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第 6 章 ASP・SaaS 利用に関する契約の進め方

6.3 ASP・SaaS 利用に関する契約体系

前節では、地方公共団体がASP・SaaSを導入する場合の契約の形態について委託契約 とサービス利用契約の相違を中心に検討したが、本節では、地方公共団体とASP・SaaS 事業者との契約体系について検討することとする。

ASP・SaaS事業者との契約体系については、まず、利用者に提供されるサービスの全 体を一つのASP・SaaS事業者が単独ですべて提供しているとは限らないことに留意する 必要がある。これは、地方公共団体におけるASP・SaaSの導入に限らずASP・SaaS全般 に共通することであるが、ASP・SaaS事業者がデータセンターやネットワーク、システ ムなどサービスの上流から下流までのすべてを単独かつ自前で地方公共団体に提供する わけではないということである。ASP・SaaS事業者との契約にあたっては、こうした実 態を正しく認識した上で契約を締結する必要がある。

もっともこれは、従来のようなシステム構築を行う際の地方公共団体と受託者が締結す る委託契約において一般的に再委託が認められていることと対比可能な議論である。従来 型の委託契約においても、地方公共団体と契約を締結する事業者は、地方公共団体が必要 とする情報システムの構築や運用に関して一元的な責任を負う一方、必要に応じてより専 門的な能力を有する者に対して事業の一部を再委託していることが一般的である。

これらを踏まえ、地方公共団体とASP・SaaS事業者の契約体系としては、契約の相手 方となるASP・SaaS事業者がどれだけ自前でサービスを提供しているかにかかわらず、

地方公共団体とASP・SaaS事業者との契約は原則として二者契約とすることが望ましい。

地方公共団体においては、ASP・SaaS事業者がデータセンターの管理やネットワークな

どの実際に提供されるサービスの一部を第三者に依存していることに留意し、ASP・

SaaS事業者のサービスの構造を十分理解した上で、個人情報の取扱いや通信障害が発生 した場合などにおける責任分界や権利義務、迅速な復旧に向けた関係各者の取組みなどに ついて事前に協議しておくことが不可欠となる。

実際、地方公共団体におけるASP・SaaSの活用事例の中には、自らはデータセンター を持たずに大規模なデータセンターにハウジングすることによりストレージを確保して いるASP・SaaS事業者と契約を締結している事例がある一方、提供するサービスの分野 によっては、地方公共団体がASP・SaaS事業者のサービスを単純に再販している事業者 と契約を締結している事例も見受けられるところである。後者の事例においては、地方公 共団体と契約を締結している事業者がセキュリティに関する障害や個人情報の漏えいな どの事故に対して必ずしも迅速かつ適確に対応できるとは限らないことにも留意し、

ASP・SaaSの調達において適切にASP・SaaS事業者を選定することも重要となる。

<参考 eLTAXにおける地方税電子化協議会の取組み>

eLTAXについては、平成17年1月に電子申告が始まり、平成22年度にはすべての市区 町村がeLTAXのネットワークに加入することが見込まれているが、参加市区町村の多く

(及び一部の県)はASP・SaaSを活用しているところである。これは、全国1,800余の 地方公共団体が自らシステムを構築し、運用する場合と比べてASP・SaaSが効率的であ ることを示す一例と言える。

これまで、eLTAXに従事するASP・SaaS事業者は、地方税電子化協議会によって「構 築ベンダー」、「サービスベンダー」、「代理店」に分類され登録されていた。「構築ベンダ ー」とは、サーバを有し、市区町村の端末と接続してサービスを実際に提供するASP・

SaaS事業者のことであり、「サービスベンダー」及び「代理店」は、原則としてサーバ などを持たず、市区町村に置かれた端末の管理やヘルプデスクなどのサービスを行う事業 者のことである。そして、多くの市区町村が「サービスベンダー」や「代理店」とeLTAX の業務に関する契約を締結してきたところである。

しかしながら、市区町村が「サービスベンダー」や「代理店」と契約している場合、実 際に市区町村のデータを管理する「構築ベンダー」と市区町村の間に契約関係がない場合 が多く、情報漏えいや保管すべきデータの喪失などの問題が発生した場合に当該市区町村 の管理監督が及びにくくなるという懸念が生じることから、ASP・SaaS事業者の位置づ けや登録の在り方を見直す作業が行われたところである。

具 体 的 に は 、 サ ー バ を 有 し 市 区 町 村 と 接 続 し eLTAX の サ ー ビ ス を 行 う 事 業 者 を

「eLTAXベンダー」として新たに登録し、市区町村は「eLTAXベンダー」と直接契約を 締結しない限りeLTAXベンダーに当該市区町村のデータが送信されないこととしたもの

である。また、これまで「サービスベンダー」や「代理店」として登録されていた事業者 を「eLTAXサポート事業者」として新たに登録し、市区町村が認める範囲でeLTAXベン ダーから端末機器の保守作業などの業務の再委託を受けることとしたものである。

地方税の電子化については、今後は国税との連携も予定されており、地方公共団体の業 務の中でも特に安全性が求められるものであることからこうした措置がとられたもので ある。