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また、カスマ、ケイゴ、ナオコの3名においては、曝露フェーズの一部のブロックを除き、終環での振 向き反応、笑顔と無表情での蓋明け反応、しかめ面での片付け反応の生起頻度は一貫して高かった。
考察
研究2の目的は、初環における表情の提示方法の選好と、その提示方法で実施された終環での振り
向き反応の生起頻度により、実験場面での社会的参照の強化子を同定することであった。カスマについては、条件間の弁別が不可能だったためか位置習性が強く、初環での選好順位が確 定できなかった。また終環での振向き反応にも生起頻度の変化はなく社会的参照の強化子の同定には
至らなかった。
アキエについては、不正確な笑顔条件と正確なしかめ西条件の選好順位が確定できなかった。しか し、終環ではどちらの条件下でも振向き反応の生起頻度が減少したことから、アキエの振向き反応には、
情報と笑顔の両方が等しく必要だったと推測される。なお、初環での自由選択フェーズ開始直後に一 貫した選択傾向が見られなかったことと、事前査定では位置習性が比較的優位に現れたことから、カー ド自体の選好が初環での選好順位に与えた影響は少ないと判断される。
マナミの初環での選好順位は正確な笑顔/しかめ西条件→不正確な笑顔条件→正確なしかめ西条
件で、カード査定での選好順位とは異なったため、初環での選好はカード自体の選好ではなく表情の 提示方法の選好と考えられる。ところで、2択場面で当初集中的に選択された正確なしかめ西条件から、不正確な笑顔条件への移行はどのように説明できるだろうか。まず2択での初環の開始当初はカ』ド自 体の選好の影響を受け、正確なしかめ西条件が集中的に選択された。しかし、トークンの不在を示すし かめ面が嫌悪刺激として機能し始めたため、初環での選択が回避されたのであろう。一方、終環で振向 き反応が減少しなかったのは、無表情が蓋明け反応の弁別刺激として機能し、しかめ面と拮抗したため だと考えられる。続いて不正確な笑顔条件の選択回数が増加すると、笑顔が強化子の存在に対応して いないことが学習され、振向き反応の生起頻度が減少した。以上より、マナミの振向き反応は、一義的 には笑顔により強化されだがそれが信頼できなかったため、次第に減少したと考えられる。
ケイゴの初環での選好順位は正確な笑顔ノしかめ西条件→不正確な笑顔条件→正確なしかめ西条
件であり、笑顔が強化子として機能した可能性、しかめ面が嫌悪刺激として機能した可能性、及び無情報が好まれた可能性が考えられる。なお、順位確定後に追加実施した正確なしかめ西条件下での終環
では振向き反応が維持された。これは嫌悪刺激であったしかめ面と条件一性強化子として機能した無表情が拮抗したためだと考えられる。また、研究1での社会参照形成後の透明容器を用いた反転期にもケ イゴの振向き反応の生起頻度は殆ど減少せず、表情に関する質問手続きを用いたブロック以降も表情 の報告行動が維持され、これらが研究2でも引き続き見られたことから、振向き反応が同一性の保持
(Ric㎞an,2001;山本・楠本,2007)、ルール支配、及び迷信強化により維持されたのではないだろうか。
さらには、自由選択フェーズにおいて計6ブロック実施された不正確な笑顔条件下での終環では、笑顔 が提示された69試行のうちトークンが缶に入っていたのは17試行(24.6%)であったが、これでも笑顔の 強化効力が維持されたとするならば、研究場面外で獲得された笑顔の強化効力が非常に大きかったこ とが推測される。
ナオコの初環での選好順位はカ』ド査定とは結果を異にしたため、表情の提示方法の選好を反映し
たものだと推測されるが、これは正確ではあるが強化子の不在を示す情報(しかめ面)が強化子であるこ とを示す。なお、追加実施した正確なしかめ西条件での終環では、笑顔が全く提示されないにも関わら ず振向き反応が維持された。では、これらの結果から社会的参照行動の日常生活場面への維持と般化に関してどのような示唆が 得られるであろうか。本研究で同定された強化子と社会的参照(情報探索)について整理すると、次のよ うに考えられる。(a)ケイゴのように情報の正確さに関わらず笑顔が十分な強化効力をもつ場合や、無情 報が好まれる場合は、結果に関わらず笑顔が提示されるならば社会的参照(情報探索)は維持されると 予測される。しかし、社会的参照(情報探索)に関して嫌悪刺激として機能する可能性もあるので、しか め面の提示は避けるべきであろう。そのため、日常生活場面においては、回避すべき状況に遭遇した 子どもが大人の顔を見た場合(子どもは回避すべきだとは知らない)、通常は大人は否定的な表情を示 すだろうが、ケイゴのような子どもの場合には、否定的な表情の代わりに、まず笑顔を見せた上で「危な いから近寄ってはいけません」等の教示を行うべきであろう。
しかし、(b)アキエやマナミのように、ある子どもの社会的参照(情報探索)にとって強化子の存在を意 味する表情(笑顔)が強化子として機能するならば、その表情から得られる情報が信頼できない場合に は、強化効力が失われ社会的参照(情報探索)が維持されない可能性がある。そのため、避けるべき状
況に遭遇した子どもが大人の否定的な表情を見た場合には、表情を見たこと自体について言語賞賛等
を含めた強化的操作が必要であろう。また大人の笑顔を見た場合には、何らかの強化的な結果を随伴 させることが望ましい。
なお、(C)ナオコのように社会的参照(情報探索)が情≡報によって強化されている子どもの場合には、
強化子の不在や「その行動を中止せよ」とのメッセ』ジを伝える表情(例えば、しかめ面)が繰り返し提示 されたとしても、社会的参照は維持される。よって、どのような状況であっても、大人の顔を見た場合に は、好ましい状況では笑顔、回避すべき状況では否定的な表情といったように、状況に対応した表情を 作ることが必要であろう。
一方、発達心理分野での研究で多く検討された社会的参照の先行条件の影響は、本研究ではどの
ように考えられるであろうか。発達研究では、曖昧さを醸し出し不安を喚起するような玩具等が使用され たが、本研究で用いられたのは缶であり、不安や曖昧性を感じた様子は参加者には一切見られなかっ た。また研究1では、しかめ面が提示された片付け試行でも正反応はトークンにより強化されたため、中 が見えない缶を使用したことで、表情から入手される情報への確立操作が作用した可能性が強い。しか し、研究2におけるトークン無しの試行では、正反応の場合は「よくできました」、謀反応の場合は「残念」等のフィードバックのみが提示され、振向き反応なしに全ての試行で蓋を開けることのリスクは小さく、実 際にアキエとマナミの二名では研究2の終盤に向けて振向き反応の生起頻度が低下している。このため 先行条件の影響は最低限であり、このような条件下でも振向き反応を維持したケイゴとナオコのデータ は、結果事象の影響をより大きく反映したものだと考えられる。
では、社会的参照場面での情報探索の強化は表情とどのように関係しているのであろうか。提示され る表情の区別に関係しない強化子としては、感情的情報の入手(Feinmanetal、,1992)と、親の顔という 視覚刺激から得られる安心感(Ainswoれh,1992)が考えられる。また、Fantino&Si1berberg(2010)が指 摘するような視覚刺激による感覚、即ち、本研究においては振向き反応に伴う視線の移動により得られ る視覚刺激の変化が、強化的な機能を有する可能性も排除できない。
その一方、特定の表情による強化を受けている可能性もある。笑顔の強化的な機能に関しては、6ヶ 月未満の乳児においては、恐怖表情よりも幸福表情に注目する傾向が強い(Farroni,Menon,Rigato,&
Jo㎞son,2007)ことが知られており、これは幾度となく繰り返される情緒的で満足感をもたらす関わりの
中で養育者がみせる笑顔への偏向が形成されたためだと考えられる(Pe1toraet al.,2009)。また、4歳か ら9歳までの子どもを対象としたCe1anietal.(1999)や大学生を対象とした益子(2006)の研究でも、無表 情よりも笑顔の好感度が高いことが示されているが、これは子どもが、結果とそれに先行提示される手が かりの関連を学習できるようになると、肯定的な表情が現在行っている行動を継続する際の強化子とな るため(Pe1toraetal.,2009)だと考えられている。もっとも、本研究から示唆されるように、笑顔によって得 られる情報が信頼できない場合は、社会的参照(情報探索)が維持されなくなる可能性もある。
一方、否定的な表情が社会的参照(情報探索)を強化する可能性もある。勿論、否定的な表情(例え ば、しかめ面)により子どもの興味関心に反して、既に生起しているか生起しようとしている強化的な反 応の中断が求められる場合には、その表情が嫌悪刺激として機能する可能性もある。しかし、親の表情
に表されたメッセ』ジに従うと、危険や叱責といった否定的な結果を回避できる。結果的には、緊急な 対応が要求される否定的な情報(表情)に敏感に反応する傾向が顕著になり、肯定的な表情(例えば、
笑顔)の優先順位が落ちるとされる(Peltora,etaL,2009)。これは、ネガティビティ・バイアスと言われ、個 の生存にとって適応的だと考えられ(Vaish etal.,2009)、例えば、生後7ヵ月以降の乳幼児の恐」1布表情
(危ar阯胞㏄)への注視時間が幸福表情(happy危。e)への注視時間よりも長いことを示したPe1tora,etal.
(2009)の研究を含め、多数の研究により支持されている(Vaishetal.,2008)。また、実験的行動分析の 研究からは、得られる手がかりが否定的情報であっても、それが活用され得る場合には観察反応が維 持されるとの知見が得られており(Caseetal、,1990)、上記の推論とも合致する。
ところでASDをもつ子どもには、表情の理解(Ric㎞an,2004)や弁別(Celanietal.,1999;若松,
1989)の困難、無表情(n㎝tra1曲。e)と笑顔(happy由。e)間での選好差異の欠如(Celani,eta1.,1999)、
笑顔を含む定型発達の子どもにとっての条件性強化子が殆ど強化効力を有しないこと(Ferster,1961)、
愛着行動の異常(Ric㎞an,2001)といった特性があるが、これらが社会的参照に影響を及ぼす可能性 もある。しかしながら本研究では、定型発達児との比較がされなかったため、これらの要素も反映した上