項目 積率母関数,独立な確率変数 記号 積率母関数 mX(t) =E[
etX]
公式 独立な確率変数 mX+Y(t) =mX(t)mY(t)
7.1
独立な確率変数
・2つの確率変数X, Y について下記の条件が成立するとき,確率変数XとY は独立であるという.
任意の実数x, yに対して,2つの事象{X≤x}と{Y ≤y}が独立である.すなわち,
P{X≤x, Y ≤y}=P{X≤x}P{Y ≤y}, ∀x, y∈R
(同時確率P{X≤x, Y ≤y}がそれぞれの事象の確率の積P{X ≤x}P{Y ≤y}に等しい)
・2つの確率変数X, Y が独立であるとき,X, Y を含む期待値の計算はそれぞれ個別に行えばよい.
和の期待値は,期待値の線形性から,常に(独立であっても独立でなくても)期待値の和である.
E[f(X) +g(Y)] =E[f(X)] +E[g(Y)]
積の期待値は,独立でない場合には,相互に影響しあうので,期待値の積と等しくはないが,
E[f(X)g(Y)]̸=E[f(X)]E[g(Y)] (XとY が独立ではないとき)
独立であれば,X, Y を含む期待値の計算はそれぞれ個別に行えばよいので,期待値の積と等し くなる.つまり,2つの確率変数X, Y が独立であるとき,すべての関数f, gについて
E[f(X)g(Y)] =E[f(X)]E[g(Y)] (XとY が独立であるとき)
が成立する.(逆も正しい)
したがって,X, Y が独立であるとき,共分散は
Cov[X, Y] =E[XY]−E[X]E[Y] = 0である.
よって
V ar[X+Y] = V ar[X] + 2Cov[X, Y] +V ar[Y]
= V ar[X] +V ar[Y] (XとY が独立のとき)
7.2
積率母関数
・ 積率:モーメントE[Xn]
・ 積率母関数
確率変数Xに対して,tを変数とする関数を期待値によって定義する.
mX(t) =E[
etX]
mX を確率変数Xの積率母関数(moment generating function)と呼ぶ.名前が示唆する,積率母 関数がモーメントを生み出す関数であることは,テーラー展開を用いて次のように確認できる.
tを定数とみなして,xの関数etxをx= 0の周りでテーラー展開する.
etx=
∑∞ k=0
(etx)(k)
|x=0
k! (x−0)k=
∑∞ k=0
tk k!xk =
∑∞ k=0
xk k!tk 両辺のxに確率変数Xを代入して期待値を取る.
E[ etX]
= E
[∞
∑
k=0
Xk k! tk
]
=
∑∞ k=0
E[ Xk] k! tk すなわち
#
" ! mX(t) =
∑∞ k=0
E[ Xk]
k! tk= 1 +E[X]t+E[ X2]
2! t2+E[ X3]
3! t3+· · ·+E[Xn]
n! tn+· · ·
が得られた.積率母関数の展開式である右辺のtnの係数にXのn次モーメントE[Xn]が現れて いる.一方で,上式は積率母関数mX のt= 0の周りでのテーラー展開でもある.したがって,
テーラー展開の係数と微分の関係から,E[Xn]はm(n)X (0)と等しい.
m(n)X (0) =E[Xn]
このことは,積率母関数の定義式をtで微分しても得られる.
mX(t) =E[ etX]
⇒ m′X(t) =E[ XetX]
⇒ m′X(0) =E[X]
⇒ m(2)X (t) =E[
X2etX]
⇒ m(2)X (0) =E[ X2]
⇒ m(3)X (t) =E[
X3etX]
⇒ m(3)X (0) =E[ X3]
したがって,積率母関数を得ることができれば,そこから平均,分散も計算できる.
E[X] =m′X(0), V ar[X] =E[X2]−(E[X])2=m(2)X (0)−(m′X(0))2
7.3
分布と積率母関数
・ 分布
確率変数Xの分布は,その分布関数FX で特徴づけられるが,実は,モーメントの集合 {E[X], E[X2], E[X3], . . . , E[Xn], . . .}
によっても分布は特徴づけられる.したがって,これらモーメントを生み出す積率母関数mX は 分布関数FX と同じ情報を持っている.
2つの確率変数X, Y が同じ分布関数を持つとき,X ∼Y と表記したが,それは,XとY のそれ ぞれの積率母関数が等しい,ということでもある.
X∼Y ⇔ FX(x) =FY(x), ∀x∈R ⇔ mX(t) =mY(t), ∀t∈R
・ 独立な確率変数
2つの確率変数X, Y から,別の確率変数X+Y を考えよう.その積率母関数は定義より mX+Y(t) =E
[
et(X+Y) ]
=E[
etXetY]
である.最右辺の積の期待値が,期待値の積に変形できるかどうかは,X, Y が独立かどうかに 依存する.X, Y が独立であれば
mX+Y(t) =E[
etXetY]
=E[ etX]
E[ etY]
=mX(t)mY(t)
である.また,逆も真である.したがって,X, Y が独立かどうかは,mX+Y とmXmY が等しい かどうかで定まる.
'
&
$
% XとY は独立 ⇔ E[f(X)g(Y)] =E[f(X)]E[g(Y)], ∀f, g
⇔ mX+Y(t) =mX(t)mY(t), ∀t∈R
練習問題
Ex 7-1. 2つの確率変数X, Y は独立であれば Cov[X, Y] = 0 を示しなさい.
Ex 7-2. 2つの独立な確率変数X, Y を用いて,新たに2つの確率変数を
U =aX+bY, V =cX+dY (a, b, c, dは定数)
とするとき,E[U], V ar[U], Cov[U, V]をE[X], E[Y], V ar[X], V ar[Y]を用いて表しな さい.
演習問題
Problem 7-1. a, bを定数としたとき,maX+b(t) =ebtmX(at)を示せ.
Problem 7-2. mX(t) = 1
1−t2 のとき,E(X)とV ar(X)を求めよ.
Problem 7-3. cX(t) = ln (mX(t))で定義される関数をキュムラント母関数という. c′X(0) =E(X), c(2)X (0) =V ar(X)となることを示せ.
復習問題
Quiz 7-1. XとY が独立のとき,以下の等式が成立することを示せ.
V ar[X+Y] =V ar[X] +V ar[Y]