発 達 心 理 学 研 究 第 2 0 巻 第 1 号
FigurelG 条洋における実験手続き例
(スクランブル刺激呈示時リ
●
◆
◆●
69
0000000000321098765 333322222 00000000043210987 44444333
.。
が 加 齢 と と も に 遅 く な る こ と を 示 し て い る 。 し か し , 反 応する際にキーボードを押すという作業がともなってい る 手 続 き 上 , 高 齢 者 に お い て そ の よ う な 動 作 そ の も の が 遅くなっている可能性も否定できない。加齢にともなう パフォーマンスの低下は,知覚・認知処理だけでなく運 動機能も含めた人間の情報処理に関するあらゆる段階に 生じるという考え方もある(Cerella,1990)。
しかしながら本研究の結果は,単にキーボードを押す という動作が遅くなっていることだけを反映しているの ではない。もし動作の遅さだけが高齢者における反応時 間の遅れの要因であったならば,いずれのギャップ条件 で も 若 齢 者 と の 差 は 同 程 度 で あ る と 予 想 さ れ る 。 し か
し,年齢群間での反応時間の差はOverlap条件で最も大
きく,ギャップ時間が長くなるにつれて小さくなった。高齢者ではギャップの効果が大きく,注視刺激と対象刺 激の呈示されるタイミングのギャップが大きいほど反応 時間が若齢者へ近づいているということは,注意の解放 の 質 的 な 違 い に お い て , 加 齢 の 影 響 が 異 な っ て い る こ と を示唆している。
ターゲット刺激が呈示されてもまだ注視刺激が存在し ているばあい,実験参加者は注視刺激に向けた注意を自 ら能動的に引き剥がして,新たに呈示されたターゲット 刺激へ注意を向けなおさなければならず,注意の解放に かかる負荷は大きい。しかし,注視刺激が自動的に消失 してからターゲット刺激が呈示される時間的なギャップ が大きければ,実験参加者が注視刺激に向けた注意は受 動的に解放されて,新たに呈示されたターゲット刺激を 捕捉することは容易になる。つまり,注意の解放におい て加齢の影響は一律に生じるのではなく,高齢者におい て特に困難なのは,いったん向けた注意を能動的に解放 することであると考えられる。
対象となる刺激の違いが注意の解放におよぼす影響は
⑨ . . . ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ Q
◆●●●︵の日︶①﹇昌侶口昌ぢ両の
●
●
顔刺激からの注意の解放における加齢の影響
OverlapNo‑gapGap200Gap400OverlapNo‑gapGap200Gap400
Figure2実験I・各刺激におけるギャップ築洋ごとの反応時間
高齢者において強く,加齢の効果が認められた。高齢者 では,顔刺激よりもスクランブル刺激が注視刺激のばあ いで反応時間が長かったということは,高齢者は「意味 のわからないもの」「奇異なもの」に対して注意が向いた まま解放されにくかった可能性が考えられる。注意の捕 捉に関しては,高齢者では線画による顔刺激への反応は 文字刺激より速い(亀井ほか,2006)ことから,注意の 捕捉および解放という一連の過程を通して,高齢者は顔 刺 激 に つ い て 迅 速 な 処 理 を お こ な っ て い る と 考 え ら れ る。注意の解放という側面からも,顔への注意機能は頑 健で高齢者でも衰退せずに維持されていることが示唆さ れた。
しかし,ギャップ条件ごとに検討したばあい,高齢者 における注意を解放するべき刺激による影響は,能動的 あるいは受動的といった負荷の影響よりも小さいことを 示唆する。このことを考慮すると,高齢者における無意 味な刺激から注意が解放されにくいといった現象は,解 放における負荷が大きいOverlap条件では顕在化しな
かったと考えられる。また,ギャップ時間が長いGap 200およびGap400条件では逆に負荷が小さくどちらの
刺激でも容易に解放できたため,同じく顕在化しなかっ たのであろう。ここで問題となるのは,No‑gap条件のみ刺激の違い
に よ る 影 響 が 見 ら れ た こ と で あ る 。 上 記 の 解 釈 で い くと,No‑gap条件は解放を受動的に行わせる条件である
ため注意の解放がしやすく,負荷はOverlap条件より小 さくなるため,刺激の違いによる影響は見られないはずである。また反応時間はOverlap条件よりも有意に速く
な る は ず で あ る が , 実 際 に は 有 意 差 は 見 ら れ な か っ た 。これはNo‑gap条件での刺激呈示の方法,つまり,注視
刺激を消失させてすぐにターゲットを呈示するという方 法 が , 高 齢 者 に 影 響 を 与 え て し ま っ た 可 能 性 も あ る 。 石◆
◆◆◆◆◆﹄●
older
〕unL
四・・3Cr3mDlE
70 発 達 心 理 学 研 究 第 2 0 巻 第 1 号
松・熊田(2006)は,人は突然消失する刺激に対しても 注意が向くこと,特に高齢者はその影響が強いことを報 告している。これを考慮すると,本研究でも高齢者が突 然消失した注視刺激に過度に注意を焦点化してしまい,
本来は受動的に注意を解放できるにもかかわらず,注意 の解放にさらなる時間がかかったとも解釈できる。特に 奇異なスクランブル刺激の消失は本来の注意の解放以上
に負荷がかかった可能性も否めない。すなわち,No‑gap
条件で刺激の違いによる影響差が見られたとしても,本 来の能動,受動的注意の解放に加えて,刺激の消失の影 響が加算されている可能性もあり,当該の条件でのみ刺 激の差が出たという結果に関しては更なる詳細な検討が 必要であろう。実 験 2
目 的
実験lで検討された,顔刺激からの注意解放機能の加 齢の影響についてより詳細に検討するため,顔に3種の 表情を加えて,顔刺激の表情の違いが注意解放機能にお ける加齢変化にどのような影響をおよぼすのかを検討す る。
方 法
1.実験参加者実験参加者は実験1と同様であった。
2 . 装 置 装 置 や そ の 設 置 条 件 は 実 験 1 と 同 様 で あ っ た。
3 . 手 続 き 実 験 1 終 了 後 , 休 憩 を は さ ん で , 実 験 2 が 施 行 さ れ た 。 休 憩 時 間 は 実 験 参 加 者 の 任 意 で あ っ た が,平均約5分ほどであり,実験1,休憩,実験2を合 わせて,実験に要した時間は30分程度であった。白い 画面中央に黒い十字(2cm)が500ms呈示された後,同 位置に線画の顔刺激(いずれも直径2cm)が800ms呈示 された。顔刺激は,実験1で使用した顔刺激(以下,中 立顔),同要素からなる幸福顔,同要素からなる怒り顔 の3種類であった(Figure3)。その後,ターゲット刺激 (一辺が2cmの正三角形)が画面左右のどちらかに呈示 され,左のばあいキーボードのZキーを,右のばあい/
キーをできるだけ速く押すことが要求された。キーを押 すとターゲット刺激は消失した。ターゲットが消失して 2000,sをおいてから次の試行に移った。顔刺激あるい はスクランブル刺激が呈示されてからターゲット刺激が
① ① ① ⑦ ① ⑦ ① ⑦
Figure3実験1,2で使凋した刺激 (左から,スクランブル,中立顔,幸福顔,怒り顔)
呈示されるまでの時間(ギャップ)条件には3種類あっ
た。(1)Overlap条件:顔刺激が消失せずにターゲット 刺激が呈示された。(2)Gap200条件:顔刺激が消失後,
200,sするとターゲット刺激が呈示された。(3)Gap400
条件:顔刺激が消失後,400,sするとターゲット刺激が 呈示された。3種類の顔刺激につきギャップ条件が3種 類で各20試行ずつをランダムに呈示して合計180試行おこなった。なお,実験1で採用したNo‑gap条件は,
実験1の考察でも示したように,更なる検討が必要と考 えられるため,実験2では採用しなかった。
結果と考察
正答した試行についてターゲット刺激が呈示されてか らの平均反応時間を分析した。100,s未満あるいは lOOOms以上の時間は分析から除外した。100,s未満あ るいはlOOOms以上の反応時間であった試行数は若齢者 群では見られず,高齢者群では全試行数の0.7%であっ
た。Figure4には,ギャップ条件ごとの反応時間を年齢
別に示した。反応時間について,年齢群(2)×刺激(3)×ギャップ (3)で3要因の分散分析をおこなった結果,年齢群(F
(1,21)=27.50,<、0001)とギャップ(F(2,8)=28.54,<
、0001)の主効果が有意だった。他の二次の交互作用も,
一次の交互作用も有意ではなかった。すなわち,すべて の条件において高齢者群の反応時間は若齢者群よりも長 かったが,どちらの年齢群でもギャップ条件の時間が長 いほど反応時間は短くなった。しかし,顔刺激の表情に よる違いは,どちらの年齢群にも見られなかった。
実験lの結果と同様に,高齢者のターゲット刺激への 反応時間が若齢者よりも長かったことは,注意の解放が 加齢とともに困難になることを示している。しかし,実 験 1 と は 異 な り , 注 視 刺 激 に よ る 反 応 時 間 の 差 は ど ち ら の年齢群にもなかった。つまり,表情の違いは注意の解 放の速度に影響せず,加齢の効果も見られないというこ とが示唆された。一方で,実験1と同様に,ギャップの 違いによる影響は大きかったことは,注意の解放におい ては表情の違いよりもギャップ効果の方が大きく影響す る要因であることが示唆している。そして,年齢群間で
の反応時間の差はOverlap条件で最も大きく,ギャップ
時間が長くなるにつれて小さくなったことから,動作の 遅さだけが高齢者における反応時間の遅れの要因ではな く,注意の解放の質的な違いにおいて加齢の影響が異 なっていることが示唆された。3種類の表情(怒り,幸福,中立)のそれぞれをター ゲットとディストラクターとして組み合わせて視覚探索 をおこなわせたHahnetal.(2006)では,中立顔がター ゲットのばあいにおいて,若齢者ではディストラクター が幸福顔よりも怒り顔の方では効率的な探索ができてい なかったが,高齢者では幸福顔と怒り顔の間に違いが見