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2-4-1 作製した薄膜の諸特性

レーザアブレーション法により作製したEu:Gd2O3の特性結果

レーザアブレーション法による薄膜作製の知見を得るため,Eu:Gd2O3の薄膜作製を行い,

その条件と作製された薄膜について評価を行った.Euイオンは赤の発光準位を有しており,

Eu:Gd2O3は赤色蛍光体として用いられている.ターゲットはEuを1 mol%混合したGd2O3

で,それを1200 °Cの高温で焼結させ,ターゲットとした.このターゲットに0.4 Torrの 酸素雰囲気中でKrFエキシマレーザのレーザパワーを変えながら照射し,石英基板上に薄 膜を作製した.

焼結体ターゲットのレーザ照射前後,1350 °Cで焼結した粉末,及びレーザ照射パワー3.0 J/cm2で作製した薄膜のX線回折パターンを図2-11に示す.

Eu:Gd2O3は低温では立方晶であるが,1250 °C以上で単斜晶に相変化する2-18).レーザ 照射前のターゲットのX線回折パターンでは,1200 °Cでの焼結のため,立方晶のパター ンとなっている(図中a).また,粉末をそれより高い1350 °Cに加熱した場合には,単斜晶 と相が変化していることがわかる(図中d).この結果から,ターゲットとなる粉末,焼結体

Eu:Gd2O3では,1250 °C以上で立方晶から単斜晶へ相変化していることが確かめられた.

一方,作製した薄膜(図中c)では,薄膜作製中の基板温度が500 °Cと上記相転移を起こす 図2-11 Eu:Gd2O3の薄膜X線回折パターン

(a)レーザ照射前の焼結ターゲット,(b)レーザ照射後の焼結ターゲット,

(c)作製した薄膜,(d) 1350 °Cで焼結した粉末,●は単斜晶の回折ピーク位置を示す.

10 7020 30 40 50 60

XRD intensity (a. u.)

2θ (deg)

ほど高くない条件でありながら,単斜晶のピーク(図中●)が大きく現れていることがわかる.

次に,同サンプルでのフォトルミネッセンス(PL)による評価を行った.測定結果を図2-12 に示す.

図中(a)のPLピークはすべて5D07FJ(J=0,1,2)に対応しており,これらは立方晶の発光 と一致している2-19).また,図中(d)の1350 °Cで焼結した粉末でのPLピークは単斜晶の それと一致している 2-20).一方,作製された薄膜(図中 c)では,レーザ照射前のターゲット とは明らかに違っており,そのPLスペクトルは図中(d)の1350 °Cで焼結した粉末に近い.

この結果は,図2-11に示したX線回折の結果と一致している.つまり,本条件で作製した 薄膜では,高温相である単斜晶が作製されていることがわかった.

次に,ターゲットに照射するレーザパワーによる PL ピークの違いを測定した結果を図 2-13に示す.図中(a)1.5 J/cm2では,立方晶と単斜晶のPLピークがほぼ同じ程度観測され ているが,レーザ照射パワーを上げていくと,立方晶のそれは徐々に小さくなり,逆に単 斜晶のピークが支配的になっている.この時の立方晶のPLピークをIc,単斜晶のPLピー クをImとした場合のIm/Icをレーザ照射パワー依存性としてプロットしたのが,図2-13(b) である.レーザ照射パワーに対して,Im/Icが線形に変化しており,レーザ照射パワーを上 げることにより,高温相が選択的に作製できている事がわかる.つまり,レーザアブレー ション法において,ターゲットに照射するレーザパワーを変化させることにより,希望の 結晶相を作製可能である事がわかる.

500 600 700 Wavelength (nm)

PL Intensity (a. u.)

図2-12 Eu:Gd2O3のフォトルミネッセンス強度の波長依存性 (a) レーザ照射前の焼結体ターゲット (b)レーザ照射後の焼結体ターゲット (c) 作製した薄膜 (d) 1350 °Cで焼結した粉末

500 600 700 Wavelength (nm)

PL Intensity (a. u.)

図 2-13 フォトルミネッセンス強度の波長依存性のレーザ照射パワーによる違い

(a) と図中IcとImの比率とレーザ照射パワー依存性(b)

1 2 3 4

1 2 3

Laser fluence (J/cm2) Im / Ic

(a) (b)

Eu:Gd2O3 thin film

作製した記録層1の特性結果

(レーザアブレーション法によるビスマス, ガリウム置換ジスプロシウムアイアンガーネッ

ト(Bi, Ga:DyIG)の評価)

2章3節より大きな磁気光学効果を期待できるBi, Ga:DyIGにおいて,Feイオンによる 吸収,磁気光学効果を明らかにするため,単層膜の作製および特性の評価をおこなった.

ガーネットは結晶形態であるため,作製膜が非晶質であった場合にはポストアニールが必 要である.一般的にBi置換量を増やすと結晶化温度が低くなる事が知られており,磁気光 学効果を大きくし,及び結晶化させるための温度を低くするため,Bi 量を増やした Dy1.0Bi2.0Ga1.5Fe3.5O12を作製した.

作製したターゲットの格子定数は12.49 Å, レーザ光強度は1.65 J/cm2, 膜厚は1.24 μm, こ れ よ り 計 算 し た 蒸 着 速 度 は 2.30 Å/s で あ り, 作 製 し た 膜 の 組 成 は Dy0.98Bi1.78Ga1.62Fe3.62O12, 格子定数は12.53 Åであった.

基板には単結晶GGG(Gadolinium Gallium Garnet)を使用して, in-situの結晶化も試み た. X線回折による結晶化評価には入射角度1度の低角入射X線回折を行い, 薄膜だけの回 折パターンを測定した. 基板に単結晶 GGG を使用したため, 基板からのピークが強く, 作 製した薄膜の X 線回折が測定できくなる事を防ぐためである. このときの測定結果を図 2-14に示す.

2θで30度から40度にかけて, 基板温度530 °Cでは図中矢印で示したブロードな山およ び, 基板にはない鋭いピークが観測されている. 更に, 基板温度を 600 °C まで昇温させる 事によりブロードな山は消え, 鋭いピークが大きく成長していることが分かる. つまり, 基

板温度530 °Cではアモルファスと結晶の両方が混在しており, 基板温度600 °Cとすること

で, ガーネット単相となっている事が推測される.

図2-14 単結晶基板GGG及び二つの基板温度で製膜した薄膜の低角入射X線回折パタ

ーン(入射角度1度)

20 40 60 80

1000 2000 3000 4000 5000

0

T

s

=600 ℃ 530 ℃ Substrate

2θ (deg)

Inten s it y (c ps)

図2-15には530, 550, 600 °Cの基板温度で作製したBi:DyIGの波長633 nmでのファラ デーヒステリシスループを示す. 530, 550 °Cではファラデーヒステリシスループは観測さ れなかった. X 線回折の結果から, 作製した薄膜の一部は結晶化していたが, 結晶化の割合 が小さく, 磁気光学効果では観測されなかったものと思われる.

基板温度を更に上げ, 600 °Cにすると大きなヒステリシスループが観測された. 希土類元 素をDyにし, 垂直磁気異方性エネルギーを大きくしたため, ヒステリシスループの角形比 は大きくなり, また, 保磁力も8 kOeと大きくすることができた.

次にこの薄膜のファラデー回転係数の波長変化を図2-16に示す. 800 nm~2000 nmまで のファラデー回転係数はほぼ 0 を示し, 短波長になるに従って大きなファラデー回転係数 を示し, 500 nm付近で分散型の特性を表している.ここで,短波長領域を拡大した特性を 図2-16中に示す.この短波長の400 nm~500 nmには電荷移動型遷移の大きなファラデー 回転係数が観測されている.これらは,主に酸素に囲まれた八面体中心のFe3+におけるπ型 遷移のOcta t1u→t2g*と四面体中心のTetra t1n→e*によるものと考えられている2-15)

また,このファラデー回転角の大きさにより,図2-17に示すように反射率と回転角の積 である磁気光学効果における性能指数も大きくなる.これは,Biの6p軌道とOの2p軌道 のスピン軌道相互作用により四面体位置の Fe3+による電荷移動遷移型が磁気光学効果に及 ぼす寄与の相対的比重が大きくなるためである.しかしながら,Bi 置換による吸収は増加 しないため,大きな性能指数が得られる2-9).Bi置換のガーネットでは,吸収が極端に大き

くなる400 nm付近まで大きな性能指数を示すことができる.

次に,同試料のファラデー回転係数の波長633 nmにおける温度変化を図2-18に示す. 室 温から単調に減少し, キュリー温度(Tc)の約110 °Cでファラデー回転係数は0となる. また, キュリー温度以外にファラデー回転係数が 0 となる点がこの測定結果から見られないこと から, 補償温度は室温以下であることが推測される.

図2-15 様々な基板温度で作製した薄膜のファラデーヒステリシスループ

-10 10

1.0

-1.0 1.5

-1.5 0.5

-0.5 530 ℃

600 ℃ 550 ℃

Ha(kOe) θ

f

(deg)

Ts=

λ=633 nm

-10 H

a

(kOe) 10

-0.5 0.5

-1.0 -1.5 1.0 1.5

θ

f

(deg) 600 °C

550 °C

530 °C

T

S

=

この特性を理論的に解析するために, 分子場近似による計算をGa置換量の依存性として 行った結果を図2-19に示す. Gaの増加とともにキュリー温度の減少が見られる. Fe同士の 超交換相互作用Jが非磁性Gaイオンで弱められるためである. また, これに伴い, 室温時 の飽和磁化も減少する事が分かる. また, Ga置換量1.6でキュリー温度110 °Cという値は 実験値とよく一致している.

400 800 1200 1600 2000

-4 -2 0 2 4 6 8

θ

F

( d e g / c m )

Wavelength(nm) [ × 10

3

]

図2-16 Bi, Ga:DyIGのファラデー回転係数の波長依存性

400 500 600 700 800

-2 0 2 4 6

Wavelength(nm) θF (deg/cm)

[×102]

Tetra t1n →e*

Octa t1u→t2g*

Room Temperature

[×103]

4000 500 600 700 800

0.5 1.0 1.5 2.0

Wavelength (nm) Figure of Merit Rθ (deg) DyBiIG

TbFeCo

図2-17 Bi置換ガーネットとTbFeCoの磁気光学効果の性能指数

図2-19 分子場近似計算によるBi, Ga:DyIGのキュリー温度, 飽和磁化

0 1 2 3

-100 0 100 200 300 400

0 1 2

Ga content (y)

T

c

( ℃ ) 4 π M

s

(k G )

Dy

1.2

Bi

1.8

Ga

y

Fe

5-y

O

12

T

c

4πM

s

1.6 110 110

図2-18 Bi, Ga:DyIGのファラデー回転係数の温度依存性

20 40 60 80 100 120

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2

Temprerature( ℃ ) θ

F

( d e g /c m )

[ × 10

4

]

λ=633 nm

作製した記録層2の特性結果

(レーザアブレーション法によるビスマス, コバルト,ゲルマニウム置換ジスプロシウムア

イアンガーネット(Bi, Co, Ge:DyIG)の評価)

本節では, 2章3-1節に示すようにCoイオンの磁気光学特性に着目した. CoイオンはFe イオンと同様強磁性であるが, スピン数の相違と共に, 価数の変化によっても磁気光学特 性が変わる事が予測される.

2価と3価のCoの違いを比較するため, 表2-2のような試料を作製した.

表2-2 Co2+とCo3+の特性評価媒体

No. Composition of Target

Annealing Temperature

(

°C

)

Annealing Time (h)

Film thickness

(μm)

Lattice Constant

(Å)

Lattice Constant of

Target (Å) α Dy

1.9

Bi

1.1

Co

0.4

Ge

0.6

Fe

4

700 1 2.88 12.46 12.46 β Dy

1.9

Bi

1.1

Co

0.4

Ga

0.6

Fe

4

700 1 2.78 12.42 12.49

試料

α

ではCoと共に Geイオンで置換している.また, 対照実験として試料

β

ではGaイ オンで置換した.

試料

α

のファラデー回転係数の波長依存性を図2-20に, 試料

β

のそれを図2-21に示す.

Bi, Co, Ge:DyIGとBi, Co, Ga: DyIG, 共に顕著なファラデー回転係数の波長変化を示して いる.特に, 前者のそれは1500 nmと600 nm付近の大きなファラデー回転係数が特徴的 である. これらの特性をより詳しく解析するため, 無置換の DyIGの特性を差し引き, Co イオンによるファラデー回転係数に寄与する分を計算した特性を図2-22と図2-23に示す.

両図から, 顕著にCoイオンによるファラデー回転の特性が分かる.

試料

α

のθ F は1500 nmの波長で正の大きな値2-21)(θ F =2,500 deg/cm)を示し, 600 n mで-8,500 deg/cm, 500 nmでは-6,000 deg/cmの負の鋭いファラデー回転が観測された.

ガーネット中でGeとCoは3価の鉄の位置に入るが, 前者の価数は4価が安定であるので, その電荷を補償するために後者のCoは2価になる.図2-10に示すようにCo2+には基底状 態4 A 2 から励起状態4 T 1 への遷移が存在する.1500 nm付近の波長で正の大きなファ ラデー回転は 4 A 24 T 1 (U1,U2,U3)遷移によるもので, 600 nm のそれは 4 A 24 T 1 (D,E,F1,F2)の遷移によると考えられる2-16).1500 nm付近のCo2+ 1原子当たりファラ デー回転係数は 6,250 deg/cm で, 液相エピタキシャル法で作製された膜 2-22)より約40 % 小さいが, その原因は明らかではない. ガーネット中でCo2+はdサイト(酸素の作る四面体 位置)に置換されると考えられるが, 波長 540 nm のピークは aサイト(酸素の作る八面 体位置)のCo2+の遷移と波長が一致する2-16)

また, 試料β においても Co3+によるものと思われるファラデー回転係数が観測されてい