電子回路シミュレータを用いたトランジスタ回路設計
9-3 基本電力増幅回路
電力増幅回路を区分すると、トランジスタの入力特性における動作点がカットオフを基 準にどの位置にあるかによって、A級、AB級、B級、C級と分けることができます。この 章ではA級、B(AB)級の電力増幅回路について取り扱います。
図9-4
電力増幅回路では電源から供給された電力がどの程度負荷で有効に利用されたかを表す 電源効率ηとトランジスタでの損失の最大値 PCMがどのくらいになるかを把握して回路設 計する必要があります。電源から供給される電力をPDC、負荷に供給する電力をPoとする と、電源効率ηは、
%
100
DC O
P
P
と定義され、また、増幅回路で消費される電力をPAとするとこの3つの電力には、
W P P P
DC
A
Oの関係があります。
増幅回路での損失 PAはほとんどがコレクタ電流によるもので、この電流が流れる抵抗、
トランジスタにて消費され、熱となり周辺に放出されます。トランジスタでの損失はベー ス電流(ベース・エミッタ間)によるものとコレクタ電流(コレクタ・エミッタ間)の二 つが考えられますが、コレクタ電流に対してベース電流は非常に小さいのでコレクタ電流 によるコレクタ・エミッタ間の損失、コレクタ損失PCをトランジスタの損失としてとらえ ます。
トランジスタの
入力特性
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(1) A級電力増幅回路(直接負荷駆動形)
図9-5、図9-6は固定バイアス回路、電流帰還バイアス回路においてコレクタ抵抗 を負荷に置き換え直接トランジスタで負荷を駆動する回路です。
これらの回路はA級電力増幅回路なので無信号時でも常に一定のコレクタ電流が流れま す。
ここでは、まず理想的な動作点設定、すなわちコレクタ・エミッタ間電圧VCE=1/2・VCC
とし、負荷 RL にかかる電圧は無歪、図9-6においては負荷 RL に対してエミッタ抵抗 R3が非常に小さいとした場合の各電力について検討します。
図9-5 図9-6
まず無信号時には、電源から供給された電力PDCがすべて増幅回路での損失PAになりま す。コレクタ・エミッタ間電圧VCEと負荷RLにかかる電圧VRLは1/2・VCCと等しくなり、
コレクタ電流ICが共通に流れますので、増幅回路での損失 PAはトランジスタでの損失 PC
と負荷での損失PRLの半々になります。
図9-7
電源から供給 される電力
P DC
出力(負荷の交流分に対する損失) P O :0%
増幅器の損失 P A :100%
負荷の損失
(直流分)
P RL :50%
トランジスタの損失
(コレクタ損失)
P C :50%
無信号時
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W R
P V P
P
R W V R
V V
I V P P
L CC A RL
C
L CC L
CC CC
C CC A DC
4 2
1
2 2
1
2
2
次に、図9-8に最大出力時の出力特性を示します。
図9-8
これから、電源から供給される電力PDC、最大出力POM、最大電源効率ηMは、
% 25 4 100100 1
2 8 2 2 , 2
2 2
2 2
DC OM M
L CC L CC CC
OM L
CC L CC CC DC
P P
R W V R V P V
R V R V V
P
となります。
負荷線
t
t
最大出力時の出力特性
Vcc Vcc/RL
Vcc/(2RL)
Vcc/2
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このときのコレクタ損失PCは、
T c ce
C i v dt
P T
0
1
T CC CC
L CC L
CC t dt
T V
t V T R
V R V T 0
sin 2 2 2 sin 2
2 2
1
W R VL CC
8
2
( P
DCの 25 %)
となります。
また、負荷RLでの損失PRLは、
WP P
P P
PRL DC OM C DC 2 1
となり、PDCの50%になります。
これらをまとめたものを図9-9に示します。
無信号時と最大出力時では電源から供給される電力PDCは等しくなります。
式からも分るように出力電圧に関係なく一定の電力が電源から供給されます。また、負 荷の損失PRLも出力に関係なく一定になります。コレクタ損失PCと出力 POの和はPDCの
50%となり、出力 POを取り出した分コレクタ損失 PCは減ります。よって、コレクタ損失
PCは無信号時に最大となります。
図9-9
電源から供給 される電力
P DC
(無信号時と同じ)
出力(負荷の交流分に対する損失) P O :25%
増幅器の損失 P A :75%
負荷の損失
(直流分)
P RL :50%
(無信号時と同じ)
トランジスタの損失
(コレクタ損失)
P C :25%
最大出力時
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図9-10に図9-5の回路についてトランジェント解析した4つのグラフを示します。
上から、
PD(Q1):トランジスタQ1の瞬時電力(瞬時コレクタ損失)
AVG(PD(Q1)):トランジスタQ1の瞬時電力の平均、すなわち、コレクタ損失
AVG(PD(RL)):抵抗RLの消費電力(出力+損失)
AVG(PG(V1)):直流電源V1から供給される電力
を表しています。平均値をとった電力は、グラフ上の右端の値を読み取ります。
図9-10
< Skill >
① 図9-10の解析結果について検討してみましょう。
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(2) B級電力増幅回路(コンプリメンタリ SEPP回路)
図9-11は Q1、Q2 に互いにコンプリメンタリなトランジスタのエミッタを共通にし て縦に積み上げ、2つのエミッタ端子の中間点(Vp)からコンデンサ C2 を通して出力を 取り出し、負荷RLに供給するB級電力増幅回路です。
完全なB級電力増幅回路であれば無信号時にはトランジスタQ1,Q2にはコレクタ電流は 流れませんので、トランジスタQ1、Q2でのコレクタ損失PCは発生しません。
この状態で入力信号を入れてやると入力特性のカットオフ点付近での非直線性のために 出力Voは0V付近で歪みが生じます。
この歪みはクロスオーバー歪みと呼れるものです。
一般的にこの歪みを取り除くために予め数十mAのアイドリング電流を流しておきます。
これにより入力特性上の動作点がカットオフ点から右側にずれてしまいますので、実際はB 級というよりもAB級として動作します。
また、無信号時にはコンデンサC2が直流分をカットしますので、負荷RLでの電力損失 POも生じません。
これらのことから無信号時にはアイドリング電流の数十mAしか流れませんので、コレク タ損失は数十mWから多くても200mW程度の大きさにしかなりません。よって、トラン
ジスタ Q1、Q2 にパワートランジスタを用いるとすると、ここでの損失が問題に成ること
はありません。しかし、トランジスタ自体のコレクタ損失がトランジスタの入力特性に影 響を与え、ベース・エミッタ間電圧 VBEが約-2mV/℃の割合で変化します。これにより コレクタ電流が徐々に増え最悪の場合は熱暴走に至ります。
図9-11
図9-12
これを防ぐためにダイドードD1、D2 とトランジスタ Q1、Q2 を熱的に結 合してやります。具体的には接着剤 などを用いてダイオードをトランジ スタの表面に密着させトランジスタ の熱がダイドードに伝わりなるべく 同じ温度になるようにします。これ により温度によるトランジスタのベ ース・エミッタ間 VBEの変化がダイ ドードの順方向電圧VFの変化により 打消されコレクタ電流の増加は抑え られ熱暴走は免れます。
class_b.cir
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次に、図9-13に最大出力時の出力特性を示します。
図9-13
t
t
Vcc/2 Vcc/2RL
T t I
ic C 2
sin
T t R V I
vce CC C L 2
2 sin
2 VCC
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これから、電源から供給される最大電力PDCMは、電源電圧がVcc一定、供給する電流は、
トランジスタQ1が動作している半周期(T/2)となります。電力は、一周期(T)の平均で表し ますので、半周期分を一周期に均(なら)す必要があります。
①
L CC L
CC CC
T
L CC CC
DCM R
V R
V V T tdt R
V V T
P
2 2
1 sin2
2
1 2 2
0
負荷RLに発生する電圧、流れる電流は、同相なので、それぞれの実効値の積を取ること により、最大出力POMを求めることができます。
②
W
R V R V P V
L CC L CC CC
OM 2 2 2 2 8
2
また、ICを任意出力時のコレクタ電流の振幅とし、電源 V2から供給される電力をPDC、 負荷RLで消費される電力をPoとすると、電源効率ηは、
③
% 2 100
100
2 2 , 2
1
2C CC
L DC
O
L C L C C O C
CC C CC DC