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Res区ならびにコントロール区のATP量は第三章第二節の方法と同様に測定 した。

7) 細胞増殖活性

Res 区ならびにコントロール区の増殖活性は第三章第二節の方法と同様に測 定した。

8) 統計解析

各試験区で得られた値は高酸素区またはコントロール区の値を用いて相対化 し、Student’s T-testを用いて統計解析を行った。その時P < 0.05を有意差あり とした。

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第三節 結果

二つの酸素環境下におけるSIRT1の発現量をウェスタンブロッティングにて 検討したところ、SIRT1の発現量は低酸素環境下において有意に低下した(P <

0.05、Figure 7)。またNRF2およびPGC1αの発現を免疫染色法を用いて観察 したところ、高酸素環境下で強く見られた蛍光は低酸素環境になると著しく減 弱した(Figure 8)。

この結果を受け、Resを用いて低酸素環境下でSIRT1を活性化させる事で顆 粒層細胞のミトコンドリアの機能や量がどのように変化するのかを解析した。

Res添加は低酸素環境下におけるSIRT1の発現量を増加させた(P < 0.05、

Figure 9A、B)。ミトコンドリアDNAコピー数はRes添加により有意に増加し ており(P < 0.05、Figure 9A)、ミトコンドリアDNAの合成に関与し、NRF2 により転写制御を受けるTFAMの発現量はRes添加により有意に増加した(P <

0.05、Figure 9A)。またATP量も同様にRes区で有意に増加した(P < 0.05、

Figure 9)。Resが低酸素環境下における顆粒層細胞の増殖にどのような影響を

与えるかをBrdUの取り込み試験ならびにリン酸化mTOR量により検討したと ころ、低酸素環境下におけるRes添加はBrdUの取り込み量ならびにリン酸化 mTOR量を有意に低下させた(P < 0.05、Figure 9A、B)。

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第四節 考察

本章では異なる酸素環境における顆粒層細胞のSIRT1の働きが代謝と増殖に どのような影響を及ぼすかについて検討した。低酸素環境では顆粒層細胞の SIRT1の発現量が低下しており(Figure 7)、PGC1αとNRF2の量も低下してい た(Figure 8)。また低酸素環境下でSIRT1の活性化剤であるResを用いるとミ トコンドリアが活性化し、mTORの活性が抑制された(Figure 9)。

SIRT1は自身の脱アセチル化活性によりPGC1αを活性化させる事で、PGC1α

と共役する転写因子の働きを支配し、間接的にミトコンドリアの新生や機能亢 進に関与し(Brenmoehl and Hoeflich, 2013)、SIRT1の抑制はPGC1αの発現の 低下やβ酸化関連遺伝子の発現を低下させる事が報告されている

(Gerhart-Hines et al., 2007)。またPGC1αはnuclear respiratory factor 1や NRF2と共役する事でミトコンドリアDNAの複製や保護に関与するTFAMの 発現を増加させることが報告されている(Scarpulla, 2008)。またNRF2は核に コードされているCytochrome c oxidase(COX)遺伝子の発現を支配しており (Ongwijitwat et al., 2006)、第三章の次世代シーケンサーを用いた検討において もNRF2により制御を受けるCOX遺伝子群の発現割合は低酸素区で低下して いた(高酸素 vs 低酸素 = 40% vs 0%、P < 0.05)。またSIRT1の活性化剤であ るResを用いる事で低酸素環境下であってもSIRT1、TFAM発現量やミトコン ドリアDNAコピー数の増加が観察された事から、低酸素環境下ではSIRT1発 現量の低下により、ミトコンドリア機能や合成能の低下が引き起こされた可能 性が示唆された。

一方でSIRT1はmTORのリン酸化を制御しているTSC2の働きを活性化さ

せる事でmTORC1の働きを抑制させる事が報告されている(Ghosh et al.,

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2010)。また顆粒層細胞におけるSIRT1の発現は卵胞閉鎖に伴い、増加するこ

とが報告されている(Hong et al., 2014)。本章ではResを用いたSIRT1の活性 化がmTORの抑制を引き起こし、BrdUの取り込み量を低下させる事を示した。

これは低酸素環境におけるSIRT1量の低下が顆粒層細胞のmTOR制御に間接 的に影響を及ぼしている可能性を示唆するものである。

これらの事から低酸素環境はSIRT1の発現を抑制する事で顆粒層細胞のミト コンドリア代謝を抑制し、mTORを介した細胞増殖を促すことが示唆された。

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Figure 7: Effect of oxygen levels on SIRT1 expression level of GCs

酸素環境の違いが顆粒層細胞の SIRT1 発現量に及ぼす影響についてウェスタ ンブロッティングを用いて解析した(n=3)統計解析はStudetnt’s t-testを用い、P <

0.05を有意差ありとした。異符号間に有意差あり(a、b)。

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Figure 8: Effect of oxygen levels on PGC1α and NRF2 expression level of GCs 酸素環境の違いが顆粒層細胞のPGC1αおよびNRF2の発現に及ぼす影響につ いて免疫染色を用いて解析した(n=3)。

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Figure 9: Effect of SIRT1 activation using resveratrol under low oxygen level.

低酸素環境下におけるResveratrolを用いたSIRT1の活性化が顆粒層細胞の増殖と ミトコンドリアに与える影響について検討した。増殖活性はCell proliferation ELISA, BrdU kit (Roche)を用いて測定し(n=7、A)、SIRT1ならびにリン酸化mTOR量はウェ スタンブロッティングにより求めた(n=3、A、B)。ATP量はATP依存的なルシフェ リン-ルシフェラーゼ反応による発光をルミノメーターにより検出することで求め た(n=3、A)。ミトコンドリアDNAコピー数はリアルタイムPCRを用いて計測し、

得られた値は1コピー遺伝子の発現量を用いて標準化した(n=4、A)。TFAM の発現 量は逆転写リアルタイムPCRを用いて解析し、β-ACTINの発現量により標準化し た(n=3、A)。統計解析はStudetnt’s t-testを用い、P < 0.05を有意差ありとした。異符 号間に有意差あり(a、b)。

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第五章 総括

顆粒層細胞はホルモン分泌や卵子の成長および成熟を制御する雌の生殖周期 の確立に重要な役割を担う細胞であり、卵胞の発育に伴いその数を爆発的に増 加させる。また顆粒層細胞は卵胞基底膜の内側に存在しており、排卵直前にな るまで、卵胞内への血管網の侵入が生じないため顆粒層細胞を取り巻く環境は 低酸素環境であると考えられている。このような環境下で顆粒層細胞の代謝や 増殖がどのように変化するのかを以下の 3 点に分けて検討した。1)異なる卵胞 ステージにおける網羅的遺伝子発現解析、2)低酸素環境が顆粒層細胞の解糖やミ トコンドリア代謝および細胞増殖シグナリングに与える影響について解析する 事によって、卵胞の発育に伴う顆粒層細胞の遺伝子発現の変化や低酸素環境が 顆粒層細胞の代謝能や増殖能に与える影響について明らかにし、3)SIRT1 が低 酸素環境下の顆粒層細胞の代謝能および増殖能に与える影響について検討を行 った。

1) 卵胞ステージがブタ顆粒層細胞の遺伝子発現に与える影響

まず卵胞のステージの進展に伴い顆粒層細胞内でどのような因子が働くのか を初期胞状卵胞(EAF、0.5-0.7mm)、小卵胞(SAF、1-3mm)および大卵胞(LAF、

3-5mm) に分けて顆粒層細胞を採取し、それぞれ次世代シーケンサーを用いて

解析した。遺伝子発現はIngenuity Pathway Analysis (IPA)により解析し、IPA に実装された UpstreamRegulator 機能を用いて卵胞の発育に従いどのような 因子が上流因子として働くかを予測した。また有意に発現が増加した遺伝子の 中から解糖および酸化的リン酸化(OXPHOS)に関与する遺伝子群を抽出し発現

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比率を比較した。EAF-SAFでは5種類の因子が上流因子として予測され、SP1、

TP53、NR3C1 がそれぞれ抑制され、HIF1α および STAT3 は活性化した。ま

た SAF-LAF にかけては 6 種類の因子が予測され、すべての因子 (SP1、

CTNNB1、TP53、SP3、JUN およびHIF1α)が抑制された。EAF-SAF 間では 卵胞ステージの進展に伴い、解糖に関わる遺伝子群は有意に増加した。またこ

の傾向はSAF-LAF間でも同様に観察された。一方、OXPHOS関連遺伝子群の

発現は EAF-SAF 間で卵胞ステージの進展に伴い、有意に増加した。しかしな

がらSAF-LAF間ではその差は消失した。また同様にHIF1関連遺伝子群におい

てはその発現が増加する傾向が観察された(P=0.075)。HIF1 は卵胞発育に重要 な血管新生や解糖に関与する遺伝子を制御する転写因子であることから次章に おいては HIF1 を中心とした転写制御が顆粒層細胞の代謝や増殖にどのような 影響を与えるかを検討した。

2) 低酸素環境が顆粒層細胞の代謝と増殖に及ぼす影響

ウシ卵巣より小卵胞を選抜し顆粒層細胞を採取後、低酸素(5%酸素濃度)およ び高酸素(21%酸素濃度)に分け 24 時間培養し、顆粒層細胞の代謝や増殖にどの ように変化するのかを検討した。網羅的遺伝子発現解析を用いてどのような因 子の発現が両酸素環境下で増加しているのかを解析したところ、低酸素応答に 関与する因子(HIF1α、EPAS1およびARNT)が上流因子として予測され、HIF1 により転写制御を受ける遺伝子の発現割合が、低酸素区において有意に高い値 となった。また HIF1 の制御因子である HIF1α の発現ならびに下流因子の VEGF の発現をウェスタンブロッティングにより解析したところ、低酸素環境 下において有意に高い値となった。また解糖、電子伝達系、TCA回路を構成す

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る因子の発現比を両酸素区で比較したところ、TCA回路に関与する遺伝子群に は有意差が見られなかったものの、解糖に関与する遺伝子群は低酸素区で有意 に高くなり、電子伝達系に関与する遺伝子群の発現割合は高酸素区で有意に高 くなった。また解糖の指標として解糖の律速酵素である Phosphofructokinase 活性ならびにグルコース消費量を計測したところ低酸素区で有意に高い値とな った。一方でミトコンドリアにける酸化的リン酸化の指標として膜電位活性、

ATP量、Mitochondrial mass、リン酸化Acetyl Co-A Carboxylase量およびミ トコンドリアDNAコピー数を計測したところ、高酸素区において全ての検討項 目が増加した。また増殖活性および細胞増殖に重要な AKT-mTORC1 パスウェ イに関与する因子をウェスタンブロッティングにて検討したところ低酸素区に おいてAKT、mTORおよびS6RPのリン酸化量が増加し、増殖活性が促進され た。また低酸素区において発現が増加した VEGF に対する中和抗体を用いて VEGF の働きを抑制したところ、低酸素環境下においても増殖活性および

AKT-mTORC1 のリン酸化レベルが低下した。以上のことから低酸素環境は顆

粒層細胞のミトコンドリアにおける酸化的リン酸化を抑制し、解糖活性を促進 させ、細胞増殖を促進させることがわかった。

3) SIRT1が低酸素環境における顆粒層細胞の代謝と増殖に与える影響

細胞の増殖と代謝を共通してコントロールする因子としてSIRT1が挙げられ る。SIRT1はNAD+依存型の脱アセチル化酵素であり、ミトコンドリアの新生 や β 酸化を制御し、mTORC1 を抑制することが知られている。そこで SIRT1 の発現量をウェスタンブロッティングにて解析した所、低酸素環境下において 有意に低下していた。またSIRT1と共役してミトコンドリアの新生を促す転写

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