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主体的な親子の遊びを読み取るためのエピソード記録の作成

第 2 章 主体的な親子の遊びを読み取るためのエピソード記録

第 2 節 主体的な親子の遊びを読み取るためのエピソード記録の作成

Ⅰ.プレイセンターとは

ここでは,佐藤(2012)の研究34から,プレイセンターについての概要を述べる。

ニュージーランドでは,多様な幼児教育サービスが存在する。プレイセンターは,

地域の学校区に1つの割合で設立されており,現在,保育所,幼稚園に次ぐ,第3の 利用者数を誇る政府認可の幼児教育機関である。2010年現在,ニュージーランド 33 地域の統括組織下に,489カ所のプレイセンターがあり,1万1014世帯の1万6087 人の子どもが通園している。プレイセンターの理念は,Families growing together であり,子どもの人生における最初の教師として親を捉え,活動を通じて家族が成長 していくことが目指されている。プレイセンターでは,親が学習を通じて得た知識や スキルを基に,保育者として子どもの保育や教育を担当し,協働しながらおおむね16 分野にわたる遊びのコーナーを設置し運営を担っている。子どもは,多様で質の高い 遊びの中から,自由に遊びを選択しながら,創造性や自主性を育んでいる。

このプレイセンターの保育者でもある親に対する教育プログラムは,各地のプレイ センター協会が提供し,親達は参加することが義務付けられている。学習コースの内 容は,子育てや幼児教育に対する知識や技術に加え,子どもや他の親達との協働作業 を行うために必要なスキルを養成する講座で構成され,コース1~6の段階に分かれ,

コース1と呼ばれる入門コースが必修受講となっている。スーパーバイザーの役割は,

参加する親達に何かの技術を具体的に教えるのではなく,自分自身で子どもの遊びを 学習していくことを促すにとどまる。池本(2003)は,「こうしたプレイセンターで の学習方法とは,協力学習で,このように人と協力しながら何らかの目的を達成して いく能力を育成し,幼児教育以外の様々なボランティア活動にも生かされ,ニュージ ーランドのシップリー前首相も,プレイセンターで子どもを育てた経験があり,その 経験がその後の政治活動に大いに役立ったとの会見」を紹介している35

2014年8月24日から30日にかけて,筆者は,就学前教育カリキュラム研究開発 室4の研究開発員の1人として,ニュージーランドの幼稚園や保育園,プレイセンタ ーの訪問調査を行った。訪問したHillsborough Platcentre,Eden-Epsom Playcentre は,50年以上の歴史があるプレイセンターで,家族が一緒に生活したいと言う親の理 念によって運営されている。参加する親が,遊び場の環境準備や子どもの保育を当番 制で分担し,広々とした施設敷地内で,子どもの遊びを一緒に楽しむ姿が印象的であ った。用意されている玩具は,「ポイエ」と呼ばれるニュージーランドの先住民族であ るマオリ族の文化を受け継いだ伝統舞踊や,手作り玩具,木の板や枝,大工道具,水

4 就学前教育カリキュラム研究開発室は,2014年(平成26年)41日から文部科学省特別経 費「高度な専門職業人の養成や専門教育機能の充実」事業の業務を行うために設置された。そし て,ニュージーランドにおける就学前教育カリキュラムであるTe Whãrkiは,教育機関だけでは なく,子育て支援センターでの活用も実施され効果をあげている。そこで,現地での活用状況を 調査する目的で,研究開発室長と2名の開発室員は,2014824日から30日の間,現地を 視察した。

31 図 2-2-1 Learning Story の基本形態

名前: 日付:

場所: 観察者:

着眼点 ラーニング・ストーリー

所属感 (Relonging) 幸福 (Well-Being)

探求 (Exploration) コミュニ ケーション (Communication)

貢献 (Contribution)

困難なことや不確実な ことに立ち向かう姿勢 他者とのコミュニケー ション

物事に対する責任感

ラーニング・ストーリー 観察シート「タイトル」

子どもの興味や関心

所属感や安心感

や砂,キャンバスと絵具,子ども用の衣装等,素材に近いものが多かった。参加する 親は,子どもが熱中する遊びをよく観察し,子どもの遊びに興味を持って言葉をかけ,

時に遊びの提案も行っていた。当番の親は,自分の子どもではなく,その日担当する 子どもの遊びを観察し,ノートに記録していた。遊びをがどのように発展し,子ども への教育的な効果について,遊びのポイントをまとめた資料も参考にしながら,書か れた子どもの遊びの記録と写した写真を1枚にまとめたものがラーニング・ストーリ ーである。ニュージーランドでは,プレイセンターも,就学前教育施設の1つとして,

就学前教育統一カリキュラム Te Whãrki 5(ニュージーランド教育省,2017)に従 ってラーニング・ストーリーを作成し,評価していた36

Ⅱ.ラーニング・ストーリーとは

松井・七木田(2006)によると,ラーニング・ストーリーは,就学前教育統一カリ

キュラムTe Whãrkiの作成者の1人M.Carrを中心に作成され,カリキュラムに沿っ

て保育者の観察・記述を主体としたアセスメントの方法である37

M.Carr(2001)は,「物語と言う方法によって,状況に埋め込まれた学びの方略に

モチベーションという要素も加わった複雑な様相を捉えることが可能になる」38とし た。そして,目標とする学びの構えの5領域のうち1つ以上が,1人の子どもの姿の 中に現れた場面を捉えた「スナップ写真」と共に,臨場感のある記録を継続的に積み 重ねていく。実際の場面では,子どもの物語は,写真,子どもの作品のコピー,子ど

5 Te Whãrkiは,1996年に導入された幼児教育のナショナルカリキュラムである。Te Whãrkiは,

ニュージーランドの先住民の言葉であるマオリ語で「編まれた敷物」を意味する。なお,Te Whãrki は,2017年に改定されている。

32 も自身による説明と共にフォルダーやポートフォリオに保存されていた。

飯野(2009)によると,ラーニング・ストーリーは,A4 の紙を,図 2-2-1 のよう に,左半分にTe Whãrkiの5領域とM.Carrらが示した「学びの5要素」,右半分に 3分から5分の場面に焦点をあてた記録を書くのが基本の形態である39。この形態は,

施設により異なるが,活動場面に沿った読み手が興味を引くようなタイトルが付けら れ,内容は,子どもの興味や関心や得意とする点に焦点が当てられており,不得意な ことや欠点に焦点を当てた記録は,ほとんど見受けられないのも特徴の 1 つである。

松井ら(2006)は,「観察は親を育てると言う意義が認められている。観察は,①子 どもの活動や遊びに対する感受性を高めることができる。漫然と子どもの遊びを見る のではなく,あるいは逆に遊びに干渉するのではなく,記録を取りながら観察するこ とで自分の見方や考え方を磨くことができる。又,親が介入する際の,②判断の客観 性を高めることができる。さらに,③判断も的確なものとなる。④子どもの成長発達 に対する知識を高めることができる。⑤子どもに関わる際の自信を深めることができ る。⑥観察を続けることで,自分の子どもだけではなく,他の子どもへの関心が高く なる。そして最後に,⑦子どもの遊びの質の向上に寄与する」とし,「実際は,観察を 重視するからといって,必死になって子どもの観察しているわけではなく,子育ての 一環として,子どもと過ごす時間を楽しむことを前提にされていた」40と言う。

筆者が,聞き取った親の研修コースでは,最初はビデオを5分間撮りそれを見て分 析するラーニング・レコードや15分おきに写真を撮り,1つのセクションでどんな遊 びをするかを理解するタイム・サンプリングと言うトレーニングをするが,初めての 親子には,バディの親が付き,1学期間子どもの記録を書くそうである。Hillsborough

playcentreでは,バディの親に書いてもらった Welcome boardと自身が初めて書い

た記録を示された。Eden PlayCentre では,「ラーニング・ストーリーは子どもが読 む。もしくは子どもに読んで話してあげるものなので,子どもが読んでも分かり易い 言葉で書く。ラーニング・ストーリーは子どものためのものである」と説明を受けた。

又,ラーニング・ストーリーは,1人月1枚ずつ書かれ,書かれた記録が綴られ本に なり,手に取り易い棚に置いてあった。壁面に張ってあるものもあり,このような掲 示方法は,当該施設がどのような保育を行っているか,説明責任を果たすと同時に,

親同士のコミュニケーションのツールの機能も持つと考えられる。

一方,佐藤(2013)の日本のプレイセンターに参加した親達の調査では,「子ども の接し方が分かった」「自分に自信がついた」「自分を再考するきっかけとなった」「他 の親と一貫した教育法が習得できた」等とプレイセンターを好意的に評価する意見が 多く,親教育プログラムを「子育てに必要な学び」として楽しみながら,親同士の交 流を深めているケースは多いと報告されていた41。しかし,ラーニング・ストーリー を導入し,親同士が書いて交換し合うと言う調査結果は示されていなかった。日本に おいて,子どもの遊びを評価し,記述する枠組みを,親が自主的に運営するプレイセ ンターに導入するためには,ニュージーランドのような親の研修が必要である。

日本におけるラーニング・ストーリーは,保育者や保護者が,子ども1人1人の興