石塚博規(東海大学)
[email protected] 1.はじめに
2008年に文部科学省は「外国語活動」を小学校 5,6年生に新たに導入する内容を
盛り込んだ新学習指導要領を発表した。賛否の議論を受けた形で,英語教育ではなく
「外国語活動」を行なうことになっており,基本的に文字では教えないこと,筆記テ ストは行なわないこととなった(安彦他,2008)。外国語活動として学習指導要領で 挙げられた目標は,「言語や文化について体験的に理解を深める」こと,「積極的にコ ミュニケーションを図ろうという態度の育成を図る」こと,「外国語の音声や基本的な 表現に慣れ親しませ」ることとなった。
予告はされていたものの,この新しい事態に最も大きな衝撃を受けているのが他な らぬ小学校現場である。2004年度において全国で外国語活動を実施している小学 校は92.1%となっており,もともと「総合的な学習の時間」で英語に関わる活動 を実践していた学校がほとんどであるが,その取り組みには学校間の差が大きく,す でに年間35時間の授業を低学年からカリキュラムに組んでいる学校もあるものの,
4時間から11時間となっている小学校が多い(バトラー後藤,2005)。ほとんど ALT任せで数時間だけの授業を消化試合的に行なっている学校もある。本格的な導入 となれば小学校の特性上,担任教師が「外国語活動」を担当することになる。他の教 科と異なり,スキルが大きな比重を占める科目である英語は,一夜漬けで準備して手 際よく授業ができるというものではない。このように,小学校において英語活動を導 入する上で,担当者の負担の問題が大きいが,その他,カリキュラム・教材の入手の 問題,地域間格差の問題,指導者自身の研修の問題も大きく,何らかの現場を支える システムの構築が急務となっている(JASTEC関西支部調査研究プロジェクト・チー ム,2003)。
本稿では, CELENET での実践支援で明らかとなった小学校英語指導の現況と課 題について考察する。
2.方法
会員によって CELENET 上に投稿される記事のカテゴリー(教材共有,Q&A, HelpMe!など)毎の割合を算出するとともに,Q&A,Help Me!に投稿される記事の質 的分析を行なった。同時に小学校英語指導の現況と支援へのニーズに関する意識調査
として CELENET上で行なったアンケートの結果を分析・考察した。調査・分析対象
者は CELENETに登録していた321人(11月現在)の会員うち何らかの記事を投
稿 し た 8 8 名 で , 分 析 対 象 記 事 は 7 5 2 編 の 記 事 で あ っ た 。 意 識 調 査 の 対 象 者 は
CELENET 上で回答した35名~36名の会員(質問項目により異なる)であった。
意識調査の質問項目は以下のとおりである。
1)現在英語を指導している学年は何年生ですか。
2)学校あるいは地域の独自のカリキュラムを使っていますか。
3)英語ノートは使っていますか。
4)自作教材を使っていますか。
5)市販の教材を使っていますか。
6)担当していて(今後担当する上で)不安はありますか。
7)担当していて(今後担当する場合も含めて)何が一番不安ですか。
8)英語力が不安の場合,何が不安ですか。
3.結果
カテゴリー別投稿記事数は図2のとおり,「日記」が3分の2以上を占め,以下,「教 材集」,「Help Me!」及び「Q&A」,「意見交換」,「連絡ボード」の順に投稿が多かった。
最もアクセスの多いが内容も多岐にわたると思われる「日記」のすべての記事の投稿 内容を分析したところ,大まかに,動向発信,情報提供(発信),報告,連絡,感想,
挨拶,メモ,広報(私的な内容)などの下位カテゴリーに分類でき,その中で私信的 性格を強く持つ動向発信や感想,挨拶,メモ,広報で235件となり,日記全体の記 事の45%を占めていることが判明した。
次に CELENETの「Q&A」及び「Help Me!」に投稿された52編の記事をテーマ により分類し,その比率を算出した。図3のとおり,英語の表現,文法,意味,語彙,
表記,発音のテーマを合わせて56%となり,英語自体に関する質問が圧倒的に多く,
その中でも英語の表現に関する質問が32%と,約3分の2に達していた。
図2 カテゴリー別投稿記事数
連絡ボード 3%
意見交換 4%
日記 68%
教材集 18%
Help me!
5%
Q&A 2%
発言の種類 発言数 動向発信 174 情報提供(発信) 137
報告 86
連絡 34
感想 23
その他 22
挨拶 15
メモ 13
広報 10
計 514
表1
日記の下位カテゴリー
図3 Q&A及びHelp me!のテーマの比率
指導法 教材 10%
10%
評価 2%
学習指導要領 2%
英語の文法 文化 8%
6%
英語の表現 32%
その他 20%
英語の発音 2%
英語の表記 2%
英語の意味 4%
語彙 2%
意識調査の結果は表2のとおりであった。
カリキュラムについては,2)で示されているとおり,調査対象者で現在小学校英 語指導に関わっている指導者19名のうち,13名(68%)は独自のカリキュラム を作成していた。
教材については,3),4),5)で示されているとおり,英語ノートを一部でも使 用しているのは8名(53%)で,残りの半数は使用しないで授業を進め,ほとんど あるいは一部自作教材を使用しているのは, 13名(87%)に及び,すべて市販の 教材を使っているのは,1名,一部使用しているのは,9名で計10名(71%)が 使用していた。
小学校英語指導者が抱いている不安については,担当する上での不安が「かなりあ る」,「少しある」を合わせて23名(65%)となっており,その23名が抱く一番 大きな不安は,授業方法(12名,53%),英語力(9名,39%)に対するもので あった。英語に対する不安の中では,会話(14名,62%),発音(4名,17%),
単語(4名,17%)に関する不安が多かった。
表2 意識調査アンケート結果
質問事項 項目 人数 質問事項 項目 人数
1年~4年生 4 かなりある 14
5,6年生 8 少しある 9
担当なし 25 あまりない 3
使用している 13 ない 9
使用していない 6 英語力 9
担当なし 18 授業方法 12
一部でも使用 8 教材選定 1
使用していない 7 ALTとのTT 1
担当していない 21 その他 12
ほとんど自作 8 発音 4
一部自作 5 文法 1
使用していない 2 単語 4
担当なし 20 会話 14
すべて市販 1 その他 12
ほとんど市販 0
一部市販 9
使用していない 4
担当なし 21
8)英語に対する不安 6)担当する上での不安
7)指導上不安な要素 2)独自カリキュラム
3)英語ノートの利用
4)自作教材の利用
5)市販教材の利用 1)指導している学年
4.考察
CELENETへの投稿のうち「日記」の記事が3分の2以上を占め,「意見交換」,「連
絡ボード」などへの投稿の割合があまり大きくなかったこと,また,「日記」の投稿記 事の中で,私信的な性格のものが45%を占めていたという結果は,小学校の現場が 求めている支援の質的側面に関する示唆を与えていると読み取ることができる。すな わち,小学校英語指導者は,公ではない,私信的な情報交換を好んでいる,公開の場 ではなく私的な空間で英語指導のスキルを高めたい,情報を入手したいという意向を 持っていると解釈することができる。このような推察は,上述の小学校英語担当者の 65%がなんらかの不安を抱いているという意識調査の結果とも符合する。指導に対 する不安感・自信のなさが公開の場を避けがちになっているものと考えられるからで ある。意識調査の結果から判明した,小学校英語指導者の,授業方法や英語力(会話,
発音,単語)に対する不安の大きさとも考え合わせると,今後計画されている教育委 員会主催の研修などに関しても,「何を支援すればよいのか」という視点と同時に,「ど のように支援すればよいのか」についても十分配慮する必要があるということが示唆 されている。
意識調査の結果から,独自のカリキュラムを作成していない学校がまだ高い割合で 存在していることが明らかとなっている。これらは本格的に外国語活動を導入してい ない学校であると思われるが,およそ2年後には週1時間外国語活動が開始されるこ とを考えると,今後の取組みに対する支援がいかに重要であるかが示唆される。
教材使用の点では,英語ノートがあまり使用されていないのは,現在,拠点校以外 には英語ノートが配布されていないためであろう。一方,自作教材を使用しているの
は13名であり,独自カリキュラムを使用している人数と符合している。一方,一部 市販教材も使用している指導者が9名いることから,本格的に英語活動を実施してい る学校では,独自のカリキュラムのもとで自作教材を中心に一部市販教材を使用しな がら英語指導を行っている姿が見える。今後は徐々に配布が進むと予想される英語ノ ートとの関連で,市販教材や自作教材を整理していくことも求められるであろう。
5.結論と今後の課題
本調査により,小学校英語指導はまだ暗中模索の不安な状態にあり,学校間での取 り組みも大きく隔たっていることが明らかとなった。また,今後小学校英語指導者に 求められている支援の質的側面についての示唆を得ることができた。
意識調査では回答者が少ないため,統計的な処理を行っていない。今後,CELENET の会員が次第に増加していくにつれ,より多くの小学校英語指導者を対象に,より詳 細な意識調査を行い,今回得られた知見の妥当性について検証していくことが必要で ある。
6.おわりに
アンケートにご協力いただいた CELENET 会員の方々にこの場を借りてお礼を申 し上げます。ありがとうございました。
(※本稿は『函館英文学』48号に掲載される論文を再編集したものです)
引用文献
安彦忠彦(監修),大城賢,直山木綿子(編著)(2008)『小学校学習指導要領の解説と展開 外国 語活動編』教育出版.
バトラー後藤裕子(2007)『日本の小学校英語を考える』三省堂.
JASTEC 関西支部調査研究プロジェクト・チーム(2003)「「総合的な学習の時間」における実態
調査-近畿地区内の教育委員会を対象とした質問紙調査に基づいて-」『JASTC Journal』,第 20号,pp.47-63.