ソフトウエアやハードウエアの進化により,コンピュータによる各種の解析が 多くの研究に取り入れられている.薄鋼板の成形においても例外ではなく,多く のソフトウエアが多くの研究者や技術者に利用されている(1).そして,コンピュ ータシミュレーションによるスプリングバックの予測(2),成形限界予測(3)や繰返
し塑性変形挙動(ρなど多くの報告がある.
しかし,コンピュータを用いて薄鋼板の成形解析を実行しようとすると,用い るソフトウエアの選択,目的に最適な塑性モデルの選択,さらにコンピュータ解 析に必要な多くのパラメータに対するデータの決定が必要となる.これらの選択 や決定が適切でないと,実際の成形の結果からかけ離れたコンピュータ解析結果 を得ることになる.加えて,このような選択や決定は試行錯誤によることが多い のが実情である.さらに,スプリングバックの予測における解析精度の問題や,
通常の成形解析においても多くの時間を必要とする問題があり,コンピュータに よる薄鋼板の成形解析は実用レベルになっているとは言えない(5).
そこで本章ではコンピュータ解析の実用レベル化を進める基礎として,第3章 で得た温度と弾性係数の関係と,第4章で得た種々の温度下での単軸引張試験に よる塑性パラメータデータを用いて,板状試験片の単軸引張試験における応力ひ ずみ曲線,くびれ発生状況などのコンピュータ解析を行い,塑性モデルの選択や パラメータに対するデータ決定の指針を明らかにした.コンピュータ解析は動的 陽解法有限要素解析を用い,BarlatとLianの異方性塑性モデル(6)を適用して行っ た.解析結果の評価は,単軸引張試験で得られた変形形状および変形量一変形荷 重曲線を,コンピュータ解析で得られた結果(7)と比較して行った.
−61一
5.2 解析法
第3章,第4章で得た薄鋼板の特性を用いた単軸引張試験のコンピュータ解析 は,動的陽解法有限要素法により,BarlatとLianの異方性塑性モデルを適用して 行った.この異方性塑性モデルを適応した理由は,コンピュータ解析のパラメー
タとして塑性ひずみ比であるγ値と,η乗硬化則によるF値およびη値を用いる ことができるためである.
BarlatとLianの異方性塑性モデル(6)では平面応力に対する降伏条件は式(5.1)で 与えられる.
2(σ,)m=αに+K、r+αIK1−K、r+・12K、r (5.1)
ここで,σγは相当降伏応力,αとcは異方性材料定数,初は材料変数でBarlat の指数である.Trescaの降伏条件式では〃F1, von Misesの降伏条件式では〃F2
となる.本章で対象としている冷間圧延の薄板材料は体心立方結晶構造であるた
め,この結晶構造に推奨されているm=6(8)を用いた.1(1と1(2は式(5.2)と式(5.3)
で定義される.
K1=仏一力鋤2 (5.2)
K、=』(〜+ρ2τ; (5.3)
式(5.2)中の力と式(5.3)中のρは異方性材料定数である.それぞれの異方性材料 定数は式(5.4)〜式(5.7)で求められる.σ綱%,㌦は平面応力成分である.
α=2−2
⑭
c=2一α (55)
τ0 1+ちo 乃=
(5.6)
1+τo
.62一
ρ一㌃(2α…2。。〕1/m (5フ)
ここで,τoとアgoはそれぞれ材料の圧延方向に対し引張試験片の長手方向が0度と 90度に切り出した試験片のγ値である.せん断応力脇は,圧延方向に対して45度
に切り出した試験片のτ値γ45を含めて,ソフトウエア作成者により実験式で求め られている.本章で使用した動的陽解法有限要素法のソフトウエアではτ。γの計算 方式は公開されていない(8).
代表的な有限要素解析法には,動的陽解法の他に静的陰解法などがある.動的 解法は運動方程式を,静的解法はっりあい方程式をそれぞれ基礎式としている.
陽解法はベクトルの代入計算により解をもとめ,陰解法は反復により収束解を求 める.参考として,両者のコンピュータ解析の結果を図5.1に示す.室温におけ るJSC980Yの引張試験で15mm単純引張変形を与えた場合である.図5.1の左 端の図は実際の試験で破断に至った試験片であり,中央図は動的陽解法でBarlat
とLi鋤の異方性塑性モデルを適用した場合,右端の図は静的陰解法で2直線近似 等方硬化則モデルを適用して求めた場合の変形形状と応力分布を示すコンター図
である・図5.1中のピ,)_は相当応力の極大値である両コンピュータ解析とも・
試験片の形状・寸法は図4.1を用い両端からそれぞれ20mmの位置をチャックす るものとし,弾性係数Eは210GPa,ボアソン比は0.29で,材料の形態は薄シェ ル要素を用いた.3種の結果を比較すると,動的陽解法ではくびれの発生から破 断想定形状まで試験の結果に近いが,静的陰解法では均一伸びを示し試験の結果
とは異なっていた.
.63一
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X
san宇le σ㎜xr1010 MPa
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輪魂ぷr初旧㎡crHc辻sdbα鵬S繊c加PHc雄』n℃
(σe破庇区r1600 MPa (σeq)n−50 MPa
Fig.5.1 Analysis result of dynamic explicit scheme in comparison ofthe contour figure and stress distribution with the static inlplicit scheme and experimental sample as reference
5.3 解析条件
5.2節でも述べたように,本研究での単軸引張試験のコンピュータ解析は動的 陽解法有限要素法によりBarlatとLianの異方性塑性モデルを適用して行った.材 料の形態は薄板解析に多く使用されているBelytschko−Tsayの薄シェル要素を用
一64一
いた.要素内の計算点である積分点は塑性挙動に推奨されている4点(9)とした.
変形時間は4.5s,変形量は15 mmとし15の時間ステップで計算した.要素分割 は,単軸引張応力状態を呈する中央部については1mmで精度のよいマップドメ ッシュ(薄シェル要素),両側チャック部については2mmのフリーメッシュを
用いた.
第4章で述べた単軸引張試験によって得た塑性特性データをコンピュータ解析に必 要なデータとして用い,各材料(SPCC, JSC590Y, JSC980Y)の種々の温度に対する解析 を行った.表5.1と表5.2は,コンピュータ解析に使用した塑性特性データを示す.4.3.2 項でも明らかなようにF値とη値はひずみの増大にともなって変化する.そのため本 章では,変形開始から最大引張荷重点に至る全過程中の後半を平均した塑性特性デー タと,変形開始から最大引張荷重点に至る全過程を平均した塑性特性データの両者を
Table 5.1 Material data of latter half on defornlation till maximum flow load
Material TemP.℃
E GPa 云MPa
毒 ア0 ア45 ア9023 210 557 0,180 1.40 0.98 2.83
SPCC
200 202 475 0,171 L66 L20 2.21300 198 518 0,194 1.59 1.29 1.96
400 190 474 0,148 1.36 0.86 3.28
500 176 311 0,086 1.38 1.48 1.48
23 210 1282 0,229 1.06 0.69 0.93
JSC590Y 200 202 1065 0,211 1.27 0.81 LO8
300 198 1221 0,231 0.98 051 0.71
400 190 1226 0,208 LO5 0.64 0.89
500 176 818 0,141 0.70 1.17 0.76
23 210 1470 0,117 0.87 1.43 L65
JSC980Y 200 202 1358 0,111 1.14 1.30 0.74
300 198 1528 0ほ68 0.93 1.04 2.24
400 190 1262 0,104 0.76 L57 1.68
500 176 848 0,094 1.33 0.56 1.10
一65一
Table 5.2 Material data of whole process on deformation tlll maximum flow load Material Temp.℃ E GPa
云MPa
易 τ0 ノ445 149023 210 558 0,186 1.40 0.88 3.54
SPCC
200 202 472 0,171 L70 1.43 2.26300 198 528 0,204 1.32 1.61 L51
400 190 537 0,205 1.38 0.80 4.06
500 176 349 0,131 1.36 1.37 1.37
23 210 1346 0,255 1.02 0.63 0.87
JSC590Y 200 202 1077 0,218 1.40 0.76 0.85
300 198 1276 0,252 0.96 0.58 0.66
400 190 1398 0,275 LO1 0.61 0.85
500 176 1062 0,255 0.60 1.68 0.58
23 210 1690 0,176 0.77 1.81 L56
JSC980Y 200 202 1654 0,184 0.94 0.81 0.80
300 198 2165 0,322 0.88 0.74 1.65
400 190 1640 0,201 0.68 2.08 1.52
500 176 1470 0,283 1.23 0.56 1.14
用いてコンピュータ解析を行ない,結果の比較・検討を行った.表5.1は全過程中の後 半の過程から,また表5.2は全過程からそれぞれ得られた各材料の各温度下での弾性係 数E,平均F値,平均η値と0,45および90度方向のτ値を示す.
5.4 解析結果と考察
5.4.1 解析結果の形状的評価
図5.2は,表5.1の塑性特性データを用いて得たコンピュータ解析による試験 片のくびれ発生状況を示すコンター図である.拡散くびれが発生し,さらに局部
くびれが発生している.局部くびれの形態には3種のタイプが確認される.くび れはタイプ1では,引張方向に直角でかっ試験片の中央に,タイプ2では,引張 方向に直角位置からある角度を持って,タイプ3では,引張方向に直角であるが 一66一
Fig.5.2
講繍翻灘
雲灘
幽撫雛
繍灘糠驚織嚢馨 Type l Type 2 Type 3
Contour且gure of necking and stress distribution by computer analyses
試験片の中央から外れた位置に発生した.各タイプについて,平均γ値,r値の 面内偏差および切り出し方向によるア値の大小などを検討したが,コンピュータ 解析に使用した塑性特性データとくびれの発生状態との間には一定の傾向性は見
出せなかった.
それぞれのタイプのくびれは実際の試験でも発生した.,なお,参考であるが,
異方性を考慮しない単軸引張りの場合,すなわち局部くびれが発生する時点での ア値を1とした場合,局部くびれの理論では局部くびれが発生する角度は引張方
向に対して54.4度になる(10).
.67.
Tab▲e 5.3 Necking condition for each material and tempera知re
(Altemate long and short dash lines mean the center of specimens)
Necking cond輌t輌on Material Temp.
@℃ Experiment Latter half Whole process 23
SPCC
200 i300 i
400
11
匿
!500
臣
23
li 薩
JSC590Y 200 1!
1!
300
l i
恥
400 i
li
i
500
1!
康
ll23
li
li
JSC980Y 200 |
| 1!
300 400
li
i
1,
500
! 1!
醗
表5.3は,試験結果(表5.3中のExperiment)と表5.1の塑性特性データを用いた コンピュータ解析結果(表5.3中のLatter half)および表5.2の塑性特性データを 用いたコンピュニタ解析結果(表5.3中のWhole process)それぞれのくびれ発生状 態をパターン化して比較したものである.表5.3では,表の個々の枡を試験片の
中央平行部とみなし,一点鎖線は試験片長手方向の中央位置を,また枡中の太線 は局部くびれの位置と角度の有無を示している.
5.4.2 コンピュータ解析結果の定量的評価
コンピュータ解析結果の評価は,単軸引張試験で得られた変形量一変形荷重曲 線に対して,コンピュータ解析で得られた変形量一変形荷重曲線がどの程度一致 一68一
しているかを,各供試材料と各試験温度条件に対して行った.
図5.3〜図5.7はそれぞれ,試験温度23〜500℃での変形荷重一クロスヘッ ドストローク曲線の比較である.実線は単純引張試験の結果であり,凡例では rExperiment」で示す.破線は試験開始から最大引張荷重点に至る試験過程の後 半の塑性特性データを用いたコンピュータ解析による結果であり,凡例では
「Latter half」で示す.一点鎖線は試験開始から最大引張荷重点に至る試験過程全 過程の塑性特性データを用いたコンピュータ解析による結果であり,凡例では
「Whole process」で示す.コンピュータ解析結果の表示は,いずれの変形荷重一 クロスヘッドストローク曲線でも,単純引張試験結果での試験片破断時のクロス ヘッドストロークまでとした.
図5.3は,試験温度23℃における結果である.一般冷間圧延鋼板SPCCの場 合,最大引張荷重に至る試験過程後半の塑性特性データを用いたコンピュータ解 析の結果と,最大引張荷重に至る試験過程全過程の塑性特性データを用いたコン ピュータ解析の結果はほぼ一致した.また,最大引張荷重点まではコンピュータ 結果と試験結果はほぼ一致した.JSC590Yの場合,2種類のコンピュータ解析結 果はほぼ一致したが,変形荷重については,試験結果に比べてコンピュータ解析 結果が最大引張荷重点で11%程度低かった.最大引張荷重点以後は,全過程のデ ータを用いた場合より後半のデータを用いた場合の解析結果が試験結果からより 離れているが,破断に向かっての変形荷重の低下傾向は後半のデータを用いた場 合が試験結果に近かった.このことは,後半のデータを用いた場合が加工硬化指 数ηの影響をよく反映しているものと考えられる.JSC980Yの場合,2種類のコ
ンピュータ解析結果がともにクロスヘッドストロークがOm!nから2mm付近ま では試験結果と大きく異なった.図5.3の読み取りによる試験開始から降伏荷重
(約12kN)までの弾性係数は,コンピュータ解析の場合は入力値である210GPa を示しているが試験結果の場合は約33GPaである.この試験結果の場合の弾性係
一69・・