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CDU/CSUとSPDの連立交渉及びその結果

(1)SPD特別党大会における連立交渉開始の承認

CDU 総務会は 1 月 12 日のうちに、CSU 総務会は 15 日に SPD との事前協議合意文書を全会一致 で承認した。CDU 内の経済政策重視派の一部には「再び年金政策において SPD と CSU の最大限 要求が将来の世代に負担を課す形で合意された」(シュタイガー)とする不満が見られたが、全体 的には、出発点の困難な状況からすれば、この結果を十分に受け入れることができるとする見方 が大勢を占めた。

他方、SPD 総務会においては、反対 6 の圧倒的多数で事前協議合意文書は承認されたが、国民 保険の導入と所得税の最高課税率引き上げという中心的要求が実現できなかったことに対して左 派の一部からは強い不満の声があがった。大連立反対派の中心人物の一人であったJuso委員長ケ ヴィン・キューネルトは、合意文書にはあまりにも具体的なことが書かれておらず、単なる引き 延ばしのためのものでしかないと批判した。同じく左派に属するSPD副党首ドライアー及びシュ テグナー、ベルリン市長ミヒャエル・ミュラー等は、CDU/CSU との連立を否定はしなかったも のの、事前協議の結果を本来の連立交渉において「事後的に改善」するよう要求した。

これに対して、シュルツとナーレスを中心とする党指導部は、SPDが野党の立場で戦った2013 年連邦議会選挙においても敗北したことを理由に、必ずしも大連立のみが党勢衰退の原因ではな いと反論した。さらに、SPD 指導部は、CDU/CSU との事前協議において年金政策を初めとして

「生活を具体的に改善する」非常に多くの成果を獲得し、さらに「政府の一員として欧州に新しい 方向性を与える」チャンスも得たとして、連立に参加すればSPDが連邦議会選挙の結果をはるか に上回る力を政権内で発揮できると主張した。また、SPDは1月21日に特別党大会を開催して事 前協議結果について審議し、公式の連立交渉を開始するか否かを決定することにしていたことか ら、党内右派「ゼーハイマー派」のリーダーであるヨハネス・カールスは、特別党大会において 代議員たちが連立交渉を認めるか否かを自ら最終的に決定できることを指摘して党内の沈静化を 図った。さらに、ナーレスは党内左派に対する配慮の意味も込めて、「CDU/CSUは連立交渉にお いてさらに多くの譲歩を行わねばならないことを認識しなければならない」と CDU/CSU を牽制 した。

SPD党大会の直前には、同党の現役及び元幹部約40人から成るグループがCDU/CSUとの連立 交渉開始を支持する「ドイツ、欧州、SPDに対する責任から」と題するアピールを発表した。こ のアピールには連邦及び各地域の様々な政治家が参加しており、ニールス・アネン、ビヨルン・

ベーニングの両元Juso委員長も名を連ねていた。彼らは、SPDが連立事前協議において「まさに 社会的公正という中心的な分野において一定の成果を達成できた」ことや「一方的な緊縮政策か

ら(財政出動を伴う)成長重視、社会的安全、連帯的欧州へのEUの真の方向転換を実現するチャ ンスを得た」ことを強調し、「これらすべてのことは、CDU/CSU 主導の少数派政権や、まして ジャマイカ連立の下では不可能であろう」と主張した。また、ドイツ労働組合同盟(DGB)も、

連立事前協議の結果には医療保険料の労使均等負担原則の復活や 48 %の年金支給水準の維持等、

「ドイツの労働者のための多くの本質的なことが含まれている」として、連立交渉の際には「なお 一定の改善の余地があるものの」大連立を支持する姿勢を明確にした。これに対して、左派が優 勢なザクセン・アンハルト州支部やベルリン市支部は、党大会に向けて、連立交渉の開始に反対 する決議を採択した。 (53)

このような状況の中で開催されたSPD特別党大会においては、激論の末、56.3%の賛成という 際どい差で CDU/CSU との連立交渉の開始が承認された。しかし、代議員多数派からの賛成を得 るために、党大会直前にはノルトライン・ヴェストファーレン州支部とヘッセン州支部の要求を 受けて、総務会が提出した動議が修正され、「労働生活における安定性の向上、社会保障制度にお ける公正さの拡大、人道的な難民政策におけるわれわれにとっての本質的プロジェクト」に関し ては事前協議において不十分な結果しか達成されなかったとする文章が付け加えられた。特に、

労働市場政策に関しては、「無期労働契約が再び通常のこととされねばならない」として、有期 雇用の制限強化をさらに追求することが約束された。医療保険に関しては、「診療を保険上の立場 ではなく患者の立場を基準にしたものにしなければならない」とされ、そのためには「現在相当 の誤った刺激をもたらしている診療報酬をより公正なものにするとともに、公務員に GKV を開 放するための適切な措置」が必要であるとされた。シュルツ党首も医療保険に関して再交渉を行 う方針を表明し、「二階級医療の是正のための具体的な措置を実現する」ことを約束した。さら に、難民政策に関しては、「家族の共同生活を可能にするために、家族の事後的呼び寄せのための さらに進んだ過酷事例規定を設けなければならない」とされた。この点に関しても、シュルツは CDU/CSU とさらに交渉することを約束した。また、この党大会では、党員投票によって連立交 渉の結果を承認するか否かを最終的に決定することが正式に決議された。 (54)

(2)連立交渉と連立協定の合意

SPD 党大会における承認の後、正式の連立交渉は 1 月 26 日から開始された。CDU/CSU の一部 には経済政策重視派を中心に「事前協議はすでに最終結果」であり、「SPDに対してもはや1ミリ も譲歩することはできない」(シュタイガー)といった強硬な意見や、「SPD党大会の結果は、同 党が完全に分裂していることを示して」おり、「SPDを一致させることはCDUの任務ではあり得 ない」(ブーフィエ)といった批判があったが、全体としてはさらに一定の譲歩を行っても大連 立を形成することを重視する考え方が大勢を占めていた。SPDが事前協議を行うか否かを党大会 で決定し、またその後の連立交渉の結果を承認するか否かについても2013年当時と同様に党員投 票を行って決定するとしていたことは、結果的に「党員に拒否される危険性」を指摘して CDU/

CSUとの交渉上の立場を有利にする手段として機能したと指摘された。実際、Jusoは連立交渉後 の党員投票で連立協定の承認を否決することを目指して新入党員獲得運動を開始していた。この ような状況を背景に、シュルツも連立交渉の開始にあたって、「これまでの事前協議の結果は大雑 把な指針に過ぎず、本来の連立交渉は今から始まる」と強調していた。これに対して、メルケル 首相はSP党大会前には「この文書の骨子について新たに交渉することはできない」と警告してい たが、連立交渉に際しては、「しかし、当然のことながら細部においてはなお解決すべき多数の問 題がある」と述べて強硬な態度をとらないことを示唆した。 (55)

しかし、他方では両党指導部は早期の政権樹立に対する世論からの圧力に応えるためにも連立 交渉をできる限り 2 月 4 日までに終えることで合意したことから、事前協議の結果を根本的に覆 すことは実際には現実的ではなく、連立交渉においてはSPD党大会で指摘された諸点を中心に細 部を詰める交渉が以下のように行われた。

[年金政策]

連立交渉の開始にあたって、経済界は年金政策に関する事前協議の結果に対して初めて公然と 批判を展開し、合意された計画の実施を延期するよう要求した。それまで経済界は安定した政府 の樹立を優先して表立った批判を控えていたが、事前協議の結果を見てその態度を変更した。ド イツ経営者団体連盟(BDA)は 1 月末に連立事前協議における諸提案について包括的な評価を 行った文書を公表し、その中で、特に年金政策に関する合意が年金保険にとって数十億ユーロ規 模の負担増をもたらすであろうと警告した。BDAは「高い費用がかかり年金政策上も問題のある 決定を下す前に、まず年金政策に関する専門知識を持つ委員会を設置すべきである」とし、「その 後初めて、この委員会の勧告を基礎として決定が行われるべきである」と主張した。

しかし、このような批判にも拘わらず、連立交渉において重要な問題の中で比較的順調に最終 的な合意が成立したのは年金政策であった。CDU/CSUとSPDは、「二重の停止線」に関する後者 の要求を受け入れる形で、2025年まで年金支給水準を現状の48%で維持するだけではなく、現在 18.6 %となっている年金保険料率を 2025 年まで 20 %以下に抑制することについても最終的に合 意した。ナーレスは「経済状況がどのようになるかに関係なく、われわれはそれを達成する」と し、「それによって、公的年金は安定し、(年金生活者の)購買力は維持される」とSPDの成果を 強調した。しかし、ドイツ年金保険同盟の試算によれば、年金支給水準を48%で維持するために 必要な財源は、好景気が続く場合でさえ2025年時点で40億ユーロになると予測されていた。

SPD が要求していた低所得者のための基礎年金も実現されることになったが、それは SPD が 提案していた形ではなく、むしろ CDU 労働者派代表カール = ヨーゼフ・ラウマンやロスバッハ が提案したモデルに基づくものであった。それによれば、35年間の年金保険料支払を証明できる 人々が高齢者基礎保障を受給する場合には、年金請求権の10%を基礎保障との相殺対象から免除 することになった。この相殺免除は個人年金や企業年金に関してはすでに実施されていたが、今 や公的年金にも拡大されることになった。ただし、65歳以上の高齢者のうち高齢者基礎保障を受

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