ならない従属人口が減少し、貯蓄 を増加できる好機につながり、経 済成長が促進される。ただし、こ れはその国にこの機会の利用を可 能にするだけの経済的・制度上の 環境が存在する場合に限る29。や がて人口の高齢化が進行するにつ れ、労働者に対する従属人口の割 合が再び上昇し、経済的ボーナス が生じうる条件に終止符が打たれ る。
例えば東アジアでは、1975 年以 降 の 従 属 人 口 指 数 の 急 速 な 低 下 が、同地域の急速な成長に大きく 貢献した公算が大きい30。南アジ アと東南アジアでは出生率と従属 人口指数の低下が緩やかなため、
よ り 緩 慢 な 経 済 成 長 に つ な が っ た。南アジアと南米では、2025 年 の経済活動が年齢構成の変化を考 慮しない場合に想定される数値よ り 25 %高くなる可能性がある。サ ハ ラ 以 南 の ア フ リ カ で は 、 こ の
「人口ボーナス」が 50 %増加する ことも考えられる31。従属人口指 数は、東アジアでは 2010 年に、南 アジアと東南アジアでは 2030 年ま でに再び上昇し始め、経済成長の 鈍化につながると思われる。
出生率の低下につながる傾向を もつ政策は気候変動によってかか る費用の大幅な減少にもつながり やすいが、だからといって、人口 増加の減速が気候変動を緩和する 方法として最も効果的、または公 正であるというわけではない。1 人当たりの排出量削減は様々な手 段を通じて達成することが可能で あり、将来の排出量を削減するう えで最も重要で直接的な手段であ ると一般に考えられている。しか しながら、人口増加の減速は気候 問題の解決をより容易にする可能 性があり、またこのような長期的 な利益を得るには、近い将来の人 口政策に向けた投資が必要とされ る32。
行動に関する提言
人口・環境・開発の動向におい てプラスの相乗作用を促進するた めには、さらなる投資が必要とな る。以下にいくつかの優先すべき 行動の概要をまとめる。
1. 国際人口開発会議(ICPD)の世
界的合意を実施すること 1994 年に ICPD は、持続可能な 経済成長の促進、リプロダクティ ブ・ヘルスに関する権利を含む人 権の保障、すべての生命が依存す る環境保護を目指した人口・開発 分野での行動について合意に達し た。この合意の完全な実施を追求 することが経済・社会開発を活発 にし、それが直接または間接的に 持続可能な開発の促進とすべての 人の生活の質の向上につながる。女性の社会的・経済的・政治的 参加を促進することは、人権と公 正の促進、保健教育分野への投資 の増大、市民社会制度の強化、経 済成長の促進、世界人口の安定化 の加速、天然資源に対する負荷の 緩和につながる。プログラムの計 画、実施、監視に確実に女性を参 加させることはきわめて重要であ る。
家族計画、母性保護、HIV/エイ ズを含む性感染症の予防などリプ ロダクティブ・ヘルス・サービス へのアクセスを拡大する必要があ る。特に、移民居住地やサービス が行き渡っていない都市と都市周 辺地域の居住区など特に開発から 見放されたところや、歴史的にサ ービスが不足していた破壊されや すい生態系の中、そして環境管理 を積極的に行う地域のグループに 対して拡大される必要がある。
リプロダクティブ・ヘルス/ライ ツの保障は、女性に教育と雇用の 機会を提供する試みの強化につな がる。これは個人と社会の双方に 利益を与える。教育を受けた女性 の選択肢は雇用、婚姻、出産に関 してさらに広がり、彼女たちは自 分の人生について一層の決定権を もつようになる。また、教育を受 けた女性は出産する子ども数が少 なくなる傾向にあり、生まれた子 どもは健康で十分な教育を受け、
将来の世代への種をまく33。同様 に、女性の経済的機会と土地や信 用貸しなどの資産を管理する力を 強化することは、ジェンダーの公 正と平等を目指すうえで重要な一 歩となり、世界中で女性を苦しめ 続けている貧困、高い出生率、無 力の悪循環から抜け出す明確な道
筋になる。
また、ICPDの目標を達成して人 口増加を減速させれば、環境問題の 解決策を見出すうえで不可欠な時間 が生まれるだろう。解決策として、
例えば化石燃料や森林伐採よりも破 壊的でないエネルギー源を軌道にの せて、広く利用可能にする方法、環 境面での持続可能性を保ちつつ収穫 高を増加する方法、地下水面や帯水 層を破壊せずに清潔な水と衛生設備 を必要とするすべての人に提供する 方法、必要な原料や廃棄物が少ない
「グリーン(環境への影響が小さい)」 消費財を開発し共有する方法、無駄 が多い消費パターンを抑える一方、
基本的なニーズがいまだに満たされ ていない何十億人もの消費水準を上 昇させる方法などがある34。また、
人口増加の減速により、政府と市民 社会にとっては、汚染されていない 環境に加え、ヘルスケア、教育、雇 用、公衆衛生、住宅に関する今後の 世代のニーズに向けた計画を立案す る時間の余裕が生まれる35。
また、人口増加を減速させる行 動が、例えば主な生物多様性地域 の保全、絶滅のおそれのある種の 保護の強化、有機農業の促進、個 人 や 組 織 に よ る 過 剰 な 消 費 の 削 減、汚染と廃棄物を制限する政策、
「環境税」の案出と課税、環境に 害を与える補助金の廃止といった 環境を支援する直接的解決策と組 み合わされた場合は、その有益な 効果は何倍にもなり加速する36。
2.
より持続可能性の高い生産工程の普及、開発、活用に向けた奨 励策を実施する
先進国も開発途上国も、身近に ある環境への影響の小さい「グリ ーン」テクノロジーを農業や工業 で十分に活用していない。また、
鉱 物 資 源 の 採 掘 は 環 境 破 壊 を 伴 い、鉱物の価値の少なくとも一部 はこのために相殺されている。
環境コストを査定するのに合意 された基準はないが、それは一つ には長い時間枠でとらえなければ ならないこと、もう一つには費用 が複雑な形で拡散していることが 理由である。持続可能な技術への 移行は、多額の費用がかかり混乱 を招くとみなされることが多く、
その利益は現れるのが遅い、また
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は不確かであるということで、価 値が低く見られる。また、環境コ ストのほうが技術移転にかかる費 用よりも明らかに上回っている場 合でさえ、開発途上国と経済移行 諸国は資金難に直面する。
産業や地域社会に対する基準と 補 助 金 制 度 を 組 み 合 わ せ る こ と で、よりクリアで効率的な生産を すでに推進している経済的動機を さらに増強できる。開発途上国と 経済移行諸国の多くは、このよう な動きを進展させるために今以上 に強固な財政・政治構造を必要と している。しかし、なかにはすで に競争圧力を受けて生産者と政府 が環境に優しい政策を促進するよ うになっている国もある。環境悪 化を促進する補助金は廃止される べきである。
新しい技術の採用に必要な情報 と 技 術 的 支 援 を 各 国 に 提 供 す れ ば、比較的少ない費用で保健、生 産性、環境の水準を大幅に改善で きるだろう。
先進国では、自分たちの生産技 術と消費選択が地域や地球全体に 及ぼす影響、また開発途上国に対 する持続可能な開発の支援から得 られる利益について、政策決定者
や一般住民に一層の情報提供を進 める必要がある。
消費者も生産者も、持続可能で 環境への害が少ない消費パターン に移行する奨励策や選択肢を必要 としている37。商品とサービスは 自然のシステムと調和する形で生 産されなければならない(例えば、
持続可能な形で生産された自然資 源を原料とする製品)。
汚染、密集、枯渇に対して賦課 される環境税は、先進国と開発途 上国の双方で非常に効果的である ことが証明されている。スウェー デンの大気汚染税、マレーシアの 汚水税、シンガポールの自動車税 は着実に定着し、効果を上げてい る。
先進国が消費と環境のジレンマ に関して自ら負担すべき責任を受 け入れ、開発途上国との協力を通 じて国内外でこのジレンマを緩和 する行動をとるという持続可能な 世界を目指した南北協調の取り組 みにより、最大の利益がもたらさ れると思われる38。
このような取り組みの主な構成 要素としては以下が挙げられるで あろう39。
•
すべての国における明確な政策 目標として、すべての人に対す る必要最低限の消費と基本的な 社会サービスを保障すること。•
貧困層と富裕層のどちらの消費 者にとっても環境面での持続可 能 性 が 高 い 技 術 と 手 段 を 開 発 し、活用すること。これには環 境への影響が少ない製品や、化 石燃料に代わるクリーンなエネ ルギー源(例えば、太陽光発電 や水素燃料電池など)などが含 まれる40。•
製品の内容とその環境や社会へ の影響に対する認識を深め、消 費者が購入する製品について情 報に基づく選択をできるように する。•
消費から生じる地球規模の影響 を管理する国際的な合意を強化 すること。これには気候変動と 生 物 多 様 性 に 関 す る 条 約 の 批 准、またその効果的な実行を促 進するための十分な資金の確保 が含まれる。3.
人口、開発、環境の面でより高 い持続可能性が認められる実践 例についての情報基盤を強化す ることニーズが文書化され、特定の介 入から得られる利益と何もしない 場合の将来のコストが明らかにな ると、政策上の優先事項が明確に なる。入手可能な財源に関する情 報は実行を促進する。
開発の活動や生産方法が環境に 与 え る 正 確 な 費 用 に つ い て の 情 報、また外部化された費用を価格 に組み込むことに関する情報が一 層広く提供されるようになれば、
管理職、政策決定者、消費者は経 済的にも環境面で意識の高い選択 ができるようになるだろう。無駄 の多い資源使用や破壊的な資源使 用を保護する補助金を廃止し、持 続可能性を促進する補助金を強化 することは可能である41。
例えば、産業向けに低料金の水 を供給し、そこから汚染された水 が環境に戻される場合、複合的な マイナスの影響が出る。低料金に より水の無駄遣いが促進される。
囲み 16
生態系の価値を評価する
過去10年にわたり、生態系に値札をつける方法を考案しようと いう多くの努力がなされてきた。このような天然資源に関する会 計は進展をみせ、スウェーデン、ノルウェー、ドイツ、オランダ などの一部の国が国内総生産(GDP)を評価する際に資源の減少を 考慮に入れる試みをするまでになっている。それにもかかわらず、
生態系の価値の評価方法はいまだに多くの議論を呼んでいる。
最も広範囲にわたる研究の一つは、世界の生態系は最低でも年 間 33 兆ドルに相当する品目とサービスを提供し、そのうちの 63 %に当たる 21 兆ドルに世界の海洋が貢献していると推計を出 した。地球の富への海洋の貢献額の半分以上が、マングローブ湿 地、サンゴ礁、藻場などの沿岸の生態系からもたらされるもので ある。
生態系のサービスと天然資本の「価値」に関して科学界ではほ とんど意見の一致がみられないが、それでもこれらの推定はこの ような資源の相対的な規模の例示になっている。さらに重要な点 は、持続可能ではない開発をすれば、経済の見地からみて、どの くらいの損失になるかをおおよそのところでも経済学者や計画立 案者が把握できることである。