NH HN 5
O2 4CO
0.25O2 + H+ 0.5H2O
MnIII O O
MnIII NH
HN HN
NH
HN NH NH HN (a)
MnI NH HN HN
NH CO CO
+
2
3 2+
MnII O2 MnII NH
HN HN
NH
HN NH NH HN D 3+
MnII O2 MnIII NH
HN HN
NH
HN NH NH HN F 3+
MnIII O O
MnIV NH
HN HN
NH
HN NH NH HN 5
O2 4CO
0.25O2 + H+ 0.5H2O (b)
48 3-4. 結論
結論として、MnI(cyclam)ジカルボニル錯体及びトリカルボニル錯体を合成しOEC の光阻害種モデルとしてO2及びH2Oに対する反応性について検討した (図3-11)。ジ カルボニル錯体はH2Oとは反応せず O2と反応することでビス(µ-オキソ)錯体を生じる。
一方でトリカルボニル錯体は O2 及び H2O のいずれに対しても反応性を示さなかった。
ビス(µ-オキソ)錯体の前駆体が有するCO配位子はπ酸性であるため金属中心の電子密 度を制御するうえで重要な役割を果たす。二つのCO配位子を有する場合はMnI中心 の酸化は進行するが、三つのCO配位子を有する場合は錯体を安定にし、酸化反応に 対して不活性となる。また、結果として、2種のマンガン錯体は一酸化炭素放出分子 (CO releasing molecule, CORM) としても機能する6,9)。即ち、マンガントリカルボニル 錯体は光照射によりCORM (photo-CORM) として機能し1等量のCOを放出する。一 方、マンガンジカルボニル錯体は酸素による酸化によってCORMとして機能し2等量 のCOを放出する9c)。
図3-11. MnI(cyclam)カルボニル錯体の反応性.
MnI CO CO NH HN HN
NH
+
3+
MnIII O O
MnIV NH
HN HN
NH
HN NH NH HN
O2
5 3
4CO + e– MnI 2
CO CO HN
HN HN
NH
+ CO
4
O2
H2O
H2O 2
2CO 光照射
49 3-5. 参考文献
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53 第4章 結言
本論文では、ギ酸を水素と二酸化炭素に変換するギ酸水素リアーゼのモデル、およ び光合成における酸素発生中心における光阻害種のモデルを、それぞれ二核ルテニウ ム錯体とマンガンジカルボニル錯体として反応性の解明を中心に議論した。ギ酸を水 素に変換する研究は水素キャリアとしてのギ酸の利用にとって意義があり、酸素発生 中心の光阻害種の研究は人工光合成の達成において重要な知見を与えると考えている。
図4-1. 本論文のまとめ.
MnI CO CO NH HN HN
NH
+
3+
MnIII O O
MnIV NH
HN HN
NH
HN NH NH HN MnI 2
CO CO HN
HN HN
NH
+ CO
2
CO2
CO2
RuI RuI H
O H O
RuI RuI O H O
O O
H
OC CO
S S
OC CO O
O 0
0
HCOO–
H2 H+
2CO hν
O2 not H2O
第2章 第3章 第1章
クリーンなエネルギー源としての H2、H2O
HCOOH からの H2発生 PSII (H2O の酸化) における光阻害と自己修復 ヒドリド種の反応性 O2 による Mn2III,IVbis(µ-oxo) の修復
54 第2章
本章では、架橋ギ酸配位子を有する二核ルテニウム錯体をギ酸水素リアーゼのモデ ル錯体として合成し、水中におけるギ酸からの水素発生について検討した。水素の発 生量は水溶液のpHに依存し、pH 3.5で触媒回転数は13.1となった。溶媒や基質を同 位体標識し、発生する水素ガスの同位体の比をGCで定量することによって、中間体 のヒドリド錯体におけるヒドリド配位子がプロトン的な性質を有することを明らかに した。また、発生する水素はヒドリドのプロトン化ではなく中間体ジヒドリド錯体か らの還元的脱離によって生じることを示す知見が得られた。本章の議論は従来のギ酸 から水素を生じる錯体触媒において、中間体のヒドリド錯体の性質について大きな知 見をもたらすと考えられる。
第3章
本章では、酸素発生中心における光阻害種のモデル錯体としてマンガンジカルボニ ル錯体を合成し、酸素および水に対する反応性について検討した。マンガンジカルボ ニル錯体は酸素と反応することにより二核マンガンビス(µ-オキソ)錯体を生成したが、
水とは反応性を示さず、二核錯体は生成しなかった。一方、ジカルボニル錯体の前駆 体であるマンガントリカルボニル錯体は酸素にも水にも反応性を示さなかった。この 2種の錯体における反応性の違いはπ酸性なカルボニル配位子の数の違いによるマン ガン中心の電子密度の違いによるものであると考えられ、電気化学測定からも同様の 説明を与える知見が得られた。即ち、マンガントリカルボニル錯体は三つのカルボニ ル配位子のπ酸性により電子密度が低い一方で、マンガンジカルボニル錯体はcyclam 配位子の4つの窒素原子が電子供与することにより比較的電子密度が高いため、酸素 に対する反応性が向上したと考えられる。本章の知見は従来提唱されてきた価数とは 異なるMnI光阻害種の系を構築することができることを示した。また、結果としてマ ンガントリカルボニル錯体が光による一酸化炭素放出分子として機能し、マンガンジ カルボニル錯体は酸素による酸化によって一酸化炭素を放出することを示した。