山元 晃
(A)植物誌
1929年に宇井縫蔵『紀州植物誌』(高橋南益社)が刊行され た。B 5判,338頁で,序説と各論に分かれ,各論ではキク科 から始まり各種に対して簡潔な解説及び普通種以外は産地が挙 げられて,シダ植物まで,2,000余種の種類がリストアップさ れている。上記植物誌に記録された植物標本の多くは,現在,
武田薬品工業株式会社京都薬用植物園に保管されている。その ほか,1937年に坂口總一郎著で『紀州植物研究之栞』(福本印 刷所出版部)が刊行されている。坂口氏が採集した標本は,現 在,和歌山県立自然博物館や京都大学総合博物館などにわずか に残されている。地域的なものとしては,古座川町平井周辺は 1932年に館脇 操「和歌山演習林植物目録(第一報)」(『北海 道帝国大学演習林研究報告』第七巻),1938年に館脇 操「和 歌山演習林植物目録(第二報)」,(『北海道帝国大学演習林研究 報告』第十三巻)が発行され,それぞれ444種,133種が報告 されている。清水町近井については,1941年に岡本省吾「和 歌山演習林植物誌」(『京都帝国大学演習林報告』第十四号)が 発行され,855種35変種が記録されている。
1957年に小川由一は,『和歌山信愛短期大学紀要』で「紀伊 友ケ島植物誌」,1958年に「紀伊高野山植物誌」,1960年に「紀 伊小口郷植物誌」を発表している。また,1977年に小川由一
『紀伊植物誌II 高野山の植物』,1985年に中村正寿(編)『紀
伊植物誌III 紀州の植物覚書』が刊行されている。『紀伊植物誌II』には,高野山植物目録及びその追補解 説がまとめられている。『紀伊植物誌III』には,真砂久哉による小川植物コレクションのシダ植物や和歌山県 のシダ植物分布についての報告がある。
1983年に関西自然保護機構(編)『友ケ島学術調査』(和歌山市)が刊行されている。この中には,山元 晃・高須英樹の「友ケ島の植物目録」,山元 晃の「友ケ島植物目録の追加種及び再確認種」がまとめられて いる。本州最南端として植物分布上注目される大島(串本町)の植物については,1940年に塚本洋太郎ほか 4名編の『大島植物目録1』,1976年に『大島植物目録2』(復刻版),1999年に京都大学大学院農学研究科附 属亜熱帯植物実験所から『紀伊大島植物目録」として刊行されている。
最近和歌山県のフローラに追加された植物や新しい情報は,『和歌山県紀北部,紀中部両地域の帰化植物』(岡 部種造・三尾喜太郎 1982年),和歌山県立自然博物館発行の『和歌山県帰化植物目録I・II・III』(山元 晃 1988,1989,1994年),『和歌山県のスミレ』(山元 晃 1992年),『和歌山県内のカヤツリグサ科スゲ 属ナキリスゲ節の分布』(山元 晃 1998年)がある。
水生植物については,「和歌山県北部に見られるため池の水草」(山元 晃 1995年)がある。また南紀生 物同好会の会報『くろしお』(No.14〜19,1995〜2000年)には,県内各地域のため池の水生植物が,北野一 夫により紹介されている。1991年に古座川町教育委員会は松下 弘・後藤 伸『古座川の自然I,II』を発行 したが,その中ではキノクニスズカケ,キイイトラッキョウ,着生ラン,シダ植物など古座川流域を特色づけ る種についての紹介がなされている。1997年に中嶌章和・瀬戸 剛・佐久間大輔『真砂久哉氏収集和歌山県 産シダ植物標本目録』が大阪市立自然史博物館から発行されている。この目録は和歌山県はもとより,日本の シダフローラ解明にとって貴重なものである。
現在,最新の和歌山県植物誌は発行されていないが,2001年に和歌山県がレッドデータブックを発行した 際,1929年発行の『紀州植物誌』に記録された種をはじめ,県内各地域の報告書に見られる植物について,
丹念に検討した経緯がある。また和歌山県立自然博物館には寄贈,収集された標本もあり近い将来「平成版和 歌山県植物誌」の発行が期待される。
一般向けに書かれた和歌山県の植物に関する図書では,小川由一『高野山の植物』(1940年 高野山大学出 図103.紀伊植物誌I,II,III
版部 絶版),熊野路編さん委員会(編)『熊野中辺路 大塔山系の自然』(1973年 熊野中辺路刊行会),『く まの文庫! 大塔山系の自然』(1973年 熊野中辺路刊行会),『くまの文庫" 森林と動植物』(1975年 熊 野中辺路刊行会),南紀生物同好会(編)『わかやまの生物』(ヤワラハチジョウシダをはじめ数十種類の植物 紹介記事あり 1979年 帯伊書店),真砂久哉『南紀から地球の植物をみる―シダに惹かれたナチュラリスト の記―』(1996年 研成社)などがある。
(B)研究機関
植物を研究している機関には,和歌山県立自然博物館(海南市船尾)があり,1982年の設立以来,和歌山 県の地域フローラ解明のため,和歌山県内の維管束植物の収集を行っている。
和歌山大学教育学部生物学教室の高須研究室(和歌山市栄谷)では,植物の生活史や繁殖生態についての野 外研究とともに分類学的な研究活動も行っている。講座は植物形態学及び生態学を中心に,フィールドに強い 人材育成にも力を入れている。
和歌山県植物公園緑花センター(那賀郡岩出町坂本)は,1979年に設置されて以来,緑化樹及び花卉に関 する育成技術の研究向上と共に緑と花の情報発信機能をもち,植物公園としての憩いの場の提供をしている。
京都大学大学院農学研究科附属亜熱帯植物実験所(西牟婁郡串本町須江)は,1935年に開設され和歌山県 の植物実験施設としては最も古いものの一つである。戦後は主として観葉植物などの園芸植物の導入と栽培法 の試験が行われている。
京都大学大学院農学研究科附属演習林和歌山演習林(有田郡清水町近井)は,1926年に開設され森林生態 に関する研究をはじめ,スギ・ヒノキを中心とした森林施業方法に関する研究等が進められている。最近では,
小中学生対象の植物観察会の開催や高校生への林業実習など教育の場としても活用されている。
国立医薬品食品衛生研究所和歌山薬用植物栽培試験場(日高郡川辺町土生)は,1935年に業務を開始以来,
除虫菊やケシ栽培等の研究が行われ,現在ではトウキ,シャクヤク等の多種多様の薬用植物の栽培が試みられ,
近畿地方における中心的役割を果たしている。
北海道大学北方生物圏フィールド科学センター森林圏ステーション南管理部和歌山研究林(東牟婁郡古座川 町平井)は,2001年(平成13年)4月に旧北海道大学農学部附属和歌山演習林から組織換えされた。この研 究林は1925年に創設されて以来,森林施業と林学の教育研究を行い,最近の長期計画ではスギ・ヒノキばか りでなく各種の広葉樹林の再造成,天然林の位置づけの見直しを行い,各種試験林・保存林で研究活動が行わ れている。
近畿大学農学部生石農場(有田郡清水町楠本)は,薬用植物の栽培はじめ,有用植物の馴化等の研究が行わ れている。
植物に関する研究会には,「和歌山県自然環境研究会」(1974年設立)があり,1975年以降は組織的な学術 調査として「和歌山県におけるニホンカモシカの生態調査」を実施し,会員は個々に生物研究等各分野別に継 続調査をしている。2002年に過去30年間にわたる研究成果を鈴木 昌ほか3名の編集で『大塔山系大杉大 小屋国有林・黒蔵谷国有林自然環境調査研究報告集』として発行されている。調査会には,「和歌山県自然保 護調査会」(1978年設立)があり,和歌山県内の自然を調査研究し,自然の保全につとめることを目的とし,
調査事業・講演会及び研究会等の開催を行っている。
植物同好会としては,「南紀生物同好会」(1949年設立)があり,年間3回の自然観察会(春季・夏季・秋 季)のほか,会員研究発表会などの活動を行っている。刊行物は,会誌『南紀生物』年2回,会報『くろし お』年1回の2種類がある。会誌には生物に関する総説・論文・短報が掲載され,2002年で通巻88号にな り,会報には総説,採集観察記,生物に関する随筆・紀行文,県内ニュースを主とし,通巻41号となる。他 に,「和歌山県生物同好会」(1961年設立)があり,年間4〜5回の野外観察会のほか,講演会などの活動を 行っている。会誌『紀州生物』には論文,生物に関する観察記録,短報などが掲載され,2002年で31号に なる。上記両同好会の会誌,会報には県内の貴重なフロラ情報が記載されている。
(C)標本庫
和歌山県立自然博物館(海南市船尾)に約5万点の標本があり,小川由一の高野山植物を中心としてコレ クション(約1万5千点)が収められている。自然博物館の標本は,『小川由一植物寄贈目録』にまとめられ,
標本はデータベース化されており,和歌山県の植物相研究に役立っている。また上記寄贈目録は将来の公開ヘ 向けて検討されている。残りの標本の大部分は未整理標本である。この中には,大堀武夫,岡部種造,山本虎