第 4 章 主体的な子育ち・親育ちへの支援と今後の課題
第 3 節 0,1,2 歳児と母親の育ちがつながる支援
これまでの議論から,0,1,2歳児の主体的な遊びが,情緒的なやりとりのできる 安定した母親との関係を基盤とし,自由な時間と空間,良質で適切な興味関心を引く 玩具や挑戦意欲を満たす遊び環境の設定により,多層的に広がることが確認できた。
又,子どもに関わる母親自身の育ちについても,事例を通して,支援者と言う見守り と制約の少ない空間,時間の中で,子どもと遊ぶことにより改めて子どもの遊びの意 味を知る。親子の遊びを子どもと共に楽しみ,支援者による記録を読むことで,子ど もとうまく関われた自信を得,主体的に活動する意欲を高めていく親育ちの過程も見 い出せた(高畑 2017)24。
ここでは,この成果を元に,「つなぎ」の視点から考察を進め,子育て支援への提言 をまとめる。「つなぎ」とは,本来「①モノとモノをつなぐもの,②次の事柄が生じる までの間を埋めるために仮に行う物事,③ない物や崩れ易い物を固めるために混ぜ込 むもの,④上着とズボンがつながった作業用の衣服」等の意味を持つ言葉である。本 研究における「つなぎ」は,「それぞれ独立した主体である母親と子ども,又は,母親 同士を引き合わせたり,関係を調整したりする役割を担うもの」と定義する。
図4-3-1は,親と子どもの育ちをつなぐ支援のモデル図である。以下,図の矢印で示 したⅠからⅣについて,順に説明する。
Ⅰ.支援の場との「つなぎ」
朝,家から出て子育て支援の場を利用しようとする母親は,生活の時間を調整し,
おむつや着替えなどを準備し,身支度を整えて出かける。出産まで身1つで軽々動く ことができた母親にとって大変な労力を要するものである。これは,第1章第3節の
図 4-3-1 親と子どもの育ちをつなぐ支援
89 インタビュー調査の母親の語りに見られる「のしかかる負担感に押しつぶされそうな 孤立した子育てからの脱却」のための作業である。子育て支援の場にたどり着いた母 親は,居場所を得ることで子どもとしっかり関わろうと言う心の余裕が持てる。
子育て支援の場に求められるものは,イベントとして遊びを提供したり,慣例とし て母親の学習講座を開いたりするのではない。親子の家庭生活の延長線上にある居場 所となることである。母親が子どもと選んだ遊びを自由に体験できる環境の設定と支 援者が侵入的でない見守りにより,親子が初めての社会へ参加し易くなり,母親が必 要とする次の支援につながるきっかけを得易くなる。
Ⅱ.母親と子どもの「つなぎ」
昨今の親子の触れ合い活動は,「ベビーマッサージ」「手遊び」「親子の体操」「水泳 教室」等,形式に依拠する傾向がある。その原因として,0,1,2歳児の遊びとは何 かが読み取れないことが大きく影響していることは,今までの議論から明らかである。
本研究の事例で示した0,1,2歳児が夢中になって真似る遊びの多くは,生活する 家庭の再現遊びであった。母親が食事を作っている台所に這って行き,鍋やボールを 引っ張り出す,洗濯物をたたむ傍らで洗濯ばさみを散らかす等,母親からは,困った いたずらにしか見えない0歳児の遊びは,事故防止のためと考案された制限用品によ り,家庭生活から切り離される傾向にある。しかし,家庭生活の中にこそ,この時期 の子どもが憧れ,真似したい遊びが存在する。そのことを母親に理論で説明するので はなく,一緒に遊び,子どもが夢中になってする再現遊びを見ることにより,母親自 身が主体的に気付くことが重要なのである。そして,仲間と共に振り返り,「我が家も そう」と共感を得ることで母親は,子どもに対する心のゆとりができ,自分の関わり に自信が持てるだろう。
このように,母親と子どもがうまく関われるよう「つなぐ」こと,自分の子どもか ら母親自身が「遊び」の意味や面白さを学べること,その機会を提供することが子育 て支援ルームの役割と言えよう。
Ⅲ.子ども同士の「つなぎ」
0,1,2 歳児は,子ども同士だけでは上手くつながれない。人形用のベビーカーを
めぐり,取り合いは少ないものの,子ども同士の攻防は繰り広げられていた。こうし た子ども同士が自己主張をぶつけ合う経験の重要性について,専門の保育者は理解で きている。しかし,母親は間に入って早くトラブルをおさめようとしたり,人に優し くするよう言い聞かせたりしたくなる。元気のよい子どもの母親は,「やかましくてす みません」と肩身を狭くし,子どもがトラブルを起こさないよう監視したり,制止し たりしてしまう。母親同士の関係を気遣うが故の行動である場合もある。井桁(2014)
は,「トラブルをいろいろな形で経験した子どもは人とのコミュニケーションの知識が たくさんある子ども」と評価し,「コミュニケーション力とは,自分の気持ちを押し殺 して他者に合わせることではなく,自分の思いと相手の思いを上手に調節する力」で
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「様々な経験を通して時間をかけて育つものである」25と言う。子育て支援ルームで は,母親が,子どもを促したり,モデルを示したり,気持ちを代弁したりする「つな ぎ」の役割を自然に担う機会がある。母親自身が,この「つなぎ」の役割を体験して おくことで,子ども同士の遊びの過程に気付けるのである。「うちの子が怪我をさせら れた」と幼稚園や保育所に一方的に訴えずに済むよう,入園前の段階で,母親が自分 の子どもと友達の関わりを見守り,調節する力の育ちを支援する体験を積むことは,
大変重要なことであると考える。
Ⅳ.母親同士の「つなぎ」
子育て支援ルームには,遊びを介した「つなぎ」と,先述した遊びを振り返る「つ なぎ」の2つが存在すると考えられる。
大人同士が形式的ではなく,仲良くなるためには,「遊び」を介在させる場面が必要 である。先述した絵本の読み聞かせの輪が広がったように,子どもの遊びに加わる形 で母親同士がつながるきっかけは生まれていた。楽しい遊びには周囲の親子も寄って いき遊びの輪は自然に広がる。鬼遊びでは,子どもの手を引き,逃げる側と,追いか ける側で母親同士が役割を分担していた。これらの事例のように母親が子どもと夢中 になって遊んでしまう雰囲気づくりも,子育て支援の場の重要な役割であると考える。
又,親子の遊びのエピソード記録は,母親同士をつなぐツールでもある。「子どもの 遊びのエピソードを書いてもらえる」と母親同士の話題になり,ファイルの見せ合い をきっかけに来訪する親子が増えている。支援ルームでは,エピソード記録を友達に 見せて話し合ったり,コメントを書き込んだりと,母親同士をつなぐエピソード記録 の活用が広がっている。様々なネット情報が拡散されている現代社会の中で,自身の 子育て,我が子との遊びや関わりについて,客観的に個別的に見直す機会を母親は求 めていると言える。
そして,エピソード検討会は,支援者同士の「つなぎ」も生む。子育て支援の質の 担保の重要性から,子育て支援員研修注10が始まったが,そのような支援者研修でも,
エピソード記録は,活用できるツールである。主体的な子どもの遊びを読み取るため には,互いのエピソード記録を読み合い,意見を交換し合うような,すぐ支援に活か せる研修方法は欠かせない。今後,子育て支援の場が増えるにつれ,ますます重要に なると考えられる。
注10 2015年(平成27年度)から始まった子ども・子育て支援新制度において、新たに「子育て 支援員研修制度」が創設された。この研修は、子育て支援の各事業等に従事するにあたって必要 となる知識や技能等を修得することを目的とした全国共通の研修制度である。
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