4-1.山本(1994)と比較して
目標値(=被験者のベイズ型推論)の達成度については,山本(1994)で得られた結果よりも 明らかに達成度の高いものであった。目標値の達成のための要因を探るという観点では,明らか な進歩がみられたといえるだろう。
本研究では,課題問題として山本(1994)の問題1を課題2,問題5を課題3として参考に問 題を設定した。それぞれの正解者数を比較すると,表8のようになる。
表8 本実験と山本(1994)の成績の比較
課題 本実験での正答者数
(カッコ内は%)
山本(1994)での正解者数
(カッコ内は%)
課題2(山本の問題1と同等) 10/12(83.3) 42/78(53.8)
課題3(山本の問題5と同等) 4/12(33.3) 6/78( 7.7)
人数には差があるものの,明らかに本実験での成績が山本(1994)での同型的図式表現による 解説後よりも高い。
本実験の被験者のほうが,成績が良かったことの要因としては,被験者が,本実験では大学生 であり,山本(1994)では高校生であることもあるが,大学生,高校生というよりも,山本(1994)
の被験者は前提値をしっかり満たしていなかったかどうかが分からないという点も結果に影響し ていると考えられる。
また,本実験で目標値を達成するために作成した冊子やテキスト作りの効果も当然影響してい たと考えられる。
4-2.伊藤(2008・2009)と比較して
伊藤(2088・2009)では,ベイズ型推論課題においてベイズ的推論をするためには,解決者に コンピテンス(確率量化の段階Ⅲ)が備わっている必要があると主張し,被験者にコンピテンス が備わっているかを測定したが,ほとんどの被験者においてコンピテンスが備わっていないこと が分かった。しかし,コンピテンスを備えている被験者がほとんどいなかったがゆえに,コンピ テンスがあればベイズ的推論が可能であるかどうかについてはわからなかった。
この点について,本研究では,構成法による要因の組合せによって被験者にコンピテンスを備 えさせることができたといえる結果が得られたが,コンピテンスが備わっていたとしても解決の
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達成度が十分でないベイズ型推論課題があることが分かった。
今回の研究における目標値は達成できたが,研究目標のベイズ型推論の達成のためにはそれだ けでは不十分であるといえる結果であった。つまり,ベイズ的推論をするためには,課題解決者 のコンピテンスのみでなく,課題のパフォーマンス要因も重要である可能性がみられたといえる。
しかし,他の可能性として,パフォーマンス要因の問題なのではなく,ベイズ的推論を行うた めには,伊藤の想定していたコンピテンスの他にも要因となりうるコンピテンスがあるとも考え られ,今後の検討の余地も残されている。
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4-3.本実験において目標値を達成させた要因について
・本研究は,構成法的研究であり,目標値である「3次的量化の段階ⅢBまでの操作を可能にし,
ベイズ的推論を可能にすること」を満たすために,本実験では,「確率面積図」の概念を用いて,
・順序立てて考えさせること,
・「確率面積図を描く方法」,「確率面積図に色を塗る方法」,「色つきの確率面積図から立式する方 法」といった確率面積図を使えるようにする方法を冊子を用いて教授すること
・「確率面積図」を用いて課題を解かせること ・問題を考える際に図を描きながら考えさせること
を構成法の主要因として試した。
目標値を概ね満たしたという本実験の結果から,これらの要因は効果があったといえる。では,
具体的にはどの要因が効果的であったかについて考察していく。
・順序立てて考えさせること
「順序立てて考えさせること」は,伊藤(2008・2009)に倣い導入した方法である。伊藤(2008・
2009)は,確率量化の操作能力の発達段階を測定した研究であったが,被験者の確率量化の水準 を測るために,設問を確率量化の段階毎に設定し,順序立てて徐々に上位の段階の問題を考えさ せるようにしていた。順序立てて設問することは,測定の結果をより明確にすることに効果的で あったが,同時に順序立てて考えさせることになっており,順序立てて考えさせることは,スモ ールステップの原理の観点から,被験者に考えやすくさせ,考えをまとめやすく,取り組みやす くする効果もあると考えられる。
本研究では,「順序立てて考えさせること」を,「確率面積図」の説明のためのテキストに取り 入れたが,このことが目標値の達成に効いていたかを考えると,被験者の課題2の結果の観点か らは,効果的であったといえる。また,感想等のフィードバックからは,「ステップを踏んでいて よかった,順を追っていてよかった,段階を踏んでいて細かく説明されていたので非常にわかり やすかった」等の意見が多数みられ,順序立てて考えさせることが被験者の確率面積図の理解を 促進させ,結果的に目標値の達成に貢献していたことがわかる。
「順序立てて考えさせる」ということは,「確率面積図」の理解のためには非常に効果的だった といえるだろう。
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・「確率面積図を描く方法」,「確率面積図に色を塗る方法」,「色つきの確率面積図から立式する 方法」といった確率面積図を使えるようにする方法を冊子を用いて教授すること
「確率面積図を描く方法」,「確率面積図に色を塗る方法」,「色つきの確率面積図から立式する 方法」は,いずれも本研究の目標値である「3 次的量化の段階ⅢB までの操作を可能にし,ベイ ズ的推論を可能にすること」の直接的な方法であり,目標値を達成させるために最も直接的に影 響すると考えられる要因であり,本研究の要となる要因といえるだろう。
結果の分析から,「確率面積図を描くこと」,「確率面積図に色を塗ること」,「色つきの確率面積 図から立式すること」には順序性があり,「確率面積図を描くこと」が出来なければ,「確率面積 図に色を塗ること」ができず,また「確率面積図に色を塗ること」が出来なければ「色つきの確 率面積図から立式すること」ができないという風に,確率面積図を描くこと→確率面積図に色を 塗ること→色つきの確率面積図から立式することの順に可能になることが分かった。
このことは当然のことではあるが,「確率面積図を描くこと」と「確率面積図に色を塗ること」
をするために必要な「条件」や「経験的事実」等といった情報を読み取る能力は順序的に備わる のではなく,別々に備わるという結果も得られており,「確率面積図が描けないがどこに色を塗っ たらよいかはわかっているという状態」にあった被験者も確認された。よって,「確率面積図を描 くこと」と「確率面積図に色を塗ること」に必要な能力は,本件研究で用いた冊子からは,別々 に備わっており,被験者の理解にばらつきが出た可能性がみられた。つまり,「確率面積図を描く こと」のみが備わっている被験者には「確率面積図に色を塗ること」をさらに重点的に,「確率面 積図に色を塗ること」のみが備わっている被験者には「確率面積図を描くこと」をさらに重点的 に教授する必要がある。
この点については,被験者からのフィードバックとして「条件」と「条件付き確率」の違いが 分かりにくかった・「条件」と「条件付き確率」が何を示すのかわかりづらかった。
との意見が出ており,特に「確率面積図を描くこと」の能力が備わりにくかったことが分かる。
よって,「確率面積図を描くこと」さらに詳しく解説することで改善されると考えられる。
「色つきの確率面積図から立式すること」は,確率面積図として視覚化した情報から必要な情 報を抜き取りを数式にする作業であるが,色を塗った面積の文章的な意味を理解していなければ 正しく立式することはできない。つまり,「色つきの確率面積図から立式すること」と「確率面積 図に色を塗ること」は,意味を共有する過程であり,色つきの確率面積図から立式した式を,文 章的に考えたときに,求める体情報となっているかがしっかり理解できていれば,意味がおかし い時にその時点で色塗りに失敗していることに気づけ,見直しを測れるのである。
の色を塗った部分が,正しく求める情報を示しているかが文章的な意味で理解できていなけれ ば,正しく立式することはできない。
これら 3つの能力は,すべて備わっていないと目標値の達成は不可能であり,当然どちらかし かできなかった被験者は課題を不正解となっている。
課題2の結果の観点からは,やはり概ねの被験者が正答できていることから,効果的だったと