(平成29 年9 月9 日作成) 経営学系専門科目
基礎数学
2
講義ノート
首都大学東京 都市教養学部 経営学系 授業のテーマ 経済学・経営学を学ぶうえで必要な数学手法のうち,積分と確率を中心に学ぶ. 確率・統計や不確実性を扱う際に重要な諸概念を講義する.また,適時問題演習を行い,論理的 思考や数学の概念の理解と実践的な計算能力の向上を図る. 授業の到達目標 経済学・経営学関連の大学講義に必要な数学の概念を理解し,計算方法を習得 する.特に,不確実性に付随する諸概念を理解することと確率分布の期待値計算のための積分の 計算に重点を置く. テキスト 本講義ノートを毎回持参すること.ホームページからもダウンロード可能.章末の練 習問題,演習問題,復習問題については各自の予習,復習に利用されたい.教員が講義中に利用 することもある.この他,講義中にレジュメを配ることもある. ホームページ http://www.comp.tmu.ac.jp/bizmath/ スケジュール,連絡事項,問題解答などを掲載するので確認すること. 本講義ノート,問題解答 がダウンロード可能.目次
基礎数学2 ページ 日付 A.微分 1. 微分1 微分,合成関数の微分,積の微分 · · · 3 10/4・10/11 2. 微分2 テーラー展開 · · · 9 10/11 B.積分 3. 積分1 定積分,不定積分,原始関数 · · · 12 10/18 4. 積分2 部分積分,置換積分 · · · 17 10/25・11/8 まとめ 演習1(予備日) 11/15 C.確率と確率変数 5. 確率 基本事象,事象,確率,条件付き確率 · · · 24 11/22 6. 確率変数1 確率変数,分布関数,期待値 · · · 29 11/29 7. 確率変数2 積率母関数,確率変数の独立性 · · · 33 12/6 D.確率変数の分布 8. 分布1 ベルヌーイ分布,二項分布 · · · 37 12/13 9. 分布2 一様分布,正規分布 · · · 40 12/20・1/10 10. 分布3 ポワソン分布,指数分布 · · · 46 1/17 まとめ 演習2(予備日) 1/24 期末試験 1/31(予定) (1,2は基礎数学1の復習,5,6は統計学I,IIの復習) ギリシャ文字 α アルファ η エータ ν ニュー τ タウ β ベータ θ, Θ シータ ξ クシ υ ウプシロン γ, Γ ガンマ ι イオタ o オミクロン ϕ, Φ ファイ δ, ∆ デルタ κ カッパ π, Π パイ χ カイ ε イプシロン λ, Λ ラムダ ρ ロー ψ, Ψ プサイ ζ ゼータ µ ミュー σ, Σ シグマ ω, Ω オメガ1
微分
1
微分,合成関数の微分,積の微分
項目 n次関数・指数関数・対数関数の微分 記号 f′(x), d dxf (x) 公式 (xn)′ = nxn−1, (ex)′ = ex, (ln x)′ = 1x 合成関数の微分 d dxf (g(x)) = f ′(g(x))g′(x) 積の微分 (f (x)g(x))′= f′(x)g(x) + f (x)g′(x)1.1
微分
・ 関数f : D→ Rのグラフ上で十分近い2点(a, f (a)), (a + ∆x, f (a + ∆x))を通る直線を考える. x軸方向の変化(xの増分)∆x = (a + ∆x)− a に対して,y軸方向の変化(yの増分)は∆y = f (a + ∆x)− f(a)なので,その直線の傾きは ∆y ∆x = f (a + ∆x)− f(a) ∆x である.したがって2点(a, f (a)), (a + ∆x, f (a + ∆x))を通る直線は y− f(a) = f (a + ∆x)− f(a) ∆x (x− a) である.もしfのグラフが滑らか(とがっていない)であれば,∆xを小さくする(∆x→ 0)ときに,この直線は点(a, f (a))における接線に近づくであろう.その際に2点(a, f (a)), (a+∆x, f (a+∆x)) を通る直線の傾きが近づく極限の値 lim ∆x→0 f (a + ∆x)− f(a) ∆x を関数fの点aにおける微係数といい,f′(a)と表す.
したがってf′(a)は,なめらかなf のグラフの点(a, f (a))における接線の傾きを意味する.
・ 定義域上のすべての点x∈ Dに対して,その点における微係数を対応させる関数f′ : D→ Rを fの導関数という.f′(x)を df dx(x), d dxf (x) とも表す.関数fからその導関数f′を求めることを,微分する,という.関数fをn回微分し た結果をn階微分 (階はorderの訳)といい,下記のように書く. f(n), d nf dxn ; f (n)(x), dnf dxn(x), dn dxnf (x)
1.2
具体的な関数の微分
・ 公式:主な関数の微分 f′(x) = lim ∆x→0 f (x + ∆x)− f(x) ∆x の結果 ' & $ % f (x) = a (aは定数) ⇒ f′(x) = 0 (f′(x) = lim ∆x→0 a− a ∆x = 0 ) f (x) = x ⇒ f′(x) = 1 ( f′(x) = lim ∆x→0 (x + ∆x)− x ∆x = 1 ) f (x) = x2 ⇒ f′(x) = 2x ( f′(x) = lim ∆x→0 (x + ∆x)2− x2 ∆x = lim∆x→0(2x + ∆x) = 2x ) f (x) = xn (n̸= 0) ⇒ f′(x) = nxn−1 f (x) = ex ⇒ f′(x) = ex f (x) = ln x ⇒ f′(x) = 1x ・ 重要な性質:微分は線形(関数fに導関数 df dxを対応づける写像 d dx は線形写像) d dx(f (x) + g(x)) = d dxf (x) + d dxg(x), d dx(αf (x)) = α d dxf (x) (例) d dx(x 3+ 2x + 3) = d dx(x 3) + 2 d dx(x) + d dx3 = 3x 2+ 21.3
合成関数と積の微分
・ 合成関数f (g(x))の値は,先ずxからz = g(x)を計算し,次にその結果のz = g(x)をf (z)に代 入してy = f (z) = f (g(x))を計算する,という2段階の計算の結果である. ' & $ % ' & $ % ' & $ % • R•• •• g R f X Z Y x z = g(x) y = f (z) = f (g(x)) ・f (x) = exとg(x) = x2の合成関数 f (g(x)) = f (x2) = ex2 ・f (x) = exとg(x) = x2の積 f (x)g(x) = exx2・f (x) = exとg(x) = x2の微分はわかっているが,合成関数f (g(x)) = ex2 や積f (x)g(x) = exx2 の微分はどうなるであろうか?どちらも,単独の微分の結果f′(x) = ex, g′(x) = 2xに関連があ るはずである. ' & $ % 合成関数の微分 d dxf (g(x)) = f ′(g(x))g′(x) (外側から微分してかけ算) dy dx = dy dz dz dx (このようにも記述できる) ただし y = f (z), z = g(x) 積の微分 (f (x)g(x))′= f′(x)g(x) + f (x)g′(x) (ひとつずつ微分) これらは複雑な関数を微分する際に便利な公式であるが,特によく使うのは次の2つの公式で ある. d dxf (a + bx) = bf ′(a + bx) , d dxln g(x) = g′(x) g(x) (対数微分) g(x) = a + bx ⇒ f(g(x)) = f(a + bx), g′(x) = b ⇒ d dxf (a + bx)) = bf ′(a + bx) f (x) = ln x ⇒ f(g(x)) = ln g(x), f′(x) = 1 x ⇒ d dxf (g(x)) = g′(x) g(x) (例) · d dxe a+bx= bea+bx, · d dxe x2 = 2xex2, · d dxln(a + bx) = b a + bx · d dx(3x 2− 5x + 3)4 = 4(3x2− 5x + 3)3(6x− 5), · d dx ( 1 a + bx ) =− b (a + bx)2, · d dx(e xx2) = exx2+ 2exx, · d dx{(−5x + 2) ln x} = −5 ln x + −5x + 2 x · d dx { (−2x + 6)(3x2+ x + 1)}=−2(3x2+ x + 1) + (−2x + 6)(6x + 1) =−18x2+ 32x + 4 · d dx { (x + 3)√2− x}= d dx { (x + 3)(2− x)12 } = (2− x)12 −1 2(x + 3)(2− x) −1 2 ・ 商の公式 合成関数の微分の公式でf (x) = x1 を適用すれば d dx ( 1 g(x) ) =− g ′(x) (g(x))2 (g(x)̸= 0) が得られる. さらに積の微分の公式を用いると,商の公式 d dx ( f (x) g(x) ) = f ′(x)g(x)− f(x)g′(x) (g(x))2 , (g(x)̸= 0)
が得られる. (例) d dx ( a + bx c + dx ) = b(c + dx)− d(a + bx) (c + dx)2 , (c + dx̸= 0) ・ 対数微分の続き h(x) = f (x)g(x)とするとき,両辺の対数を取り ln h(x) = ln f (x) + ln g(x) 両辺を微分することにより h′(x) h(x) = f′(x) f (x) + g′(x) g(x) が成立する. (例) f (x) = x, g(x) = ex, h(x) = f (x)g(x) = xex ⇒ (積の微分) h′(x) = f′(x)g(x) + f (x)g′(x) = ex+ xex (対数微分) h′(x) = h(x) ( f′(x) f (x) + g′(x) g(x) ) = xex ( 1 x+ ex ex ) = ex+ xex or ln h(x) = ln(xex) = ln x + ln ex = ln x + x ⇒ h′(x) h(x) = 1 x + 1 ⇒ h ′(x) = h(x)(1 x + 1 ) = ex(1 + x)
練習問題
Ex 1-1. 次の関数をxで微分しなさい (a) √x (b) √x2+ 1 (c) exp ( −x2 2 ) (d) ln(x2+ 1) Ex 1-2. 次の関数をxで微分しなさい. (a) ax (b) x 1−γ 1− γ (γ̸= 1) (c) xe x2 Ex 1-3. 次の関数の1階微分および2階微分を求めなさい.(a) exp(a + bx) (b) exp(a + bx + cx2) (c) ln(1 + x) (d) x(1 + x)n
演習問題
Problem 1-1. 次の関数をxで微分しなさい. (a) (1 + x)2 (b) (3x2+ 5x + 6)3 (c) √2x2+ 3x− 1 (d) 5ex2−5x+2 (e) ln(−2x + 8) (f) ( x + 1 x )a (g) (1 + x)2(3 + x)3 (h) x5(1 + x)2 (i) (1 + x)ax1−a (j) xe−x2 (k) 2x + 3 x2− 3x + 1 (l) (x + 3) √ 2− x (ヒント:(a)-(f)は合成関数の微分の公式,(g)-(l)は積の微分の公式を用いる) Problem 1-2. 次の関数をxで微分しなさい. (a) 1 1 + x2 (b) x2 (1 + ex)2 (c) x 2ex Problem 1-3. 指数関数exの微分はexであった.一般の底a > 0の場合,指数関数axの微分は どうなるか.(ヒント: ax= eln axが成り立つことを使う.) Problem 1-4. x > 0とする.対数関数ln xの微分は1 xであった.一般の底a > 0の場合,対数関 数logaxの微分はどうなるか.(ヒント: logaxに対数関数の底の変換公式を適用 して二つの自然対数の商の形にする.)復習問題
Quiz 1-1. 次の関数をxで微分しなさい.
(a) (1−x)2 (b) (x2+5x)3 (c) (1+ax)2(1+bx)3 (d) ex(1+x)−1 (e) (1+x)aax
Quiz 1-2. 次の関数をxで微分しなさい (a) y = 1− x 1 + x (b) y = √ 1 + x4 (c) y = e x x (d) y = ln(2x 2− 1) Quiz 1-3. 次の関数の導関数の値が0となる点xを求めなさい.(a,bは「極値点」,cは「変曲点」 を求める問題) (a) − (x − a)2+ b (b) √1 2πσ exp ( −(x− µ)2 2σ2 ) (c) (b)の導関数
2
微分
2
テーラー展開
項目 テーラー展開 公式 f (x) = f (x0) + f′(x0)(x− x0) +21f′′(x0)(x− x0)2+· · ·2.1
テーラー展開
・fをn回微分して得られた導関数をf(n)と表し,n階微分という. (例) f (x) = xm ⇒ f(n)(x) = m(m− 1) · · · (m − n + 1)xm−n, f (x) = ex ⇒ f(n)(x) = ex ・ ある点x0の周辺の点xで(複雑な)関数fの値を簡単な関数で近似したいことがことがある.そ の場合,まず考えるのが接線である.点x0の1階微分で得られる接線は,x0の周辺において関 数f の値を1次関数(直線)で近似している.2次関数を加えれば近似がよくなるであろう. さらに3次関数,4次関数,…と高次の関数を際限なく加えた結果は,x0の周辺において関数f に一致することが知られている.その際のn次関数の係数にn階微係数f(n)(x0)が現れ,以下の x0の周りのテーラー展開が得られる.これを「x = x0の周りのテーラー展開」という. f (x) = f (x0) + f′(x0) 1! (x− x0) + f′′(x0) 2! (x− x0) 2+· · · + f(n)(x0) n! (x− x0) n+· · · x0における微分の値によって,x0の周辺の点xにおける関数の値f (x)を決定できることを意味 している.右辺はn次関数(x− x0)nの形の項の無限和である. 当然,x0が変われば右辺の展開の結果も変わることが多い(変わらないこともある). (例) · ex= 1 + 1 1!x + 1 2!x 2+· · · + 1 n!x n+· · · = ∞ ∑ n=0 1 n!x n (exをx = 0の周りでテーラー展開) · ex= e + e 1!(x− 1) + e 2!(x− 1) 2+· · · + e n!(x− 1) n+· · · = ∞ ∑ n=0 e n!(x− 1) n (exをx = 1の周りでテーラー展開) · x2 = 1 + 2 1!(x− 1) + 2 2!(x− 1) 2+ 0 3!(x− 1) 3+(以降ずっとゼロ)= x2 (x2をx = 1の周りでテーラー展開. 多項式は結局もとの形に戻る) · x3 = 1 + 3 1!(x− 1) + 6 2!(x− 1) 2+ 6 3!(x− 1) 3+ 0 4!(x− 1) 4+(以降ずっとゼロ)= x3 (x3をx = 1の周りでテーラー展開. 多項式は結局もとの形に戻る)0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 -1.5 -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 -1.5 -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 図1: y = ln x(実線)とy = x− 1(点線) 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 -1.5 -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 -1.5 -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 図2: y = ln x(実線)とy = x− 1 −12(x− 1)2(点線) 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 -1.5 -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 -1.5 -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 図 3: y = ln x(実線)とy = x− 1 − 12(x− 1)2+13(x− 1)3(点線)
練習問題
Ex 2-1. 次の関数のx = 1の周りの2次までのテーラー展開を求めなさい. (a) exp(x− 1) (b) exp(−(x − 1)2) (c) ln(1 + x)
復習問題
Quiz 2-1. (テーラー展開)次の関数f (x)のx = 0における2次までのテーラー展開を求めなさい. (a) f (x) =√1− x (b) f (x) = ln(1 + x + x2) (c) f (x) = exln(1 + x) Quiz 2-2. テーラー展開を用いて次式が成立することを示しなさい. ∞ ∑ k=0 xk k!e −x = 13
積分
1
定積分,不定積分,原始関数
記号 定積分∫abf (x)dx,不定積分∫axf (t)dt,原始関数∫ f (x)dx 公式 d dx ∫ x a f (t)dt = f (x)3.1
定積分
・ 関数f : [a, b]→ Rは連続関数(グラフに不連続点がない関数)と仮定する. ・ 区間[a, b]上で,x軸とy = f (x)によって囲まれた図形の(符号付き)面積を考える. 区間をN等分 a = x0 < x1<· · · < xN = b, (xi− xi−1= (b− a)/N = h) すれば,区間[a, b]上で,x軸とy = f (x)によって囲まれた図形の(符号付き)面積は, 幅h高さf (xi)の「短冊」の集まりの面積 N ∑ i=1 f (xi)h によって近似できる. 分割を細かくした極限(N → ∞, h → 0)を ∫ b a f (x)dxと表し,fの[a, b]における定積分という. (区分求積法) N ∑ i=1 f (xi) h ↕ ↕ ↕ ∫ b a f (x) dx ・ 積分 ∫ b a f (x)dx内の関数f (x)を被積分関数と呼ぶ. ・ 定積分の性質(定積分を“符号付きの面積”とみなして下記性質を考えるとわかりやすい) 線形性 ∫ b a (f (x) + g(x))dx = ∫ b a f (x)dx + ∫ b a g(x)dx ∫ b a αf (x)dx = α ∫ b a f (x)dx 積分区間の分割 ∫ b a f (x)dx = ∫ c a f (x)dx + ∫ b c f (x)dx 区間幅ゼロでは定積分=ゼロ ∫ a a f (x)dx = 0 積分方向 ∫ b a f (x)dx =− ∫ a b f (x)dx ( ⇐ 0 = ∫ a a = ∫ b a + ∫ a b ) ・ 定義から定積分の値を実際に計算することは困難である.しかし,次の不定積分・原始関数との 関係がわかれば,原始関数を通して定積分の値を計算できる.3.2
不定積分と原始関数
・ 積分区間の下限aを適当に固定し,定積分を上限bの関数とみなしたものをfの不定積分といい, F (x) = ∫ x a f (t)dt と表す(下限のaが定まっていない,という意味で“不定”).面積の意味(定積分の構成)から わかるように面積の増分は短冊になるので F (x + h)− F (x) = ∫ x+h x f (t)dt ≈ f(x)h である.したがってF の導関数は F (x + h)− F (x) h → f(x) (h → 0) となる.すなわち,不定積分を微分すれば元の関数が得られる.(微積分学の基本定理) d dx ∫ x a f (t)dt = f (x) (微積分学の基本定理) ・ 一方で,導関数がfとなる関数G(Gは性質G′ = fを満たす)をf の原始関数といい G(x) = ∫ f (x)dx と表す. (例) xn+ C = ∫ nxn−1dx, ex+ C = ∫ exdx, ln x + C = ∫ 1 xdx, (Cは定数) fの原始関数の定義(G′(x) = f (x))から d dx ∫ f (x)dx = f (x) (fの原始関数の定義) であり,また,f の導関数f′ = df dxの原始関数の定義(f ′(x) = f′(x))から ∫ d dxf (x)dx = f (x) (f ′の原始関数の定義) である.これら2式から微分と積分(原始関数)は互いに逆演算であることがわかる.・ 定数の微分はゼロになるので,fの原始関数に定数項を加えても,やはりfの原始関数になり,f の原始関数は無数に存在する. 上記の微積分学の基本定理は不定積分F が原始関数Gのひとつであることを示している. したがって,f の原始関数Gは不定積分にある定数Cを加えた形 G(x) = ∫ f (x)dx = ∫ x a f (t)dt + C で表される. すなわち,定積分の計算は,原始関数を用いて ∫ b a f (x)dx = F (b)− F (a) = G(b) − G(a) = [ G(x) ]b a として計算すればよい. ・ 原始関数と不定積分は混同されやすいが,厳密には異なる出発点から得られた概念である. 不定積分は区分求積法により得られた一方で,原始関数は微分により定義された. しかしながら,両者は密接な関係にあるので,(連続で滑らかな関数のみを扱うかぎり)原始関数 と不定積分を同じものと理解しても大きな問題はない. 定積分 → 不定積分 F (x) = ∫ x a f (t)dt 不定積分 → 原始関数 ∫ f (x)dx = ∫ x a f (t)dt + C (微積分学の基本定理) 原始関数 → 定積分 ∫ b a f (x)dx = G(b)− G(a) = [ G(x) ]b a 原始関数 → 不定積分 ∫ x a f (t)dt = G(x)− G(a) = [ G(t) ]x a 微積分学の基本定理 d dx ∫ x a f (t)dt = f (x) f の原始関数の定義 d dx ∫ f (x)dx = f (x) (積分した結果を微分すれば元の関数) f′の原始関数の定義 ∫ ( d dxf (x) ) dx = f (x) (微分した結果を積分すれば元の関数)
・ 原始関数は,その定義にしたがって,微分の結果を見て求める. (具体的な表記では積分定数Cを付けること) ' & $ % d dxG(x) = f (x) ⇔ ∫ f (x)dx = G(x) d dx 1 n + 1x n+1 = xn ⇔ ∫ xndx = 1 n + 1x n+1+ C (n̸= −1) d dx 1 be a+bx= ea+bx ⇔ ∫ ea+bxdx = 1 be a+bx+ C d dxln x = 1 x ⇔ ∫ 1 xdx = ln x + C ・ 定積分は原始関数を求めてから計算する. ∫ b a f (x)dx = G(b)− G(a) = [ G(x) ]b a (例) [0, 1]上の関数f (x) = 1 ∫ 1 0 1dx = [ x ]1 0 = 1 (正方形の面積) [0, 1]上の関数f (x) = x ∫ 1 0 xdx = [1 2x 2]1 0 = 1 2 (三角形の面積) [0,∞)上の関数f (x) = ae−ax (a > 0) ∫ ∞ 0 ae−axdx = [ − e−ax]∞ 0 = 1, ( lim x→−∞e x = 0) ・ 積分計算は原始関数を見つけることに帰着するが,定義のみから原始関数を“発見”することは難 しい.次回の部分積分・置換積分はその手助けになる,重要なツールである.
練習問題
Ex 3-1. 次の原始関数(不定積分)を求めなさい. (a) ∫ (x + x2+ x3)dx (b) ∫ exdx (c) ∫ 1 xdx Ex 3-2. 次の定積分を求めなさい. (a) ∫ a −a(x + x 2+ x3)dx (b) ∫ a −ae xdx (c) ∫ e 1 1 xdx演習問題
Problem 3-1. 次の原始関数(不定積分)を求めなさい. (a) ∫ xndx (b) ∫ (√x + x√x)dx (c) ∫ 2e2xdx Problem 3-2. 次の曲線と2直線およびx軸で囲まれた部分の面積を求めなさい. (a) y = x2+ 4, x =−1, x = 2 (b) y = x2+ 2x, x =−1, x = 2復習問題
Quiz 3-1. 次の原始関数(不定積分)を求めなさい. (a) ∫ (6x3+ 10x2+ 5)dx (b) ∫ (x1/2+ 5x−2/3)dx Quiz 3-2. 次の定積分を求めなさい. (a) ∫ a −a(x 2+ x5)dx (b) ∫ a −ax 2/3dx (c) ∫ a 1 1 xdx Quiz 3-3. 関数 f (t) = 0 t < a 1 b− a a≤ t ≤ b 0 b < t の不定積分 F (x) = ∫ x −∞f (t)dt を求めなさい. fのグラフを描き,xの値について場合分けすること:(1)x < a (2)a≤ x ≤ b (3)b < x4
積分
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部分積分,置換積分
項目 部分積分,置換積分 公式 部分積分 ∫ b a f′(x)g(x)dx = [ f (x)g(x) ]b a− ∫ b a f (x)g′(x)dx 置換積分 ∫ b a f (g(x))g′(x)dx = ∫ g(b) g(a) f (z)dz (z = g(x))4.1
部分積分・置換積分
・ 部分積分,置換積分は積分計算において重要なツールである. 積の微分の公式,合成関数の微分の公式の両辺の定積分を求めることにより得られる. (原始関数の形で表記することも可能) 部分積分 (↔積の微分) ∫ b a f′(x)g(x)dx = [ f (x)g(x) ]b a− ∫ b a f (x)g′(x)dx 置換積分(↔合成関数の微分) ∫ b a f (g(x))g′(x)dx = ∫ g(b) g(a) f (z)dz (z = g(x))4.2
部分積分
・ 部分積分↔積の微分 積の微分 d dx(f (x)g(x)) = f ′(x)g(x) + f (x)g′(x)の項を移項した関係式 f′(x)g(x) = d dx(f (x)g(x))− f(x)g ′(x) の両辺を区間[a, b]上で積分する.微分と積分は逆演算なので右辺第1項の積分(原始関数)は f (x)g(x)である.その結果, ∫ b a f′(x)g(x)dx = [ f (x)g(x) ]b a− ∫ b a f (x)g′(x)dx となる.これを部分積分という. 積分区間の上端をxに変更して,不定積分の形で表すと ∫ x a f′(t)g(t)dt = f (x)g(x)− f(a)g(a) − ∫ x a f (t)g′(t)dt となり,さらに原始関数で表せば ∫ f′(x)g(x)dx = f (x)g(x)− ∫ f (x)g′(x)dx である.(右辺に現れるはずの項−f(a)g(a)は定数項なので,右辺第2項の原始関数に含めた)(例) · ∫ b a ln x dx = ∫ b a (x)′ln x dx = [ x ln x ]b a− ∫ b a x1 xdx = b ln b− a ln a − b + a · ∫ b a x ln x dx = ∫ b a ( x2 2 )′ ln x dx = [ x2 2 ln x ]b a − ∫ b a x2 2 1 xdx = [ x2 2 ln x ]b a − [ x2 4 ]b a = b 2 2 ln b− a2 2 ln a− b2 4 + a2 4 · ∫ b a exx dx = ∫ b a (ex)′x dx = [ exx ]b a− ∫ b a exdx = beb− aea− eb+ ea · ∫ b a (1− x)e2xdx = ∫ b a (1− x) ( e2x 2 )′ dx = [ (1− x)e2x 2 ]b a − ∫ b a ( −e2x 2 ) dx = [ (1− x)e2x 2 ]b a − [ −e2x 4 ]b a = (1− b)e 2b 2 − (1− a)e2a 2 + e2b 4 − e2a 4 ・ 部分積分の活用方法 積分内の被積分関数を様々な“形(パターン)”で見られるようになることが大切である. 求める積分が f′gの積分 ∫ b a f′(x)g(x)dx の形である場合に部分積分を用いる. 積の2項のどちらをf′, gに取るか,という問題は,右辺に現れるf g′の積分 ∫ b a f (x)g′(x)dx の計算が容易となるようにf , gを決めればよい.たとえば, I = ∫ 2 1 x ln xdx を計算するためには,その被積分関数の形から部分積分を用いるが,それを ∫ 2 1 x ln xdx = ∫ 2 1 ( 1 2x 2 )′ ln xdx (f (x) = 1 2x 2, g(x) = ln x) と見るか, ∫ 2 1 x ln xdx = ∫ 2 1 x (x ln x− x)′dx (f (x) = x ln x− x, g(x) = x) と見るかによって,(結果はどちらも同じであるが)計算の容易さは異なる. 前者の方法であれば計算が容易である. I = ∫ 2 1 ( 1 2x 2 )′ ln xdx = [ 1 2x 2ln x ]2 1 − ∫ 2 1 1 2x 2(ln x)′dx = 2 ln 2− ∫ 2 1 1 2x 21 xdx (⇐ この積分であれば簡単) = 2 ln 2− ∫ 2 1 1 2xdx = 2 ln 2− 3 4
4.3
置換積分
・ 置換積分↔合成関数の微分 関数fの原始関数をFとする.合成関数F (g(x))の微分 d dxF (g(x)) = F ′(g(x))g′(x) の両辺を区間[a, b]上で積分する.微分と積分は逆演算なので F (g(b))− F (g(a)) = ∫ b a F′(g(x))g′(x)dx となる.Fはfの原始関数であることから ∫ d c f (z)dz = F (d)− F (c), F′(z) = f (z) である.c = g(a), d = g(b)として,これらを上式に代入すると ∫ g(b) g(a) f (z)dz = ∫ b a f (g(x))g′(x)dx が得られる.左右を入れ替えた等式 ∫ b a f (g(x))g′(x)dx = ∫ g(b) g(a) f (z)dz (z = g(x)) を置換積分という(利用する際には左辺の形の積分を右辺に置き換えることが多い). z = g(x)とすると,g′(x) = dz dxであるから 左辺= ∫ b a f (g(x))g′(x)dx = ∫ b a f (z)dz dxdx = ∫ g(b) g(a) f (z)dz =右辺 と理解できればよい.(3つめの等号は分数の約分と同じ) 原始関数の形でも置換積分は可能である.関数fの原始関数がFであるとき,関数f (g(x))g′(x) の原始関数は,z = g(x)で置換すれば ∫ f (g(x))g′(x)dx = ∫ f (z)dz = F (z) = F (g(x)) として得られる.(例) · ∫ b a ex2x dx = ∫ b a ex21 2(x 2)′dx = ∫ b2 a2 ez1 2dz = 1 2 ( eb2− ea2 ) , (0 < a < b) · ∫ b a x(1− x)6dx = ∫ b a ((1− x) − 1)(1 − x)6(1− x)′dx = ∫ 1−b 1−a (z− 1)z6dz = ∫ 1−b 1−a (z7− z6) dz = [ z8 8 − z7 7 ]1−b 1−a = (1− b) 8 8 − (1− b)7 7 − (1− a)8 8 + (1− a)7 7 · ∫ b a x (3− x)2 dx = ∫ b a (3− x) − 3 (3− x)2 (3− x) ′dt =∫ 3−b 3−a z− 3 z2 dz = ∫ 3−b 3−a ( 1 z − 3 z2 ) dz = [ ln z +3 z ]3−b 3−a = ln(3− b) + 3 3− b − ln(3 − a) − 3 3− a · ∫ b a ln x + 4 x dt = ∫ b a (ln x + 4)(ln x)′dt = ∫ ln b ln a (z + 4) dz = [ z2 2 + 4z ]ln b ln a = (ln b) 2 2 + 4 ln b− (ln a)2 2 − 4 ln a ・ 置換積分の活用方法 被積分関数がf (g(x))g′(x)の形である積分 ∫ b a f (g(x))g′(x)dx に置換積分を用いる.その際には z = g(x), dz = g′(x)dx, x a → b z g(a) → g(b) として被積分関数および積分区間に代入すればよい. ∫ b a f (g(x))g′(x)dx = ∫ g(b) g(a) f (z)dz (例) ∫ b a f (α + βx)dx = ∫ α+βb α+βa 1 βf (z)dz (z = α + βx, dz = βdx) ∫ b a f (x2)xdx = ∫ b2 a2 1 2f (z)dz (z = x 2, dz = 2xdx) ∫ b a f (ln x) x dx = ∫ ln b ln a f (z)dz ( z = ln x, dz = dx x )
4.4
部分積分と置換積分
・ 部分積分と置換積分のどちらを用いればよいか,を判断するには,部分積分でも述べたとおり, 積分内の被積分関数を様々な“形(パターン)”で見られるようになることが大切である. 部分積分 (↔積の微分) ∫ b a f′(x)g(x)dx = [ f (x)g(x) ]b a− ∫ b a f (x)g′(x)dx 置換積分(↔合成関数の微分) ∫ b a f (g(x))g′(x)dx = ∫ g(b) g(a) f (z)dz (z = g(x)) 左辺の被積分関数の形を見て, ' & $ % ∫ b a f′(x)g(x)dx ⇒ 部分積分 ∫ b a f (g(x))g′(x)dx ⇒ 置換積分 と考えてみることが手がかりとなる. (例) ∫ b a e−x2x2dx 部分積分 ∫ b a e−x2x2dx = ∫ b a ( e−x2 )′ −x 2 dx =− 1 2 [ e−x2x ]b a+ 1 2 ∫ b a e−x2dx ∫ b a e−x2xdx 置換積分 (z =−x2, dz =−2xdx) ∫ b a e−x2xdx = ∫ −b2 −a2 ez ( −1 2 ) dz =−1 2[e z]−b2 −a2 = e−a2− e−b2 2 ・ 上記例内に現れる積分 ∫ b a e−x2dxはこれ以上の計算を進めることはできないが, 置換積分により,標準正規分布の分布関数 N (z) = ∫ z −∞ 1 √ 2πe −t2/2 dt を用いて表すことができる.(分布関数については後述の確率変数を参照すること) z =√2xで置換すれば (dz =√2dx) ∫ b a e−x2dx = ∫ √ 2b √ 2a e−z2/2√dz 2 = ∫ √ 2b −∞ e −z2/2dz √ 2− ∫ √ 2a −∞ e −z2/2dz √ 2 = √ πN (√2b)−√πN (√2a) と変形できる. N (z)の値を正確に計算することはできないが,非常に精度のよい近似値をスプレッドシートや 統計関連の表で容易に得ることができる.練習問題
Ex 4-1. 次の定積分を求めなさい. (a) ∫ a −axe xdx (b) ∫ a −ax 2exdx Ex 4-2. 次の原始関数(不定積分)を求めなさい. (a) ∫ ea+bxdx (b̸= 0) (b) ∫ axdx (a > 0) Ex 4-3. ln xとx軸に囲まれた部分の面積を考えることにより次の不等式を示しなさい. ln 1 + ln 2 + ln 3 +· · · + ln n < ∫ n+1 1 ln xdx演習問題
Problem 4-1. 次の定積分を求めなさい. (a) ∫ a −axe −x2 dx (b) ∫ a 0 e−kxdx (k > 0) (c) ∫ ∞ 0 e−kxdx (k > 0) Problem 4-2. 次の原始関数(不定積分)を求めなさい. (a) ∫ x−0.3dx (b) ∫ f′(x) f (x)dx (f (x) > 0) (c) ∫ ln xdx Problem 4-3. 置換積分を用いて次の等式を確認しなさい. ∫ b a 1 √ 2πσ exp ( −(x− µ)2 2σ2 ) dx = ∫ b−µ σ a−µ σ 1 √ 2πexp ( −z2 2 ) dz ただしσ > 0とする.復習問題
Quiz 4-1. 次の定積分を求めなさい. ∫ a 1 ln xdx Quiz 4-2. (置換積分) 次の原始関数(不定積分)を求めなさい. (a) ∫ (x3+ 5x)10(3x2+ 5)dx (b) ∫ 2(ex+ 3x2)(ex+ 6x)dx (c) ∫ 2x (x2+ 2)10dx Quiz 4-3. (部分積分) 次の原始関数(不定積分)を求めなさい. (a) ∫ x3exdx (b) ∫ x3 √ 1 + x2dx (c) ∫ x ln x dx Quiz 4-4. 次の積分を求めなさい. (a) ∫ (x2+ 5)10xdx (b) ∫ 2 0 (x2+ 5)10xdx (c) ∫ 0 −2(x 2+ 5)10xdx (d) ∫ 2 −2(x 2+ 5)10xdx5
確率 基本事象,事象,確率,条件付き確率
項目 基本事象,事象,可算加法族,確率 記号 確率P (A) 記号 条件付き確率 P (A| B) = P (A∩ B) P (B)5.1
基本事象と事象
・ 標本空間,事象,基本事象 将来の不確実性を,起こり得る試行結果(シナリオ)の全体として表現する. 試行 : 偶然現象を人為的に引き起こしたり,実験すること 名前 記号 意味 1回サイコロを振る場合 基本事象 ω∈ Ω ひとつの起こり得る試行結果 ωi = iの目がでる試行結果 標本空間 Ω 試行結果の全体(シナリオの全体) Ω ={ω1, ω2, . . . , ω6} 事象 A⊆ Ω ある性質を持つ試行結果の全体 A ={偶数} = {ω2, ω4, ω6} (ベン図) Ω A ' & $ % r ω1 r ω2 基本事象は標本空間の要素であることに対して,事象は標本空間の部分集合であることに注意. 基本事象ωと1つの要素から成る事象{ω}は異なる概念である. 試行の例 :サイコロを1回振る試行 基本事象ωi = iの目が出る結果 標本空間 Ω ={ω1, ω2, . . . , ω6} = {1, 2, 3, 4, 5, 6} ( ωiとiを同一視) 奇数の目が出る事象 A ={1, 3, 5} 3以下の目が出る事象B ={1, 2, 3} 空事象 ϕ起こり得ない事象, Ωc= ϕ, ϕc= Ω 事象は標本空間の部分集合なので,事象の演算は集合の演算と同じ. 和事象 A∪ B = {ω ∈ Ω | ω ∈ A or ω ∈ B} 余事象 Ac={ω ∈ Ω | ω /∈ A} 積事象 A∩ B = {ω ∈ Ω | ω ∈ A and ω ∈ B} AとBは排反 A∩ B = ϕ ド・モルガンの法則 (A∩ B)c= Ac∪ Bc, (A∪ B)c= Ac∩ Bc5.2
事象の集まり
F
・ 事象の集まりF = {A | A ⊆ Ω}が次の性質を満たすとき,Fは可算加法族という. 1) ϕ∈ F 2) A ∈ F ⇒ Ac∈ F 3) Ai∈ F (i = 1, 2, · · · ) ⇒ ∪ i Ai∈ F いずれの条件も,次の確率を矛盾なく定義することに由来する. 条件2)は,事象Aの確率P (A)を計算できるのであれば,余事象Acの確率P (Ac)も計算できる ことを意味する.同様に,条件3)は,個々の事象Aiの確率P (Ai)を計算できるのであれば,和 事象∪iAiの確率P ( ∪ iAi)も計算できることを意味する. 可算加法族の例 Ω1={0, 1}, F1={ϕ, Ω1,{0}, {1}} Ω2 ={1, 2, 3, 4, 5, 6}, F2={ϕ, Ω2,{1, 2, 3}, {4, 5, 6}}, F3={ϕ, Ω2,{1, 3, 5}, {2, 4, 6}}, F4={ϕ, Ω2,{1, 2}, {3, 4}, {5, 6}, {1, 2, 3, 4}, {1, 2, 5, 6}, {3, 4, 5, 6}} 可算加法族ではない例 Ω2={1, 2, 3, 4, 5, 6}, F5={ϕ, Ω2,{1, 2}, {3, 4}, {1, 2, 3, 4}}, F6={ϕ, Ω2,{1}, {2, 3, 4, 5, 6}, {2, 3}, {1, 4, 5, 6}}5.3
確率 P
・ 確率Pについて P (A) =事象A(∈ F)が生起する確率 と呼ぶには,確率Pが事象の集合F上の関数であることが必要である. また,確率が矛盾なく定義できるには,次のことを要件とする. 公理的確率 確率P は事象の生起の可能性の度合いを表す数字を矛盾なく与える,次のような集合F上 の関数である. 1) P :F → [0, 1] 2) P (Ω) = 1 3) Ai∩ Aj = ϕ (i̸= j) ⇒ P ( ∪ i Ai ) =∑ i P (Ai) 1),2)から,確率は0以上1以下の値で表され,全体の確率は1となる.3)は,同時に起こること がない排反事象の和事象の確率はぞれぞれの事象の確率の和になる,という自然な条件である. 3)の条件から,確率P (A)は事象Aの「面積」と考えればよい(標本空間の「面積」は1).Ω A ' & $ % r ω P -r r 0 r 1 P (A) ・ サイコロのゆがみ具合によって特定の目がでる可能性が異なる状況は,違う確率によって表すこ とができる. ゆがんでいないサイコロを振った結果 事象A {1} {2} {3} {4} {5} {6} 確率P1(A) 1/6 1/6 1/6 1/6 1/6 1/6 ゆがんでいるサイコロを振った結果 事象A {1} {2} {3} {4} {5} {6} 確率P2(A) 1/12 1/12 1/12 1/4 1/4 1/4
5.4
確率空間 (Ω,
F, P )
・ 事象と確率の構造F, P を導入した集合Ωを確率空間(Ω,F, P )という.5.5
条件付き確率
・2つの事象A, Bに対して,次の定義・公式があるが,加法定理と条件付き確率は「確率=面積」 で考えると理解しやすい. Ω B ' & $ % A Ac 加法定理 P (A∪ B) = P (A) + P (B) − P (A ∩ B) 条件付き確率 P (A| B) = P (A∩ B) P (B) 乗法定理 P (A∩ B) = P (B)P (A | B) 事象A, Bが独立 P (A∩ B) = P (A)P (B) ・ 事象の独立性 2つの事象A, Bが独立とは,条件付き確率と条件なしの確率が等しいこと. P (A| B) = P (A) このとき P (B| A) = P (B), P (A ∩ B) = P (A)P (B) が成立する.練習問題
Ex 5-1. (a) サイコロを2回ふる場合の基本事象,標本空間,その和が偶数となる事象を記述し なさい.2個のサイコロを同時にふる場合はどうか. (b)サイコロを1回ふった結果が偶数である条件の下で,6の目である確率を求めなさい. Ex 5-2. P (Ac) = 1− P (A)を示しなさい.演習問題
Problem 5-1. 事象A, Bについて P (A∪ B) = 0.6, P (A ∩ B) = 0.1, P (Ac∩ B) = 0.3 が成り立つ時,確率P (A), P (B)の値を求めなさい.Problem 5-2. 1枚のコインを投げて,表が出る結果をH (head),裏が出る結果をT (tail)と表
し,3回コインを投げる結果(基本事象)ωを次のように表す. ω = (x1, x2, x3) : xi= i回目の結果(H or T), (i = 1, 2, 3) 例えば,1回目のみ表が出て,2,3回目に裏が出る基本事象ωは(H,T,T)と表すこ とができる. (a) 3回コインを投げる場合の基本事象をすべて列挙しなさい. (b) 1回目に表が出る事象をA,3回のうち2回だけ表が出る事象をBとすると き,事象Aは A ={(H,H,H), (H,H,T), (H,T,H), (H,T,T)} のように表せる.同様に,事象B, A∩ B, A ∪ Bをそれぞれ表しなさい. Problem 5-3. 標本空間がΩ = {ω1, ω2, ω3}のとき,次の事象の集まりは可算加法族かどうか答 えなさい. (a) F1 ={ϕ, Ω, {ω1}, {ω2}, {ω3}, {ω1, ω2}} (b) F2 ={ϕ, Ω, {ω3}, {ω1, ω2}} (c) F3 ={ϕ, Ω}
復習問題
Quiz 5-1. 以下の問に答えなさい. (a) (加法定理) P (A) = 0.6, P (B) = 0.5, P (A∩B) = 0.3のとき,確率P (A∪B) はいくらか. (b) (条件付き確率) P (B) = 0.6, P (A∩ B) = 0.3のとき,確率P (A| B)はいく らか. (c) (乗法定理) P (A| B) = 0.8, P (B) = 0.5のとき,確率P (A∩ B)はいくらか. (d) (独立) 事象AとBが独立で,P (A) = 0.5, P (A∩ B) = 0.4のとき,確率P (B) はいくらか. Quiz 5-2. 52枚のトランプから1枚引き抜くとき,事象A1 ={引き抜いたカード1枚はハートである}, A2 ={引き抜いたカード1枚はキングである}とすると,次の確率はいくらになるか. (a) P (A1) (b) P (A2) (c) P (A1∩ A2) (c) P (A1∪ A2) Quiz 5-3. 標本空間Ωの部分集合である事象A1とA2について,以下の式が成り立つことを公理 的確率の定義から示しなさい. (a) A1 ⊆ A2 ⇒ P (A1)≤ P (A2) (b) P (A1∩ A2)≤ P (A1)≤ P (A1∪ A2)≤ P (A1) + P (A2) Quiz 5-4. (ベイズの公式) 袋の中に大きさ(大・小)と色(赤・白)が異なる玉が全部で10個 入っている.このうち,赤い玉が6個と白い玉が4個で,赤くて大きい玉は3個,白 くて大きい玉は2個である.いま袋に手を入れたところ大きい玉であった.この玉が 赤い確率はいくらになるか.6
確率変数
1
確率変数,分布関数,期待値
項目 確率変数,分布関数,期待値,平均,分散 記号 分布関数と密度関数 FX(x) = ∫ x −∞fX(t)dt 期待値 E[h(X)] = ∫ ∞ −∞h(x)fX(x)dx公式 E [aX + bY ] = aE [X] + bE [Y ] , V ar[aX + bY ] = a2V ar[X] + 2abCov[X, Y ] + b2V ar[Y ] V ar[X] = E[X2]− (E[X])2 Cov[X, Y ] = E[XY ]− E[X]E[Y ]
6.1
確率変数
・ 実際に起こった試行結果ωに関する情報は,確率変数の実現値を観測することによって得られる. 確率変数Xとは,シナリオ毎に何らかの情報(数値)を与える関数 X : Ω→ R で,その実現 値X(ω)の範囲を知ることによって,実際に起こっている事象{ω ∈ Ω | X(ω) ≤ x}の確率を計 算できるように {ω ∈ Ω | X(ω) ≤ x} ∈ F, ∀x ∈ R となっているものである.(名前に変数とあるが,実態は関数である) ・ 確率変数Xの実現値が可算個x1, x2,· · · , xn,· · · であるような確率変数を離散確率変数といい, それ以外の場合(例えば,実現値が区間[a, b]内のどの値もありうる場合)の確率変数を連続確 率変数という. ・ 確率変数Xに対して,実現値がx以下となる事象の確率 FX(x) = P{X ≤ x} = P {ω ∈ Ω | X(ω) ≤ x} をxの関数と見て,確率変数Xの分布関数という.分布関数から確率変数Xの実現値とその確 率のペアである確率分布を知ることができる. 事象と面積の単調性から,分布関数は単調非減少で,FX(−∞) = 0, FX(+∞) = 1である. Ω {X ≤ x} ' & $ % r ω P -r r 0 r 1 P{X ≤ x} X Rr @ - R X(ω) r x ・2つの確率変数X, Y の分布関数が等しいときに,X ∼ Y と書く. Y の分布が既知(正規分布などよく知られた分布)のときは,Xは分布Y に従う,という.6.2
離散確率変数と確率関数
離散確率変数Xの実現値が特定の値xを取る確率を確率関数という. pX(x) = P{X = x} 分布関数の定義から,分布関数は確率関数を用いて FX(x) = P{X ≤ x} = ∑ y≤x pX(y) と表すことができる.逆に,確率関数は分布関数の増分を意味する. pX(x) = FX(x)− FX(x−), FX(x−) = limy→x, y<xFX(y)
6.3
連続確率変数と密度関数
・ 連続確率変数Xの分布関数が微分可能であれば fX(x) = d dxFX(x) を密度関数という. FX(x) = ∫ x −∞fX(t)dt から,密度関数とx軸のある範囲に囲まれた領 域の面積が,確率変数がその範囲の値を取る確率になる. FX(x + ∆x)− FX(x) = P{x < X ≤ x + ∆x} ≈ fX(x)∆x 分布関数と密度関数は,一方がわかれば他方もわかり,分布に関する同じ情報を持っている. 分 布 関 数 確率関数 密度関数 離散確率変数 2 4 6 x 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 F 差↓ 和↑ 2 4 6 x 0.1 0.2 0.3 0.4 p 確率関数 連続確率変数 -3 -2 -1 1 2 3 x 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 F 微分↓ 積分↑ -3 -2 -1 1 2 3 x 0.1 0.2 0.3 0.4 f 密度関数6.4
期待値,平均,分散
・ 期待値=∑(実現値)×(確率) 確率関数pX を持つ離散確率変数Xと,関数hについて, E[h(X)] =∑ x h(x)pX(x) は,確率変数h(X)の実現値h(x)を確率pX(x)のウエイトで加重平均したものであり,これを確 率変数h(X)の期待値という. 確率変数Xが連続確率変数の場合には,その密度関数fX を用いて E[h(X)] = ∫ ∞ −∞h(x)fX(x)dx を確率変数h(X)の期待値という. 特定の関数形のhの期待値には別の名前が与えられている. 平均 E[X] = ∫ ∞ −∞xfX(x)dx分散 V ar[X] = E[(X− E(X))2]
n次モーメント E[Xn] 共分散 Cov[X, Y ] = E[(X− E[X])(Y − E[Y ])]
相関係数 ρ(X, Y ) = √ Cov[X, Y ] V ar[X]√V ar[Y ] ・ 平均は線形であるが,分散は線形ではない
E[aX + bY ] = aE[X] + bE[Y ]
V ar[aX + bY ] = a2V ar[X] + 2abCov[X, Y ] + b2V ar[Y ] 分散の展開はベクトルの関係式 |ax + by|2 = a2|x|2+ 2abx· y + b2|y|2 に対応する.
・ 分散の計算は定義
V ar[X] = E[(X− E(X))2] を展開した
V ar[X] = E[(X − E(X))2] = E[X2− 2E[X]X + (E[X])2] = E[X2]− 2E[X]E[X] + (E[X])2 = E[X2]− (E[X])2
の形で計算するほうが便利なことが多い.共分散も同様に
Cov[X, Y ] = E[(X− E(X))(Y − E[Y ])] = E[XY − E[X]Y − E[Y ]X + E[X]E[Y ]] = E[XY ]− E[X]E[Y ]
練習問題
Ex 6-1. 次のようにゆがみのあるサイコロを1回ふった結果の目を表す確率変数をXとする. Xの分布関数FX(x) = P{X ≤ x}のグラフを描きなさい. X(ω) 1 2 3 4 5 6 P{X = i} 0.1 0.1 0.1 0.2 0.2 0.3演習問題
Problem 6-1. 確率変数Xの分布関数FXの値についてFX(0) = 0.5, FX(1) = 0.7, FX(2) = 1 とわかっているとき,次の確率を求めなさい. (a) P{0 < X ≤ 1} (b) P {1 < X ≤ 2} (c) P {0 < X ≤ 2} (d) P {2 < X}復習問題
Quiz 6-1. (連続確率変数の分布関数) 確率変数Xの分布関数がFX(x) = ∫x 0 1 10e−t/10dtであると き,FX(10)はいくらになるか. Quiz 6-2. (期待値)確率変数Xは,実現値が−2 < x < 4の範囲で密度関数はf (x) = (x + 2)/18 である.次の期待値を求めなさい.(a) E(X) (b) E[(X + 2)3] (c) E[6X − 2(X + 2)3] Quiz 6-3. 以下の等式が成立することを示せ.
(a) E(2X) = 2E(X) (b) V ar(2X) = 4V ar(X) (c) Cov(2X, Y ) = 2Cov(X, Y ) (d) ρ(2X, Y ) = ρ(X, Y )
7
確率変数
2
積率母関数,確率変数の独立性
項目 積率母関数,独立な確率変数 記号 積率母関数 mX(t) = E [ etX] 公式 独立な確率変数 mX+Y(t) = mX(t)mY(t)7.1
独立な確率変数
・2つの確率変数X, Y について下記の条件が成立するとき,確率変数XとY は独立であるという. 任意の実数x, yに対して,2つの事象{X ≤ x}と{Y ≤ y}が独立である.すなわち, P{X ≤ x, Y ≤ y} = P {X ≤ x}P {Y ≤ y}, ∀x, y ∈ R (同時確率P{X ≤ x, Y ≤ y}がそれぞれの事象の確率の積P{X ≤ x}P {Y ≤ y}に等しい) ・2つの確率変数X, Y が独立であるとき,X, Y を含む期待値の計算はそれぞれ個別に行えばよい. 和の期待値は,期待値の線形性から,常に(独立であっても独立でなくても)期待値の和である. E[f (X) + g(Y )] = E[f (X)] + E[g(Y )]積の期待値は,独立でない場合には,相互に影響しあうので,期待値の積と等しくはないが, E[f (X)g(Y )]̸= E[f(X)]E[g(Y )] (XとY が独立ではないとき)
独立であれば,X, Y を含む期待値の計算はそれぞれ個別に行えばよいので,期待値の積と等し くなる.つまり,2つの確率変数X, Y が独立であるとき,すべての関数f, gについて
E[f (X)g(Y )] = E[f (X)]E[g(Y )] (XとY が独立であるとき)
が成立する.(逆も正しい)
したがって,X, Y が独立であるとき,共分散は
Cov[X, Y ] = E[XY ]− E[X]E[Y ] = 0である. よって
V ar[X + Y ] = V ar[X] + 2Cov[X, Y ] + V ar[Y ]
7.2
積率母関数
・ 積率:モーメントE[Xn] ・ 積率母関数 確率変数Xに対して,tを変数とする関数を期待値によって定義する. mX(t) = E [ etX]mX を確率変数Xの積率母関数(moment generating function)と呼ぶ.名前が示唆する,積率母
関数がモーメントを生み出す関数であることは,テーラー展開を用いて次のように確認できる. tを定数とみなして,xの関数etxをx = 0の周りでテーラー展開する. etx= ∞ ∑ k=0 ( etx)(k)|x=0 k! (x− 0) k= ∞ ∑ k=0 tk k!x k = ∞ ∑ k=0 xk k!t k 両辺のxに確率変数Xを代入して期待値を取る. E[etX] = E [∞ ∑ k=0 Xk k! t k ] = ∞ ∑ k=0 E[Xk] k! t k すなわち # " ! mX(t) = ∞ ∑ k=0 E[Xk] k! t k= 1 + E[X]t +E [ X2] 2! t 2+E [ X3] 3! t 3+· · · + E [Xn] n! t n+· · · が得られた.積率母関数の展開式である右辺のtnの係数にXのn次モーメントE[Xn]が現れて いる.一方で,上式は積率母関数mX のt = 0の周りでのテーラー展開でもある.したがって, テーラー展開の係数と微分の関係から,E[Xn]はm(n)X (0)と等しい. m(n)X (0) = E[Xn] このことは,積率母関数の定義式をtで微分しても得られる. mX(t) = E [ etX] ⇒ m′X(t) = E[XetX] ⇒ m′X(0) = E [X] ⇒ m(2) X (t) = E [ X2etX] ⇒ m(2)X (0) = E[X2] ⇒ m(3) X (t) = E [ X3etX] ⇒ m(3)X (0) = E[X3]
したがって,積率母関数を得ることができれば,そこから平均,分散も計算できる.
E[X] = m′X(0), V ar[X] = E[X2]− (E[X])2= m(2)X (0)− (m′X(0))2
7.3
分布と積率母関数
・ 分布確率変数Xの分布は,その分布関数FX で特徴づけられるが,実は,モーメントの集合
{ E[X], E[X2], E[X3], . . . , E[Xn], . . .}
によっても分布は特徴づけられる.したがって,これらモーメントを生み出す積率母関数mX は 分布関数FX と同じ情報を持っている. 2つの確率変数X, Y が同じ分布関数を持つとき,X ∼ Y と表記したが,それは,XとY のそれ ぞれの積率母関数が等しい,ということでもある. X∼ Y ⇔ FX(x) = FY(x), ∀x ∈ R ⇔ mX(t) = mY(t), ∀t ∈ R ・ 独立な確率変数 2つの確率変数X, Y から,別の確率変数X + Y を考えよう.その積率母関数は定義より mX+Y(t) = E [ et(X+Y ) ] = E[etXetY] である.最右辺の積の期待値が,期待値の積に変形できるかどうかは,X, Y が独立かどうかに 依存する.X, Y が独立であれば mX+Y(t) = E [ etXetY]= E[etX]E[etY]= mX(t)mY(t) である.また,逆も真である.したがって,X, Y が独立かどうかは,mX+Y とmXmY が等しい かどうかで定まる. ' & $ % XとY は独立 ⇔ E[f(X)g(Y )] = E[f(X)]E[g(Y )], ∀f, g ⇔ mX+Y(t) = mX(t)mY(t), ∀t ∈ R
練習問題
Ex 7-1. 2つの確率変数X, Y は独立であれば Cov[X, Y ] = 0 を示しなさい. Ex 7-2. 2つの独立な確率変数X, Y を用いて,新たに2つの確率変数を
U = aX + bY, V = cX + dY (a, b, c, dは定数)
とするとき,E[U ], V ar[U ], Cov[U, V ]をE[X], E[Y ], V ar[X], V ar[Y ]を用いて表しな さい.
演習問題
Problem 7-1. a, bを定数としたとき,maX+b(t) = ebtmX(at)を示せ.
Problem 7-2. mX(t) = 1 1− t2 のとき,E(X)とV ar(X)を求めよ. Problem 7-3. cX(t) = ln (mX(t))で定義される関数をキュムラント母関数という. c′X(0) = E(X), c(2)X (0) = V ar(X)となることを示せ.
復習問題
Quiz 7-1. XとY が独立のとき,以下の等式が成立することを示せ. V ar[X + Y ] = V ar[X] + V ar[Y ]8
分布
1
ベルヌーイ分布,二項分布
記号 Be(p), B(n, p) 各種分布の平均,分散,積率母関数の計算を行う.8.1
ベルヌーイ分布 X
∼ Be(p)
成功(x = 1)か失敗(x = 0)かの結果を表す分布.pは成功する確率. 実現値 X = 0, 1 確率関数 pX(x) = { p x = 1 1− p x = 0 平均 E[X] = 1 ∑ x=0 xpX(x) = 0× (1 − p) + 1 × p = p分散 V ar[X] = E[X2]− (E[X])2= E[X]− (E[X])2 = p− p2 = p(1− p) 積率母関数 mX(t) = E [ etX]= e0× (1 − p) + et× p = pet+ 1− p 積率母関数からモーメント,平均,分散の計算 d dtmX(t) = d2 dt2mX(t) = E[X] = d dtmX(0) = E[X2] = d 2 dt2mX(0) =
V ar[X] = E[X2]− (E[X])2 =
8.2
二項分布 X
∼ B(n, p)
独立なベルヌーイ試行(成功確率p)をn回繰り返し行った結果の成功の回数を表す分布 実現値 X = 0, 1, . . . , n 確率関数 pX(x) =nCxpx(1− p)n−x 平均 E[X] = n ∑ x=0 xpX(x) = n ∑ x=0 xnCxpx(1− p)n−x= np確率関数の和が1であることは,復習問題Quiz 8-1で確認されたい. 積率母関数 mX(t) = E [ etX]= n ∑ x=0 etxnCxpx(1− p)n−x = n ∑ x=0 nCx ( etp)x(1− p)n−x = (etp + 1− p)n 二項分布Xは独立なベルヌーイ分布Yi(i = 1, 2, . . . , n)の和であるから X = Y1+ Y2+· · · + Yn と表される.Yiの積率母関数はmYi(t) = e tp + 1− pであり,これらは独立なので mX(t) = m∑n i=1Yi(t) = n ∏ i=1 mYi(t) = ( etp + 1− p)n としてもmX を導出できる. 積率母関数からモーメント,平均,分散の計算 d dtmX(t) = d2 dt2mX(t) = E[X] = d dtmX(0) = E[X2] = d 2 dt2mX(0) =
練習問題
Ex 8-1. X ∼ B(n, p)であるとする.Xの分散が最大になるときのpの値を求めよ.演習問題
Problem 8-1. X ∼ B(n1, p), Y ∼ B(n2, p)であり,XとY は独立であるとする.このとき, X + Y ∼ B(n1+ n2, p)であることを示せ. Problem 8-2. Xi (i = 1, 2, . . . , n)は互いに独立であり,Xi ∼ Be(p)であるとする.このとき, 標本平均X =¯ ∑n i=1Xi n について次を求めよ. (a) E[ ¯X] (b) V ar[ ¯X] (c) mX¯(t) Problem 8-3. X ∼ B(n, p)のとき,n− Xの分布を求めよ.復習問題
Quiz 8-1. 二項定理 (a + b)n= n ∑ x=0 nCxaxbn−x を用いて,二項分布X∼ B(n, p)の確率関数pX(x)が確かに ∑n x=0pX(x) = 1を満た していることを確認せよ. Quiz 8-2. 二項分布X ∼ B(n, p)において,その平均は以下のように計算できる. E[X] = n ∑ x=0 xnCxpx(1− p)n−x = n ∑ x=0 x n! x!(n− x)!p x(1− p)n−x = n ∑ x=1 x n! x!(n− x)!p x(1− p)n−x = n ∑ x=1 n! (x− 1)!(n − x)!p x(1− p)n−x = np n ∑ x=1 (n− 1)! (x− 1)!((n − 1) − (x − 1))!p x−1(1− p)(n−1)−(x−1) = np n−1 ∑ x=0 (n− 1)! x!((n− 1) − x)!p x(1− p)(n−1)−x = np n−1 ∑ x=0 n−1Cxpx(1− p)(n−1)−x = np(p + (1− p))n−1 = np. これにならいE[X(X− 1)]を計算し,V ar[X] = E[X2]− E[X]2 = E[X(X− 1)] + E[X] − E[X]2 と考えることによって分散を求めよ.