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34.広島県

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太郎

(A)植物誌

199711月に広島大学理学部附属宮島自然植物実験所と 比婆科学教育振興会の共同編集で『広島県植物誌』(中国新聞 社)が刊行された。B 5判,832頁で,カラーグラビア32頁,

広島県の植物相と植生,広島県の植物研究史,植物目録,広 島県の地名,天然記念物,自然公園と自然環境保全地域,維 管束植物文献目録(コケ・地衣・淡水藻類はそれぞれの目録 で文献がある)という構成になっている。植物目録では種子

植物2,206 種 (種・亜種・変種をそれぞれ として数

え,原則として品種は数えない),シダ植物301 種 ,コケ植 678 種 ,地衣植物440 種 ,淡水藻類1,257 が載 録されている。種子植物では,ツガなど52種について,堀川 芳雄博士の考案した3面法による分布図が付されている。こ れは国土地理院の1 : 50,000地形図を4分割したものを単位と して,水平分布と南北・東西方向の垂直分布(海抜50 mごと)

をメッシュマップの手法で表示したものである。シダ植物で は,1 : 25,000地形図を単位とした水平分布のみが,スギナな 31種で示されている。また,種子植物では,イヌビワなど 23種について伊藤之敏氏の筆になる線画が,コケ・地衣・淡 水藻類では,代表的な種の写真が掲載されている。

『広島県植物誌』編集の基本方針は,確実に標本のあるもの について載録することとし,標本がなくて,文献だけで記録 されているものは未確認種として取り扱った。参照した標本

10万点以上にのぼるが,その中から各市町村(島については各島ごと)につき1点の代表標本のみを載録 した。標本は採集者名の略号と標本番号が付され,採集年月日などは省略されている。産地の標記は市町村名 と島・山・川・滝などの地名を付し,海抜高度や群落などは記述していない。絶滅の恐れのある貴重種につい ては,「県東部」などの標記で地名を伏せてある。文献は約1,800件について,そのすべてを各種ごとに載録 した。

目録部分の執筆者は,種子植物が関 太郎・渡辺泰邦・吉野由紀夫(ラン科は世羅徹哉,タンポポ属とタケ 亜科は浜田展也),シダ植物が松村雅文・田丸豊生・浜田展也,コケ植物が出口博則・山口富美夫・坪田博美

・関 太郎,地衣植物が中西 稔・生塩正義・竹下俊治,淡水藻類が半田信司・前安井 明・中野武登である。

広島県の維管束植物のフローラとしては,土井美夫『広島県植物目録』(博新館 1983年)があり,図説と しては,井波一雄・三上幸三『広島県植物図選 I―V』(博新館 1981―1990年),竹田孝雄『広島県のシダ植 物』(博新館 1987年),ササ類では,竹田孝雄『広島県ササ類植物誌』(シンセイアート出版部 1995年)な どがある。広島県における維管束・コケ・地衣・淡水藻類などの地域フローラ及び植生は多数あるが,代表的 なものを報告書名で記すと,『三段峡と八幡高原』(広島県教育委員会 1959年),『厳島の自然』(宮島町 1975 年),『弥栄峡の自然』(名勝弥栄峡学術調査委員会 1979年),『滝山峡−自然と生活−』(滝山峡学術調査委 員会 1983年),『帝釈峡の自然』(帝釈峡の自然刊行会 1988年),『立岩貯水池周辺地域の自然』(中国電力 株式会社 1989年),『灰塚ダム湖とその周辺の自然』(灰塚ダム地質動植物学術調査団 1996年),『安芸熊 野の自然誌』(熊野町教育委員会 1996年),『広島県高野町の自然』(高野町教育委員会 1998年)などがあ る。維管束植物だけのフローラとしては,太刀掛優『広島県呉市植物誌』(比婆科学教育振興会 1999年)が ある。

(B)研究機関

広島大学(東広島市鏡山)には,大学院理学研究科生物科学専攻植物生物学(出口博則教授の研究室,もと 植物分類・生態学講座),同附属宮島自然植物実験所,総合科学部総合科学科自然環境研究,教育学部自然シ

109.広島県植物誌

ステム教育学などの研究室において,広島県の植物相や植生の研究が行われている。「ヒコビア会」は,昨年,

創立50周年を迎えた植物分類学・生態学の研究会で,広く国内外の方々が会員となっている。その事務局は 大学院理学研究科の出口博則教授の研究室に置かれている。会誌『ヒコビア』は年1回刊行され,国際的な 学術雑誌である。

「ヒコビア会」と宮島自然植物実験所との共催で,月1回,「ヒコビア植物観察会」が主として広島県内で 開催されている。この観察会は昭和31年(1956年)に堀川芳雄博士によって始められ,広く一般に開放さ れている。「ヒコビア植物観察会」は,どんな天候でも,毎月の予定日には欠かさず開催され,この会で培わ れた人脈と集約された情報が『広島県植物誌』を完成させる大きな原動力となった。

広島市立植物公園(広島市佐伯区)でも,広島県の野生植物について,長年にわたり調査が続けられており,

吉和村冠山や湯来町東郷山などの地域フローラが発表されている。また,植物公園では,「植物公園友の会」と 共催で「植物観察会」が開催されている。「広島草木に親しむ会」は主婦を中心とした会で,和田千恵香さん を代表に熱心な活動が続けられている。

(C)標本庫

広島大学大学院理学研究科生物科学専攻植物生物学出口教授の研究室には蘚苔類を中心とした標本が,世界 的な視野で集められている。広島県の維管束植物の標本は同附属宮島自然植物実験所に集められ,約10万点 にのぼるが,自由に閲覧できるほど整理されてはいない。宮島実験所には広島県をはじめ日本並びに世界各地 からの蘚苔類の標本もあり,理学研究科の蘚苔類標本と合わせれば数十万点に及ぶ。しかし,蘚苔類の標本も 自由に閲覧できるほど整理されておらず,またデータベース化も進んではいない。宮島実験所には,土井美夫 氏の維管束並びに蘚苔類標本(広島県及び鹿児島県),河毛周夫氏の広島県東部の維管束植物,竹田孝雄氏の 広島県のシダ植物及びササ類の標本があり,広島県のフローラの資料として重要である。また,広島県のもの ではないが,高柳悦三郎氏のコレクションがある。これは村越三千雄氏の植物図鑑の基礎資料となったもので,

明治から昭和初期にかけて,北はサハリン・中国(東北)から南は台湾に至る旧日本領土の各地からの標本が ある。栽培植物も多く,保存状態も良好で,まことに貴重な植物標本である。広島市植物公園には広島県各地 の野生植物の標本が保管されている。広島市植物公園は伝統的にランの研究が行われており,県内の野生ラン の貴重な標本も多い。広島県比婆郡比和町にある比和町立自然科学博物館には,竹田孝雄氏の広島県のシダ・

ササ類の標本,高野町など広島県北部の地域フローラ調査標本が保管されている。広島県には,比和町立自然 科学博物館の他には,国公立の自然科学博物館がない。そのために,『広島県植物誌』に引用された宮島実験 所保管以外の標本は個人で保管している現状である。広島県に公の自然誌博物館が設置されることを切望する

次第である。

(D)レッドデータブック

広島県は平成6年(1994)3月に「広島県野生生物の種 の保護に関する条例」を制定した。1992年のリオデジャネイ ロにおける国連環境開発会議(地球サミット)をうけて,日本 政府が「生物多様性国家戦略」をまとめたのが平成7年(1995 年)であるから,広島県の条例はそれに先駆けたものであり,

野生生物の保護条例は,熊本県に次いで,全国では2番目の ものであった。この条例を施行するための基準として『広島県 の絶滅のおそれのある野生生物−レッドデータブックひろしま

−』(広島県 1995年)がまとめられた。植物は維管束植物の みが取り扱われ,178種が載録されている。この普及版という 形で『広島県の自然と野生生物』(中国新聞社 1995年)が発 刊され,本書には各種ごとにカラー写真と県内の分布図,分か りやすい解説が付いている。その後,環境庁(2000年)のレ ッドデータブックが刊行された。広島県は独自のカテゴリーを 採用していたので,環境省のカテゴリーとの整合性をはかり,

さらにコケ植物や群落などを加えた新しいレッドデータブック の改定作業が平成12年度に行われた。その報告書は,まだ,

110.広島県の絶滅のおそれのある野生生物

印刷になっていないが,種子植物284種,シダ植物44種,コケ植物53種,植物群落145地点が載録されて いる。平成14年度には現地調査と,さらに検討作業が続けられている。広島市でも独自のレッドデータブッ クの作成が進められ『広島市の生物−まもりたい生命の営み−』(広島市 2000年)が刊行された。これには,

種子植物78種,シダ植物16種,コケ植物19種,地衣類9種,藻類4種,菌類23種,群落15が載録され ている。代表種のカラー写真,各種ごとに広島市域の分布図がある。

(E)植物群落

広島県全域の植物群落を扱ったものとしては,『第2回自然環境保全基礎調査特定植物群落調査報告書』(広 島県 環境庁委託 1978年)があり,県内の代表的な植物群落の組成表がある。この追跡調査として,『第3 回自然環境保全基礎調査特定植物群落調査報告書(広島県)』(環境庁 1988年)がある。第4回調査も行わ れたが,その報告書は印刷されていない。鈴木兵二他『広島県の植生図』(広島県 1979年)は1 : 200,000 の植生図とその解説書である。さらに,『広島県の現存植生図』(広島県 1979年)があるが,これは1 : 50,000 の植生図のみで,解説書はない。県内の地域植生については,前掲の各地の報告書の中に多数ある。

(関 太郎:〒738―0027 広島県廿日市市平良山手3―26 TEL & FAX:0829―32―5513)

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