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6-3.苦情処理手続き:専門調査委員会

ドキュメント内 雑誌名 評論・社会科学 (ページ 32-41)

ProComp

による多様な報酬に関わる苦情処理については

ProComp

協約が次のように

コロラド州デンバー学区における公立学校教員の報酬制度に関する一考察 101

規定している。「ある教師が

ProComp

による複数の報酬項目の内のいずれかに合意しな い場合,その決定は見直されるものとする。見直すのは,専門調査委員会(Professional

Review

Panel)から選ばれた教師の一人と行政担当者もしくは校長の一人である」(Pro-Comp

協約

2.6.1)。加えて,「専門調査委員会は最低 5

名のデンバー教員組合のメンバ

ーと

5

名の校長もしくは行政担当者によって構成されるものとする」(ProComp協約

2.6.1.1)。このように苦情処理を担う専門調査委員会にもデンバー教員組合のメンバー

が入っており,メンバー数もデンバー公立学校区側と同数である。

また,専門調査委員会の選抜に関して,「専門調査委員会のメンバーは,ProCompの トランジション・チームの管理の下でデンバー公立学校学区人的資源課(Human

Re-sources)によって集められた委員会が実施する面接によって選ばれる」(ProComp

協約

2.6.1.2)。トランジション・チームのメンバーにも同じ数の学区およびデンバー教員組

合の代表者で構成されているので,専門調査委員会のメンバーを選ぶ際にもデンバー教 員組合の規制がはたらいている。つまり,デンバー教員組合は専門調査委員会のメンバ ーの選定や苦情処理手続きの一端をも担っているということである。

では,苦情処理の具体的な手続きはどのように規定されているのか。「意思決定過程。

通知の上で,1名の教師および

1

名の行政官からなる

2

名の委員は,その意見の相違を 見直すために,専門調査委員会からランダムに選抜される。教師と意思決定をした管理 職が争点の事実を表明する意見聴取にしたがって,2名の委員は争点を考慮する。もし

2

名の委員が処理すべき決定に合意すれば,彼らはある決定を出し,その決定は実施さ れるものとする。もし

2

名の委員が処理すべき決定に合意しなければ,元の決定が維持 されるものとする(ProComp協約

2.6.1.5)。この規定はデンバー公立学校区側に主導

権がある。デンバー教員組合が苦情処理に対して一定程度の規制を行っているものの,

最終的な決定権は行政側であるデンバー公立学校区が握っている。

例えば,「児童・生徒の学習目標」の評価の際,教師の評価者である校長による依怙 贔屓が生じうる可能性がある。依怙贔屓の存在に関して執行委員長は「それは起りえる ね。……それを完全になくすことはできない。でも最小限にすることはできる。『児童

・生徒の学習目標』に関する争点があって,教師は達成したと思っているけど,校長は 達成していないと言う。なぜなら,校長はその教師のことが好きではないから。そうな ると,その教師には達成したと主張する場が与えられる。自分がやったという証拠を見 せる。アピールするプロセスをもっているんだ。でも完璧ではない。……合意に達しな ければ,独立した専門調査委員会が出てくる」(73)。このように,「児童・生徒の学習目 標」の評価に伴う依怙贔屓はありえる。それは完全には無くならない。しかし,依怙贔 屓を最小限にすることはできる。まずは教師と校長で話し合う。エビデンスに基づいて アピールをし合う。それで解決しなければ,専門調査委員会が処理するということであ

コロラド州デンバー学区における公立学校教員の報酬制度に関する一考察 102

る。

また,「効果的教育実践」の最終評価者は校長であり,校長の依怙贔屓に対してデン バー教員組合はどのように対処しているのか。これも校長と当該教師との話し合いの場 が設定され,それでも解決しない場合は,やはり専門調査委員会が処理することとな る。

このように「児童・生徒の学習目標」や「効果的教育実践」という苦情が発生しそう な項目についての苦情処理手続きは,ProComp協約に規定され,デンバー教員組合は 苦情処理を担う専門調査委員会の委員であった。

では,実際のところ,苦情処理件数はどの程度存在するのだろうか。執行委員長の答 えは次のようであった。「苦情処理件数は多くない。年に

2, 3

件だ。争点や問題の多く は人的資源課と話し合っている。不平不満になりそうなことは数百とあって熟慮した。

数百もあったので我々は心配だった。しかし,専門調査委員会に持ち込まれることはほ とんどない」(74)

。苦情処理件数の少なさをどのように考えればよいのだろうか。Pro-Comp

の評価システムがほぼ完璧だということであろうか。評価に対する妥当性が担保 されているということであろうか。評価者による依怙贔屓は皆無に等しく,教員の大部 分は評価に対して納得しているということだろうか。

専門調査委員会に持ち込まれそうな案件は,評価者の判断が入り込みうる「専門性向 上単元」,「児童・生徒の学習目標」,「効果的教育実践」の

3

つである。「専門性向上単 元」については,教師の評価者は同僚と「専門性向上単元」課担当者であり,評価プロ セスに主観が入り込む余地があるものの,「専門性向上単元」を終えれば報酬が獲得で きるのが慣例となっている。「児童・生徒の学習目標」については最終評価が校長によ る判断に依るものの,2014-2015年度は申し込めば評価結果に関わらず報酬を獲得でき ることになっている。「効果的教育実践」についても,最終評価については校長の判断 に基づくものの,報酬獲得率は概して高い。「専門性向上単元」,「児童・生徒の学習目 標」,「効果的教育実践」それぞれに苦情発生の余地が相当程度含まれているとしても,

運用面において,報酬獲得が担保されるのが慣行となっている。報酬獲得の担保という 慣行が,現在のところ,苦情を抑制する主要な理由であると考えられる。

苦情の抑制という点に関わって,やはり,団体交渉を通して

ProComp

の争点を処理 するデンバーの労使関係の存在は無視できない。労使関係の機構については今後の研究 課題としたい。

7.おわりに

ProComp

の各報酬項目の手続きを確認し,加えて,ProCompの運営機構と運営に対

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するデンバー教員組合の関与を確認してきた。以下,明らかになったことを整理し,日 米の相違に関する示唆を示し,今後の研究課題を述べる。

第一に,ProComp の報酬には集団的な報酬と個人別の報酬とが混在し,比重として は集団的な報酬要素が大きいということが明らかとなった。また,デンバー学区の教師 たちには多様な種類の報酬が分配されている。日本は個人別の報酬に限られており,集 団的な報酬はなされていない。

第二に,客観的な評価指標が重視されている。校長による判断が伴う主観的な評価指 標が一部にあるものの,大部分は客観的な評価指標により

ProComp

は構成されている。

「高業績校」,「高成長校」,「期待の凌駕」は州テストに基づいた客観的な評価指標であ った。「任命困難職」は不足している職のリストに基づき,「指導困難校」は児童・生徒 の貧困度に基づき,それぞれ客観的な指標から報酬が与えられる。「授業料と学生ロー ンの返済」は所得に基づき,「上級学位と上級免許」は認定された資格リストに基づき,

これらも客観的な指標から報酬が与えられる。一方,「専門性向上単元」は同僚やデン バー公立学校区の担当者の判断が介入する主観的な評価に基づいた報酬であった。「児 童・生徒の学習目標」は校長による主観的な評価に基づいた報酬である。「効果的教育 実践」には「専門職の実践」の「観察」,「専門職気質」それぞれが校長の判断を伴う主 観的な評価指標に基づき,「児童・生徒の認知」については児童・生徒の肯定的回答と いう児童・生徒の判断に基づく主観的な評価指標であった。「児童・生徒の成長」の

「児童・生徒の学習目標」は主観的評価に基づき,「学区成長」については客観的評価に 基づいている。「効果的教育実践」は主観的評価指標と客観的評価指標とが混在してい た。このように,ProCompによる報酬獲得の評価指標には客観的指標と主観的指標と が混在しているものの,比重としては主観的指標よりも客観的指標の方がより大きい。

日本は主観的な評価指標に基づいている。客観的指標への試みは一部ではなされてい るのかもしれないけれど,主として学力テストという客観的指標を用いることは日本で は難しい。米国においても学力テストに基づく報酬のみでは実施困難であるけれど,児 童・生徒の貧困率に基づいた「指導困難校」を設置することによって,報酬分配を平準 化して処理している。

なお,筆者が主観的な評価指標と客観的な評価指標とに拘る理由は,どちらが望まし い評価指標であるのかを検討したいからではなく,日米の相違を検討したいからであ る。

第三に,ProComp の運営に対してデンバー教員組合は深く関与している。制度実施 面の管理,報酬財源の管理,評価結果に対する苦情処理手続きについて,デンバー教員 組合の組合員はそれぞれの委員として構成されている。日本では組合員が評価制度の実 施面の管理,報酬財源の管理,苦情処理手続きに委員として構成されているのだろう

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