• 検索結果がありません。

11.結 論

ドキュメント内 雑誌名 評論・社会科学 (ページ 90-113)

2

章の基礎統計の分析からは,都心区において

1990

年代以降,特に

2000

年代に入っ てからマンションが急増し,東京一極集中により業務空間化していた都心区が再び居住 空間へと変貌しつつあることが確認された。年齢コーホートごとの人口動向によれば都 心区で

30

歳代前半を中心に家族形成期にあたる年齢層が急増しており,年齢層に偏り のない人口構成から

30〜40

歳代を中心とした構成に変化している。また,職業階層別 では,都心

3

区で管理職が全職業に占める比率は減っているが絶対数は伸びており,専 門技術職では構成比・絶対数ともに増加している。とりわけ中央区は東京都心

3

区のな

10−4−1 直近の地方選挙の投票率(個人属性別)

区長選 区議選 性別 男性

女性

79.8%

70.4%

79.2%

71.1%

年齢

20歳代 30歳代 40歳代 50歳代 60歳代 70歳代

42.3%

71.4%

72.0%

83.3%

83.3%

87.1%

42.3%

71.4%

70.7%

85.2%

86.1%

84.8%

職業 管理 専門 事務

販売・サービス・生産等 その他

無職

85.5%

75.4%

65.6%

68.4%

87.5%

70.3%

85.7%

76.9%

64.1%

73.7%

87.5%

68.0%

雇用形態

経営者・役員 常雇

派遣・パート・アルバイト 自営業・家族従業者 年金生活者 学生 無職 その他

85.7%

71.0%

75.8%

76.5%

89.5%

50.0%

64.7%

80.0%

88.4%

71.8%

75.8%

76.5%

85.0%

25.0%

64.7%

80.0%

全体 74.1% 74.2%

10−4−2 直近の地方選挙の投票率(世帯・住

宅類型別)

区長選 区議選

世帯構成

単身世帯 夫婦のみ世帯 未婚子のいる世帯 その他

71.2%

71.1%

79.4%

73.0%

74.6%

70.4%

80.4%

67.6%

世帯年収

300万円未満 300〜600万円 600〜1,000万円 1,000〜1,500万円 1,500万円以上

60.0%

76.7%

76.5%

75.9%

73.5%

69.2%

76.7%

76.5%

75.0%

73.5%

住宅所有 所有 非所有

77.5%

71.6%

75.8%

72.9%

転入時期

2011年以降 2009〜10 2003〜08 2002年以前

60.0%

78.9%

79.8%

85.4%

61.0%

76.1%

82.4%

83.7%

全体 74.1% 74.2%

「都心回帰」時代の東京都心部のマンション住民と地域生活 89

かでもこうした変化が急激にあらわれていた。

東京都中央区で行った質問紙調査では,国勢調査等の基礎統計からはみえない都心マ ンション住民の意識と行動を明らかにするため,①回答者の基本属性,②マンション居 住,③ライフスタイル,④近所付き合い,⑤町内会・自治会活動,⑥ペット飼育,⑦社 会意識,⑧政治・行政参加について尋ねた。

本調査の回答者の特徴は職業,学歴,世帯年収の点で社会階層が際立って高い点にあ り,中央区全体と比べても突出している。世帯構成に関しては,夫婦のみの世帯と未婚 子がいる世帯が約

1/3

ずつを占めていた。中央区では単身世帯が

5

割を超えるが,本調 査の回答者では

2

割にとどまる。本調査では対象者抽出過程においてマンションが多い 地域を選定し比較的大規模なマンションを抽出した。このため,ワンルームマンション や小規模な共同住宅に住む単身者が含まれず,単身世帯が少なかったのだろう。調査対 象マンションの大半は

2000

年代に建設された民間マンションであり,大規模なマンシ ョンの建設により社会階層や世帯構成の点で周辺地域とは異なるアッパーミドル層の集 住が進んでいることがうかがわれる。こうした住民の集住が都心の地域社会に与える影 響を考察するために,質問紙調査データの分析において世帯年収や世帯構成で有意な差 がみられた項目を中心にまとめていこう。

世帯年収に関して特徴的な傾向がみられたのは,住宅類型,マンションや近隣への満 足度,消費行動,近所付き合いと地域参加,社会意識,政治意識の項目である。住宅類 型については世帯年収が増えるほど分譲・所有が多いが,年収の最上層では民間賃貸が 多くなる。また,公営住宅の賃貸は入居制限があるため低収入層に偏っている。現在の 住居および近隣地区の満足度は全般に高いが,強い満足を感じるのは高収入層に多く,

高収入層は転勤等のよほどの事情がない限り定住すると予測される。また,衣服・服飾 品の買い物については高収入層は他の層に比べて百貨店の利用率が高い。マンション内 の活動や行事への参加と町内会・自治会への加入については,「あり」という人がどち らも回答者の

4

割にみたず,特に高収入層は参加率および加入率が低い。また,町内会 や連合町内会の役員に知り合いがいる比率も同様に,高収入層で低くなる。しかし,近 所付き合いについては,マンション内の家の訪問は低収入層で多いことを除けば,マン ション内外のどちらにおいても世帯年収による差はみられない。マンション内理事会や 町内会等の組織を経由しないネットワークが存在するのだろう。社会意識については,

高収入層において競争による格差を是認する傾向がある。政治意識においては,国政へ の信頼感は低所得層のほうが高い。また,政治的有効性感覚は世帯年収との関連はみら れなかったが,管理職や専門職はほかの職業に比べて国政と地方政治に対する有効性感 覚が強く,区長選・区議選で投票したと答える率が高かった。

世帯構成に関しては,消費行動,近所付き合いと地域参加,ペット飼育との関連がみ

「都心回帰」時代の東京都心部のマンション住民と地域生活 90

られた。買い物先は,未婚子のいる世帯ではスーパーやショッピングセンター,生協の 利用が他の世帯類型より多く,夫婦のみ世帯では衣服・服飾品を専門店で購入する率が 他の世帯類型より多い。文化芸術の鑑賞は全般に活発だが,未婚子のいる世帯では他の 世帯構成に比べて文化芸術鑑賞とスポーツや趣味の習い事のどちらもあまり行なってい ない。都心には百貨店やブランド店,美術館など商業や文化芸術施設が分厚く集積する が,他の世帯類型に比べると,未婚子のいる世帯の生活においてその集積はあまり重要 でないと言える。マンション内および地域コミュニティにおける付き合いは,子供をき っかけとすることが多く,未婚子のいる世帯が他の類型に比べて活発である。また,町 内会・自治会に期待する活動としては属性に関わらず防犯・防災・防火が上位を占める が,そのほかに未婚子のいる世帯では育児の援助や祭礼行事に期待を寄せる傾向があ る。また,ペット飼育に関する探索的な分析からは,ペット飼育を住宅選好の条件とす る人々は子供がいない(あるいは子育てを終えた)シニア世代というイメージが浮かび 上がった。まとめると,世帯構成は意識項目との関連がみられず,買い物等の消費行動 や近所付き合いのような日常の行動と関わっている。特に,子どもがいることが回答者 の行動を強く規定していた。

では,こうした夫婦のみ,あるいは未婚子のいるアッパーミドル層の世帯の増加は都 心地域にどのような影響をもたらしうるだろうか。第

1

に,地域コミュニティに対する 影響が考えられる。アッパーミドル層はマンション内活動への参加や町内会・自治会へ の加入をしない傾向があるため,アッパーミドル層の住民の増加は町内会・自治会の加 入者増加にはつながらない。しかし,マンション内理事会や町内会等の組織を経由しな いネットワークがつくられていく可能性は高い。また,未婚子のいる世帯の増加は子ど もを介したネットワークをマンション内外に活発に広げていくだろう。アッパーミドル 層のネットワークが余暇を楽しむだけの「ライフスタイルの飛び地」(高木

2012 : 133−

134)にとどまるか,共同問題の解決をはかれるような地域コミュニティの醸成につな

がるかは,マンション住民の新たなネットワーク同士や既存のネットワークとを結びつ ける仕掛けにかかっているだろう。第

2

に,周辺の商業に与える影響が考えられる。ア ッパーミドル層や夫婦のみの世帯は百貨店や専門店といったこれまでの都心の商業集積 にのった消費行動をとっているが,未婚子のいる世帯はスーパーやショッピングセンタ ーのように都心に欠けているものを求めており,足りない部分を生協や通販で補ってい るように思われる。どちらの人口が優勢になるかで都心の商業が様変わりするかもしれ ない。第

3

に,政治への影響である。アッパーミドル層は競争による格差を認める傾向 があり,また地域政治に参加する傾向があることを考え合わせると,アッパーミドル層 の住民の増加は都心自治体の政策を格差容認の方向へ向かわせる可能性がある。

欧米のジェントリフィケーション研究においては,低階層の追い出しとともにアッパ

「都心回帰」時代の東京都心部のマンション住民と地域生活 91

ーミドル層の価値志向が都心空間を覆っていくことに強い懸念が示されており,ジェン トリフィケーションの原因ではなく帰結を解明する研究が要請されている(Lees et al.

2008)。本章ではそうした問題意識にもとづき,マンション住民急増が地域社会に与え

る影響について

3

つの可能性を示した。しかし,これらは仮説的なものであり,マンシ ョン住民を含めた都心の地域コミュニティを対象として調査し,新旧住民の相互作用と その帰結を注視していく必要があるだろう。そのため,我々は中央区において,マンシ ョン住民に対してだけでなく,すべての住民階層を対象としたコミュニティの事例的な 調査を計画している。

参考文献

高木恒一,2012,『都市住宅政策と社会−空間構造−東京圏を事例として』立教大学出版会.

Lees, Loretta, Slater, Tom and Wyly, Elvin, 2008,Gentrification,Routledge.

謝辞

お忙しい中,面倒な質問紙にご回答いただいた東京都中央区の住民の皆様方に深く感謝を申し上げます。

また,インタビューや資料の提供など調査研究に協力していただいた,東京都中央区の企画部財政課,都 市整備部住宅課,区民部地域振興課および選挙管理委員会など関係諸機関にも厚く御礼を申し上げます。

注記

この共同論文は,科学研究費の基盤研究(B)「『都心回帰』時代の大都市都心における地域コミュニテ ィの限界化と再生に関する研究」(代表者:鯵坂学)による研究の一部である。

(上野淳子・鯵坂学)

「都心回帰」時代の東京都心部のマンション住民と地域生活 92

ドキュメント内 雑誌名 評論・社会科学 (ページ 90-113)

関連したドキュメント