接触点
(a)
31
R r
R-r
R+r
2 Rr
r R
1 sin 1 sin
cos cos
R r
θ
Fig. 2.18探針先端サイズによる観察像への影響、(a)探針と試料の接触点
(b)探針が試料構造よりも大きい場合の接触時の観察像の広がり、(c)探針先端が 試料構造よりも小さい場合の接触時の観察像の広がり
このときの観察像の広がり幅は Fig.2.18(b)(c)のように探針先端半径と試料構造 のサイズの関係によって異なり、探針先端が試料構造よりも大きい場合は観察 される試料構造のサイズは実際のrに対して2√Rr、探針先端が試料構造よりも 小さい場合は探針の側面の開き角が支配的な要素となり実際の試料構造サイズ
rに対して
1 sin 1 sin
cos cos
R
r
程度のサイズとなる。
(b)
(c)
32
また、例としてFig.2.19(a)のような高さ10 nmの矩形断面構造を、先端形状
が半径30 nmの半球状の構造を持つ円錐状の探針で観察すると、Fig.2.19(b)の
ような観察像が取得される。この像では上辺から1 nmの部分における幅の広が りが8 nmとなり、実際の試料情報よりも大きな形状として観察されることがわ かる。探針先端の曲率半径を含む探針のサイズが試料構造に対して大きくなる につれて歪みも大きくなるため、微細構造の測定では歪みを補正する手段が重 要になる。
Fig. 2.19 走査型プローブ顕微鏡での観察像歪み
(a)
(b)
10 nm
R(30 nm)
(9 nm)
Spread size (8 nm)
33
2.2.4 探針と試料の相互作用による影響 探針の挙動計算
2.2.3章で示されるように走査型プローブ顕微鏡の観察では探針先端の 構造が観察対象に対して微細なほど探針先端構造そのものの大きさによる観察 像の位置エラーの発生が少ないため、十分に小さい探針先端形状を使用した観 察が理想となるが現実では探針の変形や破損の影響があるため、用途によって ピラミダル形状、高アスペクトな針状構造、カーボンナノチューブによるチュ ーブ状の探針などが使用される。一方で、AFMでの観察では探針先端形状の影 響だけでなく試料構造と探針の接触による位置エラーも発生しそれが観察精度 の低下に繋がる場合もある[7,8]。以下に探針の挙動による位置エラーの原理を示 す。
Fig2.20(a)に探針が試料上の斜面に接触した際の挙動解析モデルを示した。探 針が急峻な斜面に接近したとき下向きに原子間力(この場合、斥力を想定)Fz
が働く。この力は探針に働く摩擦を考えると、斜面に対する垂直成分がFnであ るので上向きにFt(=ηFn ; η:摩擦係数)の摩擦力が働く。平行力Fpと斜面に対 する垂直力Fnに分けられる。斜面に沿ったこれらの力から、探針に働くZ軸成 分とXY平面成分の力が釣り合う条件を以下に示した。
① Z方向(垂直成分)のプローブに逆らう力はFn cosθ+Ff sinθとなる。こ の力は設定力Fcと釣り合う。
② ねじれ成分(面内成分)の力はFn sinθ-Ff cosθで求められる。この力は プローブの撓みによって釣り合う。
プローブの滑りは平行力Fpが摩擦力Ffよりも大きくなるときに生じる。その結 果、プローブ先端はねじれ、プローブの位置エラーΔrが発生する。このとき、
Fn sinθ-Ff cosθの力はプローブのねじれ成分のばね定数kt(ねじれ力ktΔr)に よる力と釣り合う。
Fig.2.0(b)は急峻な斜面にプローブを接近させたときのプローブ先端の変化の 模式図である。これにより、Δrは式(2.38)のように求まる。破線で描いたプロー ブは先端のねじれがなく滑りのない状態である。実線で描いたプローブ先端は 設定力F cや傾斜角度の大きさによってねじれ、滑りを引き起し、垂直方向のズ
レΔz,平行方向のズレΔrの位置エラーが発生する。粗い近似でΔzを推定する
と、Fig.2.0より (2.39)式のように計算できる。
34
以上、プローブ先端のねじれによる滑りの位置エラーΔr、Δz は以下の式よ り求めることができる。Eはヤング係数、F cは設定力、ktはねじれ成分のバネ 定数、γaはプローブのアスペクト比である。位置エラーΔr は接触力 F zとプロ ーブのねじれ成分のバネ定数、Fig.2.21 に示したプローブと斜面の幾何学的な 関係から求められる。位置エラーΔrはΔzとtanθから求められる。
Fig2.20 (a) 探針の挙動解析モデル (b)プローブ先端の挙動模式図
Δ r
Δ z
カンチレバー
プローブ
Δ r
Δ z
カンチレバー
プローブ
(b) (a) Fn t
Ff
Fz
Fn Ff t
Fp
Ffz Fn z
Fc=(Fn z+Ff z)
Fn
Ft=(Fn t+Ff t)
sample プローブ カンチレバー
垂直力
摩擦力
平行力 Fn t
Ff
Fz
Fn Ff t
Fp
Ffz Fn z
Fc=(Fn z+Ff z)
Fn
Ft=(Fn t+Ff t)
sample プローブ カンチレバー
垂直力
摩擦力
平行力
35
(3.1)傾斜角度依存性
Fig.2.21 は、(2.38)-(2.40)式より傾斜角を変化させたときのプローブの位置エ
ラーΔr、Δzを設定力F c=10 nNで一定にして、摩擦係数η=0.2の条件で求め た結果である。横軸を傾斜角度、縦軸をプローブの位置エラーで示した。
Fig.2.21 斜面の傾斜角度とプローブの位置エラーの関係
位置エ ラ ー r , z [n m]
斜面の傾斜角度 θ [deg.]
1 10
-110
210
10
-210
330 60 90
a=20
a=10
a=5 1
10
-110
210
10
-210
330 60 90
a=20
a=10
a=5
Fc=10-8[N]
θ :小
r z
位置エ ラ ー r , z [n m]
斜面の傾斜角度 θ [deg.]
1 10
-110
210
10
-210
330 60 90
a=20
a=10
a=5 1
10
-110
210
10
-210
330 60 90
a=20
a=10
a=5
Fc=10-8[N]
θ :小
r z
r z 64
3
tan
sin cos
cos sin
4
a t
t
k El
r z
k r F
c
・・・(2.38)・・・(2.39)
・・・(2.40)
36
(3.2)設定力依存性
Fig.2.22 は、(2.38)-(2.40)式より設定力を変化させたときのプローブの位置エ
ラーΔr、Δzを傾斜角θ =85°を一定にして、摩擦係数η=0.2の条件で求めた結 果である。横軸を設定力、縦軸をプローブの位置エラーで示した。プローブの 位置エラーΔzを1 nm以下にするには、アスペクト比5のプローブの場合、設 定力を10-9 N よりも小さくし、アスペクト比10のプローブの場合、10-10 N よ りも小さくし、アスペクト比20のプローブの場合、10-11 N よりも小さくする 必要がある。
Fig.2.22 設定力F cとプローブの位置エラーの関係
10
6位置エラ ー r , z [n m]
設定力 F
c[N]
1
10
-410
-210
210
410
-1310
-1110
-910
-7γ
a= 20
γ
a= 5
γ
a= 10
= 85 deg z r
Fc:小10
6位置エラ ー r , z [n m]
設定力 F
c[N]
1
10
-410
-210
210
410
-1310
-1110
-910
-7γ
a= 20
γ
a= 5
γ
a= 10
= 85 deg z r
Fc:小37
2.2.5 測定画素数の影響
観察像の分解能に影響する要因としてはこれまでに述べた観察装置と試料の 物理的な相互作用の影響のほかに観察装置でデータを取得する際のサンプリン グ数の影響が挙げられる。観察像のデジタルデータから走査時のアナログデー タを復元する際に xy 方向の分解能 n を得るためには、サンプリング定理より画 像1ピクセル辺りの大きさは n/2 以下である必要がある。そのため 1 nm の分解 能を得るためには 0.5 nm の画素データが必要となる。
例として観察範囲が 1000 nm×1000 nm、256 px×256 px のデータを取得する と観察像の 1 画素のサイズは 3.9 nm、分解能は 7.8 nm となる。構造のサイズが 大きくなり、観察範囲が大きくなる場合に同じ画素数で観察を行うと分解能が 低下するため、目的に合わせてサンプリング数を増やす、観察範囲を絞り込む 等のパラメータ調整が必要となる。
2.3 探針形状推定による AFM 観察精度向上
前章にて述べた観察精度の悪化に繋がる要因を取り除いて高精度な観察を行 うためには計測時の印加力、走査速度、サンプル数の最適設定を行うとともに 探針形状そのものの大きさによる影響を取り除く必要がある。
取得された観察像から探針形状の影響を取り除くには観察時の探針情報が精 度よく取得されている必要がある。そのような探針情報の取得方法としては以 下のような手法が実施されている。
(1)ステップ構造での探針プロファイル取得
(2)針状構造での探針情報取得
(3)観察像からの Blind Reconstruction 以下にそれぞれの推定手法の概要を述べる。
38
(1)ステップ構造での探針プロファイル取得
観察時に使用した探針形状の2次元的なプロファイルを取得する方法として アスペクト比の高い矩形のステップ構造を使用してその観察像のプロファイル から探針情報のプロファイルを取得する方法が報告されている[12-14]。
このプロファイルの推定では Fig.2.23 のように垂直に近い高アスペクトの構 造を持つ試料に対して観察像を取得し、プロファイルの情報から探針情報を取 り除くと探針情報の2次元的なプロファイル情報が得られる。
探針
標準試料 標準試料
探針
Fig.2.23 探針プロファイル測定用構造
(2)針状構造での探針情報取得
また3次元的な探針情報を取得する方法として、Fig.2.24 のように急峻な針状 の構造を使用する方法がある[15]。この方法では観察像をそのまま探針情報とし て取得する。探針情報が試料構造に対して十分に大きい場合は有効であるが理 想的な試料構造が作成できないことや試料・探針それぞれの変形などにより情 報の精度が低下する問題が起きる。
(a) (b)
39
探針 標準試料
Fig.2.24 針状の探針形状測定用構造
探針先端の形状に対して観察像の広がりは Fig.2.19 の図で示されるような関 係となる。このとき探針先端の形状は試料構造の開き角がない場合でも探針先 端と試料構造の先端半径よりFig.2.25のように2√Rrの広がりが起こる。例と して探針の推定誤差を10%以内としたい場合、試料構造の先端半径は 3 nm 程度 の大きさである必要がある。このような探針構造に対して十分に小さい試料構 造は加工の難しさや探針の接触による破損などの実用に向けての背反が大きく なる。
先端半径10 nm
先端部の軌跡(AFM像)
AFM像での粒子径
=28.2 nm
構造 先端半径20nm
2 Rr
Fig.2.25 探針先端径と構造の対応`
40
(3)観察像からのBlind Reconstruction
3次元的な探針情報を取得する方法として Blind Reconstruction 法がある[16]。 この方法は試料構造が未知の状態の観察において、観察像に含まれる垂直成分 が最大の部分が探針情報を最も反映しているという予測のもと、観察像に含ま れる形状全てから探針情報の外径情報を取得する方法である。手法は以下の(a)
~(d)の手順に沿って実施される。
(a)探針情報の推定に使用する仮の探針データを作成し、探針情報の特定の座標 を頂点として試料観察像の表面に対応させて観察像を走査する
(b)走査を行う過程の観察像各座標において観察像の走査座標を固定として、観 察像を探針情報の表面に対して移動する
(c)観察像を移動した際に探針の頂点座標が観察像表面の内側にあるか判定す る
(d)判定が成立した条件を全て重ね合わせた軌跡の中から最も外側の観察像表 面の情報を全て取り出し探針情報の表面として採用する
例として Fig.2.26(a)で示される探針形状と試料形状で観察を行った結果で ある Fig.2.26(b)に対して Blind Reconstruction を適用して探針情報を取得す る場合の手順を示す。
探針 試料構造
観察像 (a)
(b)
Fig.2.26 (a)探針と試料構造 (b)作成される観察像の例