CI 1. 48-1.84)と有意に高かった 4) .
3 CKD ステージ G3b ~ 5 期の特 殊性
CKDステージ
G3b
~5
の心臓疾患の死因の内訳 を示した報告は限られている.わが国の透析療法の 現況の透析開始1
年以内死亡の原因がCKD
ステー ジG3b
~5
の死亡を反映しているかもしれない.2015
年末の報告によれば全体の約30%の心臓死の
うち大半は心不全死(24.7%)であり,抗血小板薬 による予防が期待できる心筋梗塞による死亡は2.8%にすぎない(わが国の慢性透析療法の現況 2015
年末の慢性透析患者に関する基礎集計より).突然死は虚血性心疾患由来であることが主であるこ とを加味しても,わずか
4.2%と低率である.CKD
の進行とともに頚動脈の粥状動脈硬化の成熟スピー ドが落ちることを示唆する報告3)や久山町研究の 冠動脈病理学的検討で,いわゆる病理学的atheroma
の比率はCKD
ステージG4, 5
で減少していく4)こ とを考慮すると,いわゆる心筋梗塞の発症様式も異CKD ステージ G3b ~ 5 診療ガイドライン 2017(2015 追補版)
78 7.CKD 腎外合併症対策 79
なっている可能性が高い5).実際に
CKD
の末期で は,粥腫内の性状の変化から粥腫の破裂が起こりに くくなっていくことを示唆する報告6)もある.こ れらの事実から,健常人では常識的に心筋梗塞の予 防薬として使用される抗血小板薬の効果はCKD
ス テージG3b
~5
の患者には期待できない,とする 仮説を導きたくなる.参考文献
1) Antithrombotic Trialists Collaboration.:Collaborative meta-analysis of randomised trials of antiplatelet therapy for pre-vention of death, myocardial infarction, and stroke in high risk patients. BMJ. 2002;324:71-86.
2) Ogawa H,Nakayama M,Morimoto T,et al.Low-dose aspirin for primary prevention of atherosclerotic events in patients with type 2 diabetes:a randomized controlled tri-al.JAMA. 2008;300:2134-41.
3) Rigatto C,Levin A,House AA,et al.Atheroma progres-sion in chronic kidney disease.Clin J Am Soc Nephrol. 2009;4:291-8.
4) Nakano T,Ninomiya T,Sumiyoshi S,et al.Association of kidney function with coronary atherosclerosis and calcifi-cation in autopsy samples from Japanese elders:the Hi-sayama study.Am J Kidney Dis. 2010;55:21-30. 5) Bae EH,Lim SY,Cho KH,et al.GFR and
cardiovascu-lar outcomes after acute myocardial infarction: results from the Korea Acute Myocardial Infarction Registry.Am J Kid-ney Dis. 2012;59:795-802.
6) Kono K,Fujii H,Nakai K,et al.Composition and plaque patterns of coronary culprit lesions and clinical char-acteristics of patients with chronic kidney disease.Kidney Int. 2012;82:344-51.
1188
CKD ステージ G3b ~ 5 診療ガイドライン 2017(2015 追補版)
78 7.CKD 腎外合併症対策 79
7-1.心血管疾患(CVD)
1 抗血小板薬の有用性
抗血小板薬は血管内血栓症を抑制することにより 心血管イベントを予防できることから,広く用いら れている.心血管イベント発症リスクの高い集団を 対象としたメタ解析,すなわち二次予防を意識した 解析では,抗血小板薬の使用により複合心血管イベ ントの発症を約
25%減少させたことが報告されて
いる1).またわが国で行われた糖尿病患者における 低用量アスピリンの動脈硬化性イベントの一次予防 効果を検討したRCT
であるJapanese Prevention of Atherosclerosis with Diabetes(JPAD)試験
2)でも,有意差には至らなかったものの
20%の動脈硬化性
イベント発症抑制効果を認めている.リスクの高い 患者に対する抗血小板薬の有用性は確立されている といってよい.一方で,CVDのハイリスク集団で あるCKD
を対象とした報告は限られている.2 CKD における血小板機能
CKDでは血小板機能異常および凝固・異常を認 めることが知られている.糸球体腎炎では,さまざ まな免疫学的機序,単球やリンパ球などの炎症細胞 から産生されるメディエーターの関与により,血小 板・凝固機能が亢進することが知られている.特に ネフローゼ症候群ではこれが著しい.尿蛋白の増加 に伴い,血清アルブミン値の低下が進行し,これを 代償すべく肝臓での蛋白合成が亢進し,肝臓由来の 凝固因子,特に内因系凝固因子の産生が増加するた めと考えられている.また,糸球体濾過によりアン チトロンビンⅢやプラスミノゲンなどの線溶系因子 が尿中に漏出し,プラスミン産生低下をきたし,
フィブリン溶解能が低下することによって線溶系機 能の低下をきたす.一方,特にステージの進行した
CKD
や維持透析患者では,腎機能低下に伴い,体内に尿毒症物質が蓄積すると,これが血小板機能を 低下させる.血小板機能低下は内因性要因,外因性 要因が障害されるためと考えられており,以下のよ うにさまざまな機序が報告されている.血小板糖蛋 白(GPⅡb/Ⅲaなど)の異常,ADPやセロトニン など血小板濃染顆粒減少や放出障害,血小板内
Ca2
+動員の異常,TXA2産生障害などのアラキドン酸 代謝障害や血小板細胞骨格の再構成障害などであ る.また血管内皮機能異常も認めるため出血をきた しやすくなる.
このことから,CKDではその原疾患や残腎機能に より止血凝固系や血小板機能は複雑に変化している ことが推察される.CKD,特に進行したステージで は,健常人の抗血小板薬の証拠をそのまま臨床現場 で安易に適応することに抵抗を感じざるを得ない.
3 CKD ステージ G3b ~ 5 期の特 殊性
CKDステージ
G3b
~5
の心臓疾患の死因の内訳 を示した報告は限られている.わが国の透析療法の 現況の透析開始1
年以内死亡の原因がCKD
ステー ジG3b
~5
の死亡を反映しているかもしれない.2015
年末の報告によれば全体の約30%の心臓死の
うち大半は心不全死(24.7%)であり,抗血小板薬 による予防が期待できる心筋梗塞による死亡は2.8%にすぎない(わが国の慢性透析療法の現況 2015
年末の慢性透析患者に関する基礎集計より).突然死は虚血性心疾患由来であることが主であるこ とを加味しても,わずか
4.2%と低率である.CKD
の進行とともに頚動脈の粥状動脈硬化の成熟スピー ドが落ちることを示唆する報告3)や久山町研究の 冠動脈病理学的検討で,いわゆる病理学的atheroma
の比率はCKD
ステージG4, 5
で減少していく4)こ とを考慮すると,いわゆる心筋梗塞の発症様式も異CKD ステージ G3b ~ 5 診療ガイドライン 2017(2015 追補版)
78 7.CKD 腎外合併症対策 79
なっている可能性が高い5).実際に
CKD
の末期で は,粥腫内の性状の変化から粥腫の破裂が起こりに くくなっていくことを示唆する報告6)もある.こ れらの事実から,健常人では常識的に心筋梗塞の予 防薬として使用される抗血小板薬の効果はCKD
ス テージG3b
~5
の患者には期待できない,とする 仮説を導きたくなる.参考文献
1) Antithrombotic Trialists Collaboration.:Collaborative meta-analysis of randomised trials of antiplatelet therapy for pre-vention of death, myocardial infarction, and stroke in high risk patients. BMJ. 2002;324:71-86.
2) Ogawa H,Nakayama M,Morimoto T,et al.Low-dose aspirin for primary prevention of atherosclerotic events in patients with type 2 diabetes:a randomized controlled tri-al.JAMA. 2008;300:2134-41.
3) Rigatto C,Levin A,House AA,et al.Atheroma progres-sion in chronic kidney disease.Clin J Am Soc Nephrol.
2009;4:291-8.
4) Nakano T,Ninomiya T,Sumiyoshi S,et al.Association of kidney function with coronary atherosclerosis and calcifi-cation in autopsy samples from Japanese elders:the Hi-sayama study.Am J Kidney Dis. 2010;55:21-30.
5) Bae EH,Lim SY,Cho KH,et al.GFR and cardiovascu-lar outcomes after acute myocardial infarction: results from the Korea Acute Myocardial Infarction Registry.Am J Kid-ney Dis. 2012;59:795-802.
6) Kono K,Fujii H,Nakai K,et al.Composition and plaque patterns of coronary culprit lesions and clinical char-acteristics of patients with chronic kidney disease.Kidney Int. 2012;82:344-51.
1189
CKD ステージ G3b ~ 5 診療ガイドライン 2017(2015 追補版)
80 7 − 1.心血管疾患 81
詳細な検索を行い,非透析
CKD
における抗血小 板薬の使用に関する研究を行った文献を調べたが,CKD
ステージG3b
~5
に特化したものは存在しな かった.このなかで最も参考となると考えられた1
つの文献を抽出した1).36のRCT
から20,942
例の 患者が解析対象となったシステマティックレビュー で,そのうち29
のRCT
がCKD
患者を対象とされ,10,973
例が含まれていた.その結果は,CKD患者 における抗血小板療法の有益性は明らかではなく,出血の危険性が上回る可能性があるという結果で あった.しかしながら,そのほとんどの研究の対象 患者が
CKD
ステージG3
を中心とした中等度腎機 能低下症例であり,目的とするCKD
ステージG4, 5
はほとんど含まれていないと考えられた.した がって,比較的参考になるのではないかと考えられ る論文をさらにいくつか抽出した.1つ目の文献は,CKDにおける
CVD
一次予防に 関するアスピリンの有益性を検証するために行われ た,高血圧患者を対象としたHOT
研究のサブ解析 である2).HOT研究は26
カ国の高血圧患者を含んだ研究で,この研究により,アスピリン投与により
15%の CVD
発症低下が認められたが,一方では出 血イベントの80%増加が認められたという結果が
得られた.そこで易出血性を有するCKD
患者にお いて,アスピリン投与によるリスクをベネフィット が上回るかどうかを調べるために腎機能を加味した サブ解析が行われた.この解析では,18,597例の高 血圧患者が含まれており,eGFR≧60 mL /
分/ 1.73 m
2(正常もしくはCKD
ステージG1
または2),eGFR:45
~59 mL/
分/ 1.73 m
2(CKDス テ ー ジG3a),eGFR
<45 mL /
分/ 1.73 m
2(CKDステージG3b
以上)の3
群に分類されている.eGFRの中央 値 は73 mL /
分/ 1.73 m
2で あ り,CKDス テ ー ジG3b
以降が536
例(2.9%)で,CKDステージG5
の患者は9
例(0.05%)のみであった.アスピリン によるリスク減少率は,各々の群で9%,15%,
66%と腎機能が低下する程その効果が認められたと
いう結果であった.一方,出血のリスクに関しては全体で
61%増加し,各々の群では有意差はつかな
かったが,52%,70%,181%と増加していた.以 上の結果であったが,CKD患者は
CVD
発症のハイ リスク患者であり,腎機能低下症例では出血のリス クをベネフィットが上回るのではないかと結論付けCKD ステージ G3b ~ 5 の患者における抗血小板薬の使用は心血管 イベントの発症予防に有用か?
7−1.心血管疾患
● 推 奨 ●
CKD ステージ G3b ~ 5 の患者の心血管イベントの抑制にアスピリンの投与は有用かどうかわからな い.一方で,アスピリンの投与により出血性合併症のリスクが高くなる可能性が否定できない.
CKD ステージ G3b ~ 5 診療ガイドライン 2017(2015 追補版)
80 7 − 1.心血管疾患 81
られている.
2つ目の文献は,韓国で行われた
CKD
患者にお ける低用量アスピリンの動脈硬化性イベントの一次 予防効果を検討した後ろ向き研究である3).この研 究は,アスピリン内服群と非内服群を傾向スコアで マッチングさせ,各群1,884
例で評価を行っており,各々の群の腎機能の平均は,eGFR;43.2±
28.7 mL /
分/ 1.73 m
2vs 43.7± 26.4 mL /
分/ 1.73 m
2であった.このことから
CKD
ステージG3b
~5
の患者も含ま れていると考えられた.この結果では,総死亡,出 血性合併症に関しては2
群で差がなく,心血管イベ ント,血清クレアチニン値の2
倍化および透析導入 はアスピリン内服群で有意に多いという有益性が認 められない結果であった.3つ目の文献は,わが国で行われた糖尿病患者に おける低用量アスピリンの動脈硬化性イベントの一 次予防効果を検討した
RCT
のサブ解析である4). このJPAD
試験のサブ解析では,eGFRにより≧90 mL /
分/ 1.73 m
2(正常もしくはCKD
ステージG 1),6 0
~8 9 m L /
分/ 1. 7 3 m
2(C K Dス テ ー ジG2),< 60 mL /
分/ 1.73 m
(CKD2 ステージG3
以降)の
3
群に分類して解析を行っている.この結果では,GFR
≧90 mL /
分/ 1.73 m
2群をリファレンスとする と, 動 脈 硬 化 性 イ ベ ン ト 発 生 率 はGFR:60
~89 mL /
分/1.73 m
2群で1.6
倍,GFR<60 mL /
分/ 1.73 m
2群で2.0
倍と腎機能の悪化に伴い有意に増加 していた.低用量アスピリンの投与は,GFR:60~89 mL /
分/ 1.73 m
2の患者群(CKDステージG2)
では動脈硬化性イベント発生率を
43%ほど有意に
低下させたが,正常もしくはCKD
ステージG1
の群,CKD
ステージG3
以降の群では効果は認められな かった.しかしながら,CKDステージG3
以降の群 における血清クレアチニン値は,アスピリン投与 群:1.1 mg / dL,アスピリン非投与群:1.0 mg / dL と低値で,ほとんどがCKD
ステージG3
の患者で あることが推測され,CKDステージG4, 5
の患者は ほとんど含まれていないと考えられた.4つ目の文献は,前述の
HOT
試験,JPAD試験のサブグループ解析に,UK-HARP-I試験の保存期
CKD
患者218
例を加えた3
つのRCT
をメタ解析し た報告である5).主要アウトカムを心血管イベント および全死亡とし,二次アウトカムを出血イベント としている.4,469例(アスピリン群2,241
例,プラセボ群
2,228
例)が対象とされ,心血管イベントは
225
例(アスピリン群100
例,プラセボ群125
例), 大出血イベントは51
例(アスピリン群34
例,プラ セボ群17
例)にみられた.アスピリンによる心血 管イベント抑制効果はみられず(リスク比 0.92,95%CI 0.49-1.73),大出血イベントリスクの有意な
増加(リスク比 1.98,95%CI 1.11-3.52)が認められ,
アスピリンの有益性は示されなかった.以上は一次予防に関する文献であったため,二次 予防に関する文献に関してさらに検索してみたが
CKD
ステージG3b
~5
の患者を対象とした研究は みつけることができなかった.ただし,参考となる と考えられる透析患者におけるアスピリン内服のCVD
二次予防に関する文献がみつかったA).ハイ リスク患者における抗血小板療法のCVD
に対する 効果に関して検討した195
の試験を解析したメタ解 析であり,そのなかに透析患者を含んだ14
の試験 があり,2,632例の透析患者が含まれていた.その 結果では,透析患者では,アスピリンによって41%の CVD
発症のリスクが低下することが示され ている.これらの結果からは,CKDステージ
G3b
~5
に おける抗血小板療法の有益性は判断しがたい.CKD
患者を対象としたRCT
がほとんどなく,またCKD
のなかでもステージによって結果が変わって くることが予測される.CKDステージG5D
では, 透析ごとにヘパリンなどの抗凝固薬の投与が行われ ており,保存期と異なり血行動態の変動も大きい. したがって,CKDステージG5D
の結果を保存期の 患者に当てはめるのは難しいと思われる.しかしな がら,CKDステージG3b
~5
ではCVD
リスクを 有する患者が多いこと,CKDステージが進行する に従ってCVD
発症率が増加していくことB)もわ1190