第 6 章 ASP・SaaS 利用に関する契約の進め方
6.5 調達における留意事項①(全体の流れ)
まず、本書「3.3.2 調達プロセス」でも記述したとおり、地方公共団体においてASP・
SaaSの導入のための予算を要求する前に、ASP・SaaSを利用するのかそれとも従来の請 負型のシステム開発を行うのかを十分に検討し、調達方針を決めておくことが重要である。
また、ASP・SaaSの導入を決定し、調達仕様書を作成する段階においては、ASP・SaaS 事業者が提供しているサービスの範囲やサービスレベルを調査し、地方公共団体が要求す
るサービスの仕様との差異をあらかじめ比較(フィット&ギャップ)し、検討しておくこ とが重要である。
インターネットを介してサービスを提供するインターネットASPの調達仕様書を作成 する場合、ベストエフォート型のネットワーク構成にかんがみ、必要とする帯域や接続の 性能・品質が必ずしも保証されていないことや、データセンターの所在地などにも留意す る必要がある。詳細は本書「1.2.2 ASP・SaaSの導入(4)ネットワーク別の利用形態」
に記述している。
このほか、地方公共団体において実際にASP・SaaSを調達する際に留意すべき事項を 挙げると以下のとおりとなる。
6.5.1 ASP・SaaS事業者の選定期間
ASP・SaaSに限らず、一般に調達を行う場合、市場調査や公募、(必要に応じて)説 明会の開催や比較審査といった調達に必要となる作業を挙げ、それらのスケジュール をあらかじめ定めてから作業を進めることが望ましい。地方公共団体がASP・SaaSを 調達する場合のこうしたスケジュール作成における留意事項として、ASP・SaaS事業 者の選定期間を十分にとる必要があることが挙げられる。特に、一般競争入札(総合 評価方式)やプロポーザル方式で調達を行う場合は、従来の請負型のシステム開発開 発と比べて十分に長い公募期間をとることが必要である。
従来のシステム開発では、事業者を選定した後でも仕様の調整などの工程で事業者 と協議する期間をとることが可能であったが、ASP・SaaSの場合は、こうしたいわば 後付けの仕様の調整は一般的には行われないことに留意が必要である。地方公共団体 が示した要求仕様を満たすことは調達(入札)に応じる事業者にとって必須要件であ り、スケジュール作成の段階から公募期間を十分に長く設定することは、ASP・SaaS 事業者側に地方公共団体の要求する仕様のとおりの提案を行うために十分な検討期間 を与えることになり、結果的に地方公共団体の要求を満たす提案がより多くなると期 待できる。地方公共団体において、ASP・SaaSを特にプロポーザル方式や一般競争入 札で公募する場合は、この公募期間を十分にとることについて留意したスケジュール 設定を行うことが望ましい。
6.5.2 要件調整
調達を実施するにあたっては、ASP・SaaSのサービスに求める機能やサービスレベ ルなどを整理し、調達するサービスの要件を明確にする必要がある。ASP・SaaSであ れば一般的に導入コストの低減や利用開始までの期間短縮などのメリットがある一方、
サービス内容が地方公共団体の従来の業務に制約を与えうるなどのデメリットも発生
しうる。こうしたメリット・デメリットを考慮した上で調達するサービスの要件を明 確にするための検討を行うことが必要である。
なお、ASP・SaaSの導入を検討する場合、運用、サービス利用条件、契約終了時の 扱いなど、実際のサービス利用にあたって検証が必要となる項目が存在することにつ いても留意する必要がある。
6.5.3 ASP・SaaSの情報収集・分析
ASP・SaaS事業者が提供しているサービスについて、地方公共団体側で必要な機能 及びサービスレベルを実現できるか、サービス利用料金が妥当であるかなどの調達仕 様書作成の際に必要となる情報収集・分析を実施する必要がある。
地方公共団体においてASP・SaaS事業者が提供しているサービスの情報収集や分 析を行う手段としては、本書付録1「地方公共団体の業務別に利用可能なASP・SaaS」
のほか、インターネット上のASP・SaaSに特化した検索サイトの活用や、実際にサ ービスを提供している事業者に対して意見招請を行うことが有用である。
また、近隣のASP・SaaSを導入している地方公共団体からの情報提供も有効な手段 として想定されるが、ASP・SaaSを導入している地方公共団体は、ASP・SaaS事業 者に対して一定の秘密保持義務を負っている場合があることに留意する必要がある。
ASP・SaaSについての情報提供を依頼された地方公共団体においては、秘密保持義務 違反を避けるため、ASP・SaaS事業者と情報提供の内容について事前に協議すること が望ましい。
これに加え、財団法人マルチメディア振興センターの「ASP・SaaS安全・信頼性に 係る情報開示認定制度」の認定を受けているサービスの一覧や、特定非営利活動法人 ASP・SaaSインダストリ・コンソーシアムの「ASP・SaaS・ICTアウトソーシングア ワード」の表彰を受けたサービスの一覧なども情報収集や分析の際の参考となるもの である。
6.5.4 調達仕様書の作成
調達仕様書の作成にあたっては、ASP・SaaS事業者が提供しているサービスを調査 し、それらのサービスレベルと業務の遂行に必要となる要件などとの差異を比較(フ ィット&ギャップ)し、検討した上で調達仕様書を作成することが重要である。その 際、過度に高いサービスレベルを要求する仕様書を作成するとこれに対応できる ASP・SaaS事業者が存在しなくなることも起こりうることから、地方公共団体側で必 須要件として求める機能、必須ではないが業務効率の向上などの効果が見込まれる機
能など、優先順位を整理するとともに、必須でない機能が含まれているような提案に ついては例えば評価の際に加点するといった対応を検討しておくことも必要である。
また、ASP・SaaS事業者が提供している既存のサービスでは業務の遂行に必要とな る要件が満たされない場合は、まず地方公共団体側で業務の方法をASP・SaaS事業者 のサービスに合わせることの可否について検討を行い、それが困難な場合においては 機能追加などのカスタマイズについてASP・SaaS事業者と調整することを検討すべ きである。ただし、カスタマイズを行う場合は料金の増加も想定されるところであり、
カスタマイズすることのメリット・デメリットについて十分に考慮する必要がある。
提案依頼書(RFP:Request For Proposal)を作成する際は、地方公共団体があ らかじめ行った情報収集やその分析結果とともに、意見招請(RFI:Request For Information)を通じて事業者から提供された情報を参考にすることも有効である。
6.5.5 ASP・SaaS事業者の選定
地方公共団体におけるASP・SaaS事業者の選定の方法としては、一般競争入札、総 合評価方式、プロポーザル方式などが考えられるが、それぞれの方法についての留意 事項を以下に示す。
(1) 一般競争入札(最低価格落札方式)
最低価格落札方式は、地方公共団体の業務遂行にあたって必須となる機能が明確で あり、それ以外の機能(事業者からの提案)の必要がないことが明らかであると判断 される場合に適した手法である。
(2) 一般競争入札(総合評価落札方式)
総合評価落札方式は、地方公共団体の業務遂行にあたって必須となる機能が明確で あるが、ベンダーから提案されるサービス内容やサービスレベルと利用料金を総合的 に評価することが適当と判断される場合に適した手法である。
(3) プロポーザル方式
プロポーザル方式は、地方公共団体の業務遂行にあたり、ベンダーからの提案をも とにASP・SaaSの導入を検討することが適当と判断される場合に適した手法である。