本章を閉じるにあたって,以上の質問紙調査の回答結果の分析も踏まえながら,ペッ ト飼育者のマンション居住に関する知見を整理しこの主題に伴う諸課題を確認しておき たい。
まず,「ペットを飼育すること」の意味合いの変化がペット飼育(希望)者の住宅の 選好やライフスタイルに大きな影響を与えていることが確認された。ペットを飼育する こと,ペットとともに生きることの「意義」や「効用」が認められ,社会的な認知や承 認が広まるにつれて,住宅選好にあたって「ペットが飼える・飼いやすい」という条件 がかつてなく一定の入居(希望)者にとって重要なものとなり,それに見合った住宅供 給もなされるようになってきている。とりわけ,ペット飼育者のマンションの選好にあ たっては,ペット飼育に関わる独特のニーズや条件がある。まずは,「ペット飼育可」
のマンションであることが大前提であるが,中には「犬のみ可」とか「小型犬のみ可」
といった制約がついていることもよくあり,大型犬やネコの飼育者は選択肢が狭まるこ とが多い。また,室内で飼育できるだけのスペースがあり,居室内や共用部分の設備や
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仕様がペット飼育に適したものであると評価が高くなる(手入れ等を考えると和室より も洋室の方が使いやすい)。また,近隣の環境については,よい動物病院があるかどう か,休日や夜間などの非常時にかけこめる救急対応の動物病院がアクセス可能な範囲に あるかどうか,生活圏内にあるペット用品店は品ぞろえが豊富か,不在時や旅行・出張 等の時にペットを預けられるペットホテルや自宅に世話に来てくれるペットシッターな どのサービスが受けられるか,といったことも生活上のゆとりや質の高さを左右する重 要なポイントである。
また,ペット飼育者や愛好者については「ペットが縁で」思わぬ出会いや人づきあい が生じたり,同好者のネットワークに参加する機会が生じたりすることがある。ペット 同伴で飼育者どうしが居合わせるような場所や機会,例えば動物病院の待合室などで
「かわいいですね」「どこか具合が悪いんですか?」等の会話が自然に発生し,見ず知ら ずの人どうしの会話がはずむこともしばしばである。こうした接点は,散歩などで頻繁 にペットを連れて外出するイヌの飼育者の場合にはもっと多くなり,散歩の途上で知り 合って何度も顔を合わせているうちに友だちになったなどのエピソードに事欠かない。
こうしたペットつながりの人間関係は,(特に新参の入居者にとっては)「どこの動物病 院がよいか」「○○についてはあそこのペット用品店がお買い得」「どこそこのマンショ ンはペットに関して対応が厳しい/柔軟である」といった口コミ情報のやり取りの貴重 な場ともなる。
とはいえ,このような条件整備や(徐々にではあるが)ペット飼育に関する世論の変 化にもかかわらず,マンション内外の近隣においては「ペット嫌い」の住民が間違いな く存在するし,アレルギー等の理由で一定の配慮やペットとの空間的隔離が必要なケー スもある。とりわけマンション等の集合住宅でのペット飼育にあたっては,ペット飼育 者と非飼育者の関係調整やコンフリクトを解消する枠組みの存在がトラブルの防止や軽 減に大きく貢献することになる。今後はますます「ペット飼育」へのニーズが高まり,
すべての集合住宅において多少なりともこの懸案への対応(ルールづくりや規約の変 更,ペット飼育に関する話し合いや合意形成など)が課題として浮上してくる可能性が ある。そうした中で,双方がお互いのニーズや価値観の違いを認識し,それぞれの住民 層が主張や譲歩をし合いながら折り合いが可能な着地点を探す努力をすること,そうし た意見表明や合意形成ができるような場や仕組みの確立が求められるであろう。
注
⑴ 竹田と小林は集合住宅におけるペットトラブルの発生源として「鳴き声」「共用スペースでの排泄」
「洗濯物につく毛」「臭い」の4つを挙げている(竹田・小林2005 : 80)。
⑵ 持ち家や分譲マンションと比べて賃貸住宅では公然とペットとともに暮らすためのハードルが高くな るというこうした状況は,高齢者や低所得者など住居を購入する経済的な余力のない人たちが「ペッ
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トとともに暮らす」というライフスタイルの選択をする際のハードルを高くし,公認されていないが
「どうしても動物と暮らしたい」という人たちをして「規約違反」状態での飼育に向かわしめる大きな 要因となっているといえる。
⑶ 正式名称は「動物の愛護及び管理に関する法律」で,昭和48年に議員立法で制定された。法律の目的 は,動物の愛護と動物の適切な管理(危害や迷惑の防止等)であり,平成24年の改正では動物取扱業 の適正化(ペットショップ等における動物の生育環境の改善等),終生飼養の明文化(無責任な飼育者 による遺棄行為への戒め),動物の遺棄や虐待に対する罰則の強化などが行われており,動物の愛護や 適正飼育への世論形成を後押ししている。
⑷ ターナーは,動物飼育が心身の健康増進に資することを示した先行研究の成果として,心臓発作での 入院を経験した患者の1年後生存率がペット飼育者の場合は他より高い,ペット飼育者は日常生活で の運動量が多く健康のリスクファクターが低い,ネコの飼育者は他よりもうつ傾向や不安心理が弱く,
ネコの飼育がネガティブな気分を緩和する(ただしポジティブな気分をさらに上げるわけではないが)
等の実験に基づく知見を示している(ターナー2011)。
⑸ このトピックについては,『週刊朝日』2014年4月25日の記事にレポートがある。朝日新聞出版のウ ェブ版ニュースサイト dot. (http : //dot.asahi.com/wa/2014041800035 html)を参照。2014年9月20日 閲覧。
⑹ 集合住宅におけるペット飼育に関わるトラブルや,住民間の話し合いによる規約の策定・変更に関す る調査研究としては(新島2002),(竹田・小林2005)を参照。
⑺ なお,今回の調査はペット飼育者を対象としたものではなく,統計的な分析に耐えうるペット飼育者 の回答者数が得られていないため,以下の分析結果はあくまで参考値として示すものである。また,
本調査はランダムサンプリングに基づく標本調査の形をとっていて,調査者とペットを実際に飼育し ている回答者とのラポールが形成されているわけではない。ペット飼育に関しては上述の通りマンシ ョンの規約との兼ね合い(特に「飼育禁止」のところで飼育している場合)や近隣住民・管理組合や 業者との関係がうまくいっていない等の理由で,ペットの飼育に関する回答が実態を反映していない ものになるリスクを排除できない。質問項目・内容の設定にあたっても回答者側にそのような警戒心 を喚起しないように,ペットを飼育しているかどうかを直接質問しておらず,分析にあたってはいく つかの関連する質問から推測する形を取っていることに留意されたい。
参考文献
加藤謙介,2011,「地域における要支援・要介護高齢者のペット飼育に関する意義と課題−ナラティヴ・ア プローチの視点から」『九州保健福祉大学研究紀要』12 : 21−29.
新島典子,2002,「集合住宅におけるペット飼育−管理規約運用の揺れ動き事例」『相関社会科学』12 : 38
−51.
岡田美香,2011,「ペットと住居をめぐる現状−最新判例を踏まえて」『法律のひろば』2011年8月号:38
−46.
ターナー,デニス・T, 2011,「動物介在療法(アニマル・アシスティッド・セラピー)に関する国際基準 と質管理」,一之瀬正樹・新島典子編『ヒトと動物の死生学−イヌやネコとの共生,そして動物倫理』
秋山書店,15−42.
竹田喜美子・小林靖子,2005,「集合住宅におけるペット飼育に関する研究−ペット共生社会を支援する居 住環境の再編」『学苑・環境文化紀要』777 : 77−91.
山崎恵子,1999,「欧米におけるペット飼育高齢者へのバックアップ体制」『Relatio』1999年夏号:28−29.
(徳田剛)
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